130話 あなたに出会えて
その後は、各国から来た国賓たち1人ずつ挨拶をし、レセプションパーティーは無事終了した。ここまでで相当疲れたが、あともうひと踏ん張りだと気を奮い立たせ、お色直しをした。晩餐会のためだ。
しかし、私たちはこの晩餐会の場では挨拶をし、主要な貴族たちと軽く話しをして他の参加者よりも早く退場する決まりになっている。つまり、これを乗り越えさえすれば、私たちはやっと今日のハードスケジュールから解放されるのだ。
お色直しを済ませ、晩餐会の入り口まで行くとアーネスト様が扉の前で私を待っていた。そして、私の姿を見るなり駆け寄ってきた。
「リディ、本当に綺麗だよ。ウェディングドレス姿も最高だったが、このドレスを着たリディも女神のようだっ……!」
目をキラキラと輝かせながらそう話しかけてくるアーネスト様も全身着替えており、先ほどとはまた違った良さが引き出された素晴らしい姿へと変わっていた。大聖堂では緊張していたが、多少緊張がほぐれた今こうしてアーネスト様を見ると、かっこよすぎて変な顔をしてしまいそうだ。
そう思い、アーネスト様から視線を外したが、アーネスト様はその行動が気になったようで話しかけてきた。
「リディ? どうしたんだ?」
「……こ……ぎて」
「ん?」
聞こえなかったのか、アーネスト様は優しい顔で首を傾げた。
「かっこよすぎて、直視できませんっ……」
この言葉に驚いたのだろう。目を見開くと、アーネスト様は顔を真っ赤にした。すると、耳元に口を近付けて囁いてきた。
「リディ、嬉しいがそう言うことは晩餐会が終わった後に言ってくれ。……我慢できなくなるっ」
――そうだ、この後は……。
想像すると、心臓が爆発しそうになったが今は晩餐会だ。何とか収まらない気持ちをどうにか落ち着かせ、私たちは会場入りした。
会場入り後はアーネスト様が代表で挨拶を済ませ、公爵家の当主だけと話しをすることになった。皆、手短に祝いの言葉をかけてくれる。次はベル公爵だ。
「アーネスト様、リディア様、ご結婚おめでとうございます。お2人なら安心して国を任せられそうですな。サイラスにもそろそろ結婚させるので期待していてくだされ」
そう声をかけられた。
――あの仕事と結婚したようなサイラス卿が誰かと結婚だなんて考えられないんだけど……。
それに、アリソン嬢がいる限りきっと結婚相手になる人は大変だわ……。
そう思い、ベル公爵に周りには聞こえない程の小さな声で尋ねてみた。
「ベル公爵、お祝いの言葉をありがとうございます。失礼ですが、サイラス卿のご結婚相手には心当たりの方がおられるのですか?」
そう尋ねると、ベル公爵は嬉しそうに笑った。
「はい、1人とっておきの御令嬢がおりまして、ちょうど明日その家門に話をしに行くんですよ!」
――やはり、ベル公爵は噂通りぶっ飛んでいるところがある方だったのね……。
サイラス卿、頑張って……。
そんなことを思っていると、アーネスト様が話しかけた。
「ベル公爵、サイラス卿は私にとっても非常に大切な臣下ですので、あまり無理はさせないでくださいね」
そうフォローを入れた。ナイス、アーネスト様! と思ったが、公爵は笑いながらアーネスト様に宣言した。
「まあ、見ていてください。サイラスも2,3か月もすれば私に感謝し頭も上げられなくなりますよ! ははははっ!」
ものすごく笑っているが、そんな未来はまったく想像できない。どうしてそんなにも自信ありげなのだろうか。アーネスト様もあの仕事人間がそんな訳……と呟いてしまっている。
こんな話もしながらだが、こうしてすべての公爵家当主との話しは終わり、私たちは別室へと移動した。
「王太子妃様、お湯浴みの準備が出来ました」
そう話しかけてきたのはポーラだ。ポーラにお嬢様以外の呼ばれ方をすると変な気分になる。私はポーラに言われるがまま湯浴みに行き、ドレスを脱いで今日の全てから解き放たれ最高というような気持ちになっていた。
「お嬢様、絶対に寝ないでくださいね」
ポーラに注意され、一瞬で意識が現実へと引き戻された。
「わ、分かってるわよ? だっ大丈夫だから、き、緊張しないで……」
「緊張されているのはお嬢様ですよ。大丈夫です、アーネスト様はお優しい方ですから、お嬢様が嫌がることは絶対にいたしませんよ」
ポーラのその言葉で一気に安心感が出る。
「そ、そうよね……アーネスト様だもの」
「はい」
こうして私はそのまま湯浴みが終わり、着替えてそのままアーネスト様がいる部屋に入れられた。すると、アーネスト様も湯浴みを済ませたようで、少し濡れた髪のままソファに座っていた。
そして目が合った瞬間、互いに緊張していることが分かった。しかし、アーネスト様はそんな空気を和まそうと話しかけてきた。
「リディ、使用人が持ってきてくれたんだ。飲むか?」
見てみると、机の上にはボトルとグラスが置かれていた。私はその手段に飛び付いた。
「の、飲みます!」
こうして私たちはお酒を飲み、互いにリラックス状態になった。そんなときだった。アーネスト様がやけに真剣な顔で話しかけてきた。
「リディが嫌なら、今日は何もするつもりはない。だけど、俺は出来ることならリディと共に今日の夜を過ごしたい。リディの素直な気持ちを聞かせて欲しい」
そんなアーネスト様に私はそっと口付けを落とした。婚約中私はアーネスト様と何回もキスをしたが、自分からこんな風に前触れもなくしたことは初めてだった。
そのためだろう。アーネスト様はびっくりしすぎて固まってしまっている。そんなアーネスト様に私は伝えた。
「私もアーネスト様と同じです。……朝まで一緒にいてくれますか?」
そう言った瞬間、アーネスト様は私を姫抱きにした。そして、ベッドまで運ぶとそっと私をベッドの中心に下ろし、自身もベッドに座った。
「……っ本当に良いんだな?」
「はいっ……」
恥ずかしいが真っ直ぐにアーネスト様を見て答えた。すると、今度はアーネスト様から軽く口付けてきた。
「お願いだ。アーネストと、そう呼んでくれ」
私はバクバクと鳴る心臓を押し殺しながら、その言葉に頷いた。
「愛してるよ、リディ」
そう囁くと、アーネスト様は深い口付けをしながら、そのまま私をベッドに押し倒した。こうして、私たちは長く甘い夜を過ごした。
目が覚めると、身体が重く怠いが、肩の荷が下りたおかげか妙な爽快感がある。横を見ると、安心しきった寝顔のアーネスト様がそこにいた。
――アーネスト様とこうして朝を迎えるなんて、夢みたいだわ……。
感慨に耽りながらアーネスト様の頬を指の甲で撫でると、アーネスト様は目を覚ました。そして、私を見つけると嬉しそうに微笑みながら手を広げ、私を自身の懐へと覆い包むように抱き留めた。
「おはよう、リディ」
甘く掠れた声アーネスト様の声が聞こえ、頭にキスが降ってきた。こんな朝を彼と迎えられる日々が始まったのだ。
侯爵令嬢として普通には生きられないと思った時期があった。だけど、そんな私をアーネスト様は救ってくれた。私はそんなアーネスト様の隣で共に生きていく。
私たちのこれからはきっと明るい未来が待っている。そう思えるほどに、アーネスト様と過ごす今が幸せだ。
――アーネスト様と出会えて良かった。
そう思いながら、私は彼にギュッと抱き着き彼に言葉を返した。
「おはようございます……アーネスト」
これからの長い人生たくさんの苦難困難が待ち受けているかもしれない。
だけど、私の人生はアーネスト様と共にある限り、輝きに満ちたものになるだろう。そう朝日が教えてくれているような、そんな気がした。
長らくのご愛読、本当にありがとうございます。
本作は130話をもちまして完結いたしました。
今後は番外編という形で、ロジェリオの今後やエイミー、またその他の人々の今後等について別枠で投稿いたします。その他、別キャラクターが主役の関連作品も準備中です。
読むだけでなく、そのうえご感想をくださる方、ブックマークを付けてくださる方、いいねを付けてくださる方の存在は、連載を続ける大きな糧になりました。大好きです。
現在進めている他連載の
『誓略結婚〜あなたが好きで結婚したわけではありません〜』
『裏切られ婚約破棄した聖女ですが、騎士団長様に求婚されすぎそれどころではありません!』
『その仮面を外すとき』も、機会がありましたら読んでいただけると嬉しいです✨
それでは、ご興味のある方は番外編の方でお会いしましょう(*^^*)