第3話 エルフ
途中主人公視点じゃない部分があります。
お気をつけください。
「いやっほぉぉぉぉぉぉぉぉい!!」
僕は今森のなかを文字どおり疾走してる。
筋力Sのお陰で、スクーター張りのスピードで森を駆け抜けている上に、敏捷性Aのお陰か、迫り来る木々も割りとあっさり避けることができている。
「まさに超人だなこれ」
距離が離れていたとはいえ、時速40kmで爆進しているわけで、あっという間で目的地に到着するのであった。
「...なにかご用でしょうか」
全くついていません。
迷宮都市に向かう途中に立ち寄った村で、ふとした拍子に私の正体がバレてしまいました。
別に隠している訳ではありませんが、こういう面倒に巻き込まれたくなかったのです。
急いで村を出たのですが、やはりならず者たちに目をつけられてしまったようですね。
「いやーまさかこんなところでエルフに出会えるとは」
「しかもハーフだから、純潔より魔法も使えないって話だろ?超ラッキーじゃん」
「売る前に楽しんでも良いんだろ?だろ?」
いやはや舐められたものですね。確かに私は人間とエルフのハーフです。
基本的に、エルフは他種族と交わることはありませんが、別にそれが禁忌というわけではありません。
生まれた子のほとんどは純粋なエルフとして生まれますが、稀に私のようなハーフが生まれることがあるのです。
特徴としては、純粋なエルフと違い耳が短いことと、魔法に対する適正が低いことがあげられます。
見た目がわかりやすいので、よくこのように人身売買の標的にされてしまうのです。
まぁ、私はすこし特殊なので、この例には当てはまらないのですが。
とにかく、目の前の下品な顔をどうにかしないことには始まりません。
適当な下級魔法でご退場を...
そう考えた刹那でした。
「グペッ」
「アヘッ」
「プゲラッ」
目の前にいた三人が、みっともない声をあげて前のめりに倒れます。
その背後には、いつのまにかスラッとした黒髪の青年が立っていました。
今までそれなりに修羅場を潜ってきたつもりですし、そこで培った経験にもそれなりに自身があります。
なのに、ここまで近づかれても気配に気づかなかったのははじめてでした。
私は彼に対する警戒度をはねあげます。
そんな私に彼がこう呟きました。
「大丈夫ですか?」
見ると、3人の小汚ない男が、一人の女性を取り囲んでいるようだ。
女性の方は耳がとがっているし、エルフってやつかな?さらっとした長い金髪の生える美女だ。
これを助けないでは男が廃るってもんだ。
男たちの後ろからさっと近づいて手刀でトンッとしてあげる。体術スキルのお陰か、はたまた筋力の高さゆえか、一撃で3人とも気絶してしまったみたいだ。
エルフさんは、唐突な第三者の登場に警戒しているようだ。
まずは警戒を解くところからスタートだな。無難なところからいこう。
「大丈夫ですか?」
その一言にあっけにとられたような表情を浮かべるエルフさん。なんか変なこと言ったっけか?
「え、えぇ。大丈夫です。助けてくれてありがとうございます」
「いえいえ。貴方のような美女を見捨てられるほど人間捨ててませんから」
僕の言葉にまた驚いたように目を見開くエルフさん。いったいなんなんだ。
「あの...なにか気にさわること言いました?」
日本にいた頃には自分からこんなこと言えなかったけど、これも交渉スキルのお陰かな。
「い、いえ。私たち亜人にそんなこと言う人を初めて見ただけですから」
そう言えば、この世界では亜人は迫害されてるんだっけ。そんななかで女性一人旅ってすごい胆力だな。
「どうかされましたか?」
どうも彼女の顔をまじまじと見てしまっていたらしい。
「あー、いやその、このご時世女性一人での旅路なんて、根性あるなぁなんて...」
その一言で三度彼女の表情が驚きに変わる。
これは自分でもわかる。女性に対してなんだ根性って。もうちょっと言いようがあるだろうに。
「ふふっ」
「あ、あの...」
「人間の方にそう言われたのは初めてです。あなたは普通の人族とは色々と違うようですね」
そう言って微笑む彼女はそりゃもうきれいで見惚れてしまっても仕方がない。
「...シーファです」
「へ?」
「私の名前、シーファといいます」
すっとんきょうな声をあげてしまったのも彼女がきれいすぎるのがいけない。
「あ、えっと、リュウです。ミナセ=リュウ」
「よろしくお願いしますね。リュウさん」
彼女の聖母のような微笑みを心のカメラに刻み込みながら、彼女の差し出した手を握るのであった。
第1ヒロインのシーファちゃん登場です。
初っぱなリュウを警戒しまくってたシーファがあっさり心を許したのには理由がありますゆえ、
そこら辺もおいおい明かしていく予定です。