25話 悪魔の囁き 〈ロジェリオ視点〉
昨日ベルレアン家との話し合いで、条件付きでリディとの婚約を継続することが出来た。
――リディが言った通り、絶対にエイミーと恋仲でないと互いに関係性をはっきりして、周囲が恋仲だと勘違いしている誤解をきちんと解いて、噂を清算するぞ!
そう思いながら、僕は凱旋式の打ち合わせが終わった後、エイミーを探していた。
なぜなら、エイミーと話し合って、今の僕らの関係性をはっきりさせようと思ったからだ。
それに、今までのような関係ではいられないから、突然接し方を変えて、急に冷たくなったと誤解されたくないという思いもある。
だから、きちんと事情を伝えて打ち合わせをするために探していた。
――エイミーだ!
向こうもこちらに気付いたのか、このあいだのことは無かったかのように、笑顔で微笑みかけてきた。
――ここは他の人の目があって話せないから、準備したメモを渡そう。
そうして、僕はすれ違いざま誰にもバレないように、エイミーの手に「いつもの、昼」とだけ書いたメモを握らせた。
――これなら、たまに一緒に昼ご飯を食べているいつもの場所だって分かるよね。
昼休憩のときに来てくれるのを待とう。
エイミーにメモを渡した僕は、誰かが来ることのない、いつもの場所でエイミーを待った。
「あ! ここで合っていたんですね!」
エイミーの声が聞こえた。
「ああ、そうだよ。突然呼び出してごめん。このあいだのお詫びと、これからの話をしたくて」
「このあいだのことは気にしないでください。私も配慮が足りなかったので、お互い様です。それで、これからの話って何ですか?」
エイミーは首を傾げ、上目遣いで問うてきた。
「このあいだ、僕たちの間違った噂が流れていることを知っただろう?」
「は、はい。このあいだ初めて知りました。リディア嬢には、本当に悪いことをしました」
そう言いながら、エイミーは肩を竦めた。
「それでだな、リディに凱旋式までに、きちんとエイミーとの関係性をはっきりさせてもらいたいと言われたんだ。そして、噂の清算もしてもらいたいと言われたんだ」
そう言うと、エイミーは涙を流し出した。
「そうですよね……。ごめんなさい。いくら自分の噂を知らなかったとはいえ、皆さんに迷惑をかけてしまいました」
僕は焦った。
「エイミー、君だけが悪いわけじゃないんだ。どうか泣かないでくれ。誰よりも悪いのは僕だ。君を巻き込んでしまった僕に責任がある。だから、僕のことを嫌いになってもいいから、今から言うお願いを聞いてくれないか?」
そう言うと、エイミーは僕の手を両手で掴んできた。
「ロジェ様のことを絶対に嫌いになったりしません! お願いも聞きます! どのようなお願いでしょうか?」
「お願いは主に2つあるんだ。1つ目を言うね。まず、エイミーは僕と恋仲じゃないとみんなに周知させなければいけないんだ。だから、あまり親密な関係という雰囲気を出さないためにも、これからは互いのことを公称で呼び合いたい」
そう言うと、エイミーは驚いた顔で言った。
「公称……ですか?」
「ああ、そうだ。これからは、エイミー嬢と呼ぶから、僕のことはロジェリオ卿と呼んでもらいたい」
「寂しいですけれど、仕方がないことですよね。リディア嬢のためなのですから」
「ああ、すまないがよろしく頼む」
そう言うと、エイミーはしょんぼりとしながらも、泣き止んで了承してくれた。
――リディのためだからと、本当に健気な子だ。
こんなに良い子なのに、巻き込んで悪いことしてしまったな。
そう思いながらも、2つ目のお願いを言った。
「2つ目のお願いは、今日を限りに2人きりになるということがないようにしたいんだ」
「えっ……! 今日を限りにですか!?」
「ああ、申し訳ないが、それをお願いしたい」
「そうですか……せっかくお友達ができたと思っていたんですが、寂しいですね」
そう言った、エイミーの目からは、またも涙が零れ落ちた。
――そうか、エイミーはそれほどまでに、僕のことを仲の良い友達だと思っていてくれたんだな。
なんで、ただの兄と妹のような関係と思っていたのに、恋仲なんて噂が流れたんだろうか?
あっ、そうだ!
色々考え、僕はエイミーのショックを和らげることが出来ればという一心から、告げた。
「友達関係は維持をしても良いんだ。ただ、恋仲と誤解されるような行動を慎みたいんだよ」
――そう、リディは友達になるなとは言わなかった。
恋仲という誤解を解いて、関係性を明白にさえすれば友達のままではいられるんだ。
だってリディは、恋仲になるような関係ではないということをはっきりさせてと言っていたもんね。
すると、エイミーはまた泣き止み、爛々と目を輝かせながら、笑顔でこちらを向いた。
「ロジェ様! あっ……ロジェリオ卿でしたね……」
その発言を聞き、なぜか胸がチクリと痛んだ。
「あっ、ああ、どうした?」
「恋仲とさえ誤解されなければ良いんですよね? それなら、私とっても良いことを思いつきました!」
エイミーは自信満々の顔でそう告げた。
「どんな考えだい?」
「恋仲じゃなくて、その噂を超越するくらい、私たちが友達ということを皆に強くアピールしたらいいんですよ! リディア嬢がいるからといって、急に私がロジェリオ卿によそよそしくなったら、それこそ恋仲を疑われます」
――確かにエイミーの言うことには、一理あるな。
「だからそうならないように、敢えてリディア嬢の前でも私たちが仲良くしたらいいと思うんです!もちろん、ロジェリオ卿の先程のお願いも、守りながらですよ! それは、リディア嬢だけでなく、周りの人たちに対しても、私たちはただの友人で恋仲ではない、というアピールになると思うんです! もし成功すれば、噂の誤解も解けて、まさに一石二鳥の作戦になると思いませんか?」
――そんな考え、思いもつかなかった!
それなら確かに、リディには恋仲になるような関係ではないとはっきり伝わるし、リディの前で仲良くしていたら、噂は嘘だと誰もが思うに違いない!
「エイミー嬢! その考えは素晴らしい! その作戦で、誤解を解いて、噂を払拭しようじゃないか!」
「はい! 今度リディア嬢とは、王太子殿下の凱旋パーティーを兼ねた夜会で会いますよね?」
「そうだよ」
「では、その夜会で作戦を実行しましょう! 私はそのパーティーがデビュタントになるんです。この作戦は、噂を知っている多くの人に、リディア嬢とロジェリオ卿と私が3人で揃っているところを見てもらうことで、初めて成功します。なので、夜会は作戦実行にうってつけの舞台だと思います!」
「ああ! なるほど! それはいい考えだ。よし、そうしよう!」
こうして、エイミーとの話し合いが終わり、アーネストが帰ってくる日になった。
その間、リディに会うことは無かったが、夜会のエスコートに行くことを、手紙で約束した。
そして、ついに夜会当日を迎えた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。