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人狼騎士との出会い

「勇者様?」

「姫……」


 そこにいたのは綺麗な格好をしたままの勇者と聖女だった。


「勇者様と聖女様は何をしているのですか? 今、魔族が攻め入っているのですよ」


 なぜ、彼等がここに隠れているのか?

 真っ先に戦っているのか思っていたのだが……。


「そっそれは……」


 勇者は言葉を濁す。

 しかし、聖女は……。


「こっ怖くて……」


 涙を目に溜めながら言う彼女は誰が見ても守ってあげたくなるような姿だろう。

 だが、彼女は聖女だ。


「怖くてって! 貴方、聖女でしょう」

「!」


 彼女の目からハラハラと涙が溢れ落ちる。

 それを見た勇者がギュッと彼女の肩を抱き寄せ、私を睨みつけた。


「人形のような貴方と違い彼女は感情に豊かなのだ。 怖いと思って当然だろう」

「当然って……」


 茫然としてしまう。


 怖いからって逃げてどうするのよ……。


「分かっておられるのですか? 貴方たちは戦わないといけないのですよ」

「なんでですか?」

「何故って? 貴方は聖女で彼は勇者であられるためです」

「私はなりたいと思ってなったわけではありません」

「そうだ! 私もなりたくてなったわけではない」


 彼等の話を聞いていると頭が痛くなる。

 今も騎士達は魔族と戦っているのに……。


「話は終わった?」

「グルルル」


 私達以外の違う誰かの声がその場に響いた。

 私達は声がした方に顔を向けるが、影になっていて見えない。

 だが、彼の周りには光った目が複数ある。


「っ!」


 勇者が息を飲んだのがわかった。

 彼には見えたのだろう。

 そこに誰が立っているか……。


「私も忙しいんだ。 何せ、捕まった魔族の解放に生贄となる人間の確保。 ……やることが一杯だからね」

「グルルル」


 そう言った彼に月の光が当たる。

 そこに立っていたのは真っ黒な狼のような耳を頭に生やし、同じ真っ黒な髪、瞳は金色、鍛えられた筋肉、そしてフサフサの尻尾が付いている。

 腰には剣を差し、服装はまるで騎士のようだ。

 だが、全身真っ黒で闇に入ったら分かりにくい。


 そして、そんな彼の周りにいるのは先ほど出会った狼達だった。


「……人狼」


 勇者がそう口から零した。


「まあ! 初めてみたわ!」

「!」


 私が喜色の声を上げたことに勇者と聖女は驚いて私を見た。


「貴方は何を言っている!」

「そっそうよ! 彼は魔族なのよ!」


 ありえないというように言ってくる。


「でも、可愛いわ! だって彼等は()()()でしょう?」


 あのもふもふに埋もれたい。


「わんこって……ふふっ。 あーはははははは。 そんなことを言われたのは初めてだ!」


 人狼の彼が大笑いしている。

 そんなにおかしいことだったのかな?


「あー。 おかしい。 面白いけど……君たちは生贄だ。 そのために魔王城に連れて行くよ」

「っ!」

「魔王城……」


 勇者と聖女が息を飲む。


「生贄?」


 首をかしげながら彼に聞こえるように呟く。


「んー。 教えて上げてもいいんだけど……どうしようかな?」


 私達に向けてニッコリと笑う彼の笑顔は勇者達にとっては死の選択のように感じたのか顔を青ざめていた。


「でも、ごめんね。 教えることはできないんだ」

「そうなんですの」

「あれ? もっと慌てないの?」

「ええ。 私も似たようなことをやったことがあるので。 その時は生贄は作りましたけど」


 同じようにニッコリ笑って返すと、勇者達は私から距離を取り、人狼の彼はなんとも言えない表情になった。


「あっ悪魔め!」


 勇者が私に向かい指を差しそう言った。


「姫は魔族の仲間だったのだな!」


 急に何を言い出すのか?

 私が彼等の仲間?

 冗談もほどほどにしろよ。


 私がそう思っている一方で勇者達はさらにまくし立てるように私を責める。


「あっ貴方、魔族で私たちのことを騙していたのね!」

「貴方と婚約を破棄していてよかった。 私は悪魔と結婚するところだった」


 ひどい言われようである。


 人狼の彼なんかポカーンとしてるし。

 狼達なんてどうしたらいいか分かってないよ。

 指示して上げなよ。


「勇者様と聖女様、落ち着いてください」


 ドウドウというように両手を彼等の前に出す。


「何をする気だ!」


 勇者は鞘から剣を出し剣先を私に向ける。


 向ける方を間違えている。

 私ではなく人狼の彼に向けないと。


「ねえ。 どうでもいいけど、君たちを生贄として捕まえるから大人しくしててくれるかな?」

「グルルル」


 狼達がいつの間にか私達を取り囲んでいた。


「まあ! 可愛い!」

「っ! やはり、貴方は……」


 魔族だったのかと呟いた勇者は一気に私に詰め寄り剣で切ろうとした。

 しかし、それを止めたのは彼だった。

 人狼の彼だ。


「危ないなぁ。 なんで急に仲間割れをしてるの? 私達は生きた生贄が欲しいんだ。 死なれると困る」

「なっ!」


 勇者は険しい顔でギリギリと剣で押そうとしているが、人狼は虫の子一人追い払うように余裕そうだ。


「下がって!」


 急に聖女がこちらに向かい魔法を放った。

 光の浄化魔法だ。


 光で目がくらむ。


 そして、目がもどってくると勇者と聖女がいなくなっていた。


「逃げたか……」

「そう見たいね。 追いかけないの?」


 彼はまたしてもポカーンとしてこちらをみてくる。


「? どうしたの?」

「いや……なんでもない……。 追いかけてもいいけど、そろそろ時間切れみたいだから。 いいかな」


 何か言いたそうな顔をしていた彼だったが飲み込んだようで私の質問に答えてくれた。

 そして、彼は近くにいた一匹の狼に指示を出している。


「ワオーーーーン」


 狼の遠吠えが響き渡る。


「よし、じゃあ私達は撤収するから」

「分かったわ。 どこに行けばいい?」

「え?」

「え?」


 顔を二人して見合わせる。


「いや……付いてくるの?」

「ええ」

「生贄なのに?」

「ええ!」


 ニッコリと彼に向かって微笑んだ。


 それなのに彼はドン引きしたような顔をする。


「今なら見逃してあげるよ?」

「いいえ。 私は生贄として一緒に行くわ! 一応見えないけど私はこの国の姫なのよ。 他の人よりもいいと思わない?」

「何がいいのかわからないけど、君がいいならいいの……かな?」

「いいのよ! じゃあ、行きましょう!」


 この選択が後で後悔するとはこの時は思ってもみなかった。

 この姫ではなく、人狼の彼とその他大勢の魔族達は。

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