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翠心のエルンスティア  作者: 緋吹 楓
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第十三話 傾き

 エレベーターの中で情報と勇気を共有しあったアミカとハーティ。

 しかし、その舞台裏では一人の少女が傷ついていた。

 目的の地上へ近づいていくエレベーター。降りるために出口付近で待機していたのだが、そこに止まることなく更に降下していく。


「あれ?今のところが一番下なんじゃないのか?」

「少なくともこれで降りられるのは第一層ファンドまでのはずだけよ。あり得るとしたらツリーの根を組み込んだ動力施設カルフィー水道施設ヴーロに繋がっているとか?」


 そんなところから外に出られるのか?探したら非常口くらいはあってもおかしくは無いだろうが……。

 なんてことを口に出そうとしたとき、突然ガコンと揺れる。


「な、何だ?」

「悪寒がするわ……。まさかとは思いたいけど、滑車が外れたなんてことないでしょうね。」


 すると、正解と言わんばかりにガコガコガコと嫌な振動が伝わる。

 支えるものが無くなったエレベーターは止まることを知らない。

 恐怖で叫びたくもなるが無理やりにでも歯を食いしばる。舌を噛んだら一巻の終わりだ。

 

 キュルキュルキュルと壊れた滑車が歪に回る音とギリギリとロープが限界を迎える音が同時に襲ってくる。あのロープが切れてしまえば、例え止まったとしてもミンチは免れないだろう。

 

(せめて骨折位で済んでくれねぇかな……)


 ブチ。ロープが切れる。瞬間、体が浮くような感覚に襲われて。

 落ちて、落ちて、落ちて、落ちて、体全体をぶつけて。なんて。


 しかしこの衝撃は思ったよりもすぐに訪れた。幸運にもロープが切れた地点からすぐ下に、地面が存在した。

 ドシャン!と墜落した後に、静寂が訪れる。

 た、助かったのか?ここはどこなんだ?

 と、その前に。起き上がって同乗者の方に振り替える。


「アミカ、大丈夫か?」

「ええ、生きた心地はしなかったけれど。」


 裾についた土ぼこりを払いながら起き上がってくる。

 やはり彼女は俺よりも気丈だった。ひとまず安心できるな。


 


 安全の次に確認することといえば、ここがどこかということ。

 この場を構成している石材は蒼色に淡く光っている。湿度もそれなりに高いらしく、そこらかしこに苔むしている。


「そういえば国庫の文献に載っていたわ。以前、ホワイトフォレストは沼地だった。白華竜が棲み処を作る際に、地盤が安定している遺跡の上にホワイトウェイブツリーを生やした、と。」


 アミカが冷たそうな壁にそっと指で触れる。


「建材もあまり見られないようなものだし、ここは神話大戦以前に存在した古代人が造ったとされる遺跡のひとつということで間違いなさそうね。」

「ここから外へは出られるのか?」

「うーん。昔に軽く読んだだけだから、憶えてないわね。」


 とは言っても、乗ってきたエレベーターが動くはずもないので、目の前の通路を進んでみるしかない。

 着替えたときに一緒に貰ったポーチの中から方位磁石を取り出す。今から向かおうとしている方向は、どうやら北西といったところか。


「アミカ、地上だったらこの先に何があるんだ?」

「あなたが彷徨っていた迷いの森よ。」

「じゃあ戻り路なのか?」

「いいえ、ちゃんとお祖母様が勧めたダリブルクに着くわ。」


 女王から聞いた話をアミカには伝えてあるから、目指すべき場所がダリブルクだという事は知っている。でもどうして迷いの森とダリブルクが繋がるんだ?


「ホワイトフォレストからダリブルクに行くには迷いの森を通るのが最短距離だからよ。勿論迂回路は存在するけれど、帝国軍が検問を敷いてたりするからあまり、ね。」

「あの時迷いの森にいたってことは、アミカはダリブルクから来たのか?」

「まぁ、ね。」


 スタスタと軽い足取りで前を歩く彼女。

 あまり触れてほしくなさそうだし、これ以上踏み込むのは止しておこう。

 炎が嫌いと言っていたことと関連しているのかもしれない。



 少し道を進み、二十段ほどの階段を上がると、円形の広場が現れた。

 壁の一部が崩れて土が剥き出しになっていて、遺跡の長い年月の経過を感じさせる。それでも遺跡はまだ生きているとでも言っているのか、光は仄かに点滅している。

 そして蒼い光が一番目立つのが、中央にある石碑だった。

 罠が無いかを警戒しながら近づく。


「うーん、分かっていたことだけれど、現代人には読めないわね。」

「ん?どんな文字なんだ?」


 正面に立っていたアミカの傍からチラッと覗く。

 そこには、とても文字とは思えないような点と線のまとまりがあった。知っているもので一番近いのはモールス符号だろうか。勿論専門家ではないので、解読はできない。


「確かにこんなの読めな……うん?」


 唐突に覚える違和感。

 文字、というより文章の意味が頭に流れ込んでくる。まるで翻訳ソフトにかけたかのように。

 

≪此処は蒼の宝玉を管理する社≫


 石碑を凝視する俺の姿に疑問を持ったのか、アミカが問いかけてくる。


「ハーティ、もしかしてこれが読めるの?」

「読める、というか、理解できる、のか?」


 謎の現象に震えてくるが、反して胸の内がほんのりと暖かく感じてもくる。

 理由は不明でも、役立てることが嬉しいのだ。


「不思議ね。古代文字を解読できる人なんて滅多にいないはずなのに。でも好都合だわ、この先どうすればいいか書いてない?」


 この広場には俺たちが入ってきた場所以外で三ケ所の扉があるが、左側の扉が崩れて通れない。

 残りは右側と正面だが、正面の扉は開く気配がない。

 となれば右側の扉。こちらは人力では開けられず、側の壁の傾いた天秤でどうにかすれば開くタイプだろう。


 とにかく情報がなければ何も始まらない。石碑の文を追い始める。


≪蒼は調和、強大な力は抑制すべし、脆弱な力は促進すべし≫


 感じ取った内容をそのまま伝える。


「つまり、あの天秤を調和、均等にすればいいのね。」


 傾いた天秤に近づく。傍には大きい重し一個、中くらいの重し三個、小さい重し四個があり、そのうちの中くらいの重し一個が既に天秤の右側に固定されていた。

 天秤を使って量ったところ、大重しは中重しの二個分、中重しは小重しの二個分の重さのようだ。

 全てを使い、調和を保つことが条件だろう。


「簡単ね。」


 そういうとアミカは左側に大重しと中重しと小重し、右側に中重し一個、小重し三個を載せた。

 三個の重しと五個の重しがそれぞれ載っている。

 しかし天秤は傾きを戻さない。右側に傾いたままだ。


「あれ?」

「強大な力は抑制すべし、脆弱な力は促進すべし。」


 右側の重しをひとつだけ左側に載せかえる。すると、天秤は己の使命を思い出したかのように、ぴったりと均衡を取り戻した。

 側の扉も蒼い光を取り戻し、ゆっくりと道を開けた。


「重量は関係無かったんだろう。正確に言えば、大きさも関係無かったんだ。同じ数として調和することに意味があるんだろう。」

「成程ね……。私、馬鹿みたいじゃない。」

「道は開けたんだ。さあ、進もう。」


 ちょっとふくれっ面になったアミカを先導し、扉の奥に進むのであった。

 どうも緋吹楓です。

 読んでいただきありがとうございました。


 古代遺跡で御座います。静かな曲が合いますよね。

 いやーどうしてそんな場所まで降りちゃったんでしょうかねー。

 どこのお祖母様の仕業でしょうか?私には分かりかねます。


 次回もよろしくお願いします。


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