4話 今更気付いた恋心
先程のポーラの質問で、少なくとも私自身のエヴァンお兄様に対する「好き」と、ロジェに対する「好き」が違うということは分かった。
けれど、何がどう違う「好き」なのかが自分でも分からない。
――知らない自分を暴かれるような気分だわ。
「お嬢様は鈍感なので、もう少し質問をします。それでは4つ目の質問です。お嬢様は、ロジェリオ卿がお嬢様と同年代の女性と会って話をしていたら、どのようなお気持ちになりますか?」
「特別何も思わないわ。ああ、何か用事があって話をしているのね、それくらいの気持ちよ」
「特に用事がなくても、話をしているかもしれませんよ? 事実、お嬢様自身が、これといった用事がないときでも、ロジェリオ卿と私的な会話をしているじゃないですか」
――ロジェが私以外の女性と……?
そういうシチュエーションなら、心のどこかが、こう……モヤッとするかもしれないわ。
けど、そんなことロジェに限って……ね。
「それは、確かにそうだけど……。でもロジェの性格上、私以外の女性とそんなことしないでしょう?」
「お嬢様、勘違いなされているようですが、ロジェリオ卿も男性です。興味がある女性や、好きな女性ができれば、お嬢様以外の女性とも用事がなくても、会ってお話くらいしますよ」
ポーラの言葉で、ロジェの女性関係について考える。
――今のところ、ロジェが私以外の女性と私的な会話をしているのを見たことがないわ。
ロジェの浮いた噂を一つも聞いたことがなかったから、今まで考えたことがなかったけれど、ポーラの言う通り、ロジェに好きな女性ができれば十分あり得る話よ。
「いつか、お嬢様以外の人とロジェリオ卿が婚約や結婚をするかもしれません。そうなれば今までと違って、むしろお嬢様のほうが、用事がない限りロジェリオ卿と気軽に会ったり、お話したりできませんよ」
確かにポーラの言う通り、未婚の女性が、妻や婚約者のいる男性と気軽に会ったり話したりすることは、公的な場以外ご法度だ。
――もしロジェが、他の誰かと婚約したり結婚したりしたら、私とロジェの今の関係性は崩れてしまうの?
知らず知らずのうちに握りしめた拳に力が入る。
「お嬢様は、婚約・結婚適齢期に入りましたが、それはロジェリオ卿も同じです。それに、ロジェリオ卿はお嬢様の言う通り、この若さにして王女宮の副団長という、立派な役職をお持ちです。そのうえ、容姿端麗で、次期侯爵になると言われている侯爵令息です。これほど完璧な条件のお方なら、きっとたくさんの御令嬢に求婚されていることでしょう」
「なら、ロジェはもうすぐ誰かと結婚するの?」
「すぐにするかは分かりません。ですが、今のところ次期侯爵という立場ですから、いずれ誰かと結婚するはずです」
「ということは、もしもロジェが私以外の誰かと結婚したら、今みたいに会ったり話したりできなくなるということよね……?」
「先程も申しましたが、その通りです。今のお嬢様の反応を見るに、お嬢様はロジェリオ卿が、他の女性と結婚することが嫌なのではありませんか?」
「確かに、素直に喜ぶことは出来ないかもしれないわ……」
ポーラの指摘は図星すぎて、「そんなことない」と言おうとしたが、とてもそうは言えなかった。
本当の気持ちを言うなら、むしろ「嫌」だ。
「では、最後の質問です。兄のエヴァン様は、ディーナ様と結婚されましたよね? お嬢様は、エヴァン様がディーナ様と結婚したとき嫌でしたか?」
「大好きなお兄様が愛する人と結ばれたのよ! 嬉しくって大喜びしたわ! 嫌だなんて、ありえないわ!」
私は私自身の発言で、自分の気持ちに気付いてしまった。
うそ……。もしかして私、ロジェのことを兄みたいな存在と思っていたんじゃなくて、そう思い込みたかっただけなの?
だって、兄みたいと言っておきながら私……エヴァンお兄様は良いのにロジェが誰かと結婚するのが嫌だなんて。
もしかして私は、今あるロジェとの関係性を壊したくなくて、この5年間で積み重なった感情に、気付かないふりをしていたのかもしれない。
「ねえ、ポーラ。私ってロジェのことが、……れ、恋愛対象として好きなのかしら?」
「はい、その可能性が高いと思われます。早く行動をしないと、他の御令嬢に先を越されますよ」
「先を、越される……」
茫然としながらポーラの言葉を繰り返す私に、ポーラは続けた。
「お嬢様は、今までロジェリオ卿との距離が近すぎたのでしょうね。本当に好きならいっそのこと、婚約の話を出してみてもいいかもしれません。善は急げですよ」
この何てことないように、淡々と真顔で話すポーラの声が、私の頭をずっと駆け巡っていた。
――今日もしも、ロジェと会ったらどんな顔をしたら良いの?
会いたいと思っていたけれど、むしろ今は会いたくない。というよりも、会えないわ。
それに、いきなり婚約の話まで飛躍するなんて……。
この突然の話に当惑したまま帰り着いたため、せっかく準備してもらった昼食は味がしなかった。
いつの間にか、王女宮へ向かう時間が迫り、私は再び馬車に乗り込んだ。
そして、乗り込んだ馬車の中で「どうか今日はロジェに会いませんように」と祈った。
王女宮に着くと、すぐに王女宮の従者がパトリシア様のいる部屋の前まで案内してくれた。
ちらっと部屋の前にいる護衛の顔を見るが、ロジェではなかった。
――良かった。今日ロジェは担当から外れているのね。
私は安心してパトリシア様のいる部屋の中に入った。
入ってから、私は自分が完全に油断していたことに気付いた。
――何でよりによって、今日のパトリシア様の側近護衛担当がロジェなの!?
ここまでお読み下さり、ありがとうございます(*^^*)