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翠心のエルンスティア  作者: 緋吹 楓
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第二話 迷いの森

 富士の樹海で切り株を見つけたものの、覗き込み過ぎて落ちてしまいましたね。

 草の匂いがする。土の味がする。

 風がそよぎ、木の葉が擦れる音が聞こえる。

 サラサラ、サラサラサラ。

 

 なんだか心地が良くてこのまま体が地面に沈んでいきそうだ。

 穏やかな空気の中、目を閉じたまま大地に寝そべっていた。

 ああ、このままだとどこかも分からない場所で眠ってしまいそうだ。

 でも、まあ、たまにはそれもいいか――

 


 ぼやけた世界が見える。これはきっと夢なのだろう。

 だって母さんが目の前にいるんだから。

 不慣れな包丁裁きで大根の皮をむきながら、鼻歌を歌っている。

 それは我が家以外では聞くことのない不思議な音色で。

 今でも耳に残っていた。



 幸せは長くは続かない。

 夢は普段聞くことがないであろう音でかき消された。

 それは1発の銃声。

 平穏だった森がざわめきだす。

 

 ダン!

 続いてもう1発。

 羽の付いた生物は皆飛び立ち、小動物達は草むらの中へ逃げ込んでいく。

 

 その異様な辺りの空気に、俺は地面を這いながら隠れようとしていた。

 本当は走って逃げたかった。でも、今まで眠っていたからなのか、銃への恐怖で足がすくんだからなのか、立ち上がることができなかった。



 何とか人ひとりが忍べそうな茂みを見つけ、音を立てないように慎重に隠れる。

 よくわからない事態になっているが通報だ通報。警察を呼んで助けてもらおう――

 いつもスマホを入れているズボンのポケットに手を入れる。

 しかし、そこには何も入っていなかった。

 

(あれ……?)


 念の為別のポケットも漁る。

 ない、ない、ない!どこにもない!

 落とし穴に落ちたときに無くしたのだろうか、思い返せばあの時は手に持っていて……

 何たることだ、拾うのを忘れていただなんて。

 スマホを失った現代人ほど脆いものはないと言われるが、全くもってそのとおりだ。

 どうする?どうすればいい?このまま隠れていれば何とかなるのか?



 そしてその悩みはどんどん増える。

 草むらを掻き分け、何者かがこっちの方向に向かってきているのだ。

 ガサガサガサガサと音を立てている。

 怖い、頼むからこっちに来るんじゃない。


 だがその願いも虚しく間近まで迫ってくる。

 くそ……緊張し過ぎて吐きそうだ……

 目を閉じ、何かに祈りこむ。

 見つからないで、お願いしま――


 急に光が差してきたと思うと、腹部に強烈な刺激が飛んでくる。


「ぐふぇ‼︎」


 何故か宙を舞う俺は今まで上げたことがないような嗚咽する声が漏れた。

 ジメッとした地面を転がり、泥が衣服に纏い付く。

 ケホケホと腹を押さえてうずくまる俺がうすら目で見たその存在は馬の下半身を持ち、猛牛のような上半身を持つ化け物だった。

 鼻息が荒く、相当興奮しているようだ。

 両手で構えている槍のようなものを目の前に転がる俺に向けている。

 その槍を今にも突き刺さんという勢いだ。

 あんなもので貫かれたらどうなるのだろうか、俺は楽にあの世にいってコイツの飯になるのだろうか、それともずっと痛みに苦しむ羽目になるのだろうか。


 どちらにせよ、死んでしまうことには間違いない。

 もしこれが切り株に落ちた夢だと言うなら話は簡単だったが、蹴り飛ばされた痛みがじわじわと体全体に広がっている時点でそれはない。


 穂先が俺を捉えている。

 俺の血を求めている。

 このまま穿たれてしまう。



 だが、その槍はこちらを突き刺さすことはなく、遠くの地面へと転がっていた。

 何故か。

 化け物が何処からか右腕に銃撃を受けたからだ。


 続いて2発の銃声がしたかと思うと、目の前の巨躯は地面に倒れ込んだ。

 黒い眼球は空を向いていて、大き過ぎる舌はベロンと垂れていた。


(死んだ……?)


 頭部や腕、胴にある計5発の銃痕からドロドロと血が流れ、血だまりが出来ていく。


(い、生き残った?)


 腹を押さえながらも力を出して立ち上がる。

 足元はまだフラッとするが、問題にはならないだろう。

 化け物からの反応は一切ない。


 助かったのだ。死なずに済んだのだ。

 これまでで1番生きている喜びを噛み締めているような気がした。



 だけであった。

 気配に気づき振り向く前に背中に何やら冷たーいモノを押し付けられる。

 それは恐らく、今さっき大きな命を刈り取ったものだろう。


「動かないで。手を上げて。それ以外で動くと撃つ。」


 女性の澄んだ声が背後から聞こえる。

 口調に殺気が混じっていて、下手に抵抗すればマジで撃たれそうだ。


「質問に答えて。どうしてミューズがここにいるの?帝国のスパイ?それともスロンドゥの奴隸商人?」


 ミューズ?帝国?奴隷?

 日常生活では聞き覚えの無いような単語ばかりだ。

 あえて連想するならば、何故か石鹸が思い浮かぶが。(そんな事を言っている場合じゃない。)

 どう返答すればよいか悩むが、真実を伝えればなんとかなるんじゃないだろうか。


「よく分からないが冗談はやめてくれないか。俺はただ母さんの遺品の古地図に従ってきただけなんだ。」

「へぇ、人を迷いの森に行かせる地図だなんて恐ろしいことね。」


 ……ん?迷いの森?


「おいおい、富士の樹海を迷いの森扱いするなんて、いったいいつの話さ?」

「あなたこそ何を言っているの。ここはフジノジュカイなんて場所じゃなくて迷いの森って名前の森なの。アリアドネにでも出会って記憶を飛ばされたのかしら。」


 待て待て待て話についていけない。

 何だ?ここは富士の樹海じゃないのか?

 確かに落ち着いてみれば見たことのないような草花に溢れているが――

 うーん、分からん。



「取り敢えず顔を合わせて喋らないか?こっちは本当に何が起こってるかさっぱりなんだ。」

「まあ、そのくらいなら。」


 おお、意外と話が通じるじゃないか。

 手を上げたままクルリと回る。

 銃を突きつけられたまま、姿をチラリ。

 ……わお。

 

 うん、色々不思議な部分があるから一つづつ説明していこう。

 身長はだいたい俺と同じ160cm台とみた。

 フード付きのパーカーのようなものを羽織っている。

 纏めずに流している髪は瑠璃色で清流のようだ。

 整った顔には翠色のガラス玉みたいに綺麗な眼が見える。

 ここまではまあ不思議で収まっていただろう。

 ついつい口から出てしまうほどにはありえなーいものが見えた。


「耳が……長い……」


 横方向に耳が伸びているのである。


「え?それは勿論エルン――そう、エルンだからよ。」


 オゥ、イッツファンタジー。

 エルンとは恐らくかの有名なエルフのことだろう。

 小説や漫画によく出てくる亜人ってヤツだ。実在していたのか。

 衝撃の事実だ。少し前まではオカルトなんて信じないぞなんて威張っていだが、認識を改めなくてはいけないかもしれない。

 アイタクチガフサガラナーイ。


「あなた、まさかエルンも知らないの?本当に記憶を失くしてるんじゃ・・・」


 記憶を失くしている訳ではないが、それに近い状態なんだろう。

 だって言ってる意味が片っ端から理解できないのだから。


「あなた、名前は?それくらい覚えてそうなものだけれど。」


 ここは外国式の自己紹介をしておいたほうがいいのだろうか。

 少なくとも日本人ぽくなさそうだし。


「ハヤテ・チュウゴウだ。よろしく。」

「ハーティ・テューゴ?なんだか言いづらい名前ね。」


 若干違うけど、もうそれでいいです。はい。

 折角だし俺の名前が引き出されたことだし、相手の名前も引き出してやろう。


「そっちの名前も教えてくれないか。なんて呼べばいいものか。」

「別になんと呼んでくれてもいいわよ。」

「なら適当に呼ぶからな。いいんだな?」


 ここで彼女の簡略版考える人のポーズ。


「分かったわよ。私の名はアミカ・フィオナ・エルンス――」


 謎の激しい咳込み。

 言葉の痰が絡んだんだろう。


「アミカ・フィオナよ。よろしく。」


 挨拶の一貫として近づいて握手をする。

 いつものように握手をした。

 その場から動いて握手をした。


 いやー固い握手だったなぁ。

 お、アミカのようすが・・・?


「あ!あ!あ!動いた!撃ちます!」

「いやいやいや!銃下ろしてくれたんだからもういいだろ!」

「いえいえいえ!絶対撃ちます!撃つと決めたんです!」

「ストップ!止まってくださいお願いしまーすー!撃ーたーなーいーでー!」


 混乱気味になったアミカを止めるのに体力をかな~り消耗してしまった……。

 どうも緋吹 楓です。

 読んでいただきありがとうございました。


 はーいヒロインのアミカ登場です。

 ちょっと言葉の途中で止まるの多くないですか?何か隠してるんですか?

 気になりますねぇ。

 

 エルンという種族が出てきましたね。

 これは作中でもあった通り、ファンタジー物によく出てくるエルフですね。

 成人の平均身長は180cm台らしいんですが、どうしてか彼女は小さいですねぇ。

 気になりますねぇ。


 はいはい作者が気になってどうするんですか。

 まあそのうち分かりますよ多分。

 

 次回もよろしくおねがいします。

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