表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

105/130

105話 憧れ〈エリック王子〉

 姉上がサロンを開く前日のこと。僕たちはマクラレン王家の方々と一緒に食事会の場を設けてもらっていた。その食事会では食後に、歓談の場が設けられていた。その歓談の時間にパトリシア王女が楽しそうに話し出した。


――ああ、今日もかわいらしいお方だ。

 いつも朗らかで明るくて、見ていて楽しい気分になるな。


 そう思いながら、パトリシア様の話を聞いていた。その話の内容は、明日行われる姉上のサロンのことだった。


「明日のサラ王女のサロンは、王女宮にある温室で開催することになったんです。そうですよね? サラ王女?」


 そう問いかけるパトリシア様に対し、姉上も嬉しそうに返答した。


「そうなんです。あんなにも美しいお花に囲まれて、サロンを開けるなんて嬉しいですわ。パトリシア様、お心遣い感謝いたします」


 そう言われ、パトリシア様は嬉しそうにニコニコ笑ったかと思うと、早口で話し出した。


「か、感謝だなんて! これくらいのこと当然ですわ。短い滞在期間なのです! ぜひ温室をご利用し、花に癒されてください。それに、利用に関しては、サラ王女なら大歓迎です! だって……っは!」


 何かを言いかけたはずだが、パトリシア様は急に口を閉ざした。


――急に黙ってどうしたんだろうか?


 心配になり、パトリシア殿下の顔を見る。すると、パトリシア殿下とばっちり目が合った。


――あっ! 目が合った!


 気になる相手であるパトリシア殿下と目が合い、嬉しくなる。自然と口角が上がり、目が合ったパトリシア様に微笑みかけた。


 ところが、僕が微笑みかけた瞬間、パトリシア殿下は思い切り目を逸らした。そうかと思うと唐突に、私は明日に備えなければならないと言い、部屋を出て行った。


――目を逸らされてしまった……。絶対に僕と目が合っていたよな……?

 僕は知らないうちに、何かパトリシア様の気に障ることをしてしまったんだろうか?


 パトリシア様の自分に対する明らかな回避反応に困惑している僕は、そのころ自室に戻り顔を真っ赤にして扉の裏でへたり込んでいる少女のことを知る由もなかった。


 そして、パトリシア様がいなくなってからも、明日行われる姉上のサロンについての話は続いていた。ベアトリクス王妃が、姉上に質問をしたからだ。


「明日はどなたをお呼びするのですか?」


 そのベアトリクス王妃の問いかけに、姉上はこれでもかと弟の僕でも思うほど、愛想よく話し始めた。


「この国に招いていただいてからまだ日が浅いので、今回はパトリシア殿下からご紹介いただいた御令嬢と御夫人をお招きすることになっております。ご紹介以外でしたら、先日の夜会で約束をしたので、リディア嬢もお招きすることになっております」


 すると、ベアトリクス様は嬉しそうな声を上げた。


「あら! リディア嬢も来られるのですね。 それは楽しい会になると思いますよ! ねえ、アーネスト」


 そのベアトリクス様の発言に、少し姉上の口角がピクッと動いたような気がした。


――姉上、やり方さえちゃんとしてれば、そんなに自分の首を絞めることにならなかっただろうに……。まあ僕も人のことは言えないけどな。


 そう思っていると、アーネスト殿下がベアトリクス王妃に応えるように口を開いた。


「……そうですね。リディア嬢は機知に富んでいるので、実りある会になると思いますよ」


 ベアトリクス王妃とアーネスト殿下が内心どのように感じているかは分からない。このとき僕の心の中では、ここ最近の姉上の行動による様々な思いが占めていた。


――姉上はリディア様に対して敵対心を持っている。

 ということは、リディア様が姉上に何かされないように、身内である僕が姉上を見張らないといけないんじゃないか?

 明日、僕はサロンに乗り込んだ方が良いのだろうか?


 そんなことを考えながらアーネスト殿下を見ると、アーネスト殿下はどこか険しそうな表情で、何やら考え事をしている様だった。そんなアーネスト殿下を姉上はじっと見つめているが、アーネスト殿下は見向きもしていない。


 そのときの姉上の顔を見たが、その表情からは姉上の感情を読み取ることは出来なかった。


 こうしてサロン当日になり、姉上が何かしでかさないかと心配になった僕は、温室の方へと歩き出した。もちろん、場内を散歩するという体で国王様からは許可を得てだ。国王様は、過去5年の僕のふるまいから、許可を出してくれた。


 しかし、温室の方角へ向いて歩きながらも、1つの考え事をしていた。


――温室に行こうとしてはいるけど、女性だけで集まることになっているサロンに行っても良いのかな? やっぱり、僕がサロンの周辺に行くこと自体が問題になるか? 様子を見るだけなら許されるか?


 そんな悩みを抱えながら歩いていると、いつの間にか温室が見える地点に来ていた。ガラス張りの温室を見ると、真紅の髪色が見えた。


――あ! 姉上はあそこか。あ、姉上と同じ髪色の人がいるな、珍しい……。

 結構少人数だ。リディア様は……パトリシア様を挟んで姉上の隣にいるのか。

 何もなければ良いが……。


 そう思った矢先、声がかかった。


「エリック殿、ここでいったい何をしているんだ?」


 振り返ると、そこにいたのはアーネスト殿下だった。


――ちゃんと説明しないと、僕はただの不審人物だよな。

 ここはもう正直に言おう。


「あ、アーネスト殿下、実はですね……」


 身内の恥は言いづらい、しかし背に腹は代えられない。僕は意を決し、アーネスト殿下に言った。


「実は、姉上が何かしないか心配で、つい様子を窺いにきてしまいました……。本当に申し訳ない」


 そういうと、アーネスト様は目を見開いたかと思うと、淡々と話し出した。


「そうか……。エリック殿には失礼ですが、実は俺もそれが心配でここに来たんです」


――やっっっぱり姉上は良く思われてなかったんだ!

 それも、かなり!


「すみません。優しいリディア様にこんな嫌な思いをさせて、本当に申し訳ないです。あんなにも僕のことを助けてくれた恩人なのに……」


 ついリディア様に対する罪悪感をアーネスト様に漏らしてしまった。すると、その言葉を聞きアーネスト様の眉がピクリと動いた。そして、僕に質問をしてきた。


「そうだ。そのことについて聞きたかったんです。エリック殿はリディとは一体どういうか――」


 アーネスト様が質問してきたと思ったが、その質問は突然途切れた。リディア様が温室から出てきたからだ。


――何でリディア様だけ先に出てきたんだ?


「あら、アーネスト様とエリック王子がどうしてここに……」


 リディア様は驚いた様子で言った。僕はリディア様の単独行動に嫌な予感がして、僕とリディア様、そしてアーネスト様の3人がいる範囲にしか聞こえないであろう声で話しかけた。


「リディア様! 姉上に何かされたんじゃ……!」


 不安になり問いかけたが、リディア様の答えは僕の不安を薄らげた。


「大丈夫です。特に何も心配することはないですよ。ご安心ください」

「それなら良いのですが……。本当に無理してないですか? 何かあったら絶対に言って――」


 僕がリディア様に話していると、アーネスト殿下がこの会話を遮った。


「エリック王子、心配はいらなそうです。俺は少々リディに用事がありますので、連れて行きます。では」


 そう言うと、アーネスト殿下がリディア嬢を目の前から奪うように連れて行った。


――か、か、かっこいいっ…………!!!!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ