勘違いする奴隷たち。
偏頭痛用の薬を飲むか迷いながら何時もの鎮痛剤で、痛みをやわらげています。
忘れたと思ったのか? 本当は痛いと気付きたくないのか? んん? と頭痛に訴えかけられている気がして、もだもだします。
体調不良時に文章を書くと、ダーク寄りになるのは仕様です。
御主人様が御自宅から出てこられなくなって、一週間。
御様子を伺えば、元気に作業をしていらっしゃるという話だった。
元々一人で作業するのに慣れすぎているので、集中力が落ちてきたら顔を出すと思うのねーと、リリーさんが教えてくれる。
食事時には良い香りが漂ってくるので実際、病気などになられてはいないのだろう。
もしそうだとしたらスライムさんたちが、心配でそわそわしているはず。
「作業は難しくもないし大変じゃない。子供らは元気だし、食事も美味い。奴隷だった頃どころか、農家をやってた頃より遥かに恵まれた暮らしはしている、けど」
「御主人様のお顔を拝見できないとなぁ……」
「イマヒトツやる気が削がれますね。贅沢な話だと重々承知していますが」
畑作業をしながら溜め息を吐く三人の言葉に賛同した。
仕事は多岐にわたり、やりがいはある。
望めば勉強までできるのだ。
奴隷に落とされてからどころか、貴族でいた頃よりも心身ともに満たされている。
今までとは比べるべくもない恵まれた環境下にあると、どうしても、足りないものを求めてしまうらしい。
それだけ私たちは、御主人様を信頼し、依存していた。
一人一体のトレントがついているので、奴らが私たちを害する心配が全くないのもあるだろう。
個性豊かなトレントたちは驚くほど優秀だ。
子供たちについているトレントは、一緒に遊びもしてくれるらしい。
私についているトレントは、他の個体に比べて物静かだが、望むときに望む手助けをしてくれる。
幾度となく奴らから助けてもくれた。
望めばきっと、奴らの羨む視線からも助けてくれるだろう。
奴らは一週間ずっと釣りをやらされているようだ。
釣りなんて、贅沢な娯楽じゃないのよ? とペネロペさんは首を傾げた。
私も同意しかけたが、遠巻きに観察するのに、なかなかの罰のように見受けられる。
リリーさんの説明曰く。
釣果が出ないと食事がもらえない。
釣果は食べては駄目。
他の食事は当然駄目。
それ以外の作業は許されない。
指示された作業以外のことをしでかした日には、トレントによって宙ぶらりんの刑に処される。
足首を持たれて逆さまに吊り下げられる、恐ろしい罰だ。
あの愚か極まりない虎親子ですら、一度経験して、二度は嫌だと涙目になったらしい。
私に似たような無体を強いた過去などすっかり忘れているのだろうが、同じ目もしくはそれ以上に酷い目にあっているのを見れば溜飲も下がった。
しかし。
そんな馬鹿愚かな奴らでも、さすがに一週間ともなれば、指示通りに作業して、食事にありつけるようになってもいるようだ。
ペネロペさん曰く、味はどれも絶望的にまずいのですよ。それ以外にもいろいろと試しているのですよ。虎親子は身体能力の低下、狐家族は知能の低下を狙っているのですよ。とのことだった。
奴らが自慢としているそれらが衰えるならば、たとえ労働力の価値は失せても、私たちの憂さは晴れるだろう。
「休憩でもする?」
思考に沈みながら畑の草むしりをしていれば、トリアさんが手と枝に飲み物を持って声がけしてくれた。
「ありがてぇ!」
大喜びのチコに私たちは苦笑を浮かべつつも、有り難く休憩を取る。
飲み物を持って、トレントの根元に腰掛けた。
葉が優しく揺れる音が耳に心地良い。
影のお蔭で快適な涼しさなのだ。
言葉の通じないトレントたちはなかなかに個性豊かだが、どの個体も優しいという点は共通していた。
「そういえば、アランバルリからアイリーン宛てに手紙が来てたんだけどさー。猿元夫人、なかなかに人気だってよ?」
「それはそれは……結構なことですなぁ」
悪巧みをしているような表情のトリアと、全く同じ表情でテオが頷く。
「アイリーンはスライムたちに言われて、もっとやれ! どんどん使え! って書いていたみたいだね」
寛容で優しい御主人様はさて置き、スライムたちにしてみれば猿夫人の態度はあんまりだった。
けれど、ああいった性格は娼館では人気らしい。
情け容赦なく無体を強いられるからと聞いて、なるほどと思う。
「……まさかとは思いますが、身請けとかあるんでしょうか?」
テオがふと思いついたように尋ねている。
特殊性癖を満たしてくれる奴隷はある意味貴重かもしれない。
自分だけが使えるという点に、拘る者もいるだろう。
テオの心配は無理もなかった。
「あの娼館にはないみたいだよ? 例外的にアイリーンが望めばできるらしいけど」
「売り主が望めば、と?」
「違うよ。あくまでもアイリーンが特別扱いみたい。何かねー。会ったこともないのに、今後も大変お世話になると思いますので……って娼館の支配人が、特別に取り計らっているみたい」
「ほう」
「皆が落ち着いたら直接復讐をって思うかもしれないじゃない? アイリーンは皆が望むなら身請けも考えるだろう……っていう、判断みたいだよ。凄いよね。僕は説明されないとわからなかった」
「手前どももわかりませんでしたよ」
皆と一緒に私も頷いた。
娼館の支配人は恐らく先見の目があるのだろう。
御主人様が評価されるのは嬉しい。
それが自分の復讐を代行してくれる、組織の最上位の者とも思えば尚更だ。
「というわけで猿元夫人は絶賛贖い中で安心なんだけど……あいつらは、どう思う? 何かさー。釣果が一定数出るようになってから、勘違いし始めた気がするんだよね」
「ペネロペさんのキノコ料理による効果が出始めたのでは?」
「あーそうかもねぇ。狐親子まで短絡的になりつつあるし」
「効果って? 何か仕込んでるんですか、あの楽しいキノコ娘さんは」
「奴らの身体能力の低下や知能の低下を狙って、料理されているようですよ」
「はぁさすがだねぇ。あんなに美味しいキノコ料理を作っているとは思えないよねぇ」
「全くですわ」
私もダナと一緒にペネロペさんにキノコ料理を習っている。
ペネロペさんは謙遜するが、食べられないキノコが食べられるようになる上に、大変美味しい料理ばかりなのに驚かされた。
基本ペネロペさんの料理はキノコしか使っていないのだが、他の野菜や肉に魚なども、あくまでもキノコの味を高める素材としてだが、使うようになってきている。
トリアさんと相談の結果らしい。
いつかは美味しく自分を好きな人に食べてもらうために! という最終目標が叶ってしまうのは残念だが、親切に真摯に教えてくれるペネロペさんに、私も助力を惜しまない心積もりだった。
「知能が低下したら虎親子と同レベルか……今までは、虎親子の暴挙を一応咎めていた狐家族が、同調するようになる気がしてきたんだよね」
トリアさんの言葉に顔色が悪くなってしまった。
身体能力が落ちたからといって、私自身にはやつらに抵抗できる術はない。
「ああ、ごめん。エステファニア。皆の護衛はばっちりトレントたちがしてくれるから、安心してね。私もトレントたちが一体でも反応すれば、制圧なんて簡単なんだから」
私が寄りかかっていたトレントの枝が伸びてきて、そっと頭を撫でられる。
言葉が発せなくても、理解はきちんとできているのだ。
ありがとうと小さく囁きながら枝を摩る。
「まぁ、何かしでかしたら最後。奴らの娼館行きは確定だからさ」
「ですね」
「……そういえば、エステファニア。アランバルリとは実際、どうなの?」
「ど、どうなのとは?」
「ふむふむ。興味津々とね? いいねぇ。アイリーンは残念ながら恋愛には興味なさそうだからなぁ」
「そうなのでしょうか?」
「今は面倒なんだって。スライムたちと一緒にいるのが楽しいみたい」
トリアさんの言葉を聞いて納得した。
御主人様とスライムさんたちの仲睦まじさは、見ているだけでも微笑が浮かんでしまうほどなのだ。
あそこまで良好な関係を築けてしまえば、他に目が向かないのも無理はない。
「で、どうなの? エステファニア」
ダナまでがにこにこしながら追求してくる。
チコは、女の恋愛話には興味ねぇなぁーと、トレントに寄りかかって目を閉じた。
テオも興味があるらしい。
私は今更何をも取り繕う必要もない相手に、羞恥で重い口を開く。
「お慕いしております」
「おぉ! 恋バナ!」
トリアさんが楽しそうに手を打った。
「告白はしたのかい?」
「はい、想いは告げました」
テオが自分の妻よりも私を想ってくれていたのは、うっすら感じ取っていた。
アルマを可愛がっていたのもあるだろう。
アランバルリに出会わなかったら、もしかすると彼を選んでいたかもしれない。
私は自分自身の男性依存の強さを、きちんと理解している。
そうとは呼びたくない夫から解放されるずっと前から今の今まで、自分を助けてくれるかもしれない男性に対して、無意識の御機嫌取りをしていた。
だからこそ、今。
質問に対して誠実に、率直に答える。
「まぁ! アランバルリ殿はなんて?」
「独立のめどがついたら、一緒になろうと、言っていただけました」
トリアさんとダナは手を叩いて祝福してくれた。
テオも少しだけ切なさを載せた微笑と一緒に、祝福の拍手をしてくれる。
チコも投げやりではあるが、ちゃんと拍手をしてくれた。
「御主人様の手紙に追記してもらうことができたよ。ふっふっふ。アランバルリの独立を手助けするように言ってくるわ!」
トリアさんは素早く空いたカップを回収すると、足取りも軽く御主人様の自宅へと向かった。
「トリアさんが行っちまったんなら、続きの草むしりでもすっか。ダナ! あんま、エステファニアを質問攻めにすんなよ!」
「わかっているわよ!」
「では、二人はあちらをお願いしますね。手前とチコは向こうを片付けますから」
二人揃って、それぞれの優しさを示してくれるのに、頭を下げる。
喜びながら感謝して頭を下げるなんて、本当にどれぐらいぶりなのだろう。
何時だって申し訳なさと詫びのためだけに、頭を下げ続けてきた。
抜いた雑草を一時的に入れておくための籠を抱えて、トレントが影を作ってくれた場所へと移動する。
腰は疲れるが、トレントのお蔭で日差しや暑さからは随分逃れられていた。
「……御主人様を始め、皆が守ってくれているけど、エステファニア。あんた自身もしっかり気持ちを持つんだよ。あの馬鹿どもが難癖つけてくる可能性はあるからね」
「ええ、わかっています」
私は奴らのような勘違い奴隷にはならない。
御主人様を侮るなんて、天地がひっくり返ってもないのだ。
優しい御主人様やスライムさんたちに、恩を仇で返すつもりは微塵もない。
こうやってそばに寄り添って心配してくれるダナや、想いを受け入れてくれたアランバルリのためにも、私はもっと強くなるのだ。
喜多愛笑 キタアイ
状態 心身ともに良好
料理人 LV 4
職業スキル 召喚師範
スキル サバイバル料理 LV 5
完全調合 LV10
裁縫師範 LV10
細工師範 LV10
危険察知 LV 6
生活魔法 LV 5
洗濯魔法 LV10
風呂魔法 LV10
料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用
掃除魔法 LV10
偽装魔法 LV10
隠蔽魔法 LV10
転移魔法 LV ∞ 愛専用
命止魔法 LV 3 愛専用
治癒魔法 LV10
人外による精神汚染
ユニークスキル 庇護されし者
庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化 解体超特化
称号 シルコットンマスター(サイ)
ホラーを書いていたら、一般的な男性のしゃべり口調がわからなくなってきました……。
OLやってた頃は、いろいろなタイプの方がいて、然程悩まなくてもすんだんですけどね。
久しぶりに飲み会でも開催して、普通のしゃべり口調を体感したいです。
実況系も結局、視聴者ありきのしゃべりなんで、なんかこう違うんですよね。
コロナの完全収束を祈っておきます。
次回は、雀人の羽はふわもこ。(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
次回も引き続き宜しくお願いいたします。