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彼方からの異邦人〈エトランゼ〉  作者: 多々良汰々
第1章 『希望都市ミレニアムへようこそ!』
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希望都市ミレニアム誕生50周年を祝して~ミレニアムが歩んできた歴史とこれから~

―目次―

はじめに

1.人類史上最悪の天災に直面して

2.長きにわたる地下シェルターでの生活

3.母なる大地への帰還

4.希望都市ミレニアムの誕生

おわりに


はじめに

 ミレニアム誕生50周年を迎えられましたことを心からお慶び申し上げます。都市中央管理局局長として、50周年の佳節かせつを迎えられたことを大変嬉しく存じます。

 しかしながら、「50」周年という数字はあくまで現在の都市の雛形が完成した年を起点に数えられたものであり、実際に都市が完成するまでにかかった歳月は100年を優に超えております。この間に、数多くの困難が先人たちの前に立ちはだかりました。それでも先人たちは決して挫けることなく運命に抗い続け、そして見事超克ちょうこくしてきたのです。


 現在ミレニアムの人口は40万人を超え、ミレニアム生まれの新たな世代が社会を担う時代となりました。かつての高度に発達した文明とまではいきませんが、オラクルグループの多岐にわたる研究、ノービリス財閥による都市開発により、ミレニアムの居住性は日々向上しております。私の古巣であるガーディアンズ・オブ・ザ・ヒューマンカインド(以下GotH(ゴース))、そして都市中央管理局一同も、市民の皆様の安全・安心のために、誠心誠意職務に当たっております。


 さて、50周年という節目は、先人たちの歴史を振り返り、また将来を展望する絶好の機会ではないでしょうか。これまでのミレニアム史を4つの時代に分け、先人たちの歴史を追体験していきましょう。


1.人類史上最悪の天災に直面して

 「天災は忘れた頃にやって来る」。皆様はこの言葉をご存じでしょうか。これは「常日頃から災害への心構えを忘れないように」との思いが込められた、かつての文明の著名人が残した災害警句の一つであります。

 地震、津波、風水害、火山爆発……これらは発生を食い止めることは能わずとも、備えをしておくことで被害を最小限に抑えることが可能なはずです。しかしながら、天災の中には十全の備えをしていたとしても、被害を抑えることが敵わない大規模の天災が存在します。我々人類が経験した災禍の一日(ドゥームズデイ)は、まさにそのような天災であったのです。


 災禍の一日(ドゥームズデイ)を迎える以前の世界は、現在では想像がつかないほどの高度な文明が存在し、先祖たちは非常に豊かな生活をしていたとされています。そんな彼らが見上げる遙かなる大空に、突如巨大な亀裂――天の亀裂(スカイ・クラック)が走ったのです。間もなくして、天の亀裂(スカイ・クラック)から正体不明の有害物質――マナが溢れ出し、マナを曝露ばくろした者たちは、頭痛・吐き気・めまい・錯乱症状――いわゆるマナ中毒を起こし、たった数十分の内に命を失いました。

 マナによる汚染被害が発生したのは、数カ国に留まりませんでした。世界全ての国々がマナの脅威にさらされ、やがて各国政府は機能不全に陥り、国家という概念が破綻。約80億人もいた当時の人類は、なんと経った一日の内に1/10にまで激減したのです。


 それにもかかわらず、我々人類がこうして生き延びた最大の要因は、やはりオラクルグループのお陰であったと言えるでしょう。彼らは世界を巻き込んだ大戦への備えとして、超大規模な地下シェルターを保有していました。この未曾有の事態に際し、オラクルグループはシェルターを一般に開放。可能な限りの人々をシェルターに収容し、かくして人類は辛うじて存続したのです。


2.長きにわたる地下シェルターでの生活

 シェルターが当初想定していた収容人数は約10万人。しかし実際に収容された人数はその二倍の約20万人。この収容人数の大幅な増加から、シェルターは食糧や日用品などの生活必需品の不足に陥ったのでしょうか。答えはNoです。

 オラクルグループが地下シェルターに備蓄していた物資は、10万人が数年の内に消費しきってしまう程度の量でした。けれどもノービリス財閥が避難の際に多量の物資を搬入した甲斐あって、なんと数十年以上分の物資がシェルターに蓄えられていたのです。


 しかしながらシェルターでの生活が何不自由なかったという訳ではありません。当然いくつもの問題が浮き彫りとなりました。

 シェルターでの暮らしには、「彩り」というものが存在しませんでした。子供たちの遊び場、大人たちの娯楽の空間。非常に退屈で、鬱屈とした何の希望もない生活。健康を損ねた者、精神を病んだ者、自らの命を絶った者……。人々はやがて、「絶望」と言う名の病魔に取憑かれていったのです。


 誰もがやがて訪れる滅びを意識した時――一条ひとすじの光がシェルターに差し込みました。それは、「マナを無毒化する神経を獲得した者」、すなわち「マナに対して適性を持つ者」――適合者の出現です。彼らは(多量のマナを曝露ばくろした場合を除き)マナを体内に取り込んだとしても、マナ中毒を起こすことはない。さらに適合者は、マナを利用した超常の能力――異能を司るようになったのです。


 ですが今なおそうであるように、全ての人々が適合者に成り得たわけではありませんでした。マナ神経を持たない者、すなわち元来の「人間」である「非」適合者たち。シェルターの隔壁の隙間から流れ込んだ少量のマナにより、彼らは常に命の危機にさらされていたのです。

 この先「非」適合者たちがどのようにして救済されたのかは、皆様のご存じの通りです。製薬会社であったオラクルグループが開発した、定期的に摂取することによりマナ中毒の発症を抑制する特効薬――マナ・コントロール薬(通称MC薬)。このMC薬の完成により、「非」適合者たちの絶望も払拭されることとなりました。そしてMC薬は現在に至るまで、オラクルグループから市民の皆様に配給されているのです。


 絶望の暗闇に差し込んだ「適合者の出現」、「MC薬の完成」という曙光しょこう。これらの出来事が、鬱々うつうつとしたシェルターの空気を一変させました。そして人々はこの時、失いかけていた夢を再び抱くようになったのです。そう、人類の地上への帰還です。


3.母なる大地への帰還

 シェルターは国家でも都市でもありません。故に、政府と呼べる様な権力機構はシェルターに存在していませんでした。しかし、これの代替として、シェルターでの生活に大きく貢献したオラクルグループ、並びにノービリス財閥の主要人たちがリーダーシップを発揮していました。

 彼らが最も議論していたことは、「物資が数年で枯渇することはないが、将来的にはその時を迎える」ということでした。シェルターには食糧生産に必要な設備が存在しない以上、人類の古巣である地上への帰還は必要不可欠である。けれどもこれを達成するには、二つの大きな問題があったのです。


 第一の問題は、地上のマナ汚染が深刻であったこと、すなわちマナ濃度が非常に高かったということでした。いくら適合者がマナ神経を有しているといえども、マナ中毒に陥らずに生存出来るのはマナ濃度5%が限界。これに対し地上のマナ濃度は15%を越えていました。

 第二の問題は、災禍の一日(ドゥームズデイ)以降に出現するようになった異形の怪物――マナの怪異の存在でした。第一の問題がクリアされ地上へ帰還したところで、人類を脅かす生きた化け物が跋扈ばあっこする様な場所に居住圏を広げることは敵いません。


 第一の問題については、オラクルが至急研究開発部門を立ち上げ、高度な技術力によってマナを軽減する装置を完成させました。しかし第二の問題が、オラクル・ノービリスの主要人たちを非常に悩ませたのです。シェルターに搬入された物資は生活必需品が殆どであり、マナの怪異に対抗出来る様な武器の類いはほぼ持ち込まれていなかったのでした。


 再び重たい空気が漂い始めたシェルター。しかし一人の気炎万丈きえんばんじょうな若者が立ち上がりました。そして見事にこの窮地を打破してみせた若者こそ、後の世にも「剣老(ファビュラス)」として語り継がれる英雄――ギルヴァ・オルゼンその人でした。

 ギルヴァ氏はこの難題を聞きつけ、地下シェルターに暮らす適合者たちに訴えかけたのです。「何故我々の中から適合者が現れたのだろうか?それは、この世界へと順応をするため。だがそれだけではないはずだ。我々に発現したこの異能は、マナの怪異を駆逐するために、神が与え給うた力なのではなかろうか!」。この演説は多くの適合者の心を鷲掴みにしました。そしてギルヴァ氏は同志たちと共に、GotH(ゴース)の前身となる勇猛なる騎士団(ブレイブ・ナイツ)を結成し、人々の居住圏を確保するためにマナの怪異の駆逐を買って出たのです。


 その後人類の地上へ帰還するための計画は綿密に練り上げられ、やがてそれは50年計画と呼ばれるようになりました。50年計画は二段階に分かれており、第一に行われたのは人類の領地回復運動(ニュー・レコンキスタ)でした。

 人類の領地回復運動(ニュー・レコンキスタ)では地上にマナ軽減装置を設置すると共に、居住圏となる範囲に跋扈ばっこするマナの怪異の掃討が目標とされました。地上に蔓延はびこるマナの怪異の個体数は、推定されていたよりも多く、中には非常に強力な個体も存在していました。しかし、勇猛なる騎士団(ブレイブ・ナイツ)は、多くの血を流しながらも果敢に怪物たちに挑みました。そして彼らの獅子奮迅の活躍により、居住圏となる範囲のマナの怪異が掃討されたのでした。

 そして第二段階では、マナ汚染が深刻な旧建造物群の解体工事と、マナの怪異の侵入を防ぐための都市防壁の建設が行われました。これはオラクル・ノービリスの共同の元に行われ、予定していたよりも数年以上早く終了したのでした。


 50計画を経て人々が獲得したのは、巨大な都市防壁と、マナ軽減装置をより強化した都市の天蓋てんがいによって守られた更地の大地。しかしその大地こそ、人々が追い求めた楽園に他ならなかったのです。


4.希望都市ミレニアムの誕生

 開発が進み、都市の雛形が完成したのはつい20年前のことです。地下シェルターから地上への居住の移転が完了し、ようやく都市としての体を成すようになりました。

 しかし、都市には不足していることがいくつもありました。成熟した都市に必要不可欠なもの、それは政府の存在でした。

 皆様ご存じの通り、現在もなおミレニアムにはかつての世界に点在した様な、極めて民主的な政府は存在しません。しかしながら人類復興の立役者となったオラクルグループ、ノービリス財閥、勇猛なる騎士団(ブレイブ・ナイツ)(現GotH(ゴース))、これに監視役の中央管理局を加えた都市評議会が、政府の代わりを担っています。

 そしてもう一つ、都市には欠かせないものがありました。それは都市の名称でした。都市評議会は審議の末、「連綿と繁栄が続く都市となるように」との思いをこめ、都市はミレニアムという名称で決定しました。そして現在ミレニアムは、「希望都市」という愛称でも親しまれるようになったのです。


終わりに

 ミレニアムは未だ発展の途上にあります。都市の中央部であるセントラルエリアの都市開発は一段落しましたが、外周部であるルーラルエリアの開発は未着手の所が多いのが現状です。

 しかし、「急いては事をし損じる」という言葉が示す通り、一歩一歩確実に進んでいくことこそが、都市の開発において肝要あると私は存じております。


 ミレニアムは短所が一つもない完全無欠の都市であるとは言えませんが、我々は現在こうして平穏な日々を営んでおります。そしてこの先ミレニアムにどのような困難が起ころうとも、市民の皆様全員が手を取り合えば必ずやそれを乗り越えることが出来るということは、先人たちの歴史が指し示してくれました。

 これからの十年、百年、千年のミレニアムの益々の発展、市民の皆様のご健勝、ご多幸を心から祈念申し上げまして、本稿の結びとさせて頂きます。

          都市中央管理局局長/前GotH(ゴース)団長 オーティス・チェイサー


※1本稿は『ミレニアム50周年祭!都市新報増刊号』に掲載された、オーティス氏の寄稿文である

※2編集の都合により、原文を一部省略された上で掲載させて頂いた


The next is side by 濃紺の髪の青年

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