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27話 プレゼント

――やってしまった。

 戸惑いが隠せなくて、片言になってしまった上に、帰ってきたことが嬉しくないかのように暗い感じで返事をしてしまったわ!

 そうじゃないのに……!


 私が頭の中でパニックになっていると、アーネスト様が声をかけてきた。


「リディがそんなに言ってくれるなんてすごく嬉しいよ! でも、リディ元気がないみたいだけど、具合が悪いんじゃ……」


 そう言うと、アーネスト様は私に近づいてきて、おでこを私のおでこに突き合わせてきた。


――ちょっと待って! 

 どうしてこんな美男が私とおでこを合わせているの!?

 心臓が破裂しそうだわ!


 5年前の私なら何とも思わなかっただろうその行為は、私の心を強く揺さぶった。

 そして、私の心情とは反し、何事もないようにアーネスト様はおでこを離した。

 これは一瞬の出来事であったが、時間が止まったかのように、とても長く感じた。


「熱は無いみたいだな……。でも顔が赤いよ。無理をしているわけではないよね?」

「はっ、はい! 無理なんてしていません。むしろずっと会いたかったアーネスト様に会えて、喜んでいるんです。多分、顔が赤い理由は喜びのあまり、興奮してしまったからでしょう。ええ、そうに違いありません」


 私は焦りすぎて、早口でマシンガンの(ごと)くアーネスト様に告げた。

 すると、アーネスト様は頬を赤らめ、口元に片手の甲を持って行き言った。


「リディ、そんなに言われたら、さすがの俺も照れるぞ」


――何でそんな反応をするの? 

 余計に顔が赤くなってしまうわ……!


 そんな私の心中に気付くことのないアーネスト様は続けた。


「でも、具合が悪いわけじゃないなら良かった」


 そう言い、笑顔を向けた後、アーネスト様はウィルに向き直った。


「それで、君は……って、ウィルか!? 今年15歳だよな? こんなにも成長しているなんて思わなかったから、一瞬誰かと思ったよ。びっくりしたぞ」


 すると、ウィルはこの場にいる皆が思っているであろうことを言った。


「僕よりも、アーネスト殿下の方が驚きの変貌を遂げているように思われます。僕は正直、一瞬アーネスト様のことが分かりませんでした」


 すると、パトリシア様が口を開いた。


「本当にその通りですわ、お兄様。この5年間お兄様を見たことがない人は、みんなお兄様と気付かないかもしれませんよ」

「自分ではあまり気が付かなかったが、そんなにも俺の外見は変わっているのか……。兄妹のパトリシアがこんなにも言うなら、2人も相当戸惑っただろうな」


 そう言うと、アーネスト様は少ししょんぼりした様子になって、私に話しかけてきた。


「リディも突然会った場合だったら、俺に気付かなかったか?」


――どうしましょう。

 珍しい黒髪だし、王家の血筋だけが継ぐ紫の瞳だから気付くかもしれないけれど、そうであっても本気で気付かない可能性があるくらい、アーネスト様は驚きの変貌を遂げている。

 けれど、あんなにも捨てられた猫のようなつぶらな瞳で見られたら、とても気付かないとは言えないわ。


「驚きはしますが、気付くと思います。何と言っても、アーネスト様ですからね」


 そう言うと、アーネスト様は破顔して言った。


「さすがはリディだ。俺のことを一番よく分かってくれている。こうやってリディと話していると、やっと帰ってこられたんだなって実感が増すよ。何だか温かい気持ちになる」


 その話を聞くと、アーネスト様にとっての5年間がいかに寂しい環境であったのかが想像できる。

 そう思っていると、ウィルがこそこそと話しかけてきた。


「リディ様。打ち合わせ通り、僕は早めに出るので、プレゼントをそろそろお渡しすることにしても良いですか?」

「あっ! そうね。それが良いわ!」


 すると、アーネスト様が話しかけてきた。


「どうしたんだい? 2人で内緒話か?」

「違いますよ。私たち、アーネスト様にプレゼントを持ってきたんです! だから、それに関する話をしていたんです」


 すると、少し曇った表情だったアーネスト様の顔に、晴れやかな笑顔が広がった。


「そうだったのか! 2人からのプレゼントだなんて嬉しいな! いったい何だろうか!」


――こんなにも楽しみにしてくれるなんてプレゼントを買いに行った甲斐があったわ。

 嫌な思い出ができた日でもあるけれど、今日のことで記憶を上書きできたらいいわね。


「はい、アーネスト様。こちらが私からで――」

「こちらが僕からです」


 そう言って、2人でアーネスト様にプレゼントを渡した。


「開けてもいいか?」

「はい、どうぞ!」


 そう言うと、アーネスト様は丁寧にプレゼントを開けた。


「ネクタイとカフスボタンとチェーンブローチじゃないか! そしてこっちは……コロンか!」

「アーネスト様に似合うと思うものを選びました」

「そうか! 俺が欲しかったものばかりじゃないか! それに、好きなデザインばかりだ。……っコロンの香りも俺が一番好きな花の香りだ! 2人とも、ありがとう!」


 そう言うと、アーネスト様は満面の笑みを向けてくれた。

 それを確認して安心したのか、ウィルが口を開いた。


「それでは、僕はお先に帰らせていただきますので、リディ様とアーネスト殿下とパトリシア殿下の3人でお話しください」


 そのウィルの申し出に、アーネスト様が答えた。


「分かった。気をつけて帰るんだぞ。プレゼントありがとう。必ずつけるよ」

「ほんとですか!? ありがとうございます! それでは失礼します」


 そう言って、ウィルは嬉しそうに退室していった。


「さあ、リディ。俺は君に聞きたいことがあったんだ」

「はい? 何でも聞いてください」


――聞きたいことって何かしら?


「俺が帰国する直前の手紙で、君はロジェのことを相談していただろう? 今どうなっているのか聞いてもいいかい? 言えないなら、無理には聞き出したりしないよ。ただ、言ってもいいとリディが思うなら、教えてもらいたいんだ」


――ああ、アーネスト様はずっと気にかけていてくれたのね。


「大丈夫ですよ。お話しします」

「そうか、ありがとう」


 私の答えに、アーネスト様は感謝の言葉で返してくれた。

 すると、この話を聞いて、パトリシア様が申し訳なさそうな顔で、話しかけてきた。


「リディア様、私も聞いていいかしら? 私の管轄で発生した噂なのに、私ったら全然統制できていなくて、リディア様のことを苦しめてしまったわよね」


――自分の主人の友人のスキャンダルなんて、主人にバレないように広めるに決まっているわ。

 だから、いくらパトリシア様が主人とは言え、そこまで罪悪感を感じなくても良いのに……。

 それにまだ、16歳よ。できることにも限りがあるわ。


 私がそう思っていると、パトリシア様は心配そうな顔で続けた。


「実はね、リディア様と前回会ったとき、噂の存在を知っていたの。けれど、こちらからリディア様にその件についての話をすることで、逆にリディア様の気分を害してしまうかもしれないと思って、話題に挙げられなかったの。あの時のリディア様は、お兄様のご帰還のことで、大喜びだったし」

「そこまで、気を遣ってくださっていたのですね」


 私は、パトリシア様の気遣いに心の中で感謝した。

 それと同時に、本人の前で帰国を大喜びしていたという情報を言われ、少し恥ずかしくなり、思わず声が上擦った。

 チラリと横目にアーネスト様を見ると、深刻そうな顔をしてパトリシア様の話を聞いていたのに、急に笑顔になってより恥ずかしくなった。


 そんな私の感情は置き去りに、パトリシア様は話を続けた。


「だから、もし私が聞いても良い話なら、聞かせてもらいたいの。そのうえで、私のできる範囲で、噂を野放しにしてしまった、罪を償わせてほしいの」

「パトリシア様のせいで広がった噂ではありませんので、自分のことを責めないでください。悪いのはロジェと侍女の方と、ロジェに言いだせなかった私ですから」

「いえ、私が悪いのです。もっと早くに王女宮の主として、噂に勘づくべきでした」


――確かに噂の発生源のトップだから、パトリシア様も罪悪感を抱く気持ちは分からなくもない。けれど、罪を償うという表現はおかしいわ。

 ここまで気にしているなら、信頼できる方だし、お話ししましょう。


「パトリシア様が悪いわけではないのですが……分かりました。いずれ、お2人の耳に入ることになるでしょうから、このあいだベルレアン家とライブリー家での話し合いでの取り決めについて、お話しします」


 こうして、私はロジェとの今の関係性について、2人に話し出した。


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