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クロディスの苦労①

 地下に続く階段を彼の後について降りていく。


「結構深いのね?」


 目の前を歩く彼にそう言ってみると、彼は足を止め、火がついた蝋燭を片手に持ったまま振り返った。

 そして、なんともいえないような顔をしていた。


「どうしたの? そんな顔して?」

「どうしたの? じゃないと思う。 君、分かってるの?」

「何が?」

「何がって……」


 一体どうしたというのか? 訳がわからず私は首をかしげた。

 すると、彼は「はあー」とため息だけつき、また地下の階段を降り始めた。


「どうしたの? 何か悩みがあるなら聞くわよ?」

「…………いや、いい」


 結局、彼はそのあと何も話さず、私たちは階段を降りていった。



 ※※※※


 クロディスは頭が痛くなりそうなのを抑えて廊下を進む。


「はあー」

「ガルルー?」


 周りにいる狼達が心配そうにしたから覗き混んでくる。

 それを大丈夫だというように頭を撫でてやる。


「クゥーン、クゥーン」

「そんな顔をするな、私は大丈夫だよ」


 頭を撫でてやりながら考えたのは彼女のことだ。

 彼女というのは昨夜、侵入した人間の国で出会った『姫』のことだ。

 見た目はお姫様のようにふわふわしたキャラメル色の髪にまん丸なエメラルドの瞳だが、見た目だけで本当に姫なのか疑わしい……。


 そう思ったのにも理由がある。

 人狼と数十匹の狼を見て『わんこ』と言ったり、一緒にいた男に剣を向けられたり……まあ、一番は『生贄』にすると言ったら普通なら悲鳴をあげて逃げるはずなのだが、どこを間違えたら笑って付いてくるのだろうか?


 そして、一番はあれだ。

 それを思い出したらまた頭が痛くなってきた。

 クロディスは昨夜のことを思い出していた。


「行きましょうとは言ったものの今からどこにいくの?」


 まるで、今から遊びにでもいくような聞き方をする彼女に驚いた。

 一緒にいた男女の二人はさっさと逃げた。

 それなのに、目の前の彼女は本当に付いてくるようだ。


「魔王城だよ。 生贄は皆連れていく」


 クロディスがそう言うと、目の前の彼女は納得といった顔をした。


 そして、何か考える仕草をした後に次はこの場でとても似つかわしいパァっと何かを期待したような明るい顔をした。


 今の会話でどこに笑顔になるところがあったのかわからないクロディスはドン引きしたが彼女は気づかず狼たちをジッと見ていた。

 狼達は彼女を捕食者のように牙をむき出して睨んでいるはずなのだが……。


「ねえ、どうやって連れていってくれるの? やっぱりこの子達にのってかしら?」


 どこか期待しているように聞こえるが、狼達には乗って帰らないため、首を、横に振るとそれを見た彼女は少し残念がっているように見える。


「移動は転移魔法を使う。 いくつか仕掛けたからね」

「そう…………残念ね。 さわってみたかったのに……」


 彼女は本当に残念そうに狼達をみている。

 しかも、この状況で触ってみたいって……。


「グルルル」


 ジッとみていた彼女に腹が立った狼が威嚇をするが、怖がるどころか「まあ!」ととても嬉しそうなのだ。


「…………これは触ってみてもいいのかしら?」


 隣に立っていたので彼女の呟きが聞こえ、内心呆れた。

 威嚇しているのにどこをみて触ってもいいと思ったのか?


「触ったらダメだって。 それよりもこっち」


 クロディスはあるリンゴの木を指差した。

 それはユーリンが昼にリンゴを取った木だった。


「これ?」

「ああ、ここに転移魔法を仕掛けた」


 彼女はジッと木を見つめる。

 すると、不意に変なことを言った。


「これに転移魔法を仕掛けることができたのね」

「?」


 あれはどういう意味なのか? クロディスは彼女に聞くことができなかった。

 聞こうと思ったが、それよりも先に彼女がやらかしたからだ。


「で、魔力を込めたらいいのかしら?」

「まっ!」


 そう言った瞬間、彼女は魔力を込めた。

 あたりが光る。

 そして、クロディス、ユーリン、狼達を光が飲み込み次にいたのは大きな城の中にある庭だった。


「あら?」

「あら? じゃないだろっ!! 勝手に魔力を込めると危ないんだっ!!」

「ごめんなさい」

「……はあ、もういい」


 素直に謝る彼女に怒る気が失せたクロディスは辺りを見渡す。

 無事に転移魔法で移動できたか確認するためだ。


「無事に移動できたみたいだ」

「じゃあ、もうここは魔王の城ってことなのね!!」


 手を合わせて嬉しそうに言う彼女にクロディスはまたドン引きした。

 人間の姫……しかも生贄になる人間が魔王の城に来て嬉しそうにするのはおかしいと頭が痛くなりそうなのを無理やり抑えたクロディスは彼女を地下の牢屋に連れていくことにした。


 彼女をみると、上を見ていた。

 上……正確には月を。


「月が綺麗ですね」

「ん? ああ」


 つられて上をみると今夜は満月だった。

 満月の日は力が高まる。


 しかし、彼女はそのことを知っていたのかどうかは知らないが少しの間月を見ていた。


 だが、そのことがいけなかった。

 一匹の狼が同じように月を見ていたせいで力が高まり興奮したのだろう。


「ガルルルル」


 一気に走り出し彼女に襲いかかろうとした。


「っ!」


 人間のしかも生贄の女が怪我をしても構わないと思ったが、身体が勝手に動いた。


「危ない!」


 彼女を守るように前に出る。

 しかし、彼女からは予想外な言葉が出て来た。


「邪魔!!」

「はっ……」


 クロディスの前に彼女が出て来て自分の腕を噛ませたのだ。


「なっ何をしているんだ!!」


 腕には狼が噛み付いたままだ。

 普通なら痛みで叫んでいるだろう。 屈強な男や騎士ならともかく一国のか弱い姫だ。

 それなのに、彼女は狼に向かって優しく微笑んだ。

 この場でそんな顔は異様でクロディスは寒気がした。


「離しなさい」


 その声はとても低く、顔と声が一致しない。

 助けなくてはいけないのだが、クロディスは動けないでいる。


「グルルル」


 狼が噛んだまま唸るが、それを見た彼女はさっきよりもさらに微笑んで「離しなさい」といった。


 狼はゆっくりと口を開け、腕から離れゆっくりと下がっていく。

 その目はさっきまでと違い恐怖が含んでいる。


 そして……


「次にすることがあるでしょう?」


 彼女がそう言うと、狼は「クゥーン」と一鳴きし、頭を彼女にさげた。


「!!」


 クロディスは衝撃を受けた。

 自分が命令したわけではなく、誇り高い狼だ。

 他の魔族にも頭をあまりさげないのに、人間のしかも自分たちよりも幾分弱い彼女に頭を下げたのだ。


「次にすることは?」


 と彼女は首をコテンと傾けた。

 みる人が見れば可愛い。 今、この状況でなければだ。

 そして、狼は彼女の前でお腹を見せた。

 降参の合図で、彼女を自分よりも上だと認めたのだ。


「いいこね」


 クロディスはこの光景に異常だと感じた。


「クゥーン、クゥーン、クゥーン」


 他の狼も困惑している。


「痛っ……」

「っ!」


 彼女の言葉で我に返ったクロディスは怪我した腕をとった。

 手当をするためだ。


「君は馬鹿なの?」

「馬鹿じゃないわ。 私が襲われそうになったのはこの中で一番弱いから。 だから、この子達に強いことを見せつけ、次にすることは()よ。 次、また同じことが起きないようにね」


 そう言った彼女の声はとても低く。

 クロディスはまたしても寒気がした。

 狼達もそれを感じたのか、彼女に頭を下げていた。


「あら! とてもお利口なのね」

「いいから、君はもう黙ってて」


 クロディスはそう言って彼女の腕に魔法を少しかけ、自分のポケットから出した布を巻いた。


「ごめん。 治癒の魔法は得意じゃないんだ。 応急処置しかできない」

「いいわよ! それよりも、心配してくれてありがとう。 人狼なのにおかしい人ね」


 彼女はクスクス笑っている。


 この時、クロディスが自分よりもおかしいのは彼女の方だと思った。


 だから、自分の尻尾が少し揺れているのは気にしないでおく。


 まさか、もっとおかしいと感じることになるとはまだこの時は思っていなかったのだ。

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