29話 運命の夜会
夕刻になり、ロジェがベルレアン家まで、エスコートに来た。
「リディ、迎えに来たよ!」
「ありがとう、ロジェ」
迎えに来たロジェの夜会用の服とセットした髪は、ロジェの良さをより引き立てるような仕上がりとなっていた。
しかし、かっこいいとは思うものの、緊張感が勝っていて、私の心にそれ以上の感情が芽生える余裕はなかった。
「リディ、今日のリディは誰よりも綺麗だよ。さあ、お手をどうぞ」
そうロジェに促され、私は馬車に2人で乗り込んだ。
出発した馬車の中は、しばらくの間、静寂に包まれていた。
そんななか、ロジェが話しかけてきた。
「リディ、アーネストには会ったかい?」
突然話を振られ、緊張していた私はびっくりした。
しかし、ロジェが出した話題がアーネスト様についてだったため、安心することが出来た。
「えっ? ええ、会ったわよ。見た目はだいぶ変わっていたけれど、やっぱり中身は5年前のアーネスト様だったから、帰ってきたんだと改めて実感できたわ」
――それに、不安になっている私に、心強い言葉もかけてくれたから、本当に夜会前に会えて良かった……。
「それは良かったね! 僕はまだ話せていないんだけど、ちらっと見えた時、全然違う見た目になっていたからびっくりしたよ」
「あら、ロジェはまだちゃんと話をしていないの?」
「午前中は仕事で、午後は夜会に出席するために抜けてきたから、話す時間がなかったんだ」
「そうなのね。お疲れ様」
こうしてアーネスト様の話をしていると、2人の間に流れていた緊張感も幾分か薄らいできた。
そう思った矢先、ロジェが話を変えた。
「あのねリディ、エイミー嬢の事なんだけど……」
――今エイミーじゃなくて、エイミー嬢って言った!?
お父様の忠告を聞いて直したのかしら?
それにしても、これはいい傾向かもしれないわ!
「エイミー嬢がどうしたの?」
すると、ロジェは恐る恐るといったように、話し出した。
「このあいだ両家揃って、婚約継続についての話し合いをしただろう?」
「そうね」
「そこで、リディがエイミー嬢との関係性を、恋仲と勘違いされないようにはっきりしてくれと言っていたよね?」
――何を言い出すつもりかしら……?
「え、ええ、そうよ」
「そして、その関係性を夜会までにはっきりさせてと言っていたよね?」
「ええ、そういう条件を提示したわ」
そう言うと、ロジェは、しっかりと目を合わせて話を続けた。
「今日の夜会で、エイミー嬢とは恋仲でないという関係性が、はっきり分かると思うから、安心してくれ。僕は条件を守れたはずだ」
――どういうこと?
この数日で、そんなにも自信が出るくらい、きちんとエイミー嬢との関係を清算したのかしら!?
「……本当?」
私は自分で条件を提示しておきながら、あまりにも自信満々に条件を守れたと言うロジェの様子を見て、不思議に思い聞いた。
すると、ロジェは意気揚々と答えた。
「ああ、そうだよ!」
私は、どうしたことかと驚き、何も言葉を発せずにいると、ロジェは真剣な顔つきになり、続けた。
「今まで、リディのことを不安にさせて、傷つけて本当にごめん」
――本当に昔のロジェに戻ってくれるのかしら?
こんな噂が出る前のロジェなら、本当に最高の夫になると思った。
思い返せば色々ある。
私が辛いことがあって泣いていても、ロジェが全力で励ましてくれた。
風邪をひいたときは、心配だからと何度もお見舞いに来てくれた。
私が新しい慈善活動に着手しようとして、家族が反対した時も、ロジェは私の味方をしてくれ、その慈善活動は成功した。
それに慈善活動にも、嫌な顔一つもせず、休みを潰してまで手伝ってくれた。
不安に思っていることがあったら、そんな不安を吹き飛ばすくらい、笑顔にしてくれた。
他にも数えきれないほど、ロジェには支えられ助けられてきた。
そして、私はそういうロジェのことが好きになった。
これに関しては、紛れもない恋心だ。
だからこそ、噂の前のロジェに完全に戻ってくれるのなら、エイミー嬢のことを忘れることは出来ないけれど、1からやり直せるのかもしれないという、淡い期待が湧いてくる。
――だけど今、謝罪を受け入れるわけにはいかないわ。
「ロジェ、まだ謝らないで。夜会で本当にロジェの言う通りかを確認してから、私はあなたからの謝罪に対する返事をしたいわ」
「そうだね。リディの言う通りだ」
「分かってくれてよかったわ。あら、もう着いたようね。降りましょうか」
私がそう声をかけるとロジェは同意し、先に馬車から降りた。
そして、馬車の中にいる私に手を差し伸べてきたため、私はその手を取り馬車から降りた。
――今日で運命が決まるのね。
弱気になってはダメ、堂々とするのよ!
そう自分に喝を入れながら、とうとう私たちは会場入りした。
入り口で手続きを済ませ会場に入ると、ロジェが耳元に顔を寄せ、話しかけてきた。
「王太子の帰国祝いの夜会だから、本当に豪勢な会場だね」
「本当に豪勢ね。それに、とても綺麗だわ」
私は、まさに豪華絢爛という言葉がぴったりの会場を見て感動をした。
――綺麗な会場を見て少し景気づけになったわ!
今日はアーネスト様もパトリシア様もいるから、必要以上に不安がることもない。
自信を持つのよ!
そう思っていると、突然に会場に大きな声が響いた。
「両陛下がご入場なされます」
すると、扉が開き、両陛下が仲睦まじい様子で歩いて、皆の前に立った。
「本日は、隣国ロイルとの平和条約締結と、我が息子の帰国の祝いに参加していただき、感謝する。本来なら、私たちもこの夜会に出席した方がいいだろうが、国王や王妃がいたら気を遣うだろう。本日の主役はアーネストだ。故に、今日の夜会に関しては、私たちはこの挨拶だけで退室する。では、平和条約締結と我が息子の帰国を祝いながら、楽しんでいってくれ」
そう言うと、両陛下は本当に退室していった。
すると、またも大きな声が響いた。
「アーネスト皇太子殿下と、パトリシア殿下がご入場なされます」
すると、昼に会った見目麗しい青年が、夜会用の正装になり、パトリシア様と一緒に入ってきた。
周りを見てみると、女性陣は皆、アーネスト様に視線が釘付けになっていた。
そして、アーネスト様が壇上に立つと、会場中が一気にシーンとした。
「皆、今日は平和条約締結と、私の帰国を祝す夜会に参席してくれてありがとう。私、アーネスト・マクラレンは、隣国のロイルと平和条約を締結し、本日をもって完全帰国した。よって、本日から本国とロイルは、完全なる友好国になる。皆、私がいない間、私が帰ってくる国を守ってくれてありがとう」
そう言うと、アーネスト様は笑顔になって大声で言った。
「本日の夜会は、平和条約締結と私の帰国祝いという名目だが、皆が国を守り続けてくれたことを祝した夜会でもある! 皆、今日は思い切り夜会を楽しんでいってくれ!」
そう言うと、アーネスト様は皆に一礼した。
すると、会場中で大きな歓声が沸き上がった。
それを確認したアーネスト様は、王族専用の椅子に腰を掛けた。
――アーネスト様は、私があげたネクタイとカフスボタン、そしてウィルがあげたチェーンブローチを着けてくれているわ!
なんて嬉しいことをしてくれるのかしら!
本当に良く似合っているわ!
そう思いながらアーネスト様を見ていると、ロジェが声をかけてきた。
そのため、私はロジェに向き直った。
「アーネストは本当にかっこよくなっているな! それに、ウィルがプレゼントすると言っていたチェーンブローチと、同じ特徴のチェーンブローチを付けている。あれは、ウィルがあげたものか?」
「ええ、そうよ。とても似合っているわね!」
「ああ、そうだね!」
そう言いながら、2人でアーネスト様の方を見ると、早くもアーネスト様とパトリシア様を起源とし、長蛇の列ができていた。
「すごい長蛇の列ね……」
「僕らも挨拶しに行きたいけれど、この人数じゃとても挨拶できそうにないし、アーネストの負担になるから、僕らは行けそうであれば、後で行こうか」
「それがいいわね!」
――アーネスト様関連の話になると、緊張することなく、普通にロジェと会話ができるわ。
この調子で無事に夜会が終われば良いのだけれど……。
しかし、そう簡単にいくものではなかった。
それは、アーネスト様たちの前の長蛇の列が半分になったころだった。
「あ! ロジェリオ卿! リディア嬢! こちらにいらしたんですね! こんばんは!」
「やあ、エイミー嬢」
――いったいこれは、どういう状況なの……?
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