47話 お願いの行く末 〈エイミー視点〉
ロジェ様と踊った後、言われた一言に、私は驚いた。
『君は今日がデビュタントだから、たくさんの人と踊ってみると良いと思うよ!』
ここまでは良かったのだ。私にとっての問題は、その次に続く言葉だった。
『君に良い出会いがあることを期待しているよ』
――リディア嬢でなく、私とファーストダンスを踊ったのに、ロジェ様は本気でそんなことを言っているのかしら?
そう思い、私は確かめた。
「良い出会い……ですか?」
すると、ロジェ様は清々しいほどの笑顔で答えた。
『ああ、そうだよ。新しい友を見つけられるかもしれないし、君の将来の結婚相手もいるかもしれないじゃないか』と。
――ロジェ様は本気でそんなことを言っているの?
実はリディア嬢でなく、私のことが好きなのかもしれないって思っていたのに。
こんなのあんまりよ!
そんなに言うなら、本当に他の人たちと踊ってやるんだから……!
私の心の中は、ショックと怒りが湧き出ていた。
しかし、それを隠すべく、何とか感情を抑え、ロジェ様に答えた。
「そう……ですか。……では、今から他の人とも踊ってきますね!」
すると、ロジェ様は『ああ、そうした方が良い。それでは』というと、私のお礼を聞くなりさっさとその場から立ち去って行った。
――もしかして、リディア嬢のところに行ったのかしら?
踊っているときも、ロジェ様はリディア嬢を探しているように踊っていたわね。
どうして、ロジェ様はリディア嬢のことを気に掛けるの?
私がいるのに……。
そう思っていると、男性が声をかけてきた。
「お嬢様、次のダンスですが、私と踊っていただけませんか?」
――ロジェ様が鈍感なだけなんだわ!
だって、こうして私には声をかけて、ダンスに誘ってくれる男性がいるんだもの。
いいわ! ロジェ様も言っていたことだし、他の男の人たちと踊ってみて、ロジェ様の反応を見てみましょう!
そう考えた私は、ダンスに誘ってくれた男性の手を取り、ダンスを踊り出した。
ダンスを踊っている最中、ロジェ様の話をし始めたため、私は自然と踊りながらロジェ様を探した。
――あら? パトリシア殿下と踊っているじゃない!
やっぱり、パトリシア様はロジェ様がかっこいいから、無理を言って踊ってもらったんでしょうね。
私はロジェ様にとって特別な存在になれたからやっと踊れたのに、パトリシア様は王族というだけで楽なものね。
そう思いながら、1人目の男性と踊り終えた。
そして、ダンスを終えると、再び別の男性が、その男性とダンスを終えると、また別の男性がと、立て続けに男性が誘いに来た。
ただ、2人目の男性と踊っているとき以降、ロジェ様の姿は見つけられなかった。
――初めての夜会で不安だったけれど、男性がこんなにもダンスの誘いに来てくれるから、不安がなくなったわ!
それにしても、ダンス中皆ロジェ様の話ばかりするから、話が盛り上がるしとっても楽しいわ!
あっ! また私を誘いに男性が来たわね。
そう思っていると、男性が声をかけてきた。
「お嬢様、次のダンスを私と踊っていただけますか?」
「ええ、良いですよ。よろしくお願いしますね」
「はい」
そして踊り出すと、この男性も、ロジェ様の話をしだした。
「お嬢様は、王女宮の騎士副団長のロジェリオ卿と仲が良いようですね。2人は恋仲……なんて噂も聞きましたが、実のところどうなんでしょうか?」
――今までの男性よりも、ダイレクトに聞いてくるわね。
でも、ロジェ様の話だから、この方とも楽しい時間を過ごせそうね。
「はい。私はロジェ様と仲良くさせていただいております。ですが、恋仲という噂は間違いなのです。私とロジェ様は、あくまで友達なんです」
そう答えると、男性は驚いた顔をして、質問をしてきた。
「そうだったんですか! てっきり私はファーストダンスを踊っていたから、恋仲という噂は本当だと思っていました! ですが、恋仲でないなら、今日のあなたの行動はリディア嬢を悲しませるものではないですか?」
――ちょっとこの男性は、あまり好きになれないタイプだわ。
顔はとってもかっこいい人だけど、ロジェ様みたいに優しくないと意味がないわ!
何でリディア嬢が可哀想みたいな言い方をするの?
どうして私が悪者みたいな言われ方をするの?
そう思いながらも、私は質問に答えた。
「違いますよ! リディア嬢自らが、踊っておいでと言ってくれたんです!」
「え? 自分の婚約者のファーストダンスを、他の女性に譲ったんですか? リディア嬢は本当に心の広いお方だな」
――なんなの、この人は?
何でリディア嬢のことをいちいち褒めるの?
リディア嬢の本性も教えてあげないと、この男性は勘違いしたままかもしれない!
教えてあげましょう!
「今回は、さすがのリディア嬢もダンスを譲ってくれたんですけど、私とロジェ様の仲が良いから、私に嫉妬しているみたいなんです……。私はロジェ様をリディア嬢から奪うつもりなんてないんですけどね。けれど、勘違いをしたリディア嬢が、私のことを目の敵にしているようで、少し怖いんです。それに、さっきも怒鳴ってきて私に謝らせたりしたんです。それを知って、ロジェ様が私をリディア嬢から庇ってくれているんです。だから、ロジェ様と私が恋仲だと勘違いされてしまったのかもしれません」
そう答えると、男性は目を細めて笑いながら言った。
「そうだったんですか、リディア嬢は優しいばかりの人と思っていましたが、情熱的なところもおありの方なのですね」
「情熱とかそう言うレベルを超えていますよ」
そう答えると、男性はただただ冷静に「そうですか」と答えた。
そのタイミングで、ちょうどダンスが終わった。
「それでは、またお会いする機会があれば」
そう言うと、男性は去って行った。
――何だか嫌な感じの男性だったわね。
それはいいとして、そろそろラストダンスの相手と合流しだす時間なのかしら?
ロジェ様は……いた!
あら? リディア嬢が一緒にいないわ!
これは、ラストダンスに誘う大チャンスよ!
そう思い、ロジェ様をラストダンスに誘いに行った。
すると、隣のおじいさんも加勢してくれた。
――このおじいさんがいて良かったわ!
絶対にロジェ様は優しいから、私に恥をかかせてはいけないと思って、ラストダンスを踊ってくれるに違いないわ!
さあ! 早く踊ると返事をして!
そう思いながら、ロジェ様の顔を見つめた。
すると、笑みを消し、真剣な顔つきになったロジェ様の口から、衝撃の言葉が聞こえた。
「ごめん、エイミー嬢。本当に心苦しいけれど、僕は君とはラストダンスを踊ることは出来ない」
――聞き間違いかしら?
今、私とはラストダンスを踊れないと言った……?
「ロジェ様? 私は今日デビュタントなんですよ!? リディア嬢もいないじゃないですか? どうしてダメなんですか?」
すると、ロジェ様は苦しそうな表情で告げてきた。
「僕はリディアとラストダンスを踊る約束をしているんだ。だから、君とは踊れない」
「では、リディア嬢がラストダンスまでに来なかったら、踊ってくれますか?」
そう言うと、ロジェ様は首を横に振りながら、答えた。
「ごめん、それは無理だ。僕がラストダンスを踊ると約束したのはリディだ。だから、僕とラストダンスを踊れるのはリディだけなんだ」
そう言うと、ロジェ様はおじいさんに向き直って話し出した。
「それと、ご尊老。私には婚約者の女性がいます。だから、彼女とラストダンスを踊ることが無理ということ、どうぞご理解ください」
――なんで!? そんなにリディア嬢が大事なの!?
私が恥をかくのよ!?
ロジェ様はそれでも良いの!?
そう思っていると、おじいさんがロジェ様に答えた。
「ああ! そうだったのか。それは、要らぬことを言ってしまった。すまない。早くそのお嬢さんのところに行っておやり」
「はい!」
そう言った後、私の方を向いて言った。
「君のお願いを聞いてあげられず、すまない。でも、僕は今、リディのところに行かなければならない状況なんだ。理解してくれ。友達だろ? あと、僕のことはロジェリオ卿と言ってくれ。それでは」
そう言うと、ロジェ様は私を置き去りにして、本当に走って去って行ってしまった。
――どうして、他の男性は寄ってきたのに、その途端あなたは去っていくの?
他の男性とのダンスが楽しかったと言っても、良かったという返しだった。
私が好きなのはロジェ様なのに。
ロジェ様じゃないと、意味がないのに……。
リディア嬢のせいね……!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます(*^^*)
次回、リディア視点に戻る予定です。