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雀人の様子見。後編

 見たい映画が十月に二本、十二月に二本あります。

 二本は行く相手がおりますが、二本は一人で行くことになりそうです。

 一人映画も乙なものですが、見たあとにやっぱり語る相手がほしいなぁと思う次第です。

 


 できあがった食事を、このまま外で食べるのかと思ったら、移動となった。

 集会所と呼ばれる場所へ連れて行かれ、あれよあれよという間に机と椅子がセットされ、食事が並べられる。

 手伝っていたトレントやエルダートレント様は出て行ってしまった。

 カネヤスの邪な考えを見抜いたのだろうか。

 汗が背中を伝う。


 テーブルの上には、それぞれの料理が大皿、大器に入って置かれた。

 給仕はスライムたちで、綺麗に盛り付けられた料理がカネヤスの前にも置かれる。


 ほこほこと湯気が立つ蒸しパンからは仄かに甘い香りが漂っていた。

 実に軟らかそうなパンだ。

 こちらのパンは一般的に硬いのもあって、あまり食が進まなかったが、このパンは美味しそうだ。

 中華風カステラのような印象を受ける。


 煮込み料理は、別に作ったスパイシークックルーの手羽元が綺麗にほぐされて上に載っていた。

 とろとろに煮込まれた米の中には、煮汁と一緒に肉も混じっているようだ。

 なかなかのボリュームと見た。

 香草などを載せれば、向こうで食べた中華粥に近い感じになるかもしれない。


 そして、卵かけ御飯!

 見た目は軟らかめに炊き上がった御飯。

 隣には綺麗なクックルーの卵と小皿に入った醤油が置かれている。

 醤油から何とも懐かしい香りがして、思わず鼻をひくつかせてしまった。


 それ以外にもお茶が用意された。

 陶器の器に入ったお茶からは甘い香り。

 キズナオール草の花の香りに似ているが、あの花はここまで芳香豊かではなかったはず。

 しかし似た花は思いつかない……。


 スライムたちが配膳を終え所定の位置と思わしき場所についたのを見計らって、カネヤスは口を開いた。


「大変申し訳ございません! 食事前に一つ、お詫びしなければならないことがありますので、少々お時間いただけますでしょうか?」


「はい、どうぞ」


 村長他一同どころか、アランバルリまでが姿勢を正すのでいたたまれなさが募ったが、ここで引くわけにはいかないのだ。


「実は、自分。魅了のスキルを持っております。特に力を入れた発動はしておりませんが、現時点でも僅かな魅了を使っております状態を深くお詫びいたします」


「僅かとはいえ、魅了を使い続けているのに、止めないのね?」


 白いスライムが代表して発言をする。


「商人として必要最低限の使用だと認識しております」


 今更引けない。

 引いてしまったら、終わる。


「商人と自負しているのならば仕方ないのではありませんこと?」


「なのです。程度にもよるのですが、この程度であれば、問題ないのです」


「う。でもアイリーンは殊の外、強制的な魅了は毛嫌いしているのよ?」


「ん。確かにそうだけど、こうやって告白してきたんだから、許してもいいと思うの」


 スライムたちが続々と意見を述べるのを、村長は黙って聞いている。


「……正直、商人といたしましては羨ましいスキルです。手前も持っておりましたら、商人としての節度を持って使用していたと思います」


 友よ!

 と叫びたくなったが、我慢する。


 村長の意見は最初から決まっていたような気もするが、アランバルリの言葉が最後の一手になったのは間違いなさそうだ。

 そこはかとなく漂っていた緊張感がゆるりと解けるのを、気配で察した。


「鑑定に関しての謝罪はないのかしら?」


 こてんと首が傾げられる。

 可愛らしい所作だ。

 男性なら誰しも、美少女にされたら鼻の下を伸ばしそうなほどの。

 しかしカネヤスは、それだけの所作に威圧された。


「許可を得ない鑑定をいたしました件について、深くお詫び申し上げます。これ以降は必ず事前に許可を取りますと宣言し誓約いたします」


 乾ききってしまった唇を舌で湿らせながら、何とか謝罪の言葉を紡いだ。


「……運が良いことに最初に遭遇した商人がアランバルリでしたから、貴殿に対しての評価が辛口になってしまった点はお詫びしますわ。商人としての誠意を今度も持ち続けてくださるのなら、対等な取り引きをいたしましょう」


 カネヤスは正解を選びきったらしい。

 汗がどっと全身から噴き出した。

 サクラがそっと布を差し出して、ローズが手元に水が入ったカップを置いてくれる。

 カネヤスは目線と会釈で感謝を述べて、水を一気に飲み干すと、布で汗を軽く拭った。


「では、どうぞ。インディカ米を美味しくいただく料理を御賞味くださいませ」


 あぁ、この方は人を料理でもてなすのが好きなんだろうなぁと、一目でわかる微笑を浮かべて料理を勧められる。


「有り難くいただきます!」


 返事はアランバルリが早かった。

 スライムたちから笑い声も聞こえる。


「いただきます」


 カネヤスもきちんと手をあわせてから、まずは蒸しパンをいただいた。


 甘い。

 そしてもちもちしており、ふわふわもしている。

 国に持ち帰ったら、朝食のローテーションに間違いなく組み込める美味しさだ。

 このパンのレシピだけでも、インディカ種の需要が高まるレベルの仕上がりだろう。

 

「どうにも米は米として食べるという認識が強く、パンにして食べようとは思いませんでした。日本では米粉パンなども食べておりましたが……」


「そうかもしれませんねぇ。小麦アレルギーの方が身近にいたら、また違ったかもしれませんが。この世界はパンも種類が少ないので、こういったパンを売りに出せばそちらの研究も進むかもしれません」


「ぱんだねは安価ですから、経済的に困窮している人にも人気が出るように思います」


「……教会や孤児院にも提供したいですね」


 アランバルリの言葉に頷いたところで、村長が卵をこんと手際よく割った。

 更に白身と黄身を分けている。


「では、インディカ米の卵かけ御飯を美味しくいただく儀式を始めましょう」


 儀式という大仰な表現に噴き出しそうになるのを堪える。

 冗談なのか本気なのか判断し切れなかったからだ。

 向こうでは卵かけ御飯論争なるものもあったことだしな。


「炊きたてインディカ米御飯に、まずは白身を投入します」


 おお、別入れ方式か。

 婆さんは、贅沢だとわかっていても黄身だけ+醤油を一垂らしが、最強の卵かけ御飯だと豪語していた。


「続いて御飯と白身をよく混ぜます。なかなかクリーミーな感じになります」


 なるほどと頷きながら、よくよく混ぜた。


「満を持して黄身を投入。醤油はお好みの量をどうぞ。黄身をちょっとずつ崩しながら食べる……以上で、儀式の説明は終了となります」


 村長は醤油を一垂らし、アランバルリも同じく。

 カネヤスも塩分の取りすぎは良くないのだからと、久しぶりの醤油を堪能したい! ひと回しかけたい! という欲求に何とか打ち勝つと、崩した黄身と醤油が混ざり合った部分とともに御飯をスプーンへと載せて、口の中へ入れる。


 至高!


 インディカ米で食べる卵かけ御飯もまた、最高だった。

 そして記憶の残る醤油の味にぴったりと嵌まった、何とも言えない爽快感。

 これぞ、醤油。

 これぞ、塩分。


 爺さんやー。

 塩分の取り過ぎは、いかんよー。


 遠くで婆さんの声が聞こえた気がしたが、今だけは許してほしい。


 夢中で黄身を崩し、醤油を垂らし、御飯とともに口の中へ! の永久運動を続ける。

 気がつけばあっという間に、器の中身は空になっていた。


「お代わりもありますが、クックルーのスパイシー煮込みも召し上がってくださいませ」


 山と積まれた卵、炊きたてが維持されているらしいおひつと思わしきもの、そしてたっぷりの醤油を見せつつも、違う料理が勧められた。


 そう。

 卵かけ御飯は恐らく国限定の料理になるだろう。

 米普及を旨にする身としては、より一般的な料理を知るべきなのだ。


「では、失礼して……」


 ほぐされた手羽元の肉が混ざっている粥は、ほんのりとした赤茶色。

 載っている肉と一緒に大口でいただく。

 

「ん!」


 ぴりっと効いた辛みがいい。

 肉汁もふんだんに出たようで、味が濃かった。

 肉のしっかりした食感が、粥の物足りなさを払拭してくれる。

 なるほど。

 これだけしっかり肉が入っていれば、広めやすそうだ。

 魚を使ったスパイシー煮込みも美味しいだろう。

 

 米を炊いたものをお粥に。

 もしくは生米からお粥に。

 というのが、今までのお粥の作り方だった。

 米を粉々に砕いたお粥もまた、美味しい。

 これがインディカ米にあった、お粥の作り方なのだろう。

 

 村長の知識には頭が下がる。

 

 一通りの料理を食べて満たされたまま、用意されていたお茶を飲む。


「うま!」


 またこのお茶も美味しい。


「このお茶の説明は、鑑定が早いのでどうぞ」


 鑑定を勧められたので、遠慮なくかける。


「はぁ?」


 そこには驚きの結果が表示されていた。


 ナオール花茶

 ランクSS 

 ニードルビーの蜜を使っているので高評価。

 殺菌済みの生花を入れたので芳香が大変豊か。

 花香かこうとも茶葉香ちゃばこうとも判別しがたいが、癒やされる香りをしているので飲みやすい。

 甘い物が嫌いな人でも何故か飲めてしまう不思議な薬茶。

 擦り傷切り傷は、ゆっくりと治癒される。

 内臓系の疾患は、重篤であっても状態が緩やかに軽減される。

 毎日一杯継続して飲み続けると地味に基礎代謝が上がる。

 ただし一日五杯以上飲むとお腹を下した挙げ句、免疫力が落ちてしまうので要注意。


 やはりキズナオール草を使っていたようだ。

 自分の勘がハズレなかったのは嬉しいが、効能が凄まじすぎる。

 ニードルビーの蜜がなくても、十分に美味しそうだ。

 国に帰ったら早速毎日継続して飲むように手配しよう。


「米だけではなくお茶のレシピまですばらしいとは……頭が下がります」


「気にいっていただけたなら、嬉しいですわ。ナオール花茶のレシピを含め、インディカ米のレシピもお持ちください。今、レシピも用意しましょう」


「フォルス様のレシピは手前が一手に引き受けさせていただいている。今回のレシピ制限はフォルス様、手前、カネヤス本人と厳選したイシスジャニア国民でどうであろうか?」


「おぉ! 好条件すぎて悶えるぜ。よろしく頼むな、バスコ!」


 喜びのあまりアランバルリの肩を激しく叩いてしまう。

 何故かローズが、ぴょんと跳び上がって喜んでいるようだ。

 一瞬理由を聞こうと思ったが、どこかで聞かない方がいいと声がするので、今回は止めておく。


 提示された物以外にも取り引きしたいあれこれが山のようにあったが、まずはもっと信頼関係を深めてからがいいだろうと、勝手に動いてしまう指先をぐっと握り混んで、欲望を抑え込んだ。

 そういえば先日、法事とコンサートが重なっていることを指摘されました。

 強行スケジュールですが、どちらもきちんと行けるという結論に達して一安心。

 今から体力増強に勤しんでおかないと……。 


 次回は、傲慢になった奴隷たち(仮)の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 次回も引き続き宜しくお願いいたします。

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