009 ハーメルンの箱鳴らし男 またはネズミの夢の国後編
サブタイトル元ネタ:
『ハーメルンの笛吹き男』
ドイツの街ハーメルンで1284年6月26日に起きたとされる出来事についての伝承。
過日前編を書いてからだいぶ経っていた。ディズニーランドに行ったのなどもう二ヶ月も前の話。しかし書く。
前編で「1つか2つのアトラクションで満足度90点くらいと確保するべく周到に準備して、あとは気力と体力にまかせるのだ」などと偉そうにほざいてたいが、周到と思われた段取りも来て早々にこなしてしまった。とりあえず熱中症対策としてそこらへんにあったオレンジジュースを飲む。「シーズン限定!」「店舗限定!」などの凝った飲み物ではなく、目についた店でなんの変哲もない飲み物を頼んでしまうあたりに自己のコンサバティブと老いを感じる。オレンジジュースの安心感たるや。それは別にどうでもいい。
『ミニー・オー! ミニー』のあとは、スティッチによる綾小路きみまろばりの客いじりに巻き込まれるシアター型アトラクション『スティッチ・エンカウンター』、一番最初に出てくるオランウータン(?)達の前座感がすごい『ワンマンズ・ドリームⅡ』(ミッキーミニー達も出るショーです、っていうかそっちがメインです)、ファストパス取っておいた『バスのアストロブラスター』、一生懸命リアクションしても後方の席だと船長さんに届かない『ジャングルクルーズ』などなど、別に他人が読んでも面白くない普通の過ごし方をする。
しかし最近のディズニーリゾートは、アトラクションやショー以外にも、キャストによって道端で突然演奏やパフォーマンスが始まる「アトモスフィア」も充実しており、その偶然性も楽しかったりする。
私達が歩きながら次の予定などについて話していると、整備士っぽい服とヘルメットのキャストが、整備機器と作業用品が詰まってるであろうボックスを押しながら歩いていた。彼は時折止まっては、自身のパントマイムと近付いてきた子どもの動きに合わせて〈ジャジャーン!〉あるいは〈ビョヨヨヨヨーン〉といった効果音を鳴らしている。
要するに、整備士と見せかけて、ゲストと交流しつつパフォーマンスする小規模ショーなのだ。これは『ファン・メンテナンス』というアトモスフィアらしい。(まあ整備士の服装といっても、衣装っぽい派手なデザインなのでショーだとすぐにわかるけど)
キャストの彼は一言も言葉を発さないまま、動きと(ボックスからの?)効果音で子どもたち、そして大人も魅了していく。彼が動くと、子どもたちもぞろぞろとそれに続く。
気付けば彼の後ろには、結構な行列が出来ていた。
「……既視感というか、なんか知ってるぞこの光景」私はつぶやく。
「……といいますと?」谷崎氏は問う。
「いや、見たっていうか、こういうシーンがある童話だか古い話しがあった気がするんだよ……笛の音に誘われて子どもが集団で行方不明……」
「ああ、『ハーメルンの笛吹き男』じゃない?」
「あ、それ」
ご存知の方も多かろうが、『ハーメルンの笛吹き男』とは、グリム兄弟をはじめ複数の者によって伝承されている物語である。13世紀頃、ハーメルンの子どもたちが色とりどりの衣装で飾った笛吹き男に誘い出され、コッペン近くの処刑場でいなくなったという集団失踪事件がベースになっている。
もちろん700年以上も昔のことなので、このとおりの事件ではないかもしれないし、寓話としてアレンジされていて真相は別モノの可能性も、全くの創作である可能性もある。私も『ハーメルンの笛吹き男』のあらすじを知ったとき「いや、笛吹く怪しい男に集団でついてくかよ」と、胡乱な話しであるように思った。子どもの集団失踪事件はあったかもしれないが、誘拐手段はもっと別のものだろう、と。
しかし、『ファン・メンテナンス』の行列を見て思った。ハーメルンの笛吹き男、まじで笛吹いて子どもを連れ出した説ありうるぞ、と。
別にお金や権力をチラつかせなくとも、否、お金や権力ではなく純粋な面白さ、好奇心を刺激するからこそ、子どもなら尚更惹かれてしまうだろう。特に娯楽に乏しかった時代である。楽しげな音楽と態度に誘われて、もっと面白いことが、楽しいことが起きるかもしれないという単純な期待は、子ども達に(大人にとっては得体の知れない)男のあとを追わせるには十分だったのかもしれない。そして、誰もいなくなった。
ハーメルンの子ども集団失踪事件と、目の前の楽しげなパフォーマンスが妙に重なり、なんとなく歴史の闇を感じてしまった。あれならうまいことやればイケる。ジャングルクルーズだって、船長さんは大抵船に忘れられた子どもだって言うじゃないか……! 今日も虚構と現実が入り乱れる34歳。まーた来年から前厄だよ。
まあそんなこんなで、ディズニーランドでの一日は満喫致しました。
入園料が年々上がってキッツイなあ、と思うのだけど、好みはあれどやっぱり行くとお値段以上の満足感で楽しい。(まあ今回は谷崎氏の友人のツテで社割価格のパスポート買ったのだが……)
あと実感したのが、ゲストは親子連れとか学生さんとか若い人が多く、「ここにいると日本の高齢化も忘れるナア」と思ったのですが、キャストのほうがよく見ると、いやよく見なくても結構な高齢化が進んでいて、「夢の国にも高齢化の波が……」と余計に感じてしまうのでした。
そう思うとなろうって若いよね、いいよね。