表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/130

49話 ウィルとの約束 〈サイラス視点〉

 私は王城で働いているが、ある日、エヴァン卿の妹の婚約者と、王女宮の侍女が恋仲だという噂が、耳に入ってきた。


――エヴァン卿の妹の婚約者というと、ウィルの兄で、私より1つ年下のロジェリオ卿じゃないか?

 今まで女関係の噂なんて聞いたことないのに、どうしてそんな噂が流れ出したんだ?


 そう思ったものの、リディア嬢もロジェリオ卿も結婚相手として引く手数多だ。

 だから、その2人の婚約を知った心無い人間が、その婚約を壊すべく流した、ただの噂だと思っていた。

 だが、どんどん噂が酷くなっていった。


――エヴァン卿は奥方がもう少しで臨月だということで、王城に来ず、王都から近い領地で仕事をしているから知らないかもしれないが、ウィルはこの噂を知っているのだろうか?

 ここ最近どんどん噂が酷くなってきているが、こんなにも流れるということは本当のことなのか?

 もし、噂が嘘だとしても、白が黒になるような貴族社会で、ここまで広まってしまえば、ライブリー家の重大インシデントに繋がるかもしれない。

 出しゃばりでしかないが、ウィルには念のために、伝えよう。

 今日は勉強を教える日だしな。


 私はウィルに週に3日ほど勉強を教えている。

 どうして勉強を教えることになったかというと、ウィルが私に勉強を教えてほしいと直談判してきたからだ。

 ウィルは、騎士として非常に優秀な兄が将来侯爵家の当主になるのに対し、自分は当主にもなれない上、騎士としての才が兄のように無いということで、相当悩んでいた。

 また、兄に憧れ騎士を目指したが、武術よりも座学の方が好きで、自分は騎士よりも、文官の適性があるのではないかと考えていたそうだ。

 そんななか、王城の文官の中で最も若い私の存在を知り、私のようになりたいから勉強を教えてくれと直談判してきた。


 最初は断った。

 なぜなら、兄ほどの才は無いものの、十分騎士の称号を得られる素養を持っていることを、騎士見習いの教官をしている知り合いから聞いて、知っていたからだ。

 それに、自分自身のすべき仕事もある。

 だが、騎士見習いとして訓練を頑張りながらも、私に会うたび、何度も何度も真剣に頼み込むウィルの粘り強さに根負けし、勉強を教えることになった。

 正直、本人も言っていた通り、ウィルは、武術よりも座学の方のポテンシャルが高いと、今なら分かる。

 ウィルは理解力が高く、とても教え甲斐のある子だった。

 今ではウィルは私のかわいい大事な弟子のような存在になっている。

 だからこそ、敢えてウィルに噂についての話をした。

 それは、アーネスト様が帰ってくる10日ほど前だった。


 話した時、どうやらウィルは噂を知らなかったようで、「兄様に限ってそんなことないですよ。リディ様とデートにも行っていますし」と何てことないように答えた。

 しかし私は、そう言いながらも、ウィルが少し不安そうな顔をしたことを見逃せなかった。

 だから、別れ際にウィルに告げた。


「出来ることがあるかは分からないが、困ったことがあったら、勉強の日じゃなくてもいい。いつでも来なさい。些細なことでも相談に乗るから」


 そう言うと、ウィルは安心したような満面の笑みで「ありがとうございます! サイラス卿!」と言って、帰って行った。


 伝えた日から5日後、勉強の日ではなかったが、ウィルが私の下へやってきた。

 そして、私を見るなり、大粒の涙を流して、泣き出した。

 ひとしきり泣き、落ち着いたウィルは、リディア嬢と一緒に買い物に行き、噂になっている2人が一緒にいるところに遭遇した出来事について、話し出した。

 そして、その話が終わると、頼み事をしてきた。


「サイラス卿、兄様は優しすぎる性格です。本当に侍女と恋仲ではないし、絶対に侍女に対して恋心を抱いているわけでもないんです。でも、兄様のその優しすぎて、鈍感すぎる性格が、侍女を付け上がらせ、リディ様を傷つけているんです。けれど、リディ様はある条件を付けて、婚約を継続してくれました。ただ、アーネスト様が帰ってきた日の夜会で、兄様が例の侍女と何かしでかしたら、確実に婚約破棄になります」


――そんなことがあったのに、リディア嬢は何かしらの条件を設けたとはいえ、婚約を継続したのか……!

貴族、そして婚約者としての体裁を傷付けられたにしては、随分と寛大な処置にしたものだ。


そう思いながら、ウィルの話の続きを聞いた。


「街で会った時、侍女は、リディ様を悪者にするような態度や物言いをしていたんです。絶対に気のせいではありません。ですが、兄様はその本性に気付いていないんです。僕は悔しいことに15歳なので、まだ夜会に行ける年齢ではありません。サイラス卿、もし兄が夜会で何かしでかしたら、リディ様の味方になってあげてください。ですが、やはり弟の情からか兄に冷酷な態度をとり切れません。甘いことを言うようですが、もし兄様が困っていたら、ヒントをあげてください。それと、両親は隠すかもしれないので、僕に夜会であった出来事をありのまま教えてください。どうかお願いします」


――ウィルはまだ夜会に行ける年齢ではないから、私に頼みに来たんだな。

 本当はそんな柄ではないし、夜会も嫌いだが、私が自ら相談に乗ると言ったんだ。

 それに、ウィルの頼みならば聞くしかないな。


「ああ、分かった。約束しよう」


 そう言って、ウィルと別れた。

 それから2日後、エヴァン卿からもウィルと同じような手紙が届いた。


 そして、手紙が届いてから3日目の今日、ついに夜会の日になった。


 まず、リディア嬢はロジェリオ卿にエスコートされ、至って何事もないように、会場入りした。


――何だ、もっと険悪なのかと思っていたが、大丈夫そうじゃないか?

 あの様子なら、私が手を出すまでもないな。


 しかし、その後が問題だった。

 突然女が近付いたかと思ったら、ロジェリオ卿はリディア嬢を置き去りに、ファーストダンスをその女と踊り出した。

 そして、それに気付いたジュリアナ夫人は倒れてしまった。


――ウィル、残念だが夜会が始まってすぐに、君の兄の婚約破棄は確定してしまったみたいだ。

 あれが噂の侍女だな。周りの貴族たちも、噂は知っていても、侍女の姿を見たのは初めての人間が多いようだ。だが、姿を確認したからその分、噂が確実なものだと判断しているようだ。

 何でこんな噂社会の貴族の集まりで、そんなことをしたんだ!?


 そして、そんな周りの目に気付いていないのか、2人はファーストダンスを踊り、何事も無かったかのように別れた。


――周りの貴族は、皆ロジェリオ卿と侍女が浮気しているという話しかしていないじゃないか。こんな公衆の面前で、堂々と、ある種の不貞行為のようなことをしていたら、周りの貴族たちも皆言っているが、王城で働いている人間だから、2人とも弾劾されるかもしれないな。


 そう思いながら侍女の方をしばらく見ていると、ロジェリオ卿と別れた後、何人もの貴族と踊っていた。

 だがその相手は皆、ロジェリオ卿の弱みを握ってやろうとしている様な奴らばかりだった。


――本当はものすごく踊りたくはないが、侍女と踊って性格を探ってみるか。

 ウィルが言っていたことを、確かめてみよう。


 そう思い、侍女に声をかけた。


「お嬢様、次のダンスを私と踊っていただけますか?」


 そう言うと、侍女はすぐに私の誘いを受けた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


次話もサイラス視点の話の予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ