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勇者の息子はゴロゴロしたい  作者: やすらぎ
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あれから俺は無事登録することができた。もちろん「特殊」でだ。まあ、身分証明に使えたらそれでいい。登録料を払い受け取ったカードを見る。灰色なカードだ。何でもランクアップとともに色が変わるとか。関係ないか。上げる予定ないし。いつ撮ったのかわからない顔写真と名前が記載されている。そして拠点とチーム。どちらも空欄で随時登録、変更が可能だとか。実家が一応この街にあるのでこの街を拠点とし、チームも3人で登録した。身分証明証ゲットだぜ!



家に帰った俺たちは明日からの分担を決めることにした。俺はもちろん料理当番。買い物も一応俺。資金調達の為レイにはギルドでの依頼。もちろん街の中の雑用だ。そして週3ぐらいで料理以外の家事をしてもらう。ここまでは順調だ。問題は言わなくてもわかるだろうが、ノルだ。


「どうするかな」

「お留守番でいい」

「それはダメだ!そんな羨ましい生活をさせるわけにはいかない!」

「むぅ」


顔の表情は変わらないが可愛い反応をしても許しません。


「では私と一緒に依頼でもしますか?」

「無理、めんどい」

「でも何かしなければ…」

「そうだぞ!父さんの今世界ではこういう言葉がある。『働かざる者食うべからず』。意味は『働かない者には食べる資格なし』だ。」

「リヒト、ブーメラン」

「俺は今、料理当番様だからな!」

「ずるい」

「悔しかったら仕事を見つけろ」


ワッハッハーとわざとらしく豪快に笑ってやる。ノルは少し考えると言いレイとノルの部屋もとい寝室へと帰っていった。


「大丈夫ですよ。ノルはやればできる子ですから」

「そうだな」

「では私達も寝ましょうか。おやすみなさい、リヒト様」

「おやすみ、レイ。ノルにも言っといて」


レイは優しく微笑み部屋へと入っていった。自分で選んだとはいえ3階はしんどいな。はぁ。




「俺、リヒト手伝う」


朝、ベッドから降りリビングへと行くと突然ノルがそう宣言してきた。


「え?」

「リヒト一日3回毎日ご飯作るの大変。買い物手伝う。最初は一人無理だからお手伝い」

「な、何だってー!ノル!お前はなんていいやつなんだ!」

「まあ、妥当でしょうか。仕事は休めても家事は休めませんしね」

「でも荷物とか持てるのか?」

「いける。買った食材そんなに多く使わない。毎日少しずつ買えば何とかなる」

「おー、賢いぞノル」


あのノルが。実家では俺並みに動かなかったノルが。いやー実家を離れると人ってのは成長するんだな。思わずぐしゃぐしゃとノルの頭を撫ぜるがぺしっと払われた。何でだ!まあ、担当が決まったのはいいことだ。では早速朝食に取り掛かろう。


朝食を食べ終わっるとレイは仕事を探しに行った。あくまで探すだけなので昼には帰ってくるそうだ。昼過ぎからは昨日父さんにもらったお金で服を買おうと思う。突然のことで5着ほどしか持ってこれなかったからだ。よし、俺たちもそろそろだな。ノルに声をかけ買い物に出かける。今日の昼はオムライスだ。買い物ついでにノルによく使う食材を教えていく。よく使う食材なら間違えて買ってこられてもすぐに使えるからな。とりあえず今日はオムライスの材料とよく使う食材を購入して家へ戻りオムライスを作りレイを待つ。しばらくしてガチャっと音がなり「ただいま」という声がした。レイだ。


「「おかえり」」


何だかこのやりとりいいな。実家だと家に出ることもないしドアの音が聞こえないから帰ってきたかもわからないからな。小さい家の特権だ。レイはお腹が減っているのかすぐにテーブルに着いた。外に出るには体力が必要だからな…わかるぜ。早速作ったらオムライスを出すとレイはキラキラとした目を俺を見つめてきた。


「本当にできたんですね、料理」

「言っただろできるって。それにギルド登録の時にも言っただろ」

「デタラメなのかと」

「俺の事様付けで呼ぶくせにあんまり敬ってないよな」

「いえ、ものすごく敬ってますよ。ただ自分の見たものしか信じなくて」

「舐めとるやろ」


おっと関西弁が。


「まあいい。それで?仕事はどうよ」


「いただきます」の声とともにご飯を食べ始める。


「ええ、まぁ初級ランクですのであまりいいのはありませんね」

「ランク上げたほうが仕事がいいのか?」

「そうともいえますが、ランクが上がると依頼のほとんどが討伐依頼になったりしますので一概には言えません」

「じゃあ上げなくていいな」

「そうですね。コツコツ頑張ります」

「ああ。仕事内容はレイに任せる。ただし討伐依頼はダメだぞ。決まったら教えてくれ」


レイは頷き止まっていたスプーンを動かし始めた。


食事が終わった後は買い物だ。それぞれ5着程持ってきているので3着ずつ購入した。もちろん俺は履き心地良くて動きやすい服を購入。レイは堅苦しそうな服を購入している。さすがレイ。ノルはなんか黒ばっかり買っているな。まあ、わからんでもないが。とりあえず今月はこんだけ揃えれば持つだろう。後は親の仕送りを待つだけだ。明日からは大きな買い物をせずほそぼそと生きて行こう。



それから2週間程、買い物行ってはご飯を作り寝るという同じことの繰り返し生活を送ってきた。レイは見た目や丁寧な言葉遣いから大通りにあるおしゃれなカフェで働き始めた。ノルも少しずつ買い物に慣れ、今では一人で行けるようにまでなっていた。


「あー、暇ー、暇だー」


ノルに買い物を任せると日中家にいるのが俺一人の時間が増えた。家でダラダラするのは大好きだが一人だと少し暇だ。寂しいわけでない。暇になったら独り言か寝るかだ。運の悪いことに今日は午前中に買い物に行ったのでまだ睡魔がこない。ひたすら独り言を言っていると扉が叩かれた。はあ、めんど。暇だからと言って動くのは嫌だ。


「はーい」


返事をしのそのそと扉を開ける。


「リヒト、暇だからって独り言はないだろ」

「げ、父さん」

「そんな顔をするな。リヒトが待ちに待った仕送りだぞ」


にやにやと言う父さんに多少のイラつきを感じたが仕送りだと言われそんな気持ちはすぐにどっかへ飛んで行った。

とりあえず家に入ってもらいお茶を出す。


「なかなかいい感じだな」

「そうだろ。財布の紐はレイが握ってるから無駄がないんだ」

「それは良かった。レイならば安心だ」


そう言いながらポケットから封筒を取り出し差し出した。礼を言いながら中を確認すると予想通り、今月の仕送りだった。


「確かに受け取った」

「ああ。それでだが毎月俺がこんな風に持ってくるのはちょっと難しい。もちろん母さんもだ」

「え、」

「まあ、そんな顔をするな。ちゃんと策はある」


そう言いながら父さんは家を出て行くので不思議に思いながら付いてく。大通りに出て、門を出て、森に出た。


「どこまで行くんだ?」

「もうすぐだ」


いつの間にか周りは深い緑になっていた。


「よし、ここまでくれば大丈夫だろ」

「何するんだ?」

「ああ、それはこれから仕送りを届けるためにリヒトに召喚を教えようと思ってな」

「召喚ってあの召喚?」

「そうだ」


召喚魔法。それは自分の魔力を対価に魔物に協力してもらう魔法。魔力の量や質によって手伝ってくれる魔物が異なる。また、協力してくれる善意のある魔物が少ないので呼び出しに応じること事態が少ない。一度契約すると少量の魔力で何度でも呼び出すことができ、死ぬまで共にする。それが召喚魔法。


「マジか!」


誰もが憧れる召喚魔法。それを教えてくれるのだ。テンションが上がるのは仕方がないことだと思う。


「ああ。あまり人前で使うのは危険だからな。特に初めは」


そう苦笑いし「ジェロ」と呟いた。その瞬間ブワァッと下から白に何かが飛び出した。


「雪?」


手のひらを広げると冷たく小さな塊が積もった。


「こいつは俺の相棒のジェロだ。フェンリルなんだ」


「ゔぉん」と鳴いた狼は、あの伝説のフェンリルだと言う。マジかっけー!大きさもギリ乗れるほどの大きさで白と言うよりは銀。深い青だが凄く透き通っている瞳に鋭い牙。さらさらした毛並みは雪を積もらせない。


「ジェロ。あれは俺の息子、リヒトだ。仲良くしてやってくれ」


ジェロはまた「ゔぉん」と鳴き、尻尾を振って近づいて来た。可愛い。そーっと丸めたままの手を出し匂いを嗅がず。これで覚えてくれるだろう。

クンクンと匂いを確認するように嗅いだ後、ペロッと大きな舌で舐め回してきた。


「うわっ、やめろって。擽ったい!ギブ!降参だ」


大きな体で勢いよく舐め回してきたのでこちらもぐしゃぐしゃと撫ぜ回す。それも嬉しいのかさらに勢いを強め俺を押し倒しながら舐める。大きな狼に襲われているようにしか見えないだろ。父さんの一声でジェロは舐めるのをやめ、父さんの横に腰を下ろした。


「べったべただ。でも、可愛いな」

「だろ?本当だったらガブリだが俺の息子だって理解してくれたようだな」

「それは良かった」


マジ良かった。


「でだ、ジェロのように魔物の召喚をしてもらおうと思ってる。そうすれば仕送りも楽になるだろ。教えるからちゃんと聞いとけよ。一度召喚し契約すると名前を呼ぶだけ、まぁ細かく言うと魔力を乗せた声で名前を呼ぶと契約した魔物は来てくれる。初めて契約するときは名前ではなく術を読み、応じてくれたものと面会の権利が与えられる。面接みたいなものだな。ジェロの場合は勝負、力比べだったな。魔物によってそれぞれだ」


説明を聞き術を教えてもらって、あとは唱えるだけとなった。


「緊張するー」

「まぁ、俺もそんなんだった。緊張するなとは言わないが気は引き締めておけよ」


目を閉じゆっくりと深呼吸をする。ふー。よし、落ち着いてきた。ゆっくりと術を唱えながら目を開く。よし、大丈夫だ。


術を唱え終わると眩い光が現れ、その中央から何かが現れた。


「……狐?」


現れた正体に目をやると白い狐と黒い狐が寄り添うように佇んでいた。そして、その2匹と俺を中心に魔法陣が展開されてる。


『『我らは稲荷なり』』

『我白狐、富と繁栄をもたらすもの』

『我黒狐、見極めるものなり』

「えっと、俺はリヒト・カンザキ」

『ふむ、リヒト・カンザキ。この星でその名は珍しい。もしや日本生まれか?』

「いや、日本生まれは父さんがだ。俺はここで生まれた」

『そうかい。そうかい。気に入った』

『だが、契約とはそれは別話』


今までの空気を変え、狐は目を細めてこちらを見やる。急に温度が下がったような…


『汝に問おう。汝、力を得て何をする』

『我、汝と契約すると何を得る』

『『さあさ、答えてもらおう』』

『汝、我らへ示せ』

『汝の想い』


俺は…


「力なんていらないんだけど。そんなの争いの元なだけだろ?それよりもゴロゴロと1日1日を楽しみ、噛み締めながら暮らす方がよっぽど有意義だ。何を得るかは…。正直無いかもしれないが俺はお前達に家族になって欲しい。まあぶっちゃけ最近一人になる時間が増えてきて暇なんだよ。だから家族になってもらって、そして毎日遊んだりするんだ。どうだ?楽しそうだろ?」


一度しかない人生楽しんだもの勝ちじゃないか。なぜしたくもない労働をせにゃならん。いつかはしないといけないのはわかってる。それよりもみんなでご飯を食べたり買い物をしたりそういったささやかな幸せを感じ生きていくことの方がよっぽど大切だと思うんだけどな。

自分の気持ちを簡単ではあるか狐に伝える。しかし一向に返事はない。疑問に思っているといきなり『『わはははは』』と狐達が笑い出した。

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