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106話 ずっと昔

 温室を出たら、アーネスト様とエリック王子というこの場においては意外な組み合わせの2人がいた。そのことに驚きながらも、エリック王子に声をかけられたため話しをしていると、突然アーネスト様に手を繋がれた。そうかと思うと、アーネスト様はどこかに向かって歩き出した。


 私の手を引くアーネスト様を見ていると、どことなく焦燥感を抱いているのではないかと感じる。しかし、急かして繋いだ手を無理矢理引っ張ることはなく、歩幅を合わせてくれるところにアーネスト様の優しさも感じた。


――アーネスト様、突然どうしたの?


 このあいだのパーティー以来の再会だ。当然、男として見てほしいなんて言われたからには、このシチュエーションに緊張しないわけがない。


「アーネスト様? どうされましたか? どちらに――」


 そう声をかけたが、アーネスト様はその声に被せるように答えた。


「もうすぐだから少し待ってくれないか」


 そのアーネスト様の言葉通り、目的地にはすぐ着いた。そこは、幼少期のころ一緒に遊んでいるとき人気が無い場所であったため、隠れ場所としてよく行った場所だった。


 アーネスト様はその場に来ると、建物の壁側に立った。そして、私をアーネスト様と向かい合うように正面に立たせた。妙に冷静に、いつもとは立ち位置が逆だなと思った。


「リディ、突然こんなところに連れて来てごめん。だけど、聞きたいことがあるんだ」

「はい、なんでしょうか……?」


――こんなにも切羽詰まってどうしたの?

 しかも、……近い。


 周りに誰もいない空間と、アーネスト様の距離感に緊張感が高まる。私が動けば開く距離ではあるが、固定されてしまったかのように動けない。このあいだのパーティーでの出来事も相まり、変に胸がドキドキしてくる。そして、アーネスト様が口を開いた。


「エリック王子とはどういう関係なんだ?」


 突然、エリック王子との関係を聞かれ、頭の中にはてなが浮かぶ。


「関係……ですか? 友人という程の関係でもないですし、たまにお話しをする機会があるロイルの王子様ですか……ね?」


 突然の質問に戸惑いながらも何とか答えたところ、アーネスト様の目の色が変わった。


「リディのことを信じていないわけではない。ただ正直、リディとエリック王子の仲の良さを見ていると、それだけの関係とは思えない」


 黙って聞いていると、突然とんでもないことを言い出したため、私は急いでアーネスト様に言葉をかけた。


「確かに周囲からみたらそう思われてしまうこともあったかもしれません。ですが……実はエリック王子とは約束していることがあるので、その関係で少し距離が近く見えてしまったのかもしれせん」


 パトリシア様とエリック王子の恋の成就を願って、エリック王子を応援する約束を結んだ。これは互いに恋愛感情が皆無であるからこそできたことであるが、周囲が私たちをどう見ているかは、認識が違ったのかもしれない。


 そんなことを考えている私に、アーネスト様は声を漏らした。


「約束……?」


 少し訝しげな表情をしたアーネスト様は、言葉を続けた。


「その約束と言うのは、どんな約束なんだ?」


 その質問に私は困った。


――言ったら簡単なことは分かる。しかし、エリック王子の体裁上、アーネスト様に全部言っていいのかとなると、私には判断しきれない。

 それに、相手がエリック王子だから大事になるとは思えないけれど、同国内なら極論好き勝手に出来る権限があるのに対し、サラ王女やエリック王子と何かあれば、どんな些細なことでも国家間の問題にもなりかねない。


 何と答えようか迷った末、アーネスト様に答えた。


「アーネスト様、ごめんなさい。エリック王子本人の許可なく、安易に話すことはできません」


 謝りながら答えると、アーネスト様は驚きの表情を見せた。しかし、冷静な様子で口を開いた。


「……分かった。ごめん、無理に聞き出しはしない。リディのことは信頼しているから」


 私を信頼しているというアーネスト様に、少し罪悪感が湧いた。しかし、アーネスト様は言葉を続ける。


「リディ、これだけは1つ確認させてほしい。エリック王子のことをどう思っている? 異性間交友的な、その……好きか? エリック王子のことを恋愛的な意味で……」


 そう問うてくるアーネスト様の声は、かすかに震えている。いつもしっかりしているアーネスト様がこんなにも弱った姿を見せることは、めったにない。


 しかも、またしてもとんでもない質問をしてくるではないか。


――アーネスト様、何かすごい勘違いをしているんじゃない!?

 ちゃんと訂正しないと……!!


 私は驚き、反射的にアーネスト様に答えた。


「私はエリック王子に恋愛的な意味での好意は一切抱いておりません。それに、エリック王子も同じく私に恋愛的な好意は抱いておりません。勘違いされていたかもしれませんが、そのような感情を持っていることは無いと断言いたします」


――もっと説明の補強材料が必要かしら?


「それに他の御令嬢は分かりませんし、私がもう少し歳をとれば変わるかもしれませんが、現時点において、年下の方が恋愛対象になるということは絶対に有り得ません」


 確かに、エリック王子こそ人として好感を持っている。だが、恋愛感情なんてものは考えたこともなかった。その時ふと思った。


――なら、私のアーネスト様に対する好きってなんなの?

 エリック王子と同じとは思えないわ……。


 ふとそんな思いがよぎった瞬間、アーネスト様が声を発した。


「悪かった……ごめん。俺、勝手に嫉妬して一方的にリディにこんなことして……本当にごめん」

「何でアーネスト様が謝るんですか!? 気にしておりませんよ」


 そう声をかけたが、アーネスト様は核心を突いてきた。


「もう、リディも完全に気付いているだろう? 俺の気持ちに」


 その言葉に、身体が痺れるような感覚がした。


 気付いていないふりをするのはもう無理だと悟った。ここまで来たら。流石に鈍感な私でもこのアーネスト様の想いに気付かないわけがなかった。つい自身の重ね合わせた手にギュッと力が入る。


 そんな私を、アーネスト様は熱のこもった目で射貫くように見つめてきた。そして、甘く掠れた切ない声で言った。


「好きなんだ。リディのことが。もちろん異性としてだ。リディも気付いているんだろう?俺も遠回りをして、ちゃんと言葉にして伝えていなかった。俺はリディのことが好きだ、ずっと昔から」


 予想通りのアーネスト様の発言だったが、その発言の中に気になる言葉があった。


――ずっと昔から?

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