第六話 毛皮滑り
ホワイトフォレストへの道すがら、草むらの中に死体を発見してしまう。
街道に着いた途端、それは目についた。
砂に沢山の馬の蹄跡があったのだ。
それも俺達が向かおうとしているホワイトフォレスト方面に。
「数はだいたい20騎~30騎くらいかしらね。恐らく帝国軍の制圧騎馬隊だわ。」
帝国がミューズ以外の種族を滅ぼす為に各地に派遣している部隊、それが制圧騎馬隊。
あえて馬が採用されている理由は素早く各地を飛び回れるからだそう。(帝国には人工的な乗り物がそれなりにあるらしい。)
一度狙われたら地の果てまで追いかけてくるネチっこい奴らなんだと。
「避けたいところだけど、これじゃ嫌でも見つかってしまいそうね。」
どうしたものか。
遠くからでも確認出来たらよいのだが、運悪く見つかった場合に草原の中では隠れる場所がない。
辺りを見回す。
所々生えている木々と無造作に大地に置かれた岩、あとは小さな丘くらいか。
「あの丘の上から偵察できないか?だいたいの位置さえ把握できれば何もないよりはマシだろ。」
「そうね、登ってみましょう。」
金物を外してから登るように指示される。
太陽の光が反射したら逆に探知されてしまうからだそう。
確かに草の中からキラキラ光っていたら可笑しいものだ。
丘の上から望む森はその名のとおり白の主張が激しくてとても眩しい。
緑の木の葉が雲を形成しているようにも見える。
本当に白樺の木しか生えていない。中央にそびえ立つグランドウェイブツリーを除いて。
「いたわよ。」
アミカが肩をポンと叩いてくる。
白い指が示した先には、森には似合わない鋼の軍隊がいた。
ホワイトフォレスト手前の砂地の広場に陣を敷いているようだ。
しかし、想像よりは少なく感じる。
「アレなら近くを通っても案外バレないんじゃないか?」
「いいえ、奴らの殆どがオーラスガ内戦の時に戦果を上げた精鋭達よ。なかでも部隊長とその隣にいる男が特に危険だわ。」
アミカが端的に説明してくれる。
部隊長の名はドレイク・ベストマン。見た目は白髪混じりの口髭の初老の男性。
帝国軍参謀の1人で南方方面最高司令官。
様々な戦功から7代目皇帝から【牙竜】という名を授かっている。
対する隣の男の名はブレイク・ミストパッシャー。細身のナイフのような鋭さを感じさせる。
帝国に立ちふさがるものを全て壊してきたため【壊し屋】と呼ばれている。
その話を聞いて己の認識の甘さを悔いた。
数だけで戦力を計れるほど、簡単ではないのだ。
「だがどうする?迂回するか?」
「そうするしかないわね、行きましょ――」
その声は遠くから聞こえる音にかき消された。
笛の高らかな音色、それがあの軍隊の方向から鳴り響いていた。
それはまるで何かの始まりを一方的に告げるような不穏な音色だ。
「これは、何の……」
すべてを言い終える前に頭をガッと捕まれ、地面に伏せさせられた。
強引ともいえる勢いだったが、先程まで自分の体があった場所に矢が飛んでいるのを見てしまうと何も言えなくなる。
「コソコソしてるのバレちゃったわね。弓騎兵の制圧射撃が終わったらすぐにでもこちらに走ってくるわ。」
「どうすりゃいい?このままじゃぁ」
今も頭上を矢の雨が飛んでいる。
立ち上がるのは得策ではないだろう。
「落ち着いて。まだ策はあるはず。」
こんな状況で落ち着けと言われて落ち着ける程俺は強くないぞ。
本当はそう言ってやりたいがそんな不毛な言い合いをしてる場合じゃない。
「このまま茂みに伏せて見つからないのを祈るしかないかしら。」
「それが通用するなら今も見つかってないんじゃないか?」
「そうなのよね、他には何か……」
そんな時に再び笛が鳴る。アミカ曰く進撃の合図。
見つかったら殺される。嫌でも分かる。
どうすればいい、逃げ場はどこかに無いか……?
あたりを見回して地形を確認した時、ある発想が生まれる。
「ダンボール滑りだ!」
「だんぼーる?」
今は説明している暇がない。
俺は干して固めておいたミノケンタウロスの毛皮を取り出し、地面に敷いた。
「コレに乗って丘から滑り降りるんだ。そんで勢いでホワイトフォレストまで逃げ込む。」
成功度の低い賭けかもしれない。でもここで死を待つよりは断然いい。
相手は騎馬隊、正面から丘を駆け上ることはできないはずだ。
事実、右翼と左翼に別れて突撃して来ている。
ならば危険だとしても空いている正面から脱出するしかない。
「やるしかないみたいね。」
狙撃されないようにコソコソと用意した2枚の毛皮に座り込む。
布地だからちゃんと滑れるか不安だが、異世界の生物の皮の固さを信じてみるしかない。
「いくわよ!」
アミカの声を合図に坂へ向けて身を乗り出す。
彼女より僅かに遅れた俺は背中を追いかける。
登ってきていた騎馬隊も流石に予想外だったようで、隊列が乱れている。
よし、チャンスだ。このままうまく森まで滑り抜けることができれば完全とは行かなくても振り払えるだろう。
なるべく身を低く保ち、前を向く。
こんな状況でも狙撃はされるだろうし、唐突に現れる障害物に引っかかるかもしれない。
どちらにせよ、どうしようもないんだが。
ホワイトフォレストまであと半分といったところ。
俺とアミカは初夏の風を切っていた。
普段なら気持ちよくて心が踊るのだろうが、今は心がざわつくだけだ。
後方からは反転した騎馬隊が向かってきている。
それでも滑る速さには追いつけないだろう。
馬に無理をさせれば或いはって感じか。
今は前だけを見て進め――
その時、ヒュンという音とともに矢が飛んでくる。
後方から放たれた矢は偶然にも左上に逸れたようで頬のすぐ側を走り抜けていった。
向かい風が吹いていなければ間違いなく射抜かれていただろう。
固唾を呑みつつも後ろは振り返らない。
ホワイトフォレストまで逃げ込めば馬は入ってこられない。
だから、そこまでの辛抱なんだ。
正面には白い木があちらこちらに生え揃っている。
木の形が一本一本分かるくらいには近づいてきているのだ。
辿り着いたら毛皮から下りて逃げなければならないのだが・・・
俺は肝心なものを忘れていたようだ。
「ブレーキどうすんだぁぁぁぁぁぁ!!」
前方にいたアミカはというと。
高くジャンプしたかと思うと白樺の木の上に着地(着木?)していた。
あれならば木を伝って逃げられるのだろう。
ズルい。俺もそのジャンプ力欲しい。
まあ嘆いてもどうしようもない。このままじゃ木にぶつかるだけだ。
上手いこと飛び降りるしかねぇんだ!
「うおおおおお!」
俺も覚悟を決めてジャンプする。周りから見たら跳ねただけだろうが。
それでもこれは渾身のジャンプなんだ!
飛距離が足りなかったため、少しだけ草むらを自分の尻で滑る。
あ、熱い!摩擦で尻が焦げる!
体勢が崩れてそんなことも言ってられないことになる。
ガサ、サガサガサガ!
落ち葉と朽ち枝が沢山埋まっている地面に転がり込んだのだった。
どうも緋吹 楓です。
読んでいただきありがとうございました。
夏です!暑いです!
でもなんとか生きてます!
まあ他に書かないといけないものが多すぎましてね~
設定だけはちゃんと練っておりました。
ダンボール滑りとかみなさんやりました?
僕は小さな頃の思い出に強く残ってますね~
次回もよろしくおねがいします。




