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絶望した解放奴隷の末路。

 白虎親・ゴンサロ視点につき、イラッと率が高いです。

 また、ざまぁ回につき猟奇描写が多数ありますので、苦手な方はご注意ください。

 

 


 由緒正しき白虎の血筋を代々受け継いできたガルシア家の五男として、我は生まれた。

 戦いの天才にふさわしくあれ! とつけられた名はゴンサロ。

 生まれてこの方、数多の戦場を駆け抜けてきた。

 当然負けなど知らぬ。


 美しき妻は猫族から娶った。

 婚約者がいたらしいが、ガルシア家の力に抗う術はない。

 喜んで差し出したと聞き及んでいる。


 美しき妻は、強い男児を産んだ。

 もっとたくさん我に似た子を孕ませたかったが、女児や猫族の特徴が強い子ばかり孕むのでやむを得ず、全て処分させた。

 以来美しき妻はすっかり醜女になり下がっている。


 醜女を処分して、新たな妻を迎えようとしたのだが、かなわなかった。

 どころかガルシア家から、絶縁された。

 何を誤解したのか今でもわからない。

 

 誤解を解こうとしている間に、奴隷という屈辱的な身分へと追い落とされてしまったのは、頭でっかちな長兄のせいだろう。

 奴は何かと武勇に優れた我を煙たがっていたのだ。

 父上や母上までもを誑かす鬼畜。

 何時か処分してやりたいと思って久しい。


 屈辱的な生活を送っている中で、新たな主人が決まったと言われて、開拓地へ向かわされた。

 開拓地ならば嘗ての武勇も通じようと、着いた場所は。

 驚くほど豊かな村だった。

 我が領主として君臨したならば、更なる栄達も望めよう。

 無論、ガルシア家の誤解もとけるはずだ。

 そう思った我は、即座に領主の座を譲るように仕掛けたが、いなされた。


 容姿ばかりは可憐な村長の中身は、恐らく長兄と同じ。

 腹黒い人間なのだ。


 しかも周囲に侍る者もまた、異様だった。

 常識を逸脱したスキルを持つスライム。

 伝説の存在とも謳われているエルダートレントと、その眷属である無数のトレント。

 

 豊かな乳房を揺らすラミアにいたっては、性格こそ温柔だが、能力は我の骨を簡単に砕くほどの代物。

 

 誇り高き白虎の我を差し置いて、押しかけてきたキノコ人を重宝するなど信じたくもない光景が広がった日には、恥辱を耐えるのに苦心したものだ。


 何より村長は、我を屑と見下し、息子と一緒に最下位の地位へと落とした。

 奴隷とは思えぬ良待遇で妻が、嘗ての美しさ以上のものを取り戻した点は評価してやってもいいのだが、それ以外は許せない。

 何故あの主人に媚び諂う狸獣人や犬獣一家が、我より待遇が良いのか。


 初めのうちは我の威嚇に負けていた奴らが、気がつけば我を見下し始めたのは、村長が奴隷どもをつけあがらせたせいだろう。

 

 事態は既に、この村の統治権を奪取せねばならぬところまできていた。


 そんなとき、頭の回転が良すぎる長兄や村長とは違い、自分の策謀には一点の曇りもない! と思い込んでいるだけの狐夫が話を持ちかけてきた。

 狐一家は我と同じ待遇に落とされている、頭の悪い一家だ。

狐妻も狐息子も疎ましいが、狐夫が一番無能だろう。

 そんな無能の提案に乗るのは、些か不安があったのだが、全ての責任を取るというので任せてやった。


 その、結果が。

 意識が回復して、まず映り込んできたマンイーターたち。

 常に食う側だった我が、食われる側に回った。

 この、状況なのだと。

 信じたくない。


 狐息子がキノコ人を唆して作らせた料理の出来映えはすばらしかった。

 効果を確かめようと半分を川の中へ注ぎ入れれば、川の魚が即座に浮かび上がったのだ。

 死んでおらず、ただ深く寝入っているだけなのは感知できた。

 この調子であれば、目が覚めても麻痺した状態だというのも叶っているのだろう。


 半分残った料理を狐夫に渡してやる。

 あとは奴らが上手くやるはずだ。


 そう思って任せてしまったのが、駄目だったのかもしれない。

 こんなことなら息子に任せておけば良かったと思ったときには、既に手遅れだった。


『全く。アイリーンの慈悲を悉く無駄にする、愚か者どもめが!』


『……このまま締め上げて、地獄へ落として差し上げたいですわ~』


『大恩がある村長に害なす物を、作るわけがないのです!』


 エルダートレントが、ラミアが、キノコ人が、激怒した。

 狐夫は料理を食べさせるのに失敗したのだ。

 しかもそれだけではない。

 あの稚拙な目論みが全て看破されていたのだ!


『罰として、貴方方を奴隷から解放いたします。貴方方は二度と、この村の住人と会うことはないでしょう』


 渾身の力を使って幾度となく千切り取ろうとした奴隷の首輪が、呆気なく外れて足元に落ちる。


「これで、貴様も終わりだあぁ!」


 奴隷の首輪には力を封じる効果があると聞いていた。

 最盛期の力が戻ったのだと信じて、村長に躍りかかる。

 村長の体と心を折るはずだった拳は、がつっ! とオリハルコンでも殴ったような、衝撃とともに、粉々に砕け散った。

 血と骨の破片が腕に降りかかる。


「ぎやああああああ!」


「最後までうるさいとは、しみじみ屑です」


 一歩前に出たキノコ人から、何やら甘い香りが放たれた。

 美しかった頃の妻から似た香りがしていたと、微かに記憶が揺らされる。

 昏倒する寸前、狐息子だけが青白い表情をしたまま立っていたのが見て取れた。



「貴様には慈悲をと、彼の方は仰せになった。我が誇り高きマンイーター族は、約束を破らない。さぁ、選ぶがよい!」


 マンイーター族が高貴な一族だと?

 人肉を貪り喰らう獣どもが、高貴を語るなど片腹痛いわ!

 そう、豪語しようと思っているのに、口が開かない。

 どころか、体が動かない。

 キノコ人が作った料理を食べていたなら、もしかして同じ状態になったのだろうか。

 

 これは、全身が麻痺している状態だ。

 さすがに目線は動くので、素早く周囲を伺う。

 隙間なく周囲を埋め尽くすマンイーターの数は、軽く見積もっても数十体。

 ゴンサロ一人では討伐仕切れない数だ。


 ゴンサロと同じ状態で倒れ伏しているのは、息子に狐夫婦。


 狐息子だけが、地面の上に姿勢良く座っている。


「マンイーター殿のご寛恕と御主人様の御慈悲に感謝申し上げます。自分はペネロペ殿から賜った薬液をいただきます」


「うむ。効果絶大な薬液と伺っておる。貴様の末路は揺らがないが、苦しむ時間は一秒たりとも刻まぬであろう」


「はっ」


 狐息子が生唾を飲む音が聞こえる。

 躊躇いの時間を、マンイーターたちは許すようだ。

 初めて見る光景かもしれない。


 狐息子は握り締めていた小瓶の中身を一気に呷った。

 薬瓶の中身は綺麗な虹色の液体に見えた。


 狐息子の手から小瓶が滑り落ちる。

 両腕をだらりと力なく投げ出した狐息子の表情には、狂笑きょうしょうが宿っていた。


「なかなかやりおるのぅ、あのキノコ。さぁ、骨と皮ばかりではあるが、赤子の滋養になろう。とくと食すがよい」


「有り難く」


 一歩前に出てきたマンイーターの腹が膨らんでいる。

 孕んでいるようだ。

 座り込んだ狐息子に近寄ったマンイーターは、容赦なく狐息子の四肢を引き千切る。

 血飛沫が派手に舞った。

 マンイーターの歓声が上がる。

 狐息子は狂った笑いを浮かべたままだ。

 痛みを感じているように見受けられない。


「あの小瓶の中身は痛みを感じさせなくなる効果があるとのことだ。また完全に命を落とすまで多幸感に浸っていられるという」


 何故、我の分がないのだ?


 喉の奥で声にならない呻きが零れた。


「その者だけが、己の所業を恥じ、反省したようだぞ? 慈悲深いホルツリッヒの村長が生きた贖いの道も示したそうだが、死による贖いを望んだ結果が、その薬だ」


 狐息子の四肢は、他の孕んだマンイーターに与えられた。

 残った体は最初に与えられたマンイーターが、嬉しそうに口にしている。

 ぼりごりと骨を噛み砕く音が響く。

 失禁に麻痺は関係ないらしい。

 下肢の一部が生温い温度に包まれた。

 それだけ、自身が冷えきっていたのだ。


「他の者に、薬は与えられない。我が一族に時間をかけて貪り食われるのだ。さぁ、選ばせてやろう。手からがいいか、足からがいいか? そうそう、頭からだと早くに死んでしまうから、その選択は与えられぬ」


口もきけぬのに、選べるはずもない。

 既に、ゴンサロたちの末路に選択権はないのだ。


 息子と狐夫は性器から食われている。

 性犯罪者は、ここから食べるのがマナーだと、雌のマンイーターが笑っていた。

 狐妻は乳房から食われた。

 雄のマンイーターが食べ応えがなくてつまらないと、笑いながら咀嚼している。

 侮辱に未だ目をぎらつかせる狐妻が一番、強き者だったのかもしれない。


 そしてゴンサロは四肢の先から同時に食われた。

 大の字に寝せられて、這いつくばうマンイーターどもが、指先からうっとりと咀嚼していく。

 爪先の痛みはどの部位よりも鋭いとされているのが事実だと、身を以て実感する。

 血を吐くほどに音のない絶叫を上げた。

 上げ続けた。

 零れ落ちた血をべろべろと舐めるのは、幼いマンイーターだ。

 その舌は酷くざらついており、やわらかな口周りの肉が、一舐めする度に薄く、こそげ落とされていく。


「慈悲を賜った者が三日。子が一か月、雌が半年。雄は一年といったところだろう。あの豊かな村を羨み、襲撃を図る愚か者どもは多かろうなぁ。縁を繋いでくれたこと、感謝しておる。今後の不埒者は全てこちらの餌として下げ渡してくれるそうだ」


 三日、というのは。

 一年というのは。

 死ぬまでの時間を示しているのだろうか。

 マンイーターがいう雄に、ゴンサロは分類されている。


 つまりこの、食われ続ける地獄は。

 一年も続くというのだろうか。


 一体我が、こんな酷い目に遭うほどの、何をしたといいうのだろうか。

 ただ誇り高きガルシア家の名を取り戻したかった、だけなのに。


「そうだな。感謝の証に、なるべく長く、喰らい続けてやろうか。どうだ。嬉しいだろう?」


 ずっと話しかけてきたマンイーターが、笑う。

 無様を晒すゴンサロを貶めるだけに言葉をかけて、嗤う。


 ゴンサロのできる意思表示は少ない。

 せめて最期の矜持だけは守ろうと誓ったのだが。

 瞳に溜まり零れ落ちた一滴の、痛みとは関係ない涙を、止める術は持たなかった。


 文書ソフトで文章を作成して、こちらへ投稿しているのですが、何故かこの話だけ文字数の設定が変更されてしまいました。

 どうしてそんな現象が起きるのかしら?

 単純に変更のキーを押してしまっただけの気がしますけどね。

 何時もより文字が大きくて校正が楽だったのは内緒です。


 次回は、アフタヌーンティーで報告会 前編(仮)の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。 

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