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君への手紙

君は世界の主人公

作者: まさかす

 今迄を思い出すにあたって、辛い事もあったが楽しかった事もあった。特別悪い事も無かったけれど、特別良い事も無かった。


 私は特別な何かになりたかったが、単なる集団の一部にすぎなかった。否、一部にもなり得なかった。私が居ても居なくても、世界には何ら影響はしない。影響を与える人間になりたかった訳では無いが、何も残せずにただただ消えていくだけで、その後も世界は何らの変化も見せずに続いて行くのかと思うと、少し寂しいと思うだけだ。


 私は有象無象の人間でしかなかったが、この手紙を読むあなたはどうですか? 特別な何かになれましたか? なりたい自分になれましたか? 

 




 そんな内容の手紙を見つけた。誰が書いたのかも分らないが随分と昔に書かれたようだ。


 手紙の主はこの世界の(ことわり)を知らないようだ。この世は個人の物であり生命の数だけ並行世界が存在する。そして自分以外の生きとし生けるもの全てはNPCいう定義である。自分以外の人間は勿論、動物、魚類、鳥類に植物と全てがNPCである。同時にそれら1つ1つの命が主人公とした世界が存在する。その主人公が亡くなればその世界は終焉を迎える。植物が主人公である世界だとすれば、その植物が枯れた時、その世界は終焉を迎える。


 そしてこの世界は俺の物であり、俺がこの世界の主人公であるという事だ。


 単に観測する術が無いだけで、それが世界の理とされる。人口で言えば数十億。植物動物等を合わせれば無限とも言える程の世界が存在する。生まれては消え、消えては生まれるという物であり「パーソナルワールド」と呼ばれる物である。つまりは手紙の主もNPCと言う事であり有象無象であるのは当り前であり、むしろその事に気付くNPCがいるとは驚きである。


 自分が消えればそのパーソナルワールドは消滅し、文字通りその世界は自分と共に消滅する。だから何も気にする事は無い。人の目など気にする事もない。自由に大きな気持ちで好きに生きればいいだけの事だ。


 そして私はそんな自分の世界の中で殺人を犯した。私は警察に逮捕され裁判を経た上で死刑を言い渡され、拘置所で寝泊まりする日々を送っている。


 私は裁判に於いて一切の反省や謝罪の弁を述べなかった。


 当然だ。この世界は私の物であり殺した相手はNPC。何を反省し謝罪するというのだ。納得出来ない私は即刻控訴したが直ぐに棄却された。間髪いれずに上告したがそれも却下され死刑が確定した。私は彼らに何度も「この世界は私の物だ」と説明したが全く理解されなかった。何と愚かな連中だ。言葉で通じない相手に対する術が私には無い。


 拘置所の鉄格子の中、私が寝ている最中、頭の中で声がした。


『お前の世界はこれで終わりだ』


「……ん? 誰だ? 誰に向かって言っているんだ?」

『お前だよ』


「何の冗談だよ。パーソナルワールドの事を言っているのか? そもそも俺はまだ生きてるぞ?」

『お前の世界はこれで終わりだ』


「だから何でだよ」

『兎に角、お前の世界はこれで終わりだ』


「つうかお前は誰だよ」

『お前が知る必要はないんだよ。お前は直ぐに死ぬんだから』


「ちょ、待ってくれっ! この世界は俺の世界だろ? パーソナルワールドだろ? だったらNPCを殺した所で問題ないだろ?」

『NPCである事には間違いない。だがルールは存在する。そのルールを破ったお前が消える。同時にこの世界は消える。ただそれだけの事。簡単なルールだろ?』


「それは知っている。だからここは俺の世界なんだから俺の物だろ?」

『お前の世界ではあるが、お前の物では無いんだよ』


「一体何を言ってんだか全然分かんねーよ!」

『それが世界の理』


「だからお前は誰だって言ってんだろ!」

『お前が知る必要は無いと言っている』


「……じゃあ俺はこれで終わりって事か?」

『そう。これでお前は終わり。お前という意識、存在、全てが終る』


「また生き返ったりするのか? ほら、輪廻っていうだろ?」

『それは無い。お前という存在、意識、全てはそこで終わる。消えゆくのみ』


「まあ、俺が死ねばこの世界も終わるというのなら、それほど悲しくも怒りも無いか。ならばそれで良いだろう。それなりに楽しく過ごしたさ」





 絞首刑に処されたその男は勘違いをしていた。男は自分がNPCである事に気付かなかった。だが私は優しさでも以って、その事を伝えはしなかった。男はそれを知らずに死んだことで、少しは憂いもなくなっていた事だろう。まあ、NPCに憂いも何もないだろうがな。


 この世界は私のパーソナルワールド。その男が口にしたように、誰が死んでも私は何も感じない。





 いやはや観察ゲームは退屈だな……しかし不思議だな。みんな自分が主人公だと勘違いするんだな。自分の見ている世界が誰かのゲーム上の物だと誰も気付かないとは……まあ、それを観察するためのゲームだけど。つうか説明をあまり聞かずに始めたからおかしな方向に進んでしまっているな。ゲームが好きだという理由だけで応募したバグ出しのバイトだったけど、こんなゲームだと知っていたら応募しなかったのにな。だいたいこんなゲーム買う奴いるのかよ……。


 とりあえずクリヤ出来たしレポート纏めて帰るか。おっと、その前にリセットするか。


『ピッ』


2020年09月01日 2版 誤字他改稿

2020年02月06日 初版


なんかオチがゆるい気がするが……まあ、いいか…… 

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