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まじまじとそのイケメンを見る。
綺麗な金髪、蒼い目、優しい雰囲気、爽やかな笑顔。男の俺から見ても完璧なイケメン。
「君がリヒト君だね」
思った以上に優しい人みたいだ。コクっと頷く。己もこんな優しい態度を取れと恨みを込めて今まで取り調べをしていた男を睨む。睨まれた男はビクッと反応し、少しずつ顔色が悪っ!えっ、顔面蒼白なんだけど。
「えっと…殺気出すのやめてくれるかな?
ん?殺気?出してる?俺が?睨んでるからか?
そっとイケメンを見るがイケメンは俺の殺気?にものともせずに爽やか笑顔でこっちを見ている。あ、ちょっと待て。バイブレーションしちゃってるわ。
「すいません。あなたの優しさに感動しちゃって」
「感動してるとは思えない顔をしていたよ」
「ちょっとこの優しさを見習って欲しいと思いまして」
「確かに暴言や暴力は良くないよね。この二人体調悪そうだから休ませてあげなきゃ。すみませーん、お願いしまーす。そうだリヒト君、ちょっと移動しよっか」
イケメンさんが声をかけると扉の向こう側からゴリマッチョな男二人が小脇に顔面蒼白な男を抱えて行った。すごいな。イケメンさんについて行くと来客室と思われる豪華で綺麗な部屋。さっきのところとは大違いだ。
「好きなところに掛けていいよ。ちょっと僕は飲み物を取ってくるよ。紅茶は飲めるかな?」
「うん、ありがとうございます」
「いいよ、これぐらい。連絡したからもうすぐ着くと思うよ」
「え、誰がーー「大丈夫か!リヒト!」」
勢い良く扉が開き俺の言葉は遮られた。と思ったら勢い良く後ろから抱きつかれた。え?誰だ?そんな疑問が頭をよぎったが、俺の数少ない知り合いでこんな事をする人物は一人しか知らない。というか確実に身内だ。絶対に。
「いきなりルッくんから連絡があったから父さん心配したぞ」
おい、頬ずりをするな。それよりも気になることが…
「ルッくんと呼ばないでくださいよ。ユウトさん!」
「ルッくん?」
「おう!このイケメンはルッくんだ。俺の元冒険仲間だ」
「元魔王討伐隊のルークです。君のお父さんには色々お世話になってね。今では治安部隊隊長です」
思った以上に凄い人だ、ルッくん。魔王討伐隊と言うことは英雄様だな。こんなに身近に英雄様が3人もいるって俺なんだか恵まれてるな。世界中の少年たちの憧れだな。…何だか申し訳なくなってきた。ごめんな。
「父さんの知り合いなんだ。だから、俺のこと知ってて助けてくれんだな。ありがとうございます」
「え、いや、途中で気づいたんだよ。あの殺気と顔、ユウトさんにそっくりだったからね」
嬉しくない。わかるだろう、父さんと同じ顔だと言われる気持ちが。それは全く褒め言葉じゃないからな。お世辞の殻を被った悪口だ。まあ、そんなことこの人は考えていなさそうだけどな。でも嫌なもんは嫌。
「そういえば殺気が出てるとか言ってたな」
「うん、ビシバシ出てたよ。もう怖くって怖くって。顔に出ないように必死だったよ」
「膝は震えてたけどな」
「あれ?リヒト君急に気さくになったね。ユウトさん、これは気を許してくれたってことかな?そうだったら嬉しいな」
「そうだな。出会ってすぐでリヒト君がここまで話すのはなかなか見られないからな。父の解釈としては気を許したといっても過言ではないはずだ」
「本当ですか!」
あれ?俺放置?まさかの放置?しかもこの人ポジティブだな。羨ましいな。
「それよりもリヒト。殺気を出せるとはな。成長したな」
「いつ出したんだ?俺」
「無意識か?まあ、初めは無意識からだからな。練習すれば操ることができるぞー」
「別に操らなくていいし」
「そうか?便利だけどなー」
チラチラと目線が…教えたいのかよ!でもなんか腹立つから無視の方向で。
「リヒト君、ユウトさんに色々教わったりしてなかったんですか?あの殺気も訓練の賜物だと思ったよ」
「俺は教えたぞ。リヒトはなかなか筋がいい」
「まあ、習うに越したことがないからな。父さんの作ったものを食べると他のものじゃちょっと満足いかないし」
「なんだか勿体無い気がするなぁ」
そんな残念そうな顔をするなよ。異世界の料理だと思えばなかなか教えてもらう価値はあるだろ。しかも美味しい。そんな和気藹々と話をしているとノック音がリズミカルに鳴った。
「失礼します。えっと…リヒト様にお迎えが…」
ん?お迎え?嫌な予感がする。まさかーー
「リヒト様!ご無事ですか!」
「 リヒト、大丈夫?」
案の定。扉から出てきたのはレイとノルだ。扉に手をかけ息を整えている二人の目には安心が浮かんでいた。心配してくれだんだ。
「俺は大丈夫だかーーー「リヒト様ーー!!」グハッ」
「なかなか帰ってこないと思い、探しに向かうと治安部隊に連行されていてもう本当に本当に心配しましたよ!」
「僕も心配した」
レイはダイレクトハグ、ノルは頭を撫ぜてくる。一瞬ノルが年上に見えたんだが幻覚だろうか。
「それにしてもあの男。一発やらなければ私の気がすみません」
ギリィと歯を食いしばり握り拳を作るレイ。何だか新たな一面を見てしまったようだ。顔が怖い。
「ちょっと殴り込みに行ってきますのでご心配なく」
そう言い残し廊下へ飛び出して行った。「お待ちください」「落ち着いてください」「離して下さい!」と大声が聞こえてくる。確保されたのか。良かった。あのままだと相手の男の命は保証できないからな。世界は平和だ…。ズズッと先ほど出された紅茶を一杯。
「スッキリしたわ。あら、久しぶりですね。ルッくん」
「か、母さん!」
「えっ!アルメリアさん!」
思わず声が裏返った。そこには俺の母さんが立っていた。赤い液体で少し汚れた母さんが。あれ、もしかしなくても血だよな。今日は新しい一面をたくさん知る日のようだ。そう現実逃避をしながら紅茶を口に運んだ。
「リヒトが無事で良かったわー。とても心配したのよ」
うふふふふと上品に笑う母さんの顔は穏やかな笑みだが、顔についた液体がそう感じさせない。
「見ればわかるが、どこに行ってたんだ?アル」
「ちょっとリヒトと一緒に連行された男の所に。そうだ、リヒト冒険者ギルドに登録に行きなさい。これから名乗っても信じてくれる人は少ないと思うの。だから身分証になるギルドに登録すれば大丈夫だと思うの」
「そうだな。いくら髪の色や顔つきが俺と似ていても信じてくれそうにないからな」
「あら、リヒトは私に似たのよ」
「いや、俺似だよ!見ろこの黒髪を」
「髪の色はそうかもしれなけど顔は私によ」
母さん似ではないのは確かだ。部屋に飾られている高級そうな壺に顔を移すもそこに映るのは黒髪の男性。整ってはいるも特徴のない誰からも批判されない顔。それよりも目に入るのは黒だ。髪の色も目の色もどちらも漆黒。これはとても珍しいというかお父さんと俺しか持たない色。近くても茶色までしかいない。母さん似な所は強いていうなら筋肉のつきにくい体ぐらいかな。顔はどちらかというと父さんだ。まあ、俺の顔の話はどうでもいい。それよりも大切なのは今日の昼ごはんと晩ごはんだ。
「なぁ、玉ねぎはもういいから家に帰っていいか?昼、食べてないしこのままだと夜も食いっぱぐれるし」
「そうなのか!なら外で食べるか。ここは俺たちが出そう」
「サンキュー、父さん。なら早く行こうぜ」
「そうだな。世話になったなルッくん。今度久しぶりに遊びに来い」
「ええ。ぜひ行かせてもらいます」
勤務中のルッくんとわかれ5人で食事にする。時間的には微妙な時間だがお腹が減っていたの仕方ない。むしろ店が空いてていいぐらいだ。たった1日だというのにもう家が恋しい。とりあえずこの短い時間にあったことを二人に報告した。家具を買ったこと、そのせいでもうおかねがないこと、節約のために俺が料理当番に立候補したこと。ただの料理当番なのに二人は大喜びで大袈裟だと思うぐらいに俺を褒めた。悪い気はしない。配慮が足りなかったということで始めの1ヶ月の補助金は多めにしてもらい僅かだが貰った。ご飯を食べた後は二人と別れ、俺達は助言通りにギルドに行くことにした。
「ここがギルドです。すごく賑わっていますね」
「人多い」
「帰宅ラッシュかなんかだろ。とりあえずチャッチャと済ませて明日のご飯の材料を買うぞ」
「そうでした。一応カレーの材料はありますが」
「昼ごはんには間に合わん。カレーは2日目が美味しいと言われる程時間のかかる料理だ。そんな料理が朝から作って昼にできると思うか」
「そうでしたね。なかなか奥が深いですね。異世界料理」
カレーを舐めちゃいかん。そう自分の中で締め、ギルドの門を通る。中には沢山の人がいるが誰一人として俺達を見ない。そりゃそうか。みんな受付に向かったり端っこにある飲み屋で盛大に盛り上がっていた。とりあえず受付、受付。端っこにあるあまり人気のない受付へと向かう。そこには少し気の弱そうな女の子がいた。よく見ると獣人だ。獣人とは獣と人間の間と言われている種族だ。特徴は耳と尻尾。個体差はあるが大体の人にはヒトとは違う耳が頭についている。尻尾も同様だ。獣人は多様で兎や猫、犬など様々。一回でいいから尻尾を触ってみたい。おっと、本音が。受付嬢も可愛らしい耳が頭の左右についていた。
「すみません。ギルド登録がしたいのですが」
「ギルド登録ですね。お連れ様もでしょうか?」
二人に目をやるとコクンと首を揺らした。
「では三名様ですね。こちらの用紙にご記入お願いします。赤で丸をしているところは絶対記入ですのでよろしくお願いします」
3人分の用紙を受け取り、別で渡されたペンとともに二人に回す。ふむ、名前に性別、配置。
「配置って何ですか?」
「説明不足でしたね。すみません。配置とは大まかに前衛・中衛・後衛です。緊急クエストなどがありましたら効率の為、パーティーメンバーやこの配置ごとに分けます。その為にご記入よろしくお願いします。変更ありましたら後からでも出来ますのでその時は報告よろしくお願いします」
「ありがとうございます」
さてどうしよう。
「なあ、レイは配置なんて書くんだ?」
「私ですか?私は剣を扱えるので前衛と書こうかと」
剣を扱える…か。チラリとノルに目をやるとすぐさま「前衛」と答えてくれた。察しが良くて助かるわ。二人は何だと俺に訴えてくるがそれどころではない。俺は出来るだけ顔が見えないように俯き話し始める。
「レイ…なかなか深刻な話をしていいか?」
「はい…タクト様」
「実は俺…剣を持ったことがない!!」
突然の俺の大声に近くにいた人々は俺に注目している。見ないでくれ。シーンとした空気の中これ以上俺が話さないと思ったのかレイが恐る恐る声をだした。
「そういえばお屋敷には有りませんでしたね。でも、小さい時に持ちませんでしたか?何度か見せてもらっていたと思いますが」
「それは見ただけだ。本当はと言うと触ったこともない。俺が触ったことがあるのは包丁だけだ」
「そうでしたか…しかし前衛は剣だけではありませんよ。ハンマーや棍棒などでも前衛に含まれます」
「木の枝でもか?」
「「「「…」」」」
俺の最後の言葉に誰も喋らなくなったな。でも仕方ないじゃないか。剣はあれど、あくまで勇者がハンマーや棍棒ももう訳がない。いや、ハンマーはあったかな…。まあ、とりあえず無いものを触ることはできない。それに家にある剣も魔剣ばかりで切れると傷が治らないものや切ったところが焼けるものなど、やたら物騒なものばかりだ。誰が触ろうと思うか。万が一にも切れたら最後、命を失うんだぞ。指先のわずかな傷でも。もう一度言おう。仕方がないじゃ無いか!
「…前衛に凝らなくても後衛はどうですか?弓や魔法が使用できるのなら大丈夫ですよ。魔法は使える人が少ないので難しいかもしれませんが」
弓………ねぇな。
「魔法の適性はどうやったらわかんるだ?」
「それは大きな街いいっていただかないと…」
「………………………何でだよ!登録できねえじゃねぇか」
思わず地団駄を踏む俺は悪くない。
「えっと…では特技などはありますか?説明にはありませんでしたが「特殊」というのもあり、主に戦闘をせず得意なことを生かして依頼を遂行する配置もありますので…」
「それならいけるぜ!俺の特技は料理だ!」
そうでかでかと得意げに伝えた。