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Bloody Bride [鮮血の花嫁] -とある女勇者の憂鬱-  作者: 遠矢九十九(トオヤツクモ)
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第二十ニ話:破邪の剣

優しく語りかけるアロゥの声すらも、もはや遠いどこかでぼんやりと響いているようで、しかしながらあまりに呆然とし過ぎて逆に静まり返った頭の中に、ここまでずっと緊張で雑踏の騒音じみて聞こえていた王妃たちの歓声の一つ一つが、妙にはっきりと聞こえ始めた。


アロゥへの賛辞と誘惑ばかりと思っていた会場の女たちの声には、キャミルを嘲笑し好奇の目でなぶるようなものも多く混ざっていた。


「ふふ……アロゥ様もストライクゾーン広過ぎよね。

今度はあんな田舎臭いアラサー女勇者だなんて」


「いくらこの城の中では体の時間が止まるって言っても、若返れるわけじゃないもんねぇ、かわいそうに」


「もしかして処女なんじゃないの?

あの歳で気持ち悪いわぁ」


「でも逆に意外とすごいのかも知れないわよ?

あの外見なのにわざわざアロゥ様がお連れになったんだもの。

じゃなきゃ辻褄が合わないわ」


「確かに勇者ですものねぇ。

何かこう、特殊な秘技を持っててもおかしくは無いですわ。

だとしたら私も一度お相手願いたいものですわねぇ」


「ねぇアロゥ様ぁ、その子、上手ぅ!?」


「私もご一緒しても構いませんかしらぁ!?」


「ははは、キャミルとはまだそういう関係には無いのですよ。

だから今夜はまさしく初夜なのです。

大事な日なのですから、二人きりにして頂けますか?」


「えぇー!?そうなのぉ!?

今回そのパターン!?

つまんなぁい!!」


「じゃあせめて屋根裏から見てても構わないかしらぁ!?」


「まぁ少し落ち着いて下さい。

明日からまた皆様のお相手はして差し上げられますから。

それにまだ式の途中ですよ」


「式なんてどうでもいいですよぉ……。

早くシてぇ……!」


王妃たちが好き勝手に騒ぎ始め式の進行が一時中断される中、


「……きもちわるい……」


キャミルは自分の中の何かが押し潰されねじ切れていくのを感じながら、無意識のうちにつぶやいた。


「ん?何か言いましたか?

あぁ……ほら、皆様、少しお静かに」


なんで……なんでなんで……。

なんでこんな……なんでいつもこんな……。


「皆様!!

お気持ちの昂ぶりもわかりますが、もう少しのご辛抱を!!」


あたし……また騙されてる……また裏切られてる……。


「もう無理よぉ!!

ただでさえ何ヶ月もお預けだったんだものぉ!!」


なんであたしこんなところにいるんだろう。

なんであたし魔王なんかに着いてきちゃったんだろう。

なんであたし……あたしが望んでいたのはこんなことじゃないのに……!


「アロゥ様ぁ!

また時空魔法で私をメチャクチャに壊しながら抱いてぇ!!」


うるさいうるさい……!

きもちわるい……!

なんなのよ……?

なんであたしこんな色狂いの大ハーレムなんかに紛れ込んで、しかもその一員に加えられようとしてんの……?

あたしそんなことのためにアロゥとの結婚を選んだわけじゃない!

アロゥ……なんで……なんで先に言ってくれなかったのよ……?

ずるい……ずるいよ、ひどいよ、こんなの……!


「さぁ皆様!!

これで最後の手順と致しましょう!!

ようやく準備が整いましてございます!!

地上より持ち帰りし破邪の剣を用いた、ケーキ入刀です!!」


舞台に天井にまで届きそうな巨大なウェディングケーキが上げられ、二人の前に配置され、さらに宙を漂いどこからともなく現れた荘厳な一振りの剣が、ケーキと二人の間の空中に静止した。


「破邪の剣……?……破邪……破……邪……」


地上で勇者に身を置く者ならば一度は聞いたことがある、その伝説の剣の名に、はっと顔を上げた。


「さぁ、キャミル」


立ち上がり並んで歩み出ようとキャミルに手を差し伸べるアロゥだったが、キャミルはその手を取ること無く自ら立ち上がるとふらふらと歩み出し、空中で静止している破邪の剣の前に立ち、その鈍く深い輝きを陶然と見詰めた。


「はは、あせらないで良いのですよ、キャミル」


そう笑いながらゆっくりと歩み寄るアロゥが、キャミルと共に剣を握ろうと差し伸べた左腕に、一陣の風が吹き抜けた。


「?」


何事が起きたのかその場の誰も見失い、ふいに会場に静寂が訪れる中、アロゥの左腕が、肘の先の辺りからずるりと滑り落ち地面に転がった。




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