ロリ女神イーリスによる転生
公募に出したものなので確実に毎日投稿できるうえにキリがよく完結できるのが売りだと思います(真顔
1日2回投稿します。多分。
ハーレム。それは世界中の男の憧れだった。
「ハーレムになれば、もう何も恐れることはない。途方もない自由とイチャラブが約束されている」
俺はそう聞かされて育った。
初めてハーレムっぽいパーティになったときのことを、今でも鮮明に覚えている。
5番テーブルと7番テーブルの間で、見惚れるようなスラリとした竜人の錬金術師が、狂ったことをした。
「この私の技を見ないとは言わせないぜ」とでも言わんばかりだった。
俺は感動した。女の子にいともたやすくケモ耳を生やすのだから。
そのため俺は彼女を失いたくなかった。断じて助けようと思って助けたわけではない。ただ囚われのお姫様を助けるような刺激的なことをしてみたくはあったし、助けたらお礼としてイイコトしてもらえるんじゃないかと思っただけだ。俺は決して勇ましき者ではない。
――――コヅカ カイト『オンリーワン』
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「桜の樹の下には屍体が埋まっている! これは信じていいことなんだよ。何故って、その屍体が俺だからだ! 俺は何を言ってるんだ? というか、これは今どういう状況なんだ!? 俺は生きてるのか!? 死んだのか!?」
黒い闇が広がる幻想的な神の領域で、俺は全裸でそう訴えた。目の前には豪勢な椅子に座った自称神がいた。
神と自称しているのは栗色の髪と瞳をした幼い少女で、ファンタジー系オンラインゲームの課金衣装みたいな、色っぽさと格好良さが混在した服を着ていた。しかしサイズが合っていないのか、だぼだぼで袖や裾が大きく垂れ下がっている。
見栄張って大人の服を着た子供みたいで、可愛らしい。正面からだとわからないが、横に移動すればいろいろ見えるんじゃないだろうか。
……なんてことをぼんやりと考えていると、少女はなぜかドヤ顔をして、俺に置かれた状況を説明し始めた。
「ええと、狐塚海斗さんは死にました! 死因は撲殺で、死体はあなたの言った通り桜の樹の下ですね。現実世界では……うーん。数時間後ぐらいには行方不明のニュースにはなるんじゃないですか? ちなみに犯人は現在笑顔でラーメンを食べております。とんこつラーメンです」
「笑顔で言うな。笑顔で。あと犯人の情報は求めてない。あ、でも可能ならぶっ殺して」
信じがたいことだが、殺される瞬間の走馬灯のような記憶がわずかに残っている気がしなくもない。
死ぬ瞬間は殺さないでと必死に泣き喚いて漏らした覚えもある。今? 今は少女のほうを見ないようにしている。俺が服を着ていれば……いや、履いていれば気にせずに凝視していたのだが。
「落ち着いてますね! まぁそういう人が来るように仕向けたんですけど」
少女はグッドマークを小さな手で作ると、ニコリと歯を見せて笑った。
「いろいろ意味がわからない。どういう意味なんだ。そもそもお前は誰だ。ここはどこだ。なんで俺は裸なんだ。私は神ですはもうやめろよ? ちゃんと説明しろちゃんと!」
俺が立ち上がって怒鳴ると、少女はびくりと慄いて、その大きな瞳を潤わせながら答えた。
「お、お、怒らないで! あなたは私とは別の神に、死神に気に入られてた時点で死ぬことは確定してたの! だから私は悪くない!」
「いいから説明しろ」
俺が一歩歩み寄ると、それに比例して少女は怯え、頬を赤くしてぷるぷると口を震わせた。
背徳的な感情が募るような、一言で言うならば凄いエロかった。
「わ、私は第三世界の戦神イーリス! あなたが死神の日記帳に特に意味もなく名前を書かれたってことを知ったから、珍獣みたいなのに転生される前にこの空間にあなたの魂を連れてきたの」
第三世界だの死神の日記帳だの、普通に人生を送ればまず聞かないであろう単語が飛び交う。意味不明さは増すばかりであったが、イーリスちゃんとやらはまだ喋りたいそうなので、黙って見ておくことにした。
「そっちの世界は人が多すぎるから、天国地獄は満員で、かといって転生させるとなるとタンザニア・バンデット・オオウデムシとかになってもらわないと魂の比率が困るから……」
「ウデムシってなんだ?」
俺の率直な疑問に対し、待ってましたとばかりにイーリスは立ち上がり、虫かごを持ってきた。そして俺は後悔した。ゴキブリ以上に気持ち悪い虫がいるということを知ることとなった。
悪魔みたいに鋭い爪をもった太い前肢に、蜘蛛みたいな胴体。しかし甲殻があり、その姿はさながらラストダンジョンに出てくる虫モンスターである。
「うわ、きも……」
「えー可愛いのに。って、話が逸れちゃった。まぁそういうわけだから。なんか質問ある?」
「いや、どういうわけだよ」
「そっちからの質問はなしね。ならアンケートッ! 一問目、生まれ変わったら何になりたい?」
「人間」
ウデムシは論外だ。しかしカメノテだとか、ハエだとかも論外だ。どこかで蝉は成虫のときずっと気持ちい状態になっているという話を聞いたこともあるが、やはりだめだ。人間以外になりたくない。
俺の答えに、イーリスはうんうんと大袈裟に頷くと、さも当たり前のように非現実的な提案した。
「なら、決定! 異世界に行こう」
「異世界……?」
「そう! 異世界。私ね、あなたがいた世界とは違う、剣と魔法のファンタジーな世界の神様なんだけど、信仰してくれる人がいないから。布教してくれない? イーリス様は可愛らしい女神様で、素晴らしい心と力があるのでございます! みたいな」
「申し上げます。申し上げます。神さま。あの人は、酷い。酷い。はい。厭な奴です。悪い人です。ああ。我慢ならない。ロリで見栄張ってるのかぶかぶかの服着て、凄いエッチな格好してやがります。ただでは置けねえ……。って伝えればいいのか?」
冗談半分でそんなことを尋ねると、イーリスはぷくりと頬を膨らませて、腕をぶんぶんと振りながら不満げな声を上げた。あざとい。非常にあざとい。垣間見えるあどけない腋が艶やかだ。
「なんでそんな駆け込み訴えみたいな布教されなきゃいけないの!? ……あー、いいんだ。人間になれなくていいんだ。ならいいよ。今からあなたをウデムシかユムシかメガボールに転生させてもいいんだぁ…………」
イーリスはさきほどまでの弱弱しい、若干アホっぽくもあった表情、態度を一変させ、冷徹な一瞥をこちらにくれた。転生候補としてあがったウデムシ以外の二つも、おそらくだが一般的な目線で見て、相当ヤバイやつに違いない。
俺は危機感を覚え、瞬時に土下座のポーズを取った。頭をよくわからない材質の黒い床に擦り付け、逆に相手の罪悪感を煽るくらい陳謝した。
「本当に申し訳ございません! いきなり死んだって言われて……怖かったんです!! 殴り殺されて、まだ息があるのに埋められていく記憶が残ってて、この理不尽な憤りを……!!」
確かに記憶はあったが、死んだからか吹っ切れていた。運動は中の下。勉強は赤点ラインを綱渡りするような程度で、高校では理由はわからないが苛められていたし、家では優秀な兄と比較され、正直うんざりだったこともある。憤りなんてぶっちゃけさらさらなかった。
だが、イーリスちゃんとかいう女神様は、あまりにもちょろかった。とてとてと小さな足音が近づいて来たかと思うと、俺のことを優しく抱きしめたのである。
「表面的に現れないだけでそんなにつらかったのですね……! ごめんなさい。私はぜんぜん気づいてあげれなグ……えぐ、ひぐっ」
黒い空間に響く幼女の嗚咽、泣き声。罪悪感を煽ろうとして、純粋なロリ女神による致命的なカウンターを食らったことは言うまでもない。
「いや……ごめん。嘘。全然気にしてないです」
「……演技に乗ってあげただけだから。けど次やったら本気でウデムシ以下の存在に転生させる」
直後、優しい女神の抱擁が、プロレスラーの関節技に変わった。小学生程度の体格のくせに、どこにそんな馬鹿力があったのかと疑問になるくらい俺は少女に腕を締め付けられた。
ベキベキと肩の関節が鳴り、そろそろ限界を迎えそうであった。
「ギブ! ギブ! もうしません! 許して!!」
「これが神の力です!」
神の力はこんな物理的なものだったのか。もっと神々しい力が……海を割るとかじゃないのか。いや、もう突っ込みを入れるのはやめておこう。次こそ神罰が下るかもしれない。
「それで……異世界に行くたって。俺はその世界のことは何にも知らないし、放り出されても無理だぞ。よくある特殊なパワーとか伝説の武器とかもらえないのか? 神なんだろ?」
「適正レベルが足りないので無理ですね! ただ向こうであなたがよくやるファンタジー系のオンラインゲームみたいに、モンスターをバッサバッサ倒せば強くなりますよ!」
イーリスはその場でファイティングポーズを取ると、シュッシュと声に出しながら拳を空に放った。いや、俺に野生動物を撲殺できるような運動神経はない。
「その前に死ぬんじゃないのか?」
「いえいえ! 多分平気ですよ! あっちの世界の人間種っていうのは、あなたがいた世界より強く設定されてますから! とりあえず、これはレベル1でも装備できるので、何かあったらこれに話しかけてください」
そう言って幼女の手から白銀のネックレスが渡された。ネックレスには小さなコインが掛けられており、そこには槍のマークが彫られている。
「これは?」
「戦神イーリス様を信仰する証です! あなたにあげたそれは特注なんで、私といつでも会話できますよ! どこぞの糞携帯とは違って電池切れが頻発するみたいなこともないので大丈夫!」
いちいち現実世界の物を引き合いに出すのはやめてほしいが、ネックレスを受け取り、いざ首に掛けてみると若干やる気が沸いた気がした。
さりげなく信仰の証を押し付けられた気もするが、こういうのは深く考えるとろくなことがない。脳死するのが一番だ。
「……異世界行ったら、俺は何をすればいいんだ?」
こんな質問を大真面目な顔をしてできる程度にはやる気が出た。
イーリスは計画通りと顔に描きながら、軽やかな声で言った。
「詳しくは現地で話しますので、はい、転生!」
もっと壮大な詠唱などがあればいいのだが、俄然やる気が出るのだが、イーリスは指パッチンをして、俺を異世界とやらに送り出したのだった。
……服、向こうの世界で着ていればいいのだが。