40話 ベアトリクス王妃の考え
まさか、お母様がジュリアナ夫人に賛成するとは思っていなかったため、私は驚きのあまり、お母様に話しかけた。
「お母様は、ロジェが廃嫡されて、追放されることに賛成なんですか?」
すると、お母様は怒った様子で返答した。
「当たり前よ! 本当は追放処分までは考えていなかったけれど、今のジュリアナ様の話を聞いて、考えが変わったの。だって、ジュリアナ様はロジェリオ卿に、リディアと婚約破棄をしたら廃嫡すると言っていたでしょう!? なのに、条件を破ると婚約破棄になって廃嫡されると分かっていながら、どこの馬の骨とも知れない女とファーストダンスを踊ったのよ! もう廃嫡されても良いって自分で認めているようなものじゃない! 私のかわいいリディを無駄に傷つけておいて、廃嫡だけで許されるわけがないわ!」
お母様のその言葉を聞き、皆が口を噤んだ。
――そうよ。廃嫡と追放処分という言葉が衝撃的すぎて、一瞬頭から抜け落ちていたけれど、ジュリアナ様は確かに、ロジェには婚約破棄をしたら廃嫡するという宣言をしたと言っていたわ……!
それにもかかわらず、エイミー嬢とまだあんな関係性を続けていたの!?
ロジェはエイミー嬢を本気で友達と思っているだけだと思っていたのに、実は廃嫡になっても良いと思えるくらいに、エイミー嬢のことを愛しているの……!?
もしそうなら、私と条件付きで婚約継続をしたのはなぜ?
もしかして、廃嫡されたくなかったから?
でも、まさかロジェがそんな狡猾なことを考えるわけがないわ。
けれど、廃嫡宣言をされていたにもかかわらず、それでもなお、私でなく、エイミー嬢を優先して、ファーストダンスを踊りに行くなんて、舐め過ぎよ。
私が何をしても許してくれる人形だとでも思っているのかしら……絶対に許さないわ。
廃嫡はやりすぎと思った自分に腹が立つくらいよ。
「お母様、私、廃嫡はやりすぎだと思っていましたが意見を変えます。廃嫡は言うまでもないですが、追放処分を科すことにも賛成いたします」
すると、それを聞いたお母様はジュリアナ夫人に話しかけた。
「ジュリアナ様、この件の当事者であるリディアも、ジュリアナ様の言う通り、廃嫡の上、追放処分という意見に賛成したわ。とは言っても、ジュリアナ様にとっては実の息子だから、時間が経つと躊躇いが生じてしまうと思うの。だからどうか、気持ちが揺らがないうちに、執行するのであれば執行してちょうだい」
このお母様の話を聞いたジュリアナ夫人は、強く頷いた。
すると突然、先程から言葉を発していなかったベアトリクス王妃が口を開いた。
「皆さんこれまでの話を聞き、私もロジェリオ卿を廃嫡するという意見には賛成です。何回も道を正すチャンスをもらい、警告もされていたのに、リディちゃんを傷つけたのですから。ねえ、あなた」
突然ベアトリクス王妃に問われ、ジェームズ陛下も答えた。
「あ、ああ。正直ロジェリオ卿は好青年だと思っていたが、事の仔細を聞いてみるに、廃嫡されても致し方ないな」
このジェームズ陛下の返答に満足したのか、ベアトリクス王妃は話を続けた。
「娘、息子が直接的に関係するため、ロジェリオ卿の話ばかりになってしまっているのも仕方ないのですが、ロジェリオ卿ただ一人が悪くて、この状況になったとお思いでしょうか? 違いますよね?」
すると、アーネスト様が口を開いた。
「お母様は、エイミー・コールデン子爵令嬢のことで、何かおっしゃいたいことがあるのですね」
すると、ベアトリクス王妃は頷いた後、話し出した。
「私は、ロジェリオ卿だけでなく、しっかりとエイミー嬢にも何か処分を科すべきだと思うの。私も一部の噂しか知らないけれど、エイミー嬢はロジェリオ卿に婚約者がいるということを確実に知っていたのよね?」
その質問に対し、ベルレアン家とライブリー侯爵夫妻、アーネスト様が頷いた。
それを確認すると、ベアトリクス王妃が続けた。
「それなら、エイミー嬢にも処分を科すべきよ。だって、ロジェリオ卿には人生を変えるほどの処分を科すのに、リディちゃんを傷つけることに加担したエイミー嬢が何も処分を受けないというのは、道理に反しているでしょう? 処分を科さないと、けじめがつかないわ。ねえ、リディちゃん」
――その通りよ!
エイミー嬢が私の存在を知らずに、ロジェと親密な関係になった場合や、エイミー嬢は必死に拒否しているのに、ロジェが付き纏っている場合であれば、エイミー嬢に処分を科そうと考えすらしなかったわ。
けれど、彼女は私の存在を知っていながらも、私という人間が存在していないかのように、今日の夜会でも、ロジェに積極的に近付いていた。
そのうえ、彼女の私に対する態度も、初めて会ったときから無礼過ぎたわ。
それなら、もう答えは一つでしょう。
エイミー嬢には何が何でも必ず処分を科して、夢から目覚めさせてあげるわ。
そう思った私は、ベアトリクス王妃に返事を返した。
「はい。ロジェだけでなく、エイミー嬢も今回の騒動の大きな要因だと思います。そのため、それなりの処分を科したいです。しかし、ライブリー家のように家門内の処分ならば、家門内の問題として済みますが、エイミー嬢の場合、家門内の処分というわけにはいきません。処分を科すとするならば、どのような処分になるのでしょうか?」
そう尋ねると、ベアトリクス王妃が答えを返した。
「あの子は、リディちゃんの件以外にも、どうやら処分事由がたくさんあるみたいなの」
その返答に皆がどういうことだという顔で、ベアトリクス王妃を見た。
しかし、その視線を気にすることなく、ベアトリクス王妃は扉に向かって声をかけた。
「入ってきて頂戴」
その場にいたベアトリクス王妃以外の人は、開く扉に注目した。
そして、ついに扉が開いた。
――あの方は、パトリシア様の侍女長様だわ……!
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