43話 侍女長の説明 3
侍女長様の発言を聞き、ライブリー侯爵が顔を真っ赤にして、侍女長様に問いかけた。
「横領をする前から処分事由があったのに、エイミー・コールデン子爵令嬢を解雇しなかった理由に、なぜロジェリオが関係するのだ!?」
そう言うと、侍女長様は前で組んだ手を、よりぎゅっと強く握りしめながら、少し震えた声で頭を下げながら言った。
「大変申し訳ありませんでした! 本来ならば、私が教育して指導をしなければならない立場であるにもかかわらず、ロジェリオ卿がエイミー嬢と他の侍女との軋轢を改善してくれるのを良いことに、彼にエイミー嬢を諭す役目を担わせていました。そして、ロジェリオ卿が彼女と話をすることで、彼女と他の侍女との間の軋轢が、目に見えて分かるほど改善したので、ロジェリオ卿にエイミー嬢を任せておけば、ちゃんと働くと思い、解雇しませんでした」
――ロジェがエイミー嬢を諭す役をしていた?
いったい、何をしていたの?
ロジェは侍女長様に、利用されていたということ……?
私と同じ疑問を持ったのだろう。
この侍女長様の話を聞き、アーネスト様が侍女長様に質問をした。
「ロジェがエイミー嬢を諭すというのは、いったいどういったことだ?」
すると、侍女長は少し俯いたまま、話し出した。
「先程、働きだして1週間後ほどから、エイミー嬢が他の侍女の悪評を触れ回っていた話をしましたよね?」
「ああ」
「ロジェリオ卿が、初めて王女宮に異動してきたときも、彼女は先程話したような悪評を触れ回っていました。すると、彼女はどこで知り合ったのか分かりませんが、ロジェリオ卿と知り合いだったらしく、異動初日から話をしており、それからも、話をする2人を、よく見かけるようになりました。そして、エイミー嬢がロジェリオ卿と話す場面が増える分、他の騎士団員たちに他の侍女たちの悪評のようなことを触れ回る機会が減りました」
――悪評を触れ回る機会が減るほど話をするなんて、いったいどれだけ話をしていたのかしら?
そう思いながら、私は侍女長様の話を聞き続けた。
「その悪評を触れ回る機会が減っただけでも、侍女たちからしたら、願ってもないような状況でした。しかし、改善理由はそれだけではなかったのです。ある日、私は普段人気のない1階の廊下を通っていました。すると、窓の外から話し声が聞こえました。そのため、窓の外を見ると、窓のすぐ近くにある人気のない庭のベンチに、ロジェリオ卿とエイミー嬢が座っていました」
――ロジェはエイミー嬢と人気のないところに2人きりでいたの?
何の話をしていたのかしら?
「そして、私は耳を澄まして彼らの会話を聞きました。すると、エイミー嬢はロジェリオ卿に他の侍女たちの悪評を言っていたのです。しかし、ロジェリオ卿は他の騎士たちとは反応が違いました。例えば、仕事を教えてくれないと言えば、エイミー嬢の話を詳しく聞いたうえで、分からないことがあれば、教えを待つばかりでなく、訊くことも一つの手段だと言っていました。また彼女が、他の侍女たちが、私を試すために、分からないことはないかを聞いてくると言えば、不安な気持ちも分かるけれど、善意で聞いてくれているかもしれないから、本当に一度聞いてみたらいい、それもしていないのに、勝手に悪い方に捉えるのは良くないと言って、彼女を諭していたのです」
――そんな話をしていたの!?
私は予想外の話を聞かされ、驚きを隠せなかった。
しかし、侍女長様は話を続けた。
「その他にも、ロジェリオ卿は私のことに関しても、エイミー嬢に言っていました。君は侍女長様に虐められているというけれど、本当にそうなのか? 僕はたまに見かけるけれど、とても虐めているとは思えない。エイミーは少し、侍女長について誤解していることがあるんじゃないか? それに、君は侍女長に嫌われているというけれど、君の方が侍女長のことを嫌っているんじゃないか? もう少し、侍女長についての認識を改めた方が良いよ、と言っている日もありました。もちろん、他愛ない話をしているときもありました。しかし、このように、お昼休憩時に、ロジェリオ卿が彼女を諭してくれていたのです」
――もしかして、侍女長様みたいにうっかりその姿を見た人が、恋仲という噂を流し出したのかしら?
そう疑問に思った私は、侍女長様に問いかけた。
「もしかして、恋仲という噂は、そのときの場面を見た誰かが流したのですか?」
すると、侍女長は気まずそうに頷いて、答えた。
「左様でございます。ロジェリオ卿が彼女を諭してくれるおかげで、侍女たちの悪評を触れ回るということはなくなりました。そのため、目に見えて分かるような軋轢は改善し、触らぬ神に祟りなし状態で他の侍女たちが接することで、うまくやっていけるようになりました」
――触らぬ神に祟りなし状態と言っている時点で、うまくやっているわけないじゃない。
そう思いながらも、話を聞き続けた。
「しかし、悪評のせいで騎士団員と仲違いした侍女も、少人数ですが居ました。その侍女たちが、ロジェリオ卿とエイミー嬢の昼食時を偶然見かけたため、2人が恋仲だという噂を流したようです。偶然にもそのタイミングは、リディア嬢とロジェリオ卿が婚約してから2か月後ほどでした。そのため、婚約者がいる男、しかも王女宮の副団長が別の女と恋仲ということで、ただの恋仲という噂と違い、一気に噂が広まりました。また、ロジェリオ卿はその噂に気付いていないのか、エイミー嬢を気にかけてかわいがっていたので、人前で彼女の頭を撫でることもありました。故に、より信憑性が高い噂とされたようです」
――ロジェが婚約者の私を蔑ろにした点は許せないけれど、王女宮の侍女たちの人間関係のために、ロジェがうまいこと利用されて、必要以上の不名誉を被ったというのはあんまりだわ。
私は、考えてもみなかった侍女長様の話で頭が混乱してしまっていた。
すると、ジュリアナ夫人は立ち上がり、涙を流しながら話し出した。
「ということは、あなたがきちんとエイミー嬢の教育指導をして、ロジェの諭しに依存することが無かったら、こんなことにはならなかったって言うこと……? あなたは、自分の仕事を放棄して、楽だからとロジェを、あの女の生贄にしたということなの……!? ロジェは騎士であって侍女じゃないの! 職場は同じでも、管轄外のことなのよ!? ロジェを生贄にしないとやっていけないなら、どうして雇用し続けたのよ!!!! 今更こんなことを言われたって――」
そう言うと、ジュリアナ夫人は眩暈を起こした。
すると、ジェームズ陛下が使用人を呼び出し、ジュリアナ夫人を医務室に連れて行くように伝え、ジュリアナ様は医務室に運ばれていった。
そんな中でも、侍女長様はただひたすらに頭を下げて謝った。
「大変申し訳ありません。私の力不足と判断ミスがきっかけで、ご子息には多大な不名誉を被らせてしまいました。私を処分してくださっても構いません。本当に申し訳ございません」
――ジュリアナ夫人の言う通りよ。
確かに頭を撫でるようなことをしたり、買い物に行ったり、ファーストダンスを踊ったりして、婚約者を蔑ろにしているとしか思えないロジェの言動は、十分婚約破棄に値するわ。
けれど、この侍女長様の判断が無ければ、ここまでのことにはならなかったんじゃ……?
すると、アーネスト様が侍女長様に問うた。
「ロジェは横領には加担していないな?」
それを聞き、びっくりしたように侍女長様は答えた。
「もちろんです! ロジェリオ様は横領に加担なんてしていないどころか、彼女が横領していることすら知りません! そこだけは断言させてください」
「そうか……」
そう言うと、しばらく間をおいて、アーネスト様が言った。
「ロジェの罰について、もう一度検討し直さないか?」
すると、お父様がその意見に賛成した。
――確かに、勢いの決断ではなく、もう一度検討し直したほうが良いわね。
そう思い、私も賛成した。
そして、お母様も陛下や妃殿下も賛成し、検討し直すことになった。
すると、ちょうどそのとき、外から声がかかった。
「パトリシア様がいらっしゃいました」
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