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124話 君色

 王族となると、デートするにしろ基本的に重大な警備を敷かなければならない。そのため、アーネスト様と私がもし街中でデートをすると言う状況になった場合、通常であれば見世物行列のようなありさまになってしまってもおかしくはない。


 また、行ける場所が通常の貴族よりもグッと狭まることになる。基本的に店に行くとしたら、いわゆる貴族御用達と言うような店にしか入れないはずだ。それに、アーネスト様が来ると分かれば、こちらが言わなくても店側が勝手に貸し切り状態にしてしまうこともある。


 貸し切り状態でなかったとしても、他の客からの視線がずっと突き刺さった状態になるということは、体験していなくても想像に難くない。だからこそ、アーネスト様が内緒でと言った気持ちがよく分かる。


 私も1度くらいはアーネスト様と、他の貴族がしているようなデートがしてみたい。婚姻の儀を執り行うのは、約1年後だ。結婚すると今のような身軽さが無くなるため、この1年しかチャンスは無いのだ。だからこそ、私もアーネスト様の提案に賛成した。


「リディ、ポールは協力してくれるから気にせずに話して良いからな」

「はい、分かりました。ところで……アーネスト様はどこか行きたい場所はおありですか? それか、したいこととか……」


 そういうと、アーネスト様は目をキラキラと輝かせながら口を開いた。


「俺は、リディを全身コーディネートしてみたい……!」

「へ……?」


 あまりにも予想外の提案に、私の口から間抜けな声がこぼれ出た。私をコーディネートしたいとはどういうことだろうか。


「アーネスト様、コーディネートと言うのは……?」


 戸惑いを隠すことなく尋ねると、アーネスト様は嬉しそうに話し出した。


「リディは今でも本当にかわいいし綺麗だよ。ただ、一度だけでいいからリディを俺自らがリディのことをコーディネートしてみたいんだ」


 アーネスト様は、昔からとてもセンスが良い。色選びに組み合わせと、何かとセンスが良いと思う機会が多かった、そして何よりも、私とアーネスト様はそういったことに関して趣味嗜好が合う。だからこそ、アーネスト様自らがコーディネートしてくれるというのは、私としてはとても嬉しいし楽しみだ。


 しかし、コーディネートとなると特に女性は時間がかかってしまうと思う。恐らく口ぶりからして、ドレス、靴、装飾品は絶対にコーディネートの対象だろう。私ばかり良い思いをして、アーネスト様には何もしてあげられないではないか。


 それに、コーディネートといえど、お金はかかる。ドレスとなると有名店でなくても、貴族御用達のカフェの値段とは比べものにならない。その思いから、アーネスト様に尋ねた。


「私のコーディネートだなんて、私だけが良い思いをして、私はアーネスト様に何もしてあげられないじゃないですか。それに、あまり言うことではないでしょうがお金はどうされるのですか? 全身となるとそれなりのお金がかかると思うのですが……」


 こういうときにお金の話を出すなんて、と思われるかもしれない。そう思いながらも、勇気を出して聞いた。すると、アーネスト様は間髪入れず話し出した。


「何を言っているんだ!? むしろリディをコーディネートできるだなんて、俺だけが良い思いをしているようなものじゃないか。それに、俺は仕事をして正当な報酬を受けている。そして、その報酬はこういうときのためにと、浪費することは無く、計画的にきちんと蓄えている。だから、何も心配することは無い」


 そう言われてしまえば、こちらとしてももう何も言うことは無い。むしろ、私をコーディネートすることが私を喜ばせるだけのものではなく、アーネスト様も楽しめると言うのなら、嬉しい話ではないか。


 こんなことでいちいち比べたくはないが、ロジェリオだったらこんなこと一生提案すらしなかったと思う。どんな服を着て、どんなものを身に付けていたとしても、すべて同じ感想だったに違いない。似合うドレスと似合わないドレスを1着ずつ持ってきて、どっちが似合うと聞いても、どっちも似合ってるんじゃないと言いそうだ。


 似合わないと言われるよりはある意味マシかもしれないが、私に似合うものを考えてくれるアーネスト様は私のこと考えてくれているんだなと感じる。そう思うと、アーネスト様は本当に私のことが好きなんだと思った。今までだったら、私のことをどう思っているんだろうと気にしていたが、そんなことを考える余地がないくらい伝わってくる。


 そうなると、自然と自己肯定感も上がってくる。アーネスト様が全身コーディネートしてくれるなんて、何だかアーネスト様の色に染められるみたいだ。恋愛小説を読んでいると、彼色に染められるなんて表現がある。普通は私から彼の好みに合わせていくのだろうが、アーネスト様がコーディネートしてくれると言うのも、それの1つに当たるのではないだろうか。


「リディ、どうだ?」


 色々と考えこんでいた私を見て、アーネスト様が心配そうに話しかけてきた。


――私ったら自分のことばかり考えこんでいたわ!

 早く返事をしないと……!


 その焦りから、咄嗟に思いついた言葉が口を突いて出た。


「私をどうぞアーネスト様色に染めてください!」


 そう言った瞬間、少し離れたところからブフォっと噴き出すような声が聞こえてきた。反射的にそちらを見ると、真顔で口を押えているポールさんが立っている。


――絶対に笑ってたんだわ!

 なんてことを言っているの、私!

 恥ずかしい……!


 穴があったら入りたいとはこのことだ。正直発言自体は本心であるが、流石に恥ずかしすぎるため訂正しようとアーネスト様に必死で話しかけた。


「アーネスト様、今のはちょっとした語弊がありまして……!」


 そこまで言うと、アーネスト様は右手で自身の顔を隠すように覆って、声を被せてきた。


「いや、今の発言を取り消さないでくれ……! う、嬉しすぎて、ちょっと……浸らせてほしい」


 そう言うアーネスト様は、指の隙間から見える肌や耳が真っ赤になっている。そんなアーネスト様を見てより恥ずかしさが込み上げてくる。しかしそれよりも、アーネスト様が照れの感情をおもむろに出している状況が珍しく、少し心が躍った。


 こうして、お忍びでデートをすると言う話は成立し、その予定も決まった。デートは、今度の公式にアーネスト様と王宮で会うときに、こっそり抜け出して決行することになった。

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