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勇者の息子はゴロゴロしたい  作者: やすらぎ
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こんにちは。

選んでいただいて感謝です。

昔々、いやちょっとだけ昔の話。

世界は闇に包まれていた。

徘徊する魔物、奇襲してくる魔人、秩序の乱れた街。

全ての原因は魔王の誕生からだった。


魔人領に一番近い国は、戦争により物資不足や治安の乱れ、それにより人の国はもう限界だった。いや、限界を超えていた。


だからこそ禁忌に手を出したのだ。

そう、世界には侵してはならない禁忌がある。


”異世界人召喚魔法”


連れて来られる人間がこの世界最強の竜とも並べる、いや竜をも超える力も所持しているということが禁忌の理由となっている。悪人であったなら?世界を滅ぼすだろう。善人であったなら?どこ国もその人物を確保しようと躍起になり大戦時代の幕開けとなるだろう。”異世界人召喚魔法”は禁忌。これは世界の常識である。


しかし、王の考えははるかに常識を超えた。

「この儂とこの国の民の魔力で”異世界人召喚魔法”を実行する」。それはこの国を潰すという選択だった。この国の人々と共に。



国は一瞬で無くなった。



王の住まう城、民達の憩いの広場、様々なところから香る美味しそうな香り。

そして、王の愛娘一人だけをを残して…



それから5年後…


召喚された少年と王の愛娘の仲間達は魔王を倒した。


そして、英雄となった二人は仲睦まじく幸せに暮らしましたとさ。


fin

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



パタンと今まで読んでいた本を閉じる。

あーあ、恥ずかしい。

布団の上で転がりたくなる気持ちを我慢して、行き場のないこのの気持ちを息に乗せ「はぁー」と天井を見上げる。何が好き好んで母さんと父さんの恋物語を読んでいるんだか…


そう、何を隠そう俺はこの物語の英雄の息子なのだ。勇者の息子。それだけ聞くとどれほど立派な人間なのだろうかと思うだろう。残念だがそれが違うんだよなー。自暴自棄になっているとどこからともなく声がする。


「リヒトー。飯ができたぞー」

「はーい」と軽く返事をし、部屋を出る。


目的の部屋に入ると長いテーブルにこれでもかと料理が敷き詰められていて、家の使用人達も椅子に座ってこちらを見ている。


「今日なんかの日だっけ?」

「お前忘れたのか!バカだとは思っていたが本当にバカだったとは」

「え」

「ユウト、仕方ないわよ。あなたの子よ?私は受け入れているわ。それにあなたの世界ではこういう言葉もあるって言ってたじゃない。”バカな子ほど可愛い”って」

「オレはバカじゃないだろ!」

「いえ、あなたもバカよ」


対抗する父さんにトドメを刺した母さんはニコニコと笑っている。シュンとする父さんは置いといて、

「で、母さんほんとに今日はなんなの?ご飯も豪華だし」

「あなたの誕生日よ、リヒト。おめでとう。主役も揃った事だしこの美味しそうな料理をみんなで食べましょ。さあ、カンパーイ!」


母さんの声に反応し、使用人達は目の前のご馳走を食べ始めた。え、俺がそれ言うんじゃないの?と心の中でツッコミをしたがどうせ「言ったもん勝ちよ」と言われるに違いないと思い、俺もご飯を食べ始める。


ゆっくりと話しながら食べるご飯はいつもより長く、俺たちが食べ終わる頃には使用人達は各自仕事に戻っていた。

「リヒトももう18歳ね。今まで大きな怪我も病気もかからないですくすくと育ってくれて母さん嬉しいわ」

「ありがとう、母さん」

母さんはまるで愛おしいものを見る表情で俺を見つめてくる。そのことに恥ずかしながらも心の底からの感謝の言葉を伝える。

「でも…」

その言葉を境に赤さんの雰囲気が変わる。

まずいと思ったもののその雰囲気に圧倒され動けなくなった。

チラッと父さんにSOSを送るがゆっくりと首を振られた。


「でもね、リヒト。あなたもう18歳でしょ?わかってるわ、父さんの世界では20歳が成人。あなたはまだ子供の年齢。でもね、この世界では15歳からが大人なの、知ってるわよね?だから始めは仕方ないと思ってたのよ。でもあなたはもう18歳、15と20の間を超えたのよ。そろそろ

…」

母さんの次の言葉はすぐに予想できた。グッと顔が歪むのを感じる。まさかこのタイミングで来るとは。逃げ道もない、躱す手立てもない。

そうしている間に母さんの口がゆっくりと開いた。


「就職してもいいんじゃない?」


そう、俺はニートなのだ。何を隠そうニートなのだ。勇者の息子はニート。本当に笑えないものだと思う。でも考えて欲しい。生まれた時から甘やかされ、何不自由ない暮らしを送っているのだ。父さんも母さんも働かず魔王討伐の報酬のみで生活しているが、その報酬も底が見えない。両親が働いていないのに何故俺が働かないといけないんだ。まだ扶養されてもいいだろう。そんな甘い考えを抱きながら本日ついに18歳。まだいけるっ!と考えていた俺の考えは虚しく宙を舞った。

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