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42話 侍女長の説明 2

「彼女が横領を始めたのは、恐らく今から2~3週間ほど前からなのです。このことは、昨日、判明いたしました。そのため今は、彼女本人に聞き取り調査をしていない段階です」


――分かったのが最近だから、彼女はまだ捕まってないのかしら?

 けれど、普通は横領が発覚した時点で、捕まるものではないの?


 すると、アーネスト様が侍女長様に質問をした。


「どのようにして横領が発覚したのだ? そして、横領の規模はどれくらいだ?」


 それを聞き、侍女長様が冷静に答えた。


「横領が発覚した経緯についてですが、複数人の彼女の同僚侍女からの報告により、発覚いたしました」


 すると、アーネスト様は侍女長様が話すことを遮った。


「ちょっと待て。今までの話を聞いていると、エイミー嬢は同僚の侍女たちから、煙たがられているように思う。その同僚の侍女からの報告というのは、エイミー嬢に仕返しをしたいが故の、虚偽の報告という可能性はないのか?」


 それを聞き、侍女長様はアーネスト様の懸念点に共感するかのように、頷きながら答えた。


「はい。アーネスト殿下がそのように懸念される理由はよく分かります。ですが、これは虚偽の報告ではありません。1週間前に報告があり、その報告が虚偽でないのかを確認するための、調査を行ったのです。すると昨日、虚偽の報告でなく、本当に横領をしていたことが分かったのです」


 それを聞き、今度はジェームズ陛下が尋ねた。


「その報告してきた侍女たちは、どうして侍女長も気が付かなかった横領に、気付くことが出来たのだ?」

「はい。報告してきた侍女は全員、買い物担当として、遣いに出していた者たちばかりという共通点があります。その点に関しましては、横領の規模とも関係する話なので、詳しく説明いたします」


 そう言うと、侍女長様は、一呼吸置き、話し出した。


「私は、侍女たちを買い物に行かせる時には、商品を購入するのに必要な代金、王女宮と街を行き来するための交通費を、基本的に持たせています。ですが、買い物の際に、何かトラブルや緊急事態が発生するかもしれません。そのため、商品購入代金と交通費に少し金額を上乗せした金額を渡し、侍女たちを遣いに出しているのです」


――貴族の屋敷で働いている侍女たちも、買い物に行くときは、購入代金、交通費、何かあった時用のお金を持たせているから、それ自体は当たり前のことよね。


「しかし、その上乗せして持たせている分の金銭は、私的なことには遣ってはいけないというルールがあります。つまり、どうしても業務の上で、使わないといけない状況であれば使っても良いですが、私的な理由で使うことは、横領と見なされるということです。これを前提の上で、お聞きくださいませ」


――彼女は、何か私的なことで、その上乗せしているお金を使ったから、横領したと言われているのね!


 そう思いながら相槌を打ち、侍女長様の話の続きを聞いた。


「侍女たちの報告を聞いてみますと、ここ2~3週間で、遣いを出した侍女たち皆が、買い物中に子どもたちから、お菓子を買ってと言われるようになったらしいのです。その侍女たちは、今まで何回か見かけたことのある下級貴族の子どもだけれど、そんなことを一度も言ってきたことがない子なのに、どうして突然そんなことを言い出したのだろうと、疑問に思ったそうです」


――今までそんなこと言わなかった子が、いきなりそんな風に言ってくるなんて、どう考えてもおかしいわよね。


 そう思いながら、侍女長様の話に耳を傾け続けた。


「侍女たちは皆、買うことは出来ないということを、子どもに伝えたそうです。すると、同じ服を着た人がこないだ買ってくれたのに、どうしてお姉さんは、こないだのお姉さんみたいに買ってくれないの、と言われたそうです。そう言われた侍女は、どんな見た目の人が、お菓子を買ってくれたのかを問うたそうです」


――恐らくこの話の流れ的に、子どもたちはエイミー嬢のことを言っているのね。


「すると、子どもたちは皆口を揃えて、ブロンドでエメラルドグリーンの目の女の人と答えたそうです。王女宮侍女の制服を着ていて、ブロンドでエメラルドグリーンの目の女性は、エイミー嬢ただ1人だけです。そのため、2~3週間前から、1週間前までの期間、買い物担当になったエイミー嬢以外の侍女たちで話を擦り合わせた結果、皆、同じことを子どもたちに言われたそうです。そのため、1週間前に、侍女たちは私に報告をしてきたのです」


――そういう経緯があったのね。


「そして、その報告を受け、調査をしました。そのためまず、買い物担当のものが買い物後に提出する、遣いのときに渡された金銭の、使用内訳を確認してみました。すると、エイミー嬢が提出したものは、商品購入代金や交通費が、毎回想定よりも高い金額になっていることが判明しました。そしてその分、緊急時に使う金額が減っていることも、判明しました」


――エイミー嬢は、領収書の偽造もしていたの?


「ただ、毎回ではないにしろ、想定より交通費がかかることや、急な商品の値上げにより、緊急時の金銭が減少することはよくあります。またエイミー嬢の場合、緊急時に使っていた金額が少なかったため、許容範囲内の金額の変動と思い、報告を受け調査するまでは、横領と思っていなかったため、見逃してしまっていました」


――つまり、彼女は子どもたちに買ったお菓子分の代金を、横領と見抜きづらいくらい絶妙に、購入代金や交通費に上乗せしていたのね?


 そう考えていると、ジェームズ陛下が声をかけた。


「実際に、彼女の買い物しているところを確認したか?」


 すると、侍女長様は頷き答えた。


「はい。1週間前から調査をし、尾行を付けて、わざと買い物に行かせたところ、エイミー嬢は子どもたちにお菓子を買っていました。その際、しっかりと買い物用に渡された財布から、お金を出していました。そしてその日、エイミー嬢が提出した使用内訳をみると、実際に使った購入代金と交通費に、子どもたちに買ってあげたお菓子代が、上乗せされていました」


 それを聞き、ジェームズ陛下が話し出した。


「ということは、お菓子を与えた理由が善意であったとしても、少額とはいえ、王女宮のお金を横領したということになるな」

「はい、左様でございます」


 その答えを聞き、ジェームズ陛下が話を続けた。

「本来ならば、王女宮の主であるパトリシアが決めることだが、そのパトリシアの保護者として、私は決めた。話を聞いて総合的に判断した結果、エイミー・コールデン子爵令嬢は少なくとも、懲戒免職は確定だな。それ以上の処分については、改めて話すとしよう」


――職務怠慢、職場の風紀を乱す、横領が処分事由なら、その結果が出るのは当然よね。

 何せ、彼女の職場は王女宮なのだから。


 そう思っていると、ジェームズ陛下は続けた。


「それにしても、横領するとまでは思っていなかっただろうが、横領以外の処分事由は、働きだしてすぐに判明したことだろう? どうして今の今まで、雇い続けたのだ?」


 すると、先程までは顔色一つ変えずに、淡々と冷静に話していた侍女長が、初めて気まずそうな顔をして言った。


「それは、ロジェリオ卿が王女宮騎士団として配置転換されてきたからです」


――ロジェリオが、どうしてエイミー嬢の雇用に関係してくるの……?

 絶対関係ないでしょう!?


 私と同じことを思ったのだろう。

 その場にいた侍女長様以外の人は皆、驚愕の表情を浮かべていた。


ここまでお読み下さり、ありがとうございます(*´▽`*)

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