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101話 情報過多

――はあ、私アーネスト様の顔をちゃんと見ることができるのかしら。


 そう思いながらベアトリクス陛下の指示通り挨拶をしに行った。すると、その場にはアーネスト様、パトリシア様、そしてサラ王女の3人が集まっていた。


 サラ王女単体ではなく、皆が集まっている状態だったため、少しホッとする。


「急遽帰ることになったため、御三方にご挨拶しに参りました」


 そう言って、3人に対して礼をした。そして、顔を上げたところで、ようやくきちんと3人の顔を見たが、3人ともどこか暗い表情をしていた。


――ん? どうしてこの3人は揃いも揃って暗い顔をしているのかしら?


 ふとそんな疑問が湧いたが、どうして暗い顔をしているのかと公衆の面前ということ以前に、本人に聞けるわけもない。心配な気持ちはあるが、お兄様の緊急の仕事に合わせての帰宅のため、1人でここに滞在する訳にもいかない。思うところは色々あったが、その場を去るために挨拶をした。


「それでは、失礼いたします」


 こうして、退場の意を告げ帰ろうとしたところ、サラ王女が声をかけてきた。先ほどの暗い表情から、少し明るい表情に戻っている。


――何かしら?


「この滞在期間で少なくとも1度はサロンを開かせてもらうの。親善交流のために来たから、私もエリックのようにお友達がほしいわ。リディア嬢は私のサロンに来てくれるかしら?」


 いくら苦手な相手とはいえ、他の御令嬢も集まる場でおかしなことはしないだろう。それに、サラ王女は隣国では非常に優れた人物だと聞いたことがある。そんなサラ王女の一面を見られる可能性があるのは、このサロンだけかもしれない。


「その招待――」


 私がサラ王女の招待を受けようとしたとき、アーネスト様が私の言葉を遮るように話し出した。


「サラ王女、この場で聞くのではなく、招待状等の手順を通してきちんと――」


 言いかけたその言葉は、サラ王女によってかき消された。


「リディア嬢」

「はい」

「今日この場にやって来られたのに、1カ月滞在する中でまさか私のところには1度も来られないなんて言わないわよね? もしそうだとしたら、よく今の今まで貴族令嬢として生きて来られたわね。私はどんなにしんどい思いをしても、国のためを思って、王族としてその立場に見合った行動をしてきたのに……」


 一方的にサラ王女が口撃をしてくる中、私はサラ王女を一点に見つめ続けた。すると、ばつが悪くなったような様子で、サラ王女は途中で話しを辞めた。


「サラ王女、私はまだ返答をできておりません。聞いていただけますか?」

「え、ええ」

「私はその招待、謹んでお受けいたします」


 すると、皆がハッと息をのんだ。


「そっそう! 受けてくれるのね。ありがとう」


 そう言った後、周りをキョロキョロしサラ王女は意外な発言をした。


「……さっきはあなたの発言を聞く前に、勝手に言い過ぎたわ。ごめんなさい」


――この人謝ることができたの!? ますます訳が分からないわ。

 怪我をさせたり謝ったりいったいどうしたいのよ……。


 アーネスト様を見ると、心配そうな顔をしてこちらを見つめている。エリック様の顔を見ると、サラ王女が謝ったことに衝撃を受けたのか、驚いた顔でサラ王女を見ていた。


「私ももっと己を律するよう研鑽したいと思います」


 そう言うと、サラ王女はええ、そうしてちょうだいと言って笑った。正直イラついたが、こんなものだろうとそこは気にしないことにした。


 そんな中、ずっと黙っていたパトリシア様が口を開いた。


「っ私もそのサロンに参加したいです!」


 突然のパトリシア王女の発言にサラ王女は驚いた顔をしている。


「……ダメですか?」


 そう言って、パトリシア王女はサラ王女を上目遣いで見つめた。先ほどの話もあり、ついチラッと横に立っていたエリック王子を見てしまった。すると、パトリシア王女を見て目を見開き、完全に固まってしまっていたエリック王子がそこにいた。


――知ってしまえばこんなにも分かりやすいのに、どうしてエリック王子の片想いに気付かなかったのかしら。


 そう思ってしまうほどに、エリック王子の反応は分かりやすいものであった。一方、自分も参加したいと言われたサラ王女は、慌てた様子で話し出した。


「ダ、ダメだなんてそんなわけないじゃないですか! パトリシア王女もぜひご参加ください! その方がきっと 楽しい会になりますわ。ね?」


 最後の方はまるで子どもをなだめるような優しい女性のようだった。パトリシア様もパトリシア様で、サロンに参加できることになり喜んだ。


「ほ、本当ですか!? 嬉しいです……! でも、無理しているのでは……まだ成人もしていないのですが、本当によろしいのですか?」

「はい。パトリシア様はこの国の王女様ですよ。それに、わたしの国では内容にもよりますが、きちんとお話しできる方であれば、何歳でも皆に受け入られている人物であれば参加して構いません。ダメなわけないじゃないですか。ですよね? リディア嬢」


 突然話を振られ驚いたものの、パトリシア様に入らぬ心配をさせぬためだと、冷静に返答をする。


「パトリシア様がご参加くださるのであれば、私も嬉しいですよ。それに、主催者のサラ王女が良いと仰っているのです。一緒に参加して楽しみましょう」

「はい! リディア様! サラ王女、ありがとうございます。サロンの開催日が今から楽しみです!」


 嬉しそうなパトリシア様にサラ王女は微笑みかけ、その後、私とパトリシア様に改めて招待状を送ると告げた。


 そして、いよいよ本当に帰ろうというタイミングで、エリック王子と入れ替わるようにアーネスト様が、俺が2人を出口まで送ろうと言い出した。その言葉に一瞬ドキッとした。


 しかし、お兄様も一緒だったことと、王室関係の緊急の仕事のせいで帰ることになったことから、アーネスト様はお兄様とほとんど話をしていた。


「こちらまでで大丈夫ですよ。王太子様じきじきのお見送り、誠に感謝いたします」


 そう言ってお兄様が礼をすると同時に、私もありがとうございますと言い礼をした。


「そんなにかしこまらないでくれ。2人はいつも通りで接してくれ。では、気を付けて帰るのだぞ」

「はい。では失礼いたします」


 お兄様が代表の挨拶をし、行こうかと声をかけてきた。


「はい、おにいさ――」


 そう言いかけたところで、アーネスト様が声をかけてきた。


「リディ……! 髪に……」


 そう言いながら、グイッと近付いて髪に付いた何かを取る振りをしながら2人にしか聞こえない声で、耳に顔を近づけ話しかけてきた。


「今日のことは忘れないでくれ」


 そう言うと、元の位置まで距離をとった。


「よし、取れたぞ。今度こそ、気を付けて帰ってくれ」


 何事も無いようにアーネスト様は話すが、私はアーネスト様の突然の変わりように頭が爆発しそうだ。そんな状態のまま、お兄様と一緒に馬車に乗って帰宅した。


 その帰宅の途で、お兄様が放心状態に近い状態の私に話しかけてきた。


「リディ、リディには俺以上の男を選んで欲しいと言ったよね? ……アーネスト様なら俺も許そう」


 突然お兄様がおかしなことを言うから、放心状態だったのに一気に頭に熱が上るような感覚になる。


「お兄様までなんてことを言うんですか!?」

「お兄様、……まで? までとは何だ。誰かに何か言われたのか!?」

「そっ、そういう訳では……! こ、言葉の綾と言うやつです」


 そう答えると、お兄様は意味深な顔をしたが、一応納得の反応を示した。


「ふーん、そうか。まあ、そう言うことにしておいてあげるよ。もし何かあれば、すぐこのお兄様に相談するんだぞ」

「ふふっ、ええ、そのときはそうさせてもらいます」


 そんな会話をしながら屋敷に帰りついた。ポーラを始めとし、皆がパーティーの感想を聞いてくる。パーティーの感想を聞かれても、真っ先に頭を過ぎるのはアーネスト様の発言だ。


 眠ろうと思いベッドに入るが、目を閉じればパーティーの爆弾発言時のアーネスト様が頭の中に浮かんでくる。


「もう! これじゃ眠れないじゃない……」


 そんな風に1人悶々としていたらいつの間にか眠りにつき、気付けば朝になっていた。

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