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婚約破棄

「むかし、むかし、あるところに可愛らしい小さなお姫様がいました。 その姫は大きくなったら勇者様と結婚する夢を持っていました。 しかし、大きくなったら勇者様はなんとお姫様ではなく、仲間の聖女様と結婚したのです」


 グシャ。


 持っていた紙を握り潰す。


「申し訳ありません。 魔王様。 紙芝居で説明をしようと思ったのですが、思わず力が入り握り潰してしまいました」


 ニッコリとそう魔王様に言った私の名前はユーリン。


 ある国の姫である。

 姫と言っても側室の娘であるため権力はあまりない。

 それどころか、王の子供達が多く姉や兄によくいじめられた。


 しかし、そんな私にも誇れることがあったのだ。

 それは『勇者の婚約者』だった。

 歳がたまたま近くだったのと私が大人しい子供だったために選ばれた。

 姉達は肉食獣のような人物だったので。


 だが、そんな一国の姫である私がなぜ魔王城にいるのか?

 答えは簡単だ。

 私が彼等に()()()()()()ためだ。


 あの日のことは今すぐにでも思い返すことができる。


 あの日、私は大好きなリンゴを自分で収穫するために庭に出ていた。

 本当ははしたないのだが、こっそりと見逃してもらっていた。

 そして、ひとつ目を騎士の方にとってもらい手渡してもらった時に彼等がやってきたのだ。


「ここにいたのか」


 まるで探したような言い方をする彼になんのようだと言いたい。


「何かようなのですか?」


 私は持っていたリンゴを後ろに隠す。

 そのことに突っ込まれるかと思ったが彼にとってはどうでもいいことのようで話し始めた。


「姫、私は隣にいる聖女マリーナと結婚する。 したがって貴方との婚約を破棄したい」


 目の前の青年は隣で怯えながらこちらを見ている少女の手をギュッと握りながらこちらを睨みつけながら言った。


 その青年は『勇者』として選ばれた者でそして隣の少女は『聖女』として選ばれた者だった。


 そして、その様子を無表情で見ている私がこの国の姫であり、勇者の婚約者だ……いや、だった者だ。


「姫、聞こえなかったのですか?」

「いえ、聞こえております」

「なら、ずっと黙っているのではなくきちんと喋って頂きたい」

「申し訳ありません」


 その様子を見ていた聖女は勝ち誇ったニンマリとした顔をこちらに向けていた。

 私にしか彼女の顔は見えない絶妙な角度で。


 もちろんイラっときたが私は一国の姫であるために表情には出さない。


 だが、これが勇者の反感を買ってしまった。


「貴方はいつもそうだ。 何を言っても無表情。 笑ったかと思うと作ったような微笑み。 さすがは()()()と呼ばれる貴方だ。 だが、私はそんな無表情な貴方には嫌気がさした。 それに比べてマリーナは感情を表に出し、素直で分かりやすい」

「そっそんな。 素直だなんて」


 彼のその言葉でまたしてもイラっときたが、自分を抑え込む。

 しかし、手に力が入っていたのか手に持っていたリンゴを彼等達に見えないように後ろで握り潰していた。


 ガシュって音がしたので、彼等は周りを見渡すが気のせいだと思ったのか何もなかったかのようにこちらを睨んでいる。


 だが、その様子を見ていたメイドや護衛騎士たちの顔色が青くなっていた。


 いや、それは褒め言葉ではなく単純で騙しやすいってことじゃない?

 と思ったが、うっすらと微笑みだけを浮かべる。


「きやっ! ユーリン様がこちらを睨んできます」


 睨んだのではなく微笑んだのです。


「なんだ! その顔は! 私達は勇者と聖女だぞ!」


 だから、何?

 勇者と聖女に選ばれたからって何もしてないよね?

 魔王だってまだ倒してないよね?

 それどころか城の中を我が物顔で歩き、我儘言っているだけだよね?


 だから、彼等はただのお飾りなのだ。


「貴様を魔王に捧げても良いのだぞ!」

「それはいい考えね!」


 彼の隣でパァと顔を明るくさせてそういうのは聖女マリーナだった。


「彼女を魔王の人質にして私達が助けだすの! そしたら、私達は一気に有名になるわ!」


「! それはいい考えだな!」


 魔王も倒しにいっていないのに一国の姫を捧げるって……。

 彼等は馬鹿なのだろうか?


 またしても手に力が入りリンゴが跡形もなく砕けちる。


 しかし、そんな馬鹿な考えが本当に起こるとは思わなかった。


 その日の夜のことである。


「姫、お逃げください!」


 突如、部屋の扉が開き血がついた騎士があわてて入って来たのだ。


「まっ魔族が攻め入って来たのです!」

「!」


 この城に魔族が攻め入ったのだ。


「さあ、早く!」

「ええ」


 私達は急いで部屋から出るが、そこには複数の狼が待ち受けていた。


「グルルル」

「くっ!」

「まあ! わんこだわ!」


 騎士が苦渋の顔を示す中、私の顔はなんともその場にふさわしくないパアッと明るい表情をしていた。


「わたくし、一度でいいからわんこをもふってみたかったの!!」

「ひっひめ! 今はそのようなことを言っている場合ではありません! 早く逃げましょう!」


 そう言って私の手を掴み狼がいる逆の道を行こうとしたが前も狼、後ろも狼と囲まれていた。


「グルルル」

「あら! いっぱい!」

「くっ! 姫、私が道を作りますのでその隙にお逃げください!」


 騎士は私にそう言って剣を鞘から抜き狼に剣先を向ける。

 その様子を見た狼はさっきよりも牙をむき出しにし臨戦態勢をとった。


「はあああああ」


 騎士が狼に切り込む。

 しかし、それを避け、狼は騎士の腕に噛み付いた。


「ぐっ!」


 苦しげな声を上げるが、目を見るとまだ諦めていない。


「ひっひめ! はやく……!」


 わんこをもふって見たかったのだが、そんなことを言っている場合ではないようだ。

 彼の温情を無駄にするわけにはいかない。


 私は彼によってできた隙間に向かい一気に走り抜けた。


「ワオーン」

「ワオーン」


 狼達が一気に遠吠えをしだす。

 まるで誰かを呼んでいるように見える。


 しかし、それで足を止めるわけにはいかない。

 はしたないがドレスを膝まで捲りあげ、ヒールも脱いで走る。


 様々なところで金属音が響き渡っている。

 皆、 魔族と戦っているのだ。


 私はそれらの全てに目をそらして昼間いたリンゴの木がある庭にまで走った。


「ハアハアハアハア」


 ここまでくると、金属音が遠くで聞こえる。

 ゆっくりと息を整える。


「!」


 近くでガサっと音がなった。

 バッと音が鳴った方を見るとそこにいたのは……。

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