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勇者の息子はゴロゴロしたい  作者: やすらぎ
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はい。来ました。例の昨日の明日の夕方、つまり今!はぁ、行きたくない。わかるよな?約束するのは楽しいけどいざの時になると憂鬱になるの。この現象を俺は「当日ショック」と呼んでいる。こう、義務になるのが嫌なんだよな。はい無事到着。


「昨日ぶりね。今日はよろしく」

「コチラコソヨロシク」

「店は今から閉めるから奥で待ってて」


奥の部屋には一つの机、2人分の椅子や裁縫セット。ヤル気ぱねぇ。


「お待たせ。で、何から始めたらいいの?」

「そうだなー。まずは四角だな。初歩中の初歩だ。これがダメなら昨日の月や太陽は難しいかも」

「わかったわ。四角ね」

「ちよっと布を貸して」


素直に渡された布にチャコペンで四角を書く。


「何それ!石みたいだけど、ペン?」

「そうだ。これはチャコペンって言ってな布専用のペンなんだ」

「へー。面白いわね。これ売ってくれない?」

「いいけど広めないでくれよ」

「ええ、わかったわ」

「じゃあ、早速だけどこの四角の縁を細かく縫ってみてくれ」


チクチクチクチク。

俺これ暇じゃ無いか?うーん…ちょっと店の中でも見てみようかな。貸切状態なんだし。


「ちょっと店の中見てきていいか?」

「ええ、いいわよ」


許可ももらったことだし早速行こうか。扉に向かうがその前にこのペースだとすぐに終わってしまうから次の指示をしとくか。

扉の前まで来たがクルッと回り申し訳ないが後ろから失礼する。


「ごめん。四角の周りが完成したらそのまま渦のように中心に向かって縫って…」


後ろから突然現れたのでナーデはビクッと揺れたので素直に謝り、驚きで止まった布に指で四角い渦を描く。


「真ん中まで行ったら完成だ。何かあったら呼んでくれ」

「は、はぃ〜」

「?」


改めて店の内装を見ると、ロール状になっている布が壁一面にかけられており、自分で好きな大きさに切ることができる。真ん中にあるテーブルにはカゴに積まれた布切れや糸、針などが置かれている。

カウンターは小さいが横の壁にはメモリが彫られておりここで布の大きさを測ると推測される。よく考えられているな。


約30分ほど眺めていたが「ねぇ、リヒト!出来たわよ!」という声が聞こえたので探索はここまで。


奥の部屋に入ると布を大きく広げこっちを見ているナーデ。


「うまく出来てるじゃん。じゃあ次は丸だな」


広げている布を受け取りチャコペンでクルッと丸を描く。


「丸は曲線が入るから資格より難しいから頑張れ」

「ええ、刺繍をマスターするわ!」


少し苦労したがナーデは何とか丸も完成することができた。


「やっと出来たわ!曲線って難しいのね」

「慣れるとチャコペンを使わずに出来るようになるよ」

「これからも練習するわ。それにしても今日はありがとう。お代はーー」

「お代はいいわ。昨日糸もらっちゃったし」

「そんなわけにはいらないわ」

「なら、今度ここで買い物した時に割引してくれ」

「それなら…でも絶対に来てよね!」

「わかってるって。あと、これ」


渡したのは色々な絵が複数描かれた布。これは俺が簡単だと思う絵を描いた。教えるのは今日だけだからな。これからはこれで練習でもしてもらおうと思ってナーデが練習している間に書いた。家や花、月と太陽。それぞれ5つずつ書いている。

受け取ったナーデは「え、」「嘘」と戸惑いを見せたものの最後には大切そうに抱き、「ありがとう」と言った。ちょっと照れるな。後は、チャコペンを3つあげた。もらえないと言うナーデに「基礎達成のお祝い」ということで押し付けた形になってしまったがプレゼントだ。府には落ちてないが一応渡せた。


「じゃあまたな」


そう告げ、ナーデの布屋から帰宅。

行く時はめんどくさいけど行った後は楽しかったといつも思う。これからも頑張ってもらいたいものだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なんか忘れてるような…」

「どうしたんです?」

「いや、なんか忘れてるような気がして」

「大事なこと?」

「ああ。結構大事だったと思うんだが…」

「また明日考えれば?」

「そうですね。どうせ今日思い出しても何も出来ませんしね」

「そ、そうだな。じゃあ寝るわ。おやすみ」

「ええ、ではおやすみなさい」

「おやすみ」



次の日、俺以外は外に出かけのんびりと昼ご飯を作っているとガリガリと何かが削れる音が鳴り響いた。


「何だ?」


玄関に行くと案の定、音のはここからのようだ。


「おい。誰だ」

「ゔぉん」

「この声は!ジェロか?」

「ゔぉん!」


ゆっくりと扉を開けるとやっぱりジェロだった。


「どうしたんだ?」

「くーん」

「ん?」


よく見るとジェロの首元にはポーチが付けられている。


「これか?」


ジェロは「とって」と首を見せてくる。

ポーチを開けると小さく折りたたまれた封筒が入っていた。ここで読むのもな。

とりあえずジェロを中に入れ、ナミとナギを呼び出し遊んどいてもらう。ジェロのしっぽに戯れている狐。可愛いわ。癒されたところで手紙を目を通す。


「やばっ」


3匹にお留守番を頼み、急速に家を飛び出す。

目的地は大通りにあるカフェだ。今の時間ならまだいるだろう。


扉を開けるとカランカランとドアベルが鳴り、定員さんが一人寄ってくる。


「あれ、リヒト様じゃないですか。どうしたんですか?」

「ちょっとな。今話せるか?」

「ええ、少しだけなら大丈夫だと思います」


レイに案内された席に着くとパタパタとレイは奥へと戻っていた。少したち、戻ってきたレイの両手には紅茶が。


「サービスですよ」

「ありがとう。それで突然なんだが明日休みを取れるか?」

「明日ですか…突然なんで難しいかもしれません。どうかしたんですか?」

「ああ。それがな…」


唯一家から持ってきたあの手紙をレイ渡す。レイが目を通している間に紅茶を飲み、息を整える。ふぅ。


「なるほど。これは一大事ですね」

「だろ」

「安定しているとはいえ仕送りがなくなるのは我が家の一大事。すぐにでも挨拶に行かねば」

「ちょっと店長に話してきます」


レイにも事の重大さが伝わったようだ。そう、手紙の内容は2匹を召喚したとこに父さんが言っていた挨拶に来いというものだった。ついでに仕送りも取りに来いと。まあ、行かないとダメだろな。仕送りがかかってるからな。


はぁ、落ち着いた。慌てた後って妙に冷静になるよな。改めてレイの働いている店内を見る。外装はシンプルなのに内装はなかなかメルヘンだ。ピンクに白にレースという感じ。客はもちろん女性のみ。こんな所に男性が入れるわけないだろ。さっきからチラチラと視線が。珍しいのだろう。定員は全員男性でタイプの違う男性を揃えている感じだ。ん?レイ、こんなとこでバイトしてたの?レイに聞いたときは普通のカフェって言ってたけどこれが普通なのか?

悶々と考えているとレイともう一人、大人しそうなだが気のきつそうな、眼鏡をかけた小さな女性が奥から出てきた。


「リヒト様、こちらはこの店の店長であるメルネさんです」

「よろしく。レイ君の休みに関しては条件によっては許してあげるわ」

「よろしく。条件?」

「ええ、とりあえず私の質問に答えてくれたらいいのだけど」

「ああ」


彼女はポケットからメモを取り出した。え、俺が答えるの?レイの休みなのに?


「まずは名前ね。名前は何?」

「リヒト」

「リヒト君、ね。じゃあ、好きなものは?」

「好きなもの…趣味ってことか?それとも普通に好きなものか?」

「どっちでもいいわ。好きに解釈して」

「そうかー。最近好きなのは動物と戯れることかな。今まではほとんど触ったりしてなかったんだけど動物ってめっちゃ可愛いな。ほんと、癒しだわ。趣味はやっぱり料理かな。特技でもあるしな。あと、刺繍も好きだな」

「動物に料理に刺繍。女子力高め男子…。いえ、決めつけるのはまだ早いわ。落ち着いて私」

「?」

「好きな服装の特徴は?」

「んー、動きやすいのがいいかな。でも目立ちたくないから見た目はそうでも無いのがいいな。見た目が性能だったら断然性能派だ」

「なるほど。ねぇ、レイ君。君から見たリヒト君はどんな感じ?」

「え、私ですか?リヒト様ですか…一言で言うならば子供っぽい人ですね。嫌なものは嫌。好きなものは好きと言った感じですね。ですが意外としっかりしていて陰でみんなのことをよく見ていて、損得考えずに助けちゃう人なんで良い人ですよ。この前なんか、私の寝室にポプリなんかが添えられていましたよ。おかげで気持ちよく寝て、疲れが次の日に残らないんですよ。リヒト様、ありがとうございます」


え、何この処刑。めっちゃ恥ずかしいんですけど。でも同時にめっちゃ嬉しい。


「レイ〜。嬉しいけど恥ずかしいわ!バカ!」


絶対今顔真っ赤だわ。


「なるほど。照れ屋なんですね。これはポイントが高い」

「?」


ボソボソと呟くメルネさんだが小さすぎてよく聞こえない。


「では次で最後。質問じゃなくて言った欲しい言葉があるの」


メルネさんは今まで必死で筆を走らせていたメモ帳を置き、こちらを見てきた。選手宣誓の誓い的な?んなわけないよな。何だ?


「私に向かって好き、と言って欲しいの」

「は?」


無意識に、ガチトーンで声が出てしまった俺は悪くないと思う。


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