表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/130

19話 最悪の遭遇

「どうしてロジェが……」

「どうして兄様が……?」


 ウィルと声が被った。

 そしてすかさず、ウィルが話しかけてきた。


「リディ様、あの横の女知ってる?」

「……ええ、あの方が例の噂の女性、エイミー・コールデン子爵令嬢よ」


――絶対にウィルには2人が一緒の場面を見せたくなかったのに……。

 しかも、よりにもよってこんな店から2人で出てくるなんて。


 戦慄した空気の私やウィルに反し、2人はこちらに気付いていないため、楽しそうに話しているようだ。


「リディ様、早速だけど約束破る。ごめんね」

「え、ちょっ……ウィルっ!!!!!! 待ちなさいっ!」


 私は強めにウィルを制止したが、ウィルはそれを聞き入れず、猛スピードでロジェの方に走り出し、いきなりロジェを路地裏に引きずり込んで、その横っ面を思い切り殴った。

 ウィルが走り出したため、私は慌ててウィルを追いかけた。

 そして、私がその場に追いつきかけた時、殴られて座り込み、放心状態になっているロジェにウィルが叫んでいる声が聞こえた。


「僕はあんたのことが許せない! 噂を聞いても、誤解であって本当のことじゃないと思っていたのに! 最低だっ!!!!!!」


 すると、横にいたエイミー嬢が口を開いた。


「あなたいったい誰なんですか!? ロジェ様にいきなり殴りかかるなんて……。あなたの方が最低です!」


 ウィルにそう言ったあと、ロジェに話しかけだした。


「ロジェ様、大丈夫ですか!? 血が出てるわ! 早く治療しないとっ……!」


 そう言って、カバンからハンカチを出すために一瞬振り返った。

 そして、追いついた私と目が合った。


「あ、ああ、リディア嬢。な……何でここに? こ、こんなところでどうされたのですか?」

「それは私の方が聞きたいわ。あなたたちこそ、何で一緒にここにいるのかしら?」


 いきなり殴ったことは悪いにせよ、ウィルの気持ちが分かる分、ウィルに最低だと抜かしたエイミー嬢が許せなかった私はきつめに質問した。


「こ、この人がいきなりロジェ様に殴りかかったのを偶然見かけたから、そ、その……ロジェ様の看護をしようと……」


 そんな嘘を平然と抜かすエイミー嬢に、私は大いに呆れた。

 そして、このエイミー嬢の答えはウィルにとって火に油を注ぐ答えだった。


「お前、嘘ついてんじゃねーよ! こっちは2人が店から出てくるのを見てたんだよ! そうだよね、リディ様」


 その一言で、エイミー嬢は私とウィルが一緒にいたということに気付いたらしい。


「え……お2人はお知り合いなんですか? ロジェ様とも?」

「ええ」

「じゃあ先程まで、リディア嬢はこの殴りかかってきた人と2人で一緒にいたんですか?」

「ええ、そうよ。だからって、それがあなたに何か関係することかしら?」


 苛立ちのあまり、どんどんきつく当たってしまう。

 すると、エイミー嬢はとんでもないことを言い出した。


「関係あります! だってロジェ様は私の友人なんですよ? まさか、リディア嬢がロジェ様という素敵な婚約者がいながら、ロジェ様と共通の知り合いである方と、白昼堂々と浮気しているだなんて思っても見ませんでしたわ! 私は、リディア嬢はそんなことをする人じゃないと思っていたのに! 私はあなたよりも身分が下ですが、ロジェ様の親友として言わせていただきます。リディア嬢、あなたがしていることは最低なことです!」


――何を言っているのかしら? ついに頭が沸いたの?

 あなたの方がどう考えても最低じゃないっ……!


 あまりにも腹が立ちすぎて、どうにかなってしまいそうだ。

 しかし、私よりもウィルがの方が先に口を開いた。


「黙って聞いてりゃ、適当抜かしてんじゃねーよ!!!!! 浮気だって? リディ様は婚約者の弟と浮気するような方じゃないぞ! お前は僕たちのことを、馬鹿にしているのか!?」


 そのウィルの怒声と内容にひどく驚いた様子で、エイミー嬢が話しかけてきた。


「え? この方は、ロジェ様の弟君なのですか……?」


 その声からは、驚きがにじみ出ていた。

 私が、肯定の意を告げようとするとロジェがスッと立ち上がり、私に喋らないよう手で合図を出した。

 そして、殴られた拍子に口の中が切れたのか、胸元から自身のハンカチを取り出し、それに血を吐き出した後、告げた。


「エイミー、この子は本当に僕の弟だよ。それに、リディと浮気なんて絶対するような男じゃない。リディは僕の婚約者だからね。それに、リディも浮気をするような子じゃない」


 意外だった。


 ――エイミー嬢の前で、私が婚約者ということを敢えて言うなんて、本当に恋仲じゃないの?

 では、なぜ2人は一緒にいたの?


 私は頭の中がどんどん混乱してきた。

 エイミー嬢が気になり、そちらを見ると、エイミー嬢は申し訳なさそうな顔でウィルを見て、ウィルに話しかけだした。


「……弟さんだったんですね。でも、いきなり殴りかかるなんて間違っていると思いますっ! どうしてお兄様にいきなり殴りかかったんですか!?」


――散々失礼なことを言っていたくせに、謝罪もせず、よくウィルにそんなことが言えるわね!


「エイミー嬢、あなたはウィルにそんなことを言える立場じゃないでしょう」

「……っ確かに私の方が家格は下ですが、こんな理不尽な暴力は兄弟同士であっても、やめるよう言うべきです!」


――エイミー嬢、そういうことではないのよ……。

 本当に自分のことを客観的に見ることが出来ない人なのね。


 私がエイミー嬢に呆れていると、ロジェが口を開いた。


「エイミー、僕は多分ウィルを怒らせるようなことをしてしまったんだ。普段はこんなことをするような子じゃない。ウィルを責めないでやってくれ」

「……っでも、事実ロジェ様は弟君に殴られて怪我をしているじゃないですか」


 そう言うと、エイミーはウィルに向き直り言った。


「弟さん、ロジェ様は優しいからあなたに怒っていないようですが、きちんとロジェ様に謝ってください。それに、自分のお兄様に向かってあんただなんて、いくら何でも失礼ですっ!」


――確かに殴ったり、口が悪くなったりしているウィルも悪いけれど、エイミー嬢にそんなことを言う権限はないわ!


 エイミー嬢の発言に驚いた私は、咄嗟にウィルに声をかけた。


「ウィル、確かにあなたが殴ったり、口が悪くなったりしたのは良くないことだけれど、エイミー嬢の指示で謝ることは無いわ」

「分かってるよ、リディ様。それより、僕はリディ様の方が心配だよ。だって、このなかで一番傷ついているのは兄様じゃない、リディ様だ」


 私は、ウィルのその言葉に胸が詰まった。


――自分の苛立ちを抑えて冷静になり、私の心配をしてくれるなんて。


 そう思っていると、ウィルは私に続けた。


「もうこれ以上リディ様に嫌な思いをしてもらいたくないんだ。だから、リディ様は止めるかもしれないけれど、僕は2人に言うね。僕のこと責めてくれてもいいから」

「え? ウィル! 何を言うの?」


 この私の質問に、ウィルは私を安心させるかのように、寂し気な微笑みを返した。

 そして、真剣な顔になりロジェとエイミー嬢に向き直って言った。


「なあ、あんたたちは今流れている自分たちの噂について知っているか?」



 ついに、ウィルが噂についての口火を切った。

ちなみに、ウィルは15歳ですが見た目年齢が高いため、浮気相手と間違われました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ