はじまり case1: 伝書鳩は今日も行く
始まり
世間というのは、知らぬ者には冷たい。
それゆえに、この世には橋渡しがなければうまくいかないことも多い。
これは、いっけん原始的な橋渡しの一つである2羽の伝書鳩と、伝書鳩によって思いを伝え合う人々のお話である。
case1: 伝書鳩は今日も行く
夜も深まる秋の季節。
郊外の住宅地の中に、紅葉が庭を彩るひと際大きい屋敷がある。
この家には、変わり者のじいさんが住んでいるという。なんでも鳩を飼っているらしく、とても有名なのだそうだ。
「一体、なんのナレーションをしているのハート。」
あ、待って!凄くいい感じなんだから邪魔しないでよ!
「だって、ハートったら1羽でブツブツ言ってるんだもの。吃驚しちゃうわ。」
もう、ポポったら!あ、申し遅れました。僕の名前はハート。ピンクのスカーフを巻いた白鳩です。さっきの子はポポ。青のスカーフを巻いた黒鳩で、僕の妻です。
よく逆に間違われるけど、僕も列記としたオスで、ポポもそれはそれは美しい僕のおく「惚気はいいから!はやく先に進めて頂戴。」……もう、ポポったらせっかちなんだから!
もうお分かりかと思いますが、僕たちがその変わり者のじいさんに飼われている鳩です。……なんで、鳩を飼っているくらいで変わり者の扱いなのかって?
それは僕たちが、人と人とを繋ぐ今時古風な伝書鳩だから。
僕たちに依頼するのは結構簡単。僕たちは定期的に巡回している。見つけたら、僕たちに手を振って、相手の名前と住んでるところを言うだけ。流石に日本全国なんてのは無理だけど、わざわざ来てくれた人とかには県外でも届けるようにしている。それが、僕たちの飼い主さんの方針だから。
「ハートは、女性に頼まれやすくて、私は男性に頼まれやすいのよね。」
そんな呆れた目で見ないでよ!結構気にしてるんだから!
「ほら、もう行かなくちゃ。定期巡回の時間だもの。」
あ、本当だ。それでは、みなさん。ここらでお暇しますね。スカーフを巻いた鳩がいたら僕たちかもしれません。その時は是非声でもかけて下さい!では、このへんで。
〜鳩たちは今日もとぶ〜