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129話 王太子妃の誕生

ついにこの日がやって来た。今日は私とアーネスト様の結婚式だ。


アーネスト様とは結婚式の会場となる、ミゼアライル大聖堂で初めて会うことになっている。そのため、私はウェディングドレスを着て、装飾品を付けて髪も整え、すべての着付けが終了した。


――ああ、緊張するわ……。

ついに、結婚式なのね……。


ずっと前から分かっていたことだが、いざ当日になると気持ちが落ち着かず何だかそわそわしてしまう。すると、扉の向こうから声がかかり、話を聞きに行ったポーラが戻ってきた。


「お嬢様、どうやらご友人が来られている様ですよ? お入れしますか?」


皆、大聖堂に集まり始めているだろうに、訪問してくる人なんているの? と思ったが、友人だとすれば今日に限っては1人しか考えられない。そのため、ポーラに頼み私はその人物を部屋の中へと招き入れた。


「リディア様! おめでとうございます!」


そう言いながら入ってきた人物は、案の定、私の一番の友人であるセレーネ様だった。セレーネ様がこのような時間帯に外に出ているとは考え難く、まさかとは思ったが本当に本人だったため、一気に晴れやかな気持ちになる。


「どうしてここに!? 外に出て大丈夫なのですか?」

「はい! 厳重な状態で来たのでご安心ください。……実は、私は本日参列できませんので、ベルレアン侯爵夫人にお願いをして、リディア様とお会いできる手はずを整えていただいたのです」


――お母様は私を喜ばせるために秘密にしていたのね!


ニコニコと笑顔で笑いかけてくれるセレーネ様を見ていると、緊張でピリピリしていた気持ちが一気に穏やかなものへと変わっていった。


「セレーネ様に今お会いできて本当に良かったです! おかげで気分が楽になりました」


そう言うと、嬉しそうにセレーネ様が笑った。


「本日のリディア様は、言葉で表せないくらいお綺麗ですよ。大丈夫です。いつも通り胸を張って、どうか楽しんできてください」


そう言うと、彼女は私の手を取り握ってパワーを送ってくれた。こうして彼女は励ましの言葉を残し、すぐに帰って行った。スケジュールの関係で短時間であったにも関わらず、セレーネ様は一瞬にして私を勇気付けてくれた。


――彼女の特性上、ここに来ること自体大変だったはずなのに、この一瞬のために来てくれるなんて……。


嬉しくなり喜びに耽っていると再び扉の向こうから声がかかり、その内容を確認してきたポーラが口を開いた。

 

「準備が整いました。行けますか?」

「ええ、大丈夫よ。行きましょう」


そう返すと、私は会場に向かうべく立ち上がった。そして、馬車まではポーラにトレーンを持ってもらい、そのまま馬車に乗り込んだ。


今日の会場にはロイルからサラ王女やエリック王子が来ている。それに、その他の各国の王族たちも結婚式に来てくださる。マクラレン王国の貴族も参列するため、ただの楽しい結婚式ではなく、非常に緊張する場でもある。


――絶対粗相がないようにしないとっ……。


そう気持ちを引き締めながら馬車に揺られていると、あっという間に会場に着いた。馬車のドアが開くと、お父様が待ち構えていたため、私はお父様の手を取り馬車から降りた。


周りを見てみると、会場となるミゼアライル大聖堂の入り口には多くの市民たちが押し寄せていた。


「リディア様~」


こうして私の名前を叫ぶ人々の声が多く聞こえる。そして、皆私に笑顔で手を振ってくれている。


「それじゃあ、行こうか」


私はお父様の声に頷き、大聖堂の入口へと歩き出した。そして、扉の前に来てふーっと息を整え前を見据えたそのとき、目の前の扉が開かれた。


扉が開いたその先には、アーネスト様の後ろ姿が見えた。後ろ姿しか見えていないというのに、いつもとは違う格式高い服を着たアーネスト様はとてもかっこよく映る。


バージンロードを歩き、アーネスト様との距離が縮まっていくたびに自身の鼓動が加速していると分かる。緊張とドキドキや高揚感で胸がどうにかなりそうだ。歩みを進めて行く中で、視界の端にサイラス卿やパトリシア様、そしてウィルの姿が映った。


そして、バージンロードを渡りアーネスト様の元へと辿り着き、私はアーネスト様の横に並んだ。お父様はそっと私から離れ、参列席の最前列の席へと移動した。


横並びになったアーネスト様をチラッと見ると、私を見ていたアーネスト様と目が合った。いつもと違い正装に身を包んだアーネスト様は、目が合った瞬間は驚いた表情をしていたが、途端に満面の笑みになった。


そんな彼を見て、私は彼のその雰囲気に一瞬で飲まれそうになった。今日の彼の笑顔は別格だった。


――今日のアーネスト様はなんて素敵なの……。


美しいとすら思えるアーネスト様を見て感動していると、私たちの目の前に教皇様がやって来た。そして、教皇様が口を開いた。


「汝アーネストは、この女リディアを妻とし、病めるときも健やかなるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しきときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、死が2人を分かつまで真心を尽くすと、神聖なる婚約の契約のもとに誓いますか?」

「誓います」


アーネスト様が答えると、次に教皇様は私の方を向き口を開いた。


「汝リディアは、この男アーネストを夫とし、病めるときも健やかなるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しきときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、死が2人を分かつまで真心を尽くすと、神聖なる婚約の契約のもとに誓いますか?」

「誓います」


そう答えると、こちらに指輪を持った神父様が歩いてきた。そして、まず神父様はアーネスト様に指輪を渡した。


「リディ、一生を懸けて君を愛し続けるよ」


そう言って、アーネスト様は私の薬指に指輪を嵌めてくれた。次は私がアーネスト様に指輪を嵌める番だ。


「アーネスト様、私も生涯あなたを愛し続けます」


こうして私もアーネスト様に言葉をかけ、彼の長く美しい薬指に神父様から受け取った指輪を嵌めた。指輪を嵌めて彼の顔を見ると、言わなくても幸せでいっぱいということが伝わってくるような笑顔で私のことを見つめていた。そんな彼を見て私もつられて笑顔になる。


すると、教皇様が指示を出して来た。


「では、今からこちらにサインをしてください」


私たちはその指示に従い、婚姻証明書にサインをした。そして、サインをし終えたことを確認し、教皇様が口を開いた。


「教皇の名において、今2人が夫婦になったことをここに宣言する」


その宣言が終わると、楽器隊の演奏が始まり参列者たちが讃美歌を歌い始めた。こうして、大聖堂内に響き渡るその美しい讃美歌に包まれながら私とアーネスト様は退場した。


大聖堂を出ると、視線の先には屋根の無い馬車が配置されていた。これから私たちはこの馬車に乗り、宮殿までの道のりをパレードするのだ。


馬車に乗り込みあたりを見渡すと、市民たちが集まっており、四方八方から祝福の声が飛んでくる。


「アーネスト王太子様~、リディア王太子妃様~」

 

そう、私たちを呼ぶ声が街中を包んでいる。私たちは隣り合った方の手を繋ぎ、空いた方の手で市民たちに到着までずっと手を振り続けた。移動中、アーネスト様は隣でずっと愛を囁いてくれた。


宮殿に到着し、私たちはバルコニーへと向かった。バルコニーから見下ろすと、人がどっと広場に溢れ返っている。なぜこんなにも人が集まっているのかは、もうみんな分かっている。ここで私とアーネスト様が誓いのキスをするからだ。そして、いよいよそのときがやって来た。


「リディ、愛してる」


そう言うと、アーネスト様が私の輪郭を包み込み、皆に見える角度で口付けてきた。こうして、私たちは完全に結ばれたということを、民衆の前で宣言した。もう私は幸せ絶頂だった。


その後、私たちはそのままの服装で、各国の王族を対象としてレセプションパーティーを行った。そのパーティーには、サラ王女とエリック王子も参加していた。


「アーネスト殿下、リディア様、ご結婚おめでとうございますっ!」


そう声をかけてくれたのは、エリック王子だった。


「ありがとう、エリック王子」

「ありがとうございます、エリック王子」


私とアーネスト様が同時に応えると、その隣にいたサラ王女がクスっと笑った。1年ぶりに見る彼女は以前よりも随分穏やかになったように見えた。髪型も以前のいかにも強い女というものから、優しい雰囲気に見えるような髪型に変わっている。


――元気そうで何よりだわ。

そう言えば、謹慎はどうなったのかしら?


そんなことを思っていると、サラ王女が口を開いた。


「あなたたちは本当にお似合いの夫婦ね。息がピッタリだし、きっと最高の組み合わせのカップルね」


そう言うと、サラ王女はうふふと笑った。何だかそう言われると照れてしまうが、やはり嬉しい気持ちになり自然と笑みが溢れてくる。アーネスト様もエリック王子も嬉しそうに笑いだしている。


そこでふと、サラ王女は随分と優しく笑うようになったのね、なんて思っていると、エリック王子が口を開いた。


「僕もお2人のような夫婦になれるよう、パトリシア様に誠心誠意尽くします」


そう言う彼は、1年前よりもずっと成長しもう少年の面影は無くなっていた。今や立派な青年だ。すると、そんなエリック王子に感化されたのか、サラ王女も口を開いた。


「招待状を2人が送ってくれたから来ることが出来たけれど、実は私はまだ謹慎中なの。だけど、今のあなたたちを見ていたら、私はまだまだだって気付いたわ。私も2人のように誠実に物事に向き合って、ハリソンと結婚できるようもっと研鑽しないといけないわね。今日は本当に招待してくれてありがとう」


そう言うと、サラ王女が手を差し出してきた。


「リディア嬢、いや、リディア王太子妃、もう一度私と握手してくれないかしら?」


リディア王太子妃という言葉が、胸に深く響いた。


「ええ、もちろん」


そう言葉を返し、私はサラ王女と再び握手を交わした。以前とは違い、信頼を築くことが出来た瞬間だった。

ついに次話、とうとう最終話というところまで来ました!

最後までお楽しみ下さい♪

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