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ある兄妹の独り言②

 ジャンパーはその時のことを思い出しているのか、顔を青ざめながら、拳をギュッと強く握り締めていた。


「俺たちは……実験室のような場所に設置されている檻に閉じ込められていました。 魔術がかかっているのか、力だけでは壊すことは不可能でした。 ミューズとは離れていたものの、隣から気配を感じていたので、近くにはいました」


 ミューズも彼の言葉に大きくうなづいているが、その顔は兄と同じく青ざめたままだ。


 一体、彼等は何を見たのか……。 魔王達は神妙な顔つきになる。


「三日間ぐらいでしょうか……。 俺達は、ただ閉じ込められたままで何もされませんでした。 ただ、俺たちを捕まえた魔術師は、一日一回様子を見に来ては馬鹿にするような言葉を吐いていました」


 思い出したのか、顔を顰めた二人。 だが、すぐに青ざめた顔に戻る。


「しかし、三日後のある日……その場に相応しくない、一人の人間の少女が俺たちがいる実験室に足を運んだのです」


 一人の人間の少女……。 クロディスはその言葉に何故か引っかかった。 そして、ある一人の姫の顔が頭の中で思い浮かんだが、首を振り、その考えを振り払った。


「そして……」


 ジャンパーは震える声で話した内容は……。


 あの日、ジャンパーとミューズはお互いが近くにいることはわかっていた。 気配を感じ取れるからだ。 捕まって三日経った頃だった。 その場に似つかわしくない、綺麗なドレスを着た少女がその実験室にやってきたのだ。 それも、楽しそうに鼻歌を歌いながらだ。 まるで、ピクニックでも来たようだった。


「ゴース博士。 いらっしゃいますかー?」


 見た目と同じく可愛らしい声で、ジャンパー達を捕まえた奴の名前を呼んでいた。


「ふふ。 まあ、いないのは当たり前よね。 だって、わざと居ない時を狙ったんだからー」


 とても上機嫌に楽しそうな少女の異様な様子に兄妹達は息を呑んで、静かにしていた。

 だが、そんな彼らを少女は見つけてしまった。

 そして、彼らに向かって満面の笑みを浮かべた。


「まあ! まあ、まあ、まあ、まあ!」


 魔族を見て、この反応は良いものではないと、本能が言っていた。 だが、まだ少女だ。 こちらの方が力は強い。 そう考えたジャンパーは少女を鋭く睨みつける。 だが、そんな彼の睨みなど、全く怖がっていなかった。 むしろ、満面の笑みを浮かべたのだ。


 そして、ジャンパーのことを指差した。 正確には彼の頭の上に生えてあるツノである。


「……それ」


 にっこりと笑った彼女はとんでもない発言をした。


「羊のツノですよね? 人間にはついていないもの。 なら、貴方は獣人か……魔族」


 魔族という言葉に小さく反応をしてしまった。 少女はその反応を見逃さなかったのだ。


「当たりね!」


 可愛らしい笑顔にジャンパーは寒気がした。 今までに感じたことがない恐怖が襲ってきたのだ。


「ねえ。 ソレ、感覚はあるの?」


 コテンっと首を傾げながらそんなことを聞いてくる少女を怯えた目で見てしまうのは仕方がない。


 ゆっくりとこちらに手を伸ばす彼女から逃れるように檻の隅に身体を寄せた。


 そのため、彼女の手は彼には届かなかった。 それにホッとしたジャンパーだったが、それに納得がいかなかった少女はプーと頬を膨らませた不満を露わにした。


 その時だった。 この実験室の扉が開いたのは。


「ひっ、姫!」


 そこに立っていたのはゴースと呼ばれる男だった。

 そして、その男が姫と呼んだ少女は先程の表情豊かな顔を口角だけ上げた微笑みに変えていた。


「なっ、何故ここに……人形姫が……?」


 ゴースが信じられないものを見るように姫と呼ばれた少女を見ていた。

 だが、次にはニンマリと嫌な笑みを浮かべた。


「ここに姫がいたのは予想外のことだが……実験するには丁度いい。 何せ、他の姫ではなくて()()()なのだから」


 ゴースはこの時、人形姫なら消えたところでどうにか誤魔化せると考えていた。


「姫よ。 ここは危険なものも多いので……」


「あら、そうかしら? 私は興味深いものが多いわ」


 手を軽く叩きながら、周りを見渡した少女。


「しかし、ここは……まあ、こんな老耄の言葉は信用になりませんな」


 そう言ったゴースは魔術を発動した。 その瞬間に、少女を囲むように光が発せられた。


 それに一瞬だけ目を見開いた少女だったが、すぐに微笑みに変わった。

 全く似つかわしくない少女の姿にゴースは少しだけ違和感を覚えていたのをジャンパーは見た。 何故なら、ジャンパーもその場を見ていたミューズもよくわからない恐怖が襲ったからだ。


 そして、その場は濃い霧のようなモノに覆われた。 それと同じくして、その場が一気に冷えていくのがわかった。


 そして、出てきたのは……()()だった。

 下級の悪魔ではない。 この場に漂う雰囲気からきっと上級の悪魔だ。


「姫には……この悪魔の贄となってもらう。 最近は、贄を与えられていないからな」


 そう言ったゴースはニンマリと嫌な笑みを浮かべていた。

 だが、その場に呼び出された悪魔は久しぶりの贄で昂っていた筈なのだが、霧が開けて少女の顔を見た瞬間に手を口で押さえて振るえていた。 その様子は歓喜に振るえているのではない。 恐怖で振るえていたのだ。


「なっ、何故……貴方様が……?」


 その声も引き攣っていた。 その様子を見たゴースは急激に不信感に襲われた。

 ミューズは悪魔の登場に驚きと恐怖が入り混じって声を出さずにその場に小さくなって、身を隠そうとしていた。


 しかし、この場に全くといっていいほど、似合わない少女の楽しそうな声が響いた。


「まぁ! まあ、まあ、まぁ! また、会ったわね! 今日は、どんなことをしましょうか?」


 ジャンパーはその様子をジッと見ていた。 恐怖で身体が動かずにいてもだ。 目を逸らすことができなかった。


「おっ、お姫さん。 落ち着いた方がいい」


「貴方が落ち着きなさい」


「いや……でも……おっ、お姫さんがいるとは思っていなくて……その……あの……」


 あの悪魔がモゴモゴとしながら、少女のことを怯えた目で見ている悪魔のこの異様な様子をジャンパーは忘れられることができなかった。


「でも、貴方。 もう、出てこないからやめてくれって、私に言ったのに……嘘だったの?」


「あっ……」


「私が呼んだ時にそう、言ったでしょう?」


 まるで、浮気した男を責めるような言い方の少女にあたふたする悪魔。


「おっ、おい! 悪魔よ! その女はお前の贄なんだぞ!」


 ゴースが悪魔に叫ぶがそれを無視した。 実際は無視した訳ではないのだが、目の前の少女から気を逸らしたが最後、自分がどうなるか分からないから、少女以外の言葉を聞くわけにはいかない。


「ねえ? 私は贄なの?」


 コテンっと首を傾げた少女にさらに怯える悪魔は急いで周りを見た。 そして、ゴースを見つける。


「お姫さん! 俺は、この男を貰うつもりできたんだ! だっ、だから……その……さよなら!」


 そう言った悪魔はゴースを連れて姿を消した。 そのおかげなのか、先程まで寒いほど冷えていた場所が急激に温度が戻ってきた。


「あらら……逃げちゃった」


 残念とため息を吐いた彼女は次にジャンパー達を見た。 先程の悪魔とのやり取りから、この少女はただものではないと気づいたジャンパーは彼女から目を逸らした。


「あら、もう……こんな時間なのね」


 どこから出したのかわからない懐中時計を見ながらそう呟いた彼女はジャンパー達を見ずに出入り口に向かった。 それにホッとしたジャンパー達だったが、実験室を出る瞬間に少女は一言だけ言葉を放った。


「また、来るね」 と……。


 その言葉に恐怖に慄えた兄妹だが、この二日後にクロディス達に助けられたのだ。


「本当に……助かりました!」


 兄妹は魔王達に頭を下げた。 目に涙を湛えて。


 その話を聞いたクロディスは頭を抱えていた。 本当に自分が頭の中に思い浮かんでいた人だったからだ。

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