41話 侍女長の説明 1
「失礼いたします」
その言葉と共に入ってきたのは、パトリシア様の侍女長様だった。
入ってきて、侍女長様が皆に挨拶をしたのを確認した後、ベアトリクス妃殿下が、話し出した。
「皆さん、こちらは我が娘のパトリシアの宮の侍女長です。私は噂を聞き、エイミー・コールデン子爵令嬢について、彼女から聞き取り調査を行いました。その際、エイミー嬢には処分事由があることが発覚いたしました。今から、皆さんには直接侍女長から処分事由の詳細を、聞いていただきたいと思います。この話を聞いたうえで、エイミー嬢の処分について詳しく検討しましょう。では、お話しして頂戴」
――いったい、エイミー嬢は王女宮でどんなことをしでかしていたの?
侍女たちからは好かれていたんじゃなかったの?
私はそう思いながら、侍女長様の話に耳を傾けた。
「僭越ながら、私がエイミー・コールデン子爵令嬢の、処分事由についてご説明いたします。説明の際、疑問点がありましたら、質問してくださいませ」
そう告げると、侍女様はエイミー嬢について話し出した。
「簡単に言いますと、大きく分けて処分事由は3つあります。1つ目は、職務怠慢です。2つ目は風紀を乱す言動を繰り返したこと、そして3つ目は、横領です」
――エイミー嬢は、家計を支えるために、出稼ぎに来ていたんじゃないの?
なのに、職務怠慢に、風紀を乱す言動ですって?
それに、横領って……!
さすがに、そんなことをするような子には見えなかったけれど、そんなことまでしでかしていたの……!?
私はこの3つの処分事由を聞き、本当に出稼ぎに来た令嬢なのかと耳を疑った。
「それでは、まず職務怠慢についてお話しさせていただきます。リディア嬢はこの瞬間に、一度遭遇したことがあるはずです」
――あ! あのとき、確かにそれらしき発言をしていたわね。
「1週間前の出来事ですね?」
私がそう答えると、侍女長様は頷き、話し出した。
「はい。その通りでございます。彼女は買い物担当として、遣いに行きました。しかし、彼女は仕事中にも関わらず、男性とジュエリーショップに入店していたことが判明いたしました」
すると、ジュリアナ夫人が話しかけた。
「ちょっと待って! その男性は、ロジェリオのこと? あの子は仕事中の子と一緒に、ジュエリーショップに入っていたの!?」
「……はい。左様でございます」
その返答を聞き、ジュリアナ夫人は力なく項垂れた。
――ジュリアナ夫人は、エイミー嬢が仕事中だったことは知らなかったのね。
そう思っていると、侍女長様は話を続けた。
「この件だけならまだしも、彼女は遣いに出させるたびに、必ず何かと理由を付けて、仕事の用事外のことをするのです。それこそ、王女宮の騎士団の誰かに遭遇すれば、朝出かけて昼前には帰って来られる用事なのに、基本的に夕方まで帰ってきません。そのため、私共も、彼女が買い物担当にならないように、調整をしていたのです。ですが、私の管理が行き届いておらず、その日の買い物担当の侍女に頼み、こっそりと買い物に行った日も、数回あったようです」
すると、お父様が侍女長様に質問をした。
「そのことは、どうやって知ったのだ?」
「はい。基本的に情報源は、一緒に働いている侍女と、一部の王女宮の騎士団員です」
「そうか……」
そう言うと、お父様は黙り込んだ。
そのため、侍女長様は話し出した。
「また、買い物以外にも、職務怠慢の場面がありました。これは、風紀を乱す言動と重なる部分があります。まず前提なのですが、侍女の仕事は覚えることが、とにかくたくさんあります。彼女も最初は、頑張って仕事に取り組んでいました。ですが、覚えることがたくさんある仕事なので、教えても忘れてしまい、できない仕事もありました。けれど、これは彼女の覚えが悪いわけではなく、侍女ならほとんどの者が通る道です。そのため、分からないことがあれば、何回でも教えるから、何でも聞いてと言っていたのに、彼女は聞いてきませんでした。なので、こちらから分からないことはないかを聞く等して、周りの侍女たちも、働きだしたばかりの彼女のことを、気にかけていました」
――最初は頑張って働いていたのに、何がどうなって、職務怠慢や風紀を乱す言動をしだしたのかしら?
そう疑問に思いながら、侍女長の話を聞き続けた。
「ですが、働きだして一週間で、同僚の侍女たちが彼女に対する印象をガラッと変える出来事がありました。ある日、エイミー嬢が泣きながら、王女宮騎士団の団員と話しているところを、私を含めた5人の侍女が見たのです。私たちは、仕事中のはずのエイミー嬢が泣きながら、騎士団員と話していることを疑問に思い、話をこっそり聞きました。すると、エイミー嬢は騎士団員に、同僚の侍女の悪評について話していたんです」
――いったいどんなことを言っていたのかしら?
疑問に思った私は、侍女長様に尋ねた。
「どのような悪評について、話していたのですか?」
「はい。彼女は『私は働きだしたばかりなのに、誰も仕事を教えてくれないし、分からないことがないかを聞いて、私のことを試したりしてくるんです。みんな私のことを嫌っているから、こんな意地悪をするのかしら。けれど、仕事の覚えが悪い私が悪いんですよね。でも、みんなが冷たくて少し辛いです』と言っていました。そして、一部の騎士団員はそれを真に受け、可哀想にと言っていました」
――物は言いようとはこのことね。
意地悪なのはどっちよ!
私はそう思いながら、侍女長の話を聞き続けた。
「こちらとしては、一切嫌っている訳でも、意地悪をしているわけでもなかったため、非常に驚き、侍女の代表として、私は彼女に話しかけに行きました。そして、嫌っているわけでも意地悪でもないと、彼女に説明をしました。すると、そのときはその話を理解したような反応をしていましたが、その後も同じことを繰り返し続けました。そして、私が忠告すると、侍女長に虐められているのかもしれない等と言うようになりました。それにより、一部の騎士団員に、私は相当意地悪な侍女長と思われていることでしょう」
――侍女長様も、相当頭を悩ませていたのね……。
「そのため、買い物担当の交代の件に関しましても、断ればあらぬ悪評を流されると思った侍女が、今ではエイミー嬢に頼まれたら私に隠し、当番を交代するようになってしまったようです。特に、騎士団員に想い人がいる侍女が、その標的にされていたことが分かりました。こうして彼女は、王女宮侍女たちの風紀を、乱していったのです」
――彼女はそんなことをしていたのね。
みんながみんな、彼女の悪い影響によって、振り回されているじゃない。
それなのに、どうしてそんな彼女を今まで、雇用し続けたのかしら?
先に、横領の話を聞いてから、質問してみましょう。
「なぜ彼女を雇い続けたのかも聞きたいですが、先に横領についての説明も聞かせてください」
すると、私の質問を聞き頷いた後、侍女長様は横領の件についても話し出した。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます(*^^*)