1話 突然の別れ
初投稿です。よろしくお願いします(^^)
念のため、R15設定にしています。
それは5年前のことだった。
「リディ、ロジェ、君たちに今日は大切な話がある」
ある日突然、幼馴染で王太子のアーネスト様が、王子宮に私とロジェ様を呼び出し、見たこともないくらい深刻そうな顔で告げた。
「アーネスト、いったい何があったんだ?」
「アーネスト様がそのようなお顔をするほど大切な話とは、どのようなお話でしょう?」
ロジェ様が問いかけた後、私もすかさず問う。
その切羽詰まった表情は、私たちの心に緊張を走らせた。
「俺はこの国の王太子だろう? それで此度、隣国との平和条約締結のために、国際交流として、王太子の俺が隣国の王子と交換留学することになったんだ」
「いつから留学するのですか?!」
「もう3日後には、既にこの国を発っているはずだよ」
「えっ……? そんな早くに発つのか! 突然過ぎるだろ……」
ロジェ様は衝撃を受けた様子で、アーネスト様に声をかけていた。
一方、思っていたよりも早すぎる突然の別れを知った私は、驚きのあまり声も出なかった。
しかし、不安が過ぎれど、聞かなければならないと思い、ようやく声を絞り出した。
「……すぐに帰ってきますよね?」
「それは……いつになるか分からない」
「そんなっ……! アーネスト様と会えなくなる可能性もあるんですか?」
「全く会えないことは無いと思う。しかし、また会える日がいつ来るのかは、分からない」
それを聞いた私は、激しく動揺した。ロジェ様も同じく動揺していたはずだ。
私たちは幼少期から母親同士が友達のため、アーネスト様とロジェ様と私の3人でよく遊んでいた。いわゆる幼馴染というやつだ。
私は2人よりも1つ年下だったため、随分と2人に可愛がってもらった。
アーネスト様は小柄で私と同じ身長かつ、中性的な顔立ちで女の子と間違われることもあった。けれど3人の中では誰よりも広い心の持ち主でもあった。
そのため、アーネスト様は私たちのどんなに面白くない話でも楽しそうに聞いてくれたり、相談があったら誰よりも真剣に相談に乗ってくれたりするまるで兄のような存在だった。
実際、私は年齢の離れた実の兄よりも、1つ年上のアーネスト様によく懐いていたし、ロジェ様にとっても相当信頼できる相手だったはずだ。
だからその分、私はアーネスト様が3人の空間からいなくなるということが、信じられなかったし、信じたくなかった。
歴史を振り返ると、他国では平和条約を結ぶために留学した王子が、人質にされ殺された事例がある。また、殺されずとも一生祖国に帰ってくることがなかったという王子も聞いたことがある。
だからこそ、この突然の知らせは私たちにとって最悪な知らせだった。
しかし、そんな私たちの心配や不安を他所に、アーネスト様は続けた。
「俺は3日後には、もうこの国を発っていると言っただろう? だから、2人に伝えたいことがあって呼んだんだ。まあ、平和条約を締結することが出来れば、すぐに帰ってくるから大げさかもしれないけどね!」
――本当は一番不安なはずなのに、アーネスト様は私たちに心配させまいと振る舞っているんだわっ! だから絶対に泣いてはだめよ。ロジェ様も我慢しているわ。
「なんでも聞こう、言ってくれアーネストっ……!」
「アーネスト様、なんでもお伝えください!」
私は必死に流れそうな涙を何とか堪えながらそう告げた後、アーネスト様を見た。
「そうだな、ロジェから話そうか…」
そういうと、アーネスト様はロジェ様を見た。
「ロジェ、君は私のかけがえのない親友だ。君には頼みたいことが2つある」
「頼みなら何でも聞いてやる! 言ってくれ!」
「君は以前、領地やこの国を守ることが出来る人間になりたいと言っていただろ? 俺の1つ目の頼みは、隣国から俺が帰ってきたとき、君がその願いを叶えていて欲しいということだよ。騎士でも文官でも何でもいい。この国を守る一員として、俺が王になったとき、俺の助けになってくれ」
「ああ!いくらでもアーネストのことは僕が助けてあげるよ!」
ロジェ様は笑顔でそう言った。
「ありがとう。2つ目の頼みだけど、リディが頼れる存在になってもらいたい。僕がいなくなったら、きっとリディは寂しがるだろうからね。嫌なことや悲しいこと、不安や不満があっても隠すような子だ。お兄さんとしてよく見てやってくれ」
そう言うと、アーネスト様はちらりと私を見て微笑んだ後、すぐにロジェ様に視線を戻した。
「当然だよ! だってリディは僕らの大好きな妹みたいなものだからね!」
「そうだよ。僕らの妹……ね。だからもし、ロジェがリディのことを泣かしたら許さないからな!」
「そんなことしないよ! 約束する!」
――ああ、私は本当にどれだけ恵まれているんだろうか。
それに、自分のことよりも私のことを気にかけてくれるアーネスト様に、私はまだ何も返せてないわ。
2人の会話を聞いていると泣きそうになる。けれど泣いてはいけない。次は私の番だ。
「次はリディ。君には3つ頼みたいことがある」
こちらを見たアーネスト様と視線が交わった。
「なんでも言ってください! アーネスト様!」
「それでは。リディへの1つ目の頼みは、俺の妹であるパトリシアの、良き話し相手になってもらいたいということだ」
「えっ! パトリシア殿下ですか?」
意外な頼みで驚いてしまった。
「パトリシアは兄の俺がいなくなるうえ、まだ11歳になったばかりだ。しかも、本来なら友達がいる年頃だが、王女ゆえに、気軽に友達を作ることもできない。だが侯爵令嬢という家格以前に、リディア、君だからこそパトリシアの話し相手を任せられる。それに、パトリシアはリディのことが大好きだ。頼めないか?」
1人置いていく実の妹が心配なのだろう。そのときのアーネスト様の瞳には、その頼みの必死さが見え隠れしていた。
「もちろんです! 私もパトリシア殿下のことは大好きですから、こちらこそぜひお願いします!」
「そうか、そう言ってもらえて安心したよ」
私の答えで安心したのか、アーネスト様は続けた。
「じゃあ、2つ目の頼みだけれど、最近リディは救貧院や孤児院に関する、慈善活動に取り組みだしただろう? そういう取り組みを、続けてほしいんだ。そして、この国を支えられる力を持つ人たちの、助けになってもらいたい」
「もちろんですわ! 最近は教育に関する慈善活動にも取り組もうと思っていますの!」
「そうか。それなら、安心して留学することが出来るよ」
「留学」……この言葉に胸が痛むけれど、アーネスト様を安心させるために、私は笑顔で質問した。
「3つ目の頼みは何でしょうか?」
「……リディ、君には俺が必ず帰ってくると信じて待っていて欲しい。これが、3つ目の頼みだ」
「アーネスト様……そ、そんなの当たり前ですわ! 帰ると信じるに決まっているじゃありませんか!」
当たり前すぎる頼みに動揺し、つい強い口調で返す。
すると横で聞いていたロジェ様も口を開いた。
「リディだけじゃなくて僕にも言えよ! 帰ってこなかったら、許さないからな!」
このロジェ様の発言にアーネスト殿下は苦笑しながら声をかけた。
「そんなに怒らなくても良いじゃないか。寂しがり屋のリディが待ってると思うと、必ず帰らないとなって思えるんだよ。けど、ロジェも寂しがり屋だったね。ごめん、ごめん。君も僕が帰ってくると信じて、待っていてくれ」
「ああ! 約束だぞ、アーネスト! 必ず帰って来いよ」
「アーネスト殿下のこと、帰ってくると信じて待っていますわ!」
私とロジェ様の2人揃って、堪えきれない涙を必死に堪えながら、アーネストに伝えた。
「2人とも……ありがとう。しばらく離れ離れになるけれど、絶対に帰ってくるから、その間頼むよ」
そう言って、眩しそうに微笑むアーネスト様に私たちは強く返事した。
「はい!」「任せとけ!」
アーネスト様と会話したのは、この日が最後だった。
そして3日後、私やロジェ様はもちろん、国民に見送られながらアーネスト様は隣国へと旅立っていった。
お読みいただき、ありがとうございます。
亀更新になるかもしれませんが、完結させます。
最後までお付き合いいただけると、幸いです。