ジョブ! そしてクエストへ……!
こけっこっこー! と、朝が鳴った。窓からは眩ゆい朝日が入り込み、涼しく心地よい一陣の風が吹いた。
俺はすぐさま目を覚まし、爆睡する幼女を揺らし起こそうとする。
「……むにゃ、あと一兆…………」
「なに馬鹿なこと言ってるんだ。早く起きろ」
俺はもう少しばかり強めに揺らした。彼女、女神のくせに寝相が相当悪く、服がはだけて目に毒である。二の腕はすべすべしていて、柔らかかった。
「おーい起きろー! あーさーでーすーよおおおお!」
「……むにぅ。カイトは馬鹿で……。ウデムシが似合っ…………」
どんな夢を見ているかは知らんが、まぁろくでもないに違いない。いいだろう。だったら強行手段に出てやる。
俺は薄ら笑いを浮かべて、イーリスの体を抱き抱えた。お姫様抱っこした。腕に幼女の腿が直に触れる。
「このまま冒険者ギルド向かうからなー。あ、柔らかい」
栗色の髪は甘い香りがした。馬鹿な女神も黙っていれば愛らしいものである。すぅぴぃと小さな寝息を立てている童顔は犯罪的だ。現実世界でこんなことをすれば間違いなく人生終了だろう。いやぁ、今の俺、実に異世界してるね。うん。
「ほーら外出たぞー。太陽眩しくないのか……?」
俺は依然として目覚めないイーリスに感嘆を零しつつ、冒険者ギルドへと歩みを進める。
「うにゅぅ……。眩し、い?」
おっと目が覚めたみたいだ。イーリスは小動物のような瞳で辺りを見渡し、俺の方を見上げる。少女の頬は段々と赤く染まり、口がわなわなと震えたかと思うと、
「カ、カイトに乱暴されたあああああああああああああああ!」
悲鳴に近い絶叫を上げた。近くを通りかかった冒険者の1パーティが軽蔑するような目線をくべている。特にプリーストと思われる少女がゴミを見るような目をしていた。
俺はどうすべきかと悩んだが、とりあえずイーリスの声を掻き消すくらいの大声で、
「してねえええええええええええええええええええええええええええ!」
と叫んだ。……ギルドに行く前からろくでもないことばかりである。まぁそんなイベントを回収しながらも、冒険者ギルドに辿り着いた。
すぐさまクエストボードへ向かいたいところだが、冒険者の無職から例えばウォーリアやメイジになるために手続きがいるとのことだったので、俺たちは先にその手続きとやらを行うことにした。
美人エルフの受付嬢は俺の顔を見るなり、本当に冒険者やるのか……みたいな顔をしたが、俺は気にしない。手数料とやらで約1万Gほど失ったが、代わりとばかりにあなたが現在転職可能な職業一覧が表示される。
「わぁ! 私ほとんどなれますよ! 戦士系の超上級ジョブのドレッドノートとか! 魔法系の超上級ジョブのメイガスも!」
「うわーさすが女神様だなーすごいなー」
俺は落胆しながらとりあえずそんなことを言っておいた。
「でしょう? もっと信仰して、もっと褒めて!」
イーリスは棒読みの感想であったことに気づいてないのか、純粋に喜んで顔を綻ばせていた。可愛らしいが、なんだか悪いことをした気分になるのでやめて欲しい。
一方の俺はというと、転職可能な職業は皆無に等しかった。ガンスリンガー、シーフ、レンジャー……おしまい! シーフは遺跡でのトラップを探知したり、解除したりだとかいうスキルが多く、ガンスリンガーは魔道銃と呼ばれる武器を生成し、それで戦うんだという。レンジャーは弓矢で色々するらしい。
「なんか地味だなぁ……。まぁ派手なエフェクト出せたとしても、どうせ1ダメージぐらいなんだろうけど。なんかオススメはないのか?」
受付嬢に尋ねると、彼女はマニュアルに従って答えを返した。
「はい。カイトさんでしたらシーフをオススメいたします。ガンスリンガーとレンジャーは遠距離の物理火力職といったところですので。筋力などのステータスはレベルアップと呼ばれる現象が起きて向上しますが、カイトさんの場合はあれら3つのスキルがつねに発動しておりますので……」
これはイーリスが教えてくれたことだが、レベルアップに必要な条件はモンスターを殺したり、偉業を成し遂げたりした際に得られる達成感らしい。この感覚が魂を震わせ潜在能力を云々かんぬん。
また、成長点が溜まると同時にスキルポイントとやらも溜まるらしい。スキルポイントを消費して、職業スキルは習得できる。なんだかRPGゲームをやっている気分だ。……普通のRPGならどんな攻撃も1ダメージになるなんて呪いは憑いてないわけだが。しかし呪い憑きな以上、シーフが妥当なところか。
「はぁ……。じゃあ、シーフでお願いします。イーリス、お前はどうするんだ?」
「吟遊詩人の上位職で歌姫っていうのがあったからそれにする。だって私、汗臭いことしたくないし。それに歌うだけでいいなら楽です」
……動機はともかく、おそらくはバフ職だろう。二人パーティで選ぶ職なのか気になるところだが、実質シーフにしかなれなかった俺がとやかくいう権利はないので黙っておく。
受付嬢は俺たちのジョブを再度聞いた後、保険証みたいなカードを渡し、説明した。
「これはパーティなどを組む際に、お互いがどんなステータスか確認するためのカードです。レベルアップしてもギルドで更新を行わないとカードに反映されないので注意してください。また、更新には手数料が掛かります」
まーた手数料だ。金、金、金! ちなみにだがスキルを習得する際、どのスキルが習得可能かを確認するためにも手数料を取られる。具体的にいうと5000Gほど取られる。駐輪禁止の罰金より多いと考えると、なんだか釈然としない。
「今回は初めての転職ということですので、習得可能スキルの確認、および習得は無料で行えますよ」
「おぉ! マジか!」
「ちょっと私、同じディーヴァの人にオススメスキル聞いてくる!」
俺がガッツポーズをして喜ぶなか、イーリスは酒場にいた同業者に話を聞きに行ってしまった。別に待つ理由もないので、俺は習得可能スキルを確認していく。……正直予想はできたが、取れるスキルは非常に少なかった。
【シャドウストーク】……あなたは気配を消しての移動が得意になる。
【サプライズキル】……不意打ち時の攻撃力上昇。
【瞬間自己再生紙】……紙にペンを突き刺しても穴が開かないという手品をできるようになる。またその種明かしをできる。
手品をスキルで習得しても同じスキルを取っている人がいたら何も意味はない。有効なのは2つか。いや、攻撃力上昇ほど俺にとって無駄なのはない! 実質習得可能は一択であった。
「はぁ……。なんか元の世界帰りたくなりそう」
まぁ現実世界は人間が増えすぎなのでウデムシかメガボールにされるのだが。
「カイト! 私がいるから平気ですよ! スキルポイントなぜか大量にありましたので、先輩のディーヴァに必要なオススメされたスキルを習得してきましたよ!」
イーリスが背伸びをして落ち込む俺の頭を撫でる。駄女神かと思ったが……こういうことをされると、思わず目がウルッとくる。あぁ、本当に神様だったんだな……。この女性に甘えたいという駄目な感情が湧き上がって、俺は初めてそんなことを実感させられた。
「なんか凄い失礼なこと考えてますよね」
「いや……ごめん」
「まぁ戦神イーリスの優しさを知ってくれたのならそれでいいです。ちなみに習得したスキルは……【フォルテッシモ】、【レクイエム】、【シルヴァリィソング】……あと【アレグロ】です!」
「スキル名だけだと効果がわからん。効果を教えてくれ」
「はい! 【ファイトソング】が攻撃力増加で【レクイエム】が敵の防御低下、シルなんちゃらが私の歌が上手くなるパッシブスキルで、【アレグロ】が速度上昇です!」
普通のパーティなら攻撃増加と防御低下ほど安定して強い効果はないだろうが俺の攻撃は1だ。(ちなみにだが、hp制というわけではなく、ダメージ数値は辛さの単位みたいなものらしい)
「イーリス……。攻撃増加をされても、俺の攻撃は…………」
「あっ……!」
どうやら完全に忘れていたらしい。どうしたものかと考えていると、イーリスは顔を俯かせて嗚咽し始めてしまった。
「いや! 泣かないでくれ! これ以上、俺が幼女を泣かせただとか乱暴しただとかお姫様抱っこしただとか嘘八百が広がると困る! おもに女性冒険者の目と受付嬢の目が痛い!!」
「ごめんなさい……私、張り切っちゃって……」
日頃は性格腐り切って、祖国のためなら死ねみたいなことを平気で言うような清々しいくらい同情できない奴なのに。今の状況だってお前に才能がないのが悪いでいいじゃないか。畜生。
「ほら、大丈夫! 多分こんなんでもモンスターぐらいパパッと片付くって! 大丈夫! な? なんなら全部俺一人でやっちまうぜ!? 多分今の俺なら熊でも片手で殺せるぜ」
俺が必死に泣き止まそうと努力すると、イーリスはじょじょに落ち着きを取り戻し、嗚咽を止めた。彼女は小さな口で深呼吸すると、か弱げな笑顔を浮かべて言った。
「嫌な奴が急に優しくなるのは死亡フラグですけど大丈夫ですか? 【死神の寵愛】」
ゾクリと背筋が凍るような感覚がした。直後、ガタン! と大きな物音が響き、俺は咄嗟に音のするほうに視線をやった。
「……なんだ猫か。一瞬びびったが、さすがにフラグで死ぬはずないって。平気平気。何かあったら俺だけでも逃げるよ。それともなんだ? ビビッてんのか? イーリス」
「ビビッてませんよ! 人が素直に心配してあげたのに……」
「そんな深く考えてても仕方ないだろ? ほら、今度こそクエスト受けようぜクエスト」
クエストボードにはさまざまな依頼書が貼られていた。
ジェノサイドドラゴンの討伐。賢者の石を作るのでレベル40以上のアルケミストと交流したい。新しい飛行魔法を考えたのでどこまで飛べるか試して欲しい。黄金の果実の採集。難しそうなのばかりだ。
しかし梅雨入りした今、唯一俺たちにもできそうなクエストが一つあった。
『モナ蟹4体の討伐。梅雨入りして繁殖期になったモナ蟹が始まりの平原にて大量発生中! 討伐をお願いします! 報酬は5万G。危険度☆』
モナ蟹とかいうおそらく蟹であることしか分からないモンスターを倒すクエストだが、危険度1とのことなので、俺たちはこのクエストを受注し、街を出てすぐの草原へと出発した。




