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雀人の様子見。中編

 元お爺ちゃんのテンションがあがってしまったため、現在の自分と昔の自分が本人気がつかぬうちに錯綜しています。

 主人公もそれに釣られています。

 お爺ちゃんは善人でした。

 カネヤス氏も本人が考えているよりは善人です。


 


「まずは蒸しパンから作りましょうか。材料をよろしく!」


「ん。インディカ米をだすのっ!」


 何と青色のスライムが綺麗に精米された米をだしてきた。

 しかも水に浸されている。

 既に吸水済みのようだ。

 更にこちらでは初めて見るミキサーらしきものまでだしてきた。


「まずは水を捨てて吸水済みの米を投入。新しく米と同量の水もミキサーに入れて、完全に混ざるまで粉砕します」


 蓋を取り、米と水が投入される。

 ふおーんと音がして、容器の中で米と水が躍った。

 凝視すれば、米が粉砕されて水と混ざり合っている様子が見て取れる。

 間違いない、ミキサーだ!

 息子の嫁が使っていたものと、ほとんど変わらない。

 よくできた息子の嫁は、健康に良いのです! と毎日ミキサーを使ってバナナジュースを作ってくれていたのだ。

 適度な距離を保てていたらしい婆さんも、嫁特製バナナジュースのレシピが豊富なのには毎度感心していた。


 しかし、この世界でミキサーを見たのは初めてだ。

 訝しげにアランバルリを振り返る。


『これぐらいで驚いていては、先が持たないぞ?』


 目が、そう語った。


 どうやら彼女しか持っていない器具のようだ。

 ミキサーは便利な料理器具なので、可能であれば販売してほしい。

 そういえば、この世界。

 バナナはあるのだろうか……。


「ほどよく混ざったら、水を追加します。カップ半分くらいですね。更に混ぜます」


 今度は手で混ぜている。


「ここに酵母を入れてもいいのですが、せっかくですから、便利なぱんだねを投入しますね。ぱんだねを使うと凄い時間短縮になるから驚きです。寝かせる時間が必要ないとか本当に有り難く思います」


 ぱんだね。

 市販物は安価だが美味しくないため、カネヤスはほとんど使わない。

 何となく格段に美味しいと噂の野生種を使っているんだろうなぁと思えば、視界の端でスライムが大きく頷いた。

 ……まさか、心を読まれているのではなかろうか……。

 規格外過ぎるスライムに恐れを抱く間にも、作業は進んでいく。


「これで生地は完成です。あとは蒸すだけですね」


「セットするのです。任せるのです」


「じゃあ、サクラによろしくー」


「よろしくされるのです……ちなみにこれは、蒸し器なのです。簡単に作れるのです」


 サクラと呼ばれたスライムがカネヤスを見上げてくる。

 どうやら自分に説明をしてくれているようだ。


「国には竹がよく育ちまして。蒸し器も竹製を使用しておりますよ」


「……竹の子供はいるのです?」


「おぉ、タケノッコンを御存じで? ございますよ」


「入手は可能ですか?」


「ええ、勿論。米以外にも有用性を見いだしていただけたなら光栄でございます」


 村長が口を挟んできた。

 日本人はタケノコ好きだからなぁ。

やっぱりこの人、元日本人だよな。

 友好的な関係になれたら、聞いてみよう。

 それより、あれだ。

 魅了について何時白状すればいいだろう……。


「では次回来てくださるときに、持ってきていただけたら嬉しいわ。時期的に大丈夫であれば、ですけど」


「竹には何種類かございまして、何時でもどれかは食べられるので、次回には必ずお持ちいたしましょう」


「素敵!」


 ぱんと手を叩く村長の笑顔は、なかなかに愛らしい。

 決まった相手はいないのだろうか?

 

「持ってきてくださるときには、料理なども教えていただけるかしら? 私が知っている料理もお教えしますので」


「光栄でございます!」


 タケノッコンの料理は、こちらの世界では手間がかかりすぎると敬遠されている。

 もっと手軽にできる方法を村長なら知っている気がして、胸の中で期待が大きく膨れ上がった。


「蒸し器には目の粗い布を入れて……強火で二十五分かかります。その間にクックルーのスパイシー煮込みにかかりましょうか」


「使う材料はこちらになりますわ」


 今度は赤いスライムがクックルーの肉を作業台の上へ置く。

 どうやら全スライムに、収納スキルがついているようだ。

 どれぐらいの容量が入るのだろう?

 このスライムたちなら、無限容量と言われても納得できそうな気がした。


「インディカ米はお粥に仕上げます。お米をくったくたになるまで煮込んだものです」


 これはなー。

 物足りないって言われるんだよなぁ。

 あとはやっぱり時間。

 炒めるよりどうしたって、時間を食うからさ。


「クックルーは手羽元を使います。調味料はローリエ、濃い口醤油、日本料理酒、米酢、ニンニク……あ! チリパウダーってある?」


「チリパウダー? ……近いものなら調合できるのねー。少し待つのねー」


「ありがとう!」


「ちょ、ちょおっと待ったぁ!」


 聞き捨てならない単語が幾つも聞こえて、思わずあり得ない話の遮り方をしてしまった。


「あら、大興奮。どうかしましたか?」


「濃い口醤油、日本料理酒、米酢って!」


「イシスジャニア国にはありませんの?」


 あって、当然みたいな顔をされても困る。


「ございません!」


「美味しいお米を作る腕は確かだけど、二次加工には向かない……そんな感じかしら?」


「そのとおりでございます! それらの調味料の入手は叶いましょうか!」


「うーん。少量であればあるいは。この調味料で商売をしようとは思っていないんですよね」


「そこを何とかお願いいたします!」


 特に醤油は熱望する。

 刺身が食べたい。

 料理用じゃない日本酒も飲みたい。

 なければ、料理用でもいいから飲みたい!


「なるべくなら作る方向で考えてほしいわ」


「え! レシピも御存じなのですか?」


「私の持っている物と全く同じではなくとも、イシスジャニア国に根付いた味には、仕上げられるんじゃないかしら?」


 凄い。

 何だ、この人は。

 ああ、そうか。

 孫よ。

 これがチートなんだな?


「チートすげぇ!」


 思わず孫の口癖がでてしまった。

 それぐらいの衝撃だ。


「……異世界転移?」


「いえ、転生の方です。その、孫が詳しくて。孫の口癖でした」


 思いもかけずに村長が聞きたくて我慢できなかった話を振ってくれる。

 それほど気になる言葉だったのだろう。


「なるほどなるほど。私は……転移です。予告説明なし系の」


「それはそれは……不遇スタートという奴ですな?」


「そうでもありませんでした。この子たちには、ほぼこの地に降りたったのと同時に出会えたので」


 スライムが村長の周囲に近寄ってきた。

 思わず鑑定をしてしまったときの不穏な気配は随分と薄れている。

 しかし未だ観察というよりは監視をされているようだ。


「日本人の記憶があるからといって、特別な待遇を取ろうとはいたしませんこと、御理解くださいませ」


 しかも村長に深々と頭を下げられてしまう。


「いえいえ。それは当然のことでございます。私どもも寄生する気など微塵もございませんので、御安心くださいませ。国の者にも伏せておきましょう」


「理解してくださってありがとうございます。向こうでは困った方々に囲まれておりました関係で、必要以上に警戒してしまいまして恐縮です。特に年配の方に御無礼をつかまつりました」


「先ほどの、一介の商人に対する口調で話していただければ、今後も持ちつ持たれつの関係を続けられると思いますので……是非に」


「……お気遣いありがとうございます。そのお心には応えたいと思います」


 幼げな様子の中に、大人の気配を感じ取る。

 少なくとも社会に出た経験のある年齢だったのだろう。

 転移の際に若くなるケースがあるのは、ラノベで理解済みだ。

 交渉の余地があるだけで十分といえよう。


「では、料理を続けますね。チリパウダーの調合もできたようですし」


「完璧な調合ですわ。アイリーンを辛党にして差し上げましてよ!」


「ほどほどにお願いしますね、ローズ様」


 ローズと呼ばれたスライムが、ほほほほ! と笑う。

 まさか高笑いが似合うスライムに遭遇するとは思わなかった。

 孫がこちらに転生していたらさぞ喜ぶだろうに。

 

「こちらも一時間以上煮込むのですが、さくっと時間短縮しますね」


 時間短縮!

 これまた恐ろしいスキルだ。

 ここは聞き流しておこう。


「お粥の上に載せて、よく肉をほぐし、お粥に絡めて食べると、味が強くなりますし、肉が入っている分ボリュームも出ると思うのです。そして卵かけ御飯ですが……」


「醤油があるなら、納得でございます!」


「こちらでは生食は不可とされておりますよ」


 アランバルリが口を挟んできた。

 生卵を食して亡くなった人の話でも聞いたのだろう。


「いやいや、大丈夫だぜ。イシスジャニア国内では卵……クックルーを管理して繁殖させて、新鮮な卵をきっちりと期限以内に使い切るようにしてるからな!」


「そうだったのか……教えてほしかったな、その知識」


「やー生卵は卵かけ御飯にしか使わないと思っていたから、さすがに教えなかったんだよ。間違った情報が錯綜しそうだったってーのもあるぞ?」


 魔力に自信があれば、浄化魔法を使うのもありだけど、そこまでして生卵を食べようと思う人間なんて、この世界では少ないだろう。


「ふふふ。仲がよろしいんですね? こちらで提供するクックルーの卵もスライム管理で新鮮なので、御安心くださいと申し上げようとしたのですよ」 


 ここでもスライム!

 村長もチートだが、スライムたちもチートらしい。


「それでは安心していただけますね、インディカ米での卵かけ御飯」


「食べるときにより美味しい作法があるので、それは召し上がるときにお伝えいたしますね」


「はい! お願いいたします。楽しみでございます!」


 きっと日本でも料理が得意で、好きだったんだろうなぁと、孫を見る目で見つめてしまう。

 村長はカネヤスの目線の意味を悟ったのだろうか。

 困ったような微笑を口の端に浮かべた。

 そこに嫌悪がなかったのは、カネヤスが元日本人で、村長よりもかなり年上だったのを理解していたからに違いない。

 

 インディカ米卵かけ御飯の紹介記事を読んで食べたくなりました。

 そのうち挑戦するかもしれません。

 インディカ米はアウトドア系に向いているようですよ。

 機会があったら試してみたいかも? と思うも、アウトドアはそちらに特化した方と行かないと厳しいですよね。


 次回は、雀人の様子見。後編(仮)の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 次回も引き続き宜しくお願いいたします。

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