ある兄弟の独り言
ジャンパーとミュージュは仲が良い兄妹である。
そして、魔族の中でも強い方であるため、魔王様の下で魔族騎士に兄妹揃って所属していた。
ジャンパーの方は頭に羊のような角を生やし、癖がある長い髪を後ろで一つに結んでいる。
体格もいい方で大きな大剣を背負い、戦う時はその大きな大剣を振り回す。
そして、性格が仲間思いで見た目に反して優しいと下の者から人気である。
妹のミュージュの方は同じような角を頭に生やし、髪は肩までのショートで、体格も兄より少し小さいが普通の魔族よりもいい方だ。
兄は大剣を振り回すが、妹は短剣を複数使っている。
性格は兄と良く似ているが、短気なところがある。
そんな二人の兄妹は人間の国で囚われていた。
あの日のことは今でも忘れない。
まさか、捕まるとは思ってもいなかった。
二人は毎日鍛錬を欠かさず行い、いつでも戦えるようにしていた。
しかし、あの日はたまたま武器を持っていなかったのである。
なぜなら、前日の戦いで傷ついた武器を修理していたからだ。
修理に出していたため、武器は持っていなかったが素手でも十分戦えていたために油断していたためにあんなことが起こったしまったのだ。
捕まったあの日……。
兄妹で魔族の街中をあるいていたら、前方から息を切らした魔族の男が走ってきたのだ。
「ジャンパー! 大変だ! 子供達が!」
「どうしたんだ!」
「にっ人間に捕まった!」
「どうして!」
なんでも、人間の町に近い森で遊んでいた子供達がフードを被った男達に襲われたという話だった。
その中の子供が一人命からがら逃げ出し、「助けて!」と助けを求めてきたらしい。
「あそこは立ち入り禁止の筈だ!」
「冒険のつもりだったらしい……」
「くっ!」
なぜ、立ち入り禁止なのか……。
それは、最近人間達は魔族狩りを行なっていたからだ。
力では魔族の方が強いが、それは大人だけだ。
子供はまだ発達途中。
普通の人間よりは強いが、魔族狩りを行う人間には勝てない。
捕まると、子供は奴隷にされ、大人だと実験台になる。
そのため、人間の町に近い森は立ち入り禁止になっていた。
ジャンパーとミュージュは急いで森に向かった。
子供達を助けるために。
「ジャンパー、ミュージュ!」
「お前は騎士団に伝えてくれ! 俺たちは森へ行く」
この時のジャンパーとミュージュは焦っていた。
そのため、冷静な判断が出来ずにいた。
今なら判断を間違えなかっただろう。
森に着くと、まだ数人のフードの男と子供達がいた。
しかし、子供達は意識がなく、檻に入れられており、体には所々血がついていた。
「チッ、追いついたか!」
それを見た瞬間にジャンパーは頭に血がのぼる。
「貴様ら〜」
フードの男達に勢いをつけたまま突っ込むが、彼等にはジャンパーの拳は届かなかった。
いや、弾かれたのだ。
「っ!!」
彼等はこうなることを予想してあらかじめ罠を張っていた。
そして、その罠にジャンパーは引っかかってしまったのだ。
「ははははははは。 案外、簡単に引っかかるんだな! 魔族ってやつは!」
「どういうことだ!」
ジャンパーの周りが一気に光りだす。
そして光った五本の柱が立ったと思ったら一気にジャンパーの身体に巻き付いた。
「なんだこれは……? くそっ! 外れねえっ!」
「兄さん!!」
「くるな!!」
ミュージュは兄に駆け寄ろうとするがミュージュの周りにも彼と同じ五本の柱が立ったと思ったら一気にミュージュに巻き付いた。
「きやっ!」
「ミュージュ!!」
二人とも武器を持っていたらこんなことにはならなかっただろう。
後悔するがもう遅い。
「はははははははははは!」
フードの男が一人高笑いする。
そして、ジャンパー達に向かい嫌な笑みを浮かべた。
「お前達には役に立ってもらうぞ。 実験台としてな!」
「くっ!」
「子供達だけでも逃して!」
ミュージュの言葉に目がまん丸く見開いたが、また嫌な笑みを浮かべた。
「何を言っている? 子供だけでもだって? 笑わせてくれる。 全員まとめて実験台に決まっているだろう」
そう言って「はーはははははは」と笑う男にミュージュはきっと睨む。
「睨むなよ。 魔族の女。 いや、被験体一号と呼んだ方がいいか?」
「ゴース博士」
違うフードの男が名前を呼ぶ。
男の名前はゴース。 ジャンパーとミュージュは心にその名を刻む。
「なんだ?」
「早く移動しないと他の魔族が……」
「そうだな。 さっさと移動するか……」
ゴースと呼ばれた男は周りを見渡し、さっさと場を離れるように指示を出した。
皆、彼の指示に従い移動を始めようとした瞬間、遠吠えが聞こえた。
「ワオーーーーン」
「ワオーーーーン」
ガサガサと周りから音がなる。
「なんだ!」
「ゴース博士! 狼です!」
「狼に囲まれております!」
「チッ!」
彼等の周りには何百匹もの狼だ。
そして、その狼を指示するのは魔族騎士、副騎士団長であるクロディスだった。
「クロディス!」
「副団長!」
ジャンパーとミュージュが叫ぶ。
「子供達が!!」
「分かっている!」
クロディスはそばにいた狼に指示をだす。
それを聞いた狼は一気に走り出した。
「クロディス、気をつけろ! 奴ら魔術師だ!」
「っ!」
ジャンパーもミュージュが引っかかった罠は魔術だった。
魔族が苦手としていた光の一つだった。
「はっ! お前も同じように実験台にしてやる!」
クロディスの周りにも五本の柱が立ったが、無言で剣を鞘から出し、一気に柱を切った。
「なんだと!」
「こんな、魔法。 私には効かない!」
「くそっ!」
もう一度魔法を繰り出そうとしたが、彼以外の魔術師の叫び声が響き渡った。
「ぎゃー!」
「うわーーーーー!」
「ゴース博士ーーーー!」
「グルルル、ワオーン!」
「ヴァウッヴァウ!」
数十匹の狼が一気に襲っていたのだ。
そして、その隙に他の魔族騎士がが子供達を救出していた。
「くそ!」
「お前達の負けだ」
クロディスは剣の先をゴースに向ける。
「ふふふふふ、はーははははははは!」
しかし、ゴースはクロディスに向かって笑ったのだ。
「何がおかしい?」
「いや、お前に俺は倒せんよ」
「どういうことだ? ……っ! まさか……」
この時、クロディスは気づいた。
光の魔法の本当の役割を。
「はーはははははははは。 じゃあな、人狼」
「くそっ!」
クロディスが剣を振るう。
しかし……。
ゴースがそう言った瞬間に、ゴース、そして他の魔術師とジャンパーとミュージュはクロディスの前から消えた。
「やられた!!」
光の魔法を媒体とした転移魔法だったのだ。
あの五本の光の柱は捕らえるためのものではなく、転移のための魔法だったのだ。
子供達は狼達に助けられ、無事だったがジャンパーとミュージュの二人の魔族は捕えられた。
※※※
「ここまではクロディス、お前も知っているだろう」
「ああ」
クロディスは話を聞きながら苦虫を噛み潰したような顔をした。
「あの時は助けられなくてすまなかった」
そう言って頭を下げるクロディスに慌てだすジャンパーとミュージュ。
「頭を上げてくれ!。 俺たちは無事だ! クロディス達がが助けてくれたおかげで! ……それよりも問題なのが……」
だんだんと言葉を濁し始めたジャンパーに不思議に思ったのかミュージュとジャンパー以外は顔を見合わせた。
「本当にどうしたんだ? お前達、変だぞ」
トールがそういうが、二人は顔を青ざめたままだった。
そして、ジャンパーとミュージュは顔を見合わせうなづき合うと、再びゆっくりと口を開いていて話し出した。
「では……俺たちが捕えられた後の話をしていきます」