121話 落着
「私もアーネスト様の考えと同じです」
そこまで言って、少し早口でこの言葉も付け加えた。
「結局アーネスト様は私と結ばれましたからね」
自分で言っていて恥ずかしいが、やはり浮かれてしまう。もしアーネスト様と結ばれる前にこのような場を開かれても困っただろうが、私たちは想いが通じ合っているのだ。
きちんとサラ様の所業についてロイル国王が対応してくれるのであれば、今の私たちは謝罪を受け入れる心持ちがある。アーネスト様は私の言葉を聞き、頬を染めてにっこりと微笑んだ。
その反応を見て、何か思うところがあったのだろう。サラ王女が話しかけてきた。
「どうかしら? 身分や立場なんて気にしなくていいわ。リディア嬢、聞かせてくれる?」
「……私ですか?」
「ええ。あなたには特にひどいことをしてしまったから……」
私が言っても良いのかと思いながらアーネスト様の顔を見ると、アーネスト様は心配いらないと言うように1度深く頷いて見せた。
「サラ王女」
この私の第一声に、サラ王女は背中をピシッと伸ばした。
「あなたのしたことは許されませんが、贖罪の機会が無いと言うのはおかしなことです。謝罪を受け入れます。これからは、敵対せずに良好な関係を築いていきましょう」
「いいの……? そんな簡単に受け入れると言うの?」
「ダメでしょうか?」
「ダメではないけど……」
「はい。あなたが本当に反省しているということは伝わってきました。それに、軽重の程度は分かりませんが、ロイル国王は何らかの処分または処罰をサラ王女に科すことでしょう。なので、今後一切このようなことはせず、良好で友好的な関係を築くと約束してくださるのであれば、私たちはあなたに贖罪の機会を与えるべきであると判断いたしました。そのため、前段階として謝罪を受け入れます。赦すかどうかは、これからのサラ様次第です」
その答えを聞き、サラ王女は緊張の糸が切れたかのように再び泣き出した。
「うう、本当にありがとう。絶対に二度とこんなバカなことはしないわ。本当に今の今までごめんなさい。グスッ、優しいあなたたちにこんなことして、本当にごめんなさいっ……」
そう言うと、サラ王女はまるで少女のように泣き、そんなサラ王女を見て騎士団長様はこちらに再び深く頭を下げた。エリック王子も、ありがとうございますと言いながら、目を潤ませている。
こうして、この謝罪の場は和解ということで結論付いた。そして、サラ王女が落ち着いた頃を見計らって、アーネスト様が唐突に口を開いた。
「これで心置きなく、リディとの婚約が進められるので良かったです」
このサラッとアーネスト様が発した言葉に、その場の皆がフリーズした。もちろん私もだ。いきなり言うとは思っていなかったのだ。
「え!? 婚約ってまさか2人とも……!」
サラ王女が興奮気味に尋ねてきた。何だか急に恥ずかしさが込み上げてきた。そんな私の心境を知ってか知らずか、アーネスト様は顔色一つ変えずサラ王女に告げた。
「俺たち婚約することになりましたので、先に報告しておきますね」
そう言うと、アーネスト様は隣同士にあった手をぎゅっと握りしめてきた。人前で手を繋ぐことが恥ずかしくて、私の顔は今頃リンゴのように真っ赤になっているだろう。
そんな私たちを見て、サラ王女は嬉しそうに涙を流し出した。
「良かった……うう、おめでとう! アーネストが好きな人とちゃんと結ばれて良かった。今までごめんなさい……。今のあなたたちを見て、本当になんて酷いことをしたんだろうって、うう、本当におめでとう……」
罪悪感と喜びが入り混じって、サラ王女はまるで情緒不安定な状態のようだ。しかし、祝福してくれているのには違いない。素直にその祝福を受け入れた。
こうして無事、今までのトラブルが解決し幸せな気持ちのまま王宮の馬車に乗り、家へと帰り着いた。そして、ディナーの前にお父様に書斎へと呼び出された。
「お父様、お話があると聞きましたが、どうされましたか?」
「リディ、アーネスト様から求婚書が届いたが……どうする?」
――全然誰にも話してなかったもの。
お父様もびっくりするはずよね……。
「アーネスト様と結婚したいと思ってます」
もうすでに私とアーネスト様は両思いなのだ。迷う要素は何一つ無い。すると、お父様は私の答えを聞いて急いで侍従に頼み、お母様も書斎へと連れて来た。
「リディはアーネスト様からの求婚を受けるそうだ」
そうお父様がお母様に言うと、お母様は顔を歪めたかと思うとグスグスと泣き出した。
「良かったわ。ついに、アーネスト様の想いがリディに届いたのね……」
「え、どうして? 何のことですか?」
ずっと前から好きだったと言われ、それを知ったのは最近だ。私が最近知ったことを、何故お母様が知っているのだろうか。そう思いお母様に問いかけると、お父様が喋れない状態のお母様に代わり説明し始めた。
「アーネスト様はロイルに行く前に、リディと結婚したいと言っていたんだ。だが、ロイルに行かなければならなくなったから、一時はアーネスト様の願いは叶わないと思っていたが……。やはり2人が結ばれたんだな。おめでとうリディ」
お父様がそう言うと、お母様も少し冷静になったのか話し出した。
「あなたをずっと大切に思ってくれている人とあなたが結ばれて、グスッ、お母様は嬉しいわ。リディ、おめでとう」
――アーネスト様がそんなことまでしてたなんて……。
私何にも知らなかったんだ。
アーネスト様は話す気は無かったんだろうけど、知れて良かった。
先ほどのお父様とお母様の発言には、ロジェリオとの婚約がいかに気にかかっていたのかが、滲み出ているように感じた。しかし、アーネスト様と結ばれたことで、お父様とお母様は心の底から喜んでくれている様だった。
「心配かけてごめんなさい。お父様、お母様、ありがとう」
そう言うと、お父様もお母様も嬉しそうに微笑んでくれた。
「こうと決まれば、すぐにでも返信しよう!」
そう言うと、お父様は嬉しそうにサラサラとペンを滑らせ、婚約受諾の手紙を王室へと送った。