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勇者の息子はゴロゴロしたい  作者: やすらぎ
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母さんのあの質問に対して何も答えなかった、というか答えたくなかった俺をよそに話がヒートアップしていく。あーあ、もうどうにでもなれ。全てがめんどくさくなり放棄した結果、とりあえず可愛い息子をいきなり叩き出すことなど出来ないということで徐々にステップを踏み、独り立ちしてもらおうという案にまとまったみたいだ。結局は可愛い息子を出すのね。


とりあえずステップ1段目、街に家を借り付き人2人と住む。もちろん付き人は男だ。うちの親不健全なのはダメなんだ。そして、資金は月に一回支給される形に決まった。


案に反論する前に物事がスムーズに進み、気が付いた時には家の門の外で大きな荷物を両手に持ち両サイドには付き人。太陽が照り、家を出された事実を無理やり突きつけてくる。


「俺、家を出された…」

「リヒト様気がついたんですね。ずっと上の空だったので心配してたんですよ」

「そう、心配した」

「リヒト様は私たち二人と街で暮らすことになりました。これからよろしくお願いします」

「よろしく。家までの地図は貰っているから大丈夫」


突き出された親指を見ながら先ほどまでの会話を思い出す。



「リヒト、あなたの為なの。いつまでもこのままでいたいけど私達がいなくなったり、お金が底をついた時、今のあなたじゃ生きていけないわ。一度私達なしで街で頑張ってみなさい。勇者の息子ではなく、ただのリヒトとして頑張ってみなさい。必ずあなた自身を見てくれる人が見つかるから」


その時、不甲斐にもその言葉を聞いて頑張ろうと思った自分が単純で恥ずかしい。


「イーヤーーーーーだーーーー‼︎」


大声で駄々をこねるのは恥ではない。決して恥ではないのだ。一つの生きる手段なのだから。



その大声を聞きながら窓辺に立つ黒髪の男性と金髪の女性はクスッと笑った。

「…頑張ってね、リヒト」

「俺たちは陰ながらそっと見守っていこう。大丈夫だよ、アルー。俺たちの子供じゃないか」

「そうね、信じましょ」



「リヒト様、駄々をこねないでください。服に土がついてしまいますよ」

「めんどくさい。しっかり歩く」

「イーヤーだー!行きたくないー!」

「リヒト様、もうこのまま引きずって行きますよ」

「リヒト、カッコ悪い」

「もう、わかったから!立つから!」

「じゃあ立つ」


はーいとイヤイヤ感を満載に返事をし、ゆっくりと立ち上がり、土を叩き落とす。チッ、駄々こねは効かないか。


「というか付き人ってお前たちだったのか」

といい改めて二人を見る。

一人は落ち着いた緑色の髪の男。名前はレイ。少し堅苦しい性格のため、やめろといっても頑なに様付けで俺を呼んでくる。血は繋がっていないが、小さい頃から一緒にいるため感覚的には俺の兄のような人だ。

もう一人は青みがかった灰色の髪の男。名前はノル。こっちも俺よりも年上。少々口下手だが人見知りというわけではない。ただただ面倒くさがりなだけだ。年上だが年上に感じることが出来ず、俺は友達だとだと思っている。


俺の家というか今まで住んでいた家は町外れに存在している。なので街までは治安も悪くない。あくまで街の中だからな。


「まだ着かないのか?」

「まだですね」

「もうちょっと」


この会話、さっきから何回してるんだ?

5回はしてる。絶対してる。


「さっきからもうちょっとばっかりで全然着かないんだけど。騙してるだろ!」

「騙してませんよ。その角曲がったところが目的地です」

「マジで!」


早く家に入りたい、というか1番に着きたいという子供心から走り出した。とっさのことにもしっかりと二人は付いてくる。さすがだ。俺たちが住む家は男3人で住むには十分な大きさのレンガでできた家だった。横に大きいのではなく街ならではの縦に大きい家。勢いに任せドアを開ける。


「一番乗りー!」


全力で扉を開け中に入る。家の中には何もなかった。そりゃそうか。昨日買って今日準備ができている方がおかしいか。


「レイ、どうする?」

「とりあえず奥まで入ってください。手前で止まられると入れないんで」

「邪魔」


困った時のお兄ちゃん、ライに聞くのはいつものこと。言われた通り家の奥まで入る。俺、従順。


「じゃあ、まず家の中を探索でもしましょうか。必要なものもわかってきますし」

「僕、部屋、1階か2階がいい。登りたくない」

「部屋割りか!一人一部屋にするのか?」

「それは無理ですよ。付き人である私とノルは二人部屋です。リヒト様は一人部屋で一階はリビングという感じですね」

「ん、妥当」

「そっか、じゃあ俺は3階だな」

「決まりですね。じゃあ必要なものを考えながら回りましょうか」


そう言い紙とペンを取り出すレイ。本当に用意周到だな。あらかた家の探索は終わり必要なものをまとめた。その日は留守番をするように言われたが久しぶりの街でじっとできるはずがない俺はレイと必要最低限の家具を購入し、無事終わった。もちろんノルはお留守番。



次の日もとりあえずレイに何をするか聞く。決して自分で考えるのがめんどくさいとというわけではない。ないのだ。


「レイー、今日はどうする?」

「そうですね。家具の方はまだ足りませんが最低限揃っているので次は食の方ですね。とりあえず、自炊しますか」

「ん、無理」


すかさずノルが否定。


「ノルには任せませんよ。私が作ります」

「え、作れんの?」

「いえ、作れませんが」

「え?でも作るんだよな?」

「ええ、ノルに任せるのも怖いので」

「レイに任せるのも怖えーよ」


実を言うとレイは不器用なのだ。キッチリとしすぎる性格がレイを不器用へと変化させているのだろう。剣さばきなどは体が覚えているらしく出来るんだが、なんと言うか戦闘以外はてんでダメ。多分、料理もダメだ。「あと1グラム…1グラム…」と呟きながら材料を測っているレイが簡単に想像できた。あいつ絶対適量とかできないしな…。こりゃ参ったな。仕方ないか。


「俺がやるよ」

「え…………リ、リヒト様どうしたんですか⁉︎」

「天変地異」

「失礼な!俺だってご飯ぐらい作れるわ」

「いえ、疑ったわけでは…経験はありますか?」


おい、今疑ってないって言ったそばから経験聞いてんのは疑ってるってことだよな?

おい、ちょっと勇者の息子なめないでいただけます?


「大丈夫だって。その代わり俺は働かないからな!ご飯当番だけだかんな!」


ご飯当番だけ!と二人に釘を刺し、ノルと二人で買い出しに出ることにした。レイは今日の昼ごはんの調達だ。さすがに今から買って作るのは時間がかかる。というわけでいざ、出発。

店が出ている大通りまで歩き今日の晩ご飯の材料を買う。今日の晩御飯はカレーだ。父さんしか作り方を知らない勇者直伝の異世界料理。


「ノル、これで最後か?」

「ん、そう」


二つのカゴに大量の野菜や肉が詰め込まれている。男3人分の食料だからこのくらいの量は当たり前だろう。


「重たいな、ノルは大丈夫か?」

「ん、大丈夫じゃない」


細身を通り越してガリガリなノルにとってこの量はきついみたいだ。


「よし、少しこっちに乗せよっか」

「ん、そうする」


二つのカゴを地面に置き、重たいものや小さく敷き詰められそうなものを俺をカゴの方に乗せていく。


「あっ」


綺麗に敷き詰めていたカゴの中からごろっと玉ねぎが2つ落ちた。はぁ…。丸いものはすぐ転がるなぁ。落ちた玉ねぎに向かって手を伸ばすとシュッと手に何かがあたった。ん?視線を上に上げるが大通りの街並みだけで特に変わったことはない。んー、気にせず転がっているはずの玉ねぎに手を伸ばすが虚しく地面を撫ぜるばかり。あれ?視線をやると地面にあったはずの玉ねぎの姿はなくなっていた。


「おい!」


なんてこった!カレーに玉ねぎがないのはダメだろう。ダメだろう。どこのどいつだよ。

反射的にさっきの手に当たった何かが原因だと考え、何かが進んだであろう方向へと全速力で足を動かす。ぜってー、逃さねぇ。


「リヒト」


後ろの方でノルの声が聞こえたがそれどころではない。ノルのことだからカゴを運ばずにその場でじっとしてくれるだろう。


人ごみを掻き分けるがそれらしい人物は見当たらない。くそっ。このままじゃ拉致があかねぇ。


足に力を入れ、樽や窓の縁を利用し屋根へと駆け上がる。人ごみに紛れようとしても無駄だぜ。絶対に逃すもんか。

人様ひとさまの屋根の上から見る人ごみは怪しそうな人を見つけるのには丁度いいみたいだ。明らかに一人だけ動きが違う。人ごみを掻き分け、走っている男。あいつだな。

見失わないように注意しながら屋根の上をかける。男は大通りから、狭い路地に入って言ったが屋根の上からなら見失わずに追っていくことができた。


そろそろだな…


男が通るであろう道に先回り。下の安全を確認し着地っ。まずっ。


「〜〜〜〜っ!」


ジーンと重い痛みが足を通る。しくったわ。勢殺すの失敗したわー。イッター。俺の足逝ったー。


何とか声を抑えるものの、男がぽかぁんと口を開けすぐさま来た道に向かって走り出す。


「くそっ」


男は来た道を戻りもう一度大通りに逃げ込むようだ。この足ではちょっと屋根の上はご遠慮したい。切実に。

暗い路地裏から少しずつ明るい道に変わっていく。

やべぇ、このままじゃ逃しちまう。ちょっと目立っちまうが仕方ねーな。

手を前へ伸ばし、固く目を瞑る。

全力で足を動かし掛け声と共に地面を蹴る。


「こんにゃろ!」

「うわっ!」


全力で男に突進。まあ、突進というよりかはダイレクトに抱きついたと言った方がいいのか。俺の腕はきれいに男の腰に巻き付いた。そのまま大通りへと飛び出したので周りから悲鳴が起こる。


「離せっ!」


必死で抵抗する男。絶対に離すもんか。


「おい!そこの二人。大通りで男二人が暴れていると通報があった。悪いが、少しご同行お願いする」

「んぁ?」

「おい!離せよっ!」

「我々は街の治安部隊だ。拒否権はない。来い」


グイッと腕を引っ張られる。ここは大人しく従っておこう。捕まえていた男から手を離し汚れた服を叩く。男も同じように土埃を落としていた。思った以上に落ち着いているなー、こいつ。少し疑問に思っているとニヤッとこちらを見てきた。ん?まさか…


「助けてくださりありがとうございます。この男に急に襲われて…」


おいおい、その言い方は誤解を招くぞ。


「礼はいらん。とりあえず付いてきてもらおう。そこでじっくりと話を聞く」


誠実な対応をした治安部隊の目は俺を嫌悪の目で見ていた。だから違げーって。



治安部隊の建物に連れていかれ、部屋に入れられたのはいいが解せぬ。何でその男の取り調は一対一なのに俺は一対二なんだよ。ブスーっと膨れている俺に怒りが湧いたのかドンッと勢いよく机を叩いた。


「おい!聞いているのか!男はお前に襲われたと言っているが本当なのか!」

「だからさっきから言っているだろ。あいつに大切な玉ねぎを盗まれたんだって」


まあ断定はできないが…


「嘘をほざくな!隅々まで探したがそんなものは見つからなかった。それに玉ねぎ一つであんな騒ぎにはならん」

「はぁ?本当に探したのかよ。それになにが玉ねぎ一つだ。それが無かったら今日の晩御飯が美味しく出来ないんだよ!」

「はぁ、もうお前とは話にならん。とりあえずお前を罪人として隔離する。大丈夫だ。罪は軽い。精々半年といったところだ。お前の身内に連絡する。名前を言え」

「ため息つきたいのはこっちだよ。本当に話が通じねーな。証拠もないのに罪人かよ」

「罪人は直ぐに証拠がないと言うんだ。それにお前には証拠があるじゃないか。大通りのど真ん中で男を襲っているのを見た人は沢山いる。見苦しいぞ」

「俺は男を襲う趣味はない!」

「わかったらとりあえず名を名乗れ」


おい、治安部隊さん。あんたわかってないよ、ほんとに…泣くぞ、俺。ラチがあかないな。親の力で何とかするしかないか。


「リヒト、リヒト・カンザキ…」


仕方がない。クズとかおもわないでくれ。偉大な親も持っと苦労が凄いんだ。これくらいのチートの一つや二つ良いじゃないか。俺の名前を出した途端、ガタンと机が揺れた。


「なっ、その苗字はっ!いや、まさかな…そんな訳はない!お前みたいな話ができないようなバカが勇者様の身内だなんてそんなことはありえないだろ」


えーせっかく名乗ったのにまさか否定されるとは。まあ、俺が向こうの立場でも疑うがな。この世界でその名前を知らない人はいないんだろうし。過去に名前を悪用した人が何人かいるって父さんも困ってた。息子が大量発生したとか何とか。あれはあれで事件だけどな。母さんが父さんをすこーし信用出来ず不倫をちょーっと疑ってしまって…。そのあとはまぁ、いろいろあって仲直りしたけど父さんが可哀想で可哀想で。女は強いと言うが勇者でも負けるとは。マジ、オンナハツヨシ。おっと、ちょっとトリップしてたわ。まあ、俺は本物だが証明できないのが難点だな。


「ありえないかもしれないけど俺は本物の勇者の息子だからな。証明することは出来ないが信じてくれ。な?」

「だからと言ってそのまま信じることはできん。勇者様の名前の悪用は今始まったことではないからな。まあ、仕方ない。その名前を名乗られては調べない訳はいかない。おい、頼んだ」


扉の前で待機していたもう一人の男は部屋を出て行った。

それからしばらく経ったが何も喋らない。あれから10分は経ったぞ。あー、気まずい。


「お待たせしました」


そう言いながら扉をかけたのは先ほど出て行った男。その後ろには金髪碧眼のイケメンが立っていた。え、ちょーイケメン!




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