盗賊退治完了の宴。……ます! 前編。
前歯の仮歯が取れてしまい、口を開けるとただでさえ気の抜けた顔が、更に間抜けな顔に……。
仮歯が取れすぎなので、インプラントとか入れ歯とかを検討しないといけないのですが、保険適応の入れ歯を使う勇気が出ないのです。
あの銀色の留め具? がもう少し控えめだったらいいのになぁ。
ジュースを飲み終えた子供たちが、ぷはー! と大きな息を一つ吐く。
間を置かずに、それぞれ次はこれ! と選んだジュースに取りかかるのに笑いを誘われた。
「え! これだけなの?」
アミューズが出されて、アルマが絶望の声を上げる。
「これ、アルマ!」
「アルマちゃん。これはアミューズと言ってね? これからたくさん出てくるお料理のうちの一つなの」
「そうなんだ! ごめんなさい、ごしゅじんさま!」
「まぁ、確かに最初に出てくる料理がこれだと、物足りない気がしちゃうかもね。まずはよく噛んで楽しんでみて? 量こそ少ないけど、味は最高なのよ。サクラのセンスが光っているでしょう?」
「うん。こんなかわいいおりょうり、はじめてみます! うわー! これイモジャガ?」
「ん? まさか、どっちもイモジャガなのか!」
アルマの言葉にテオが驚いている。
「うわー。イモジャガなんて食べ慣れているのに、初めて食べるみたいです」
「どっちも美味しいなぁ……山盛り食べたいよ」
「俺もー」
「私もー」
犬親子の気持ちはわかるが、この先が長いので、山盛りは勘弁してほしい。
「イモジャガの可能性が広がるお料理ですわ……香草がこんなに食材を引き立てるなんて驚きです」
ディルは魚との相性抜群だからね。
エステファニアの舌を満足させたようで何よりです。
ほっくり焼きのイモジャガ ディルとシーニンの黄金魚卵を添えて
ランクSSS
シーニンの黄金魚卵を使用しているので最高ランク。
イモジャガの焼き加減、ディルの芳香、黄金魚卵の食感の組み合わせが秀逸の一品。
一口サイズに可愛らしく盛り付けられている。
滋養強壮効果大
免疫力向上効果大
口臭予防効果大
イモジャガのムース 刻みジンニンとホワイト&グリーンスパラー
ランクSSS
ムースの作り方が新レシピに該当するので最高ランク。
口触りの優しいイモジャガムースの上に、刻んだジンニン、グリーンスパラー、ホワイトスパラーが繊細に飾られている。
利尿作用効果大
新陳代謝活発効果大
乾燥肌改善効果大
「……こんなにお野菜がたくさん入ったテリーヌなんて……しかも食感がなんてすばらしいのかしら……!」
エステファニアが瞳を潤ませながらテリーヌを堪能している。
アミューズに続いて、好みに合っているらしい。
美女が美味しい物を食べているときの幸せ顔って、見ているこちらも幸福にしてくれるよね。
「絵本で見た、お野菜好きな女神様が食べる御飯みたい!」
「あー、あれか。確かに似てるなぁ」
「おほしさまも、おはなもあるね! どっちもおいしいなぁ……」
ラオクとベビーモロコシが特に好評らしい。
見た目が可愛いからね。
子供受けがいいのはわかってた。
「これがピンクワイン! 神様の飲み物ですな!」
「……美味しい……高級ワインって、こんなに美味しい酒なんだ……」
「今まで飲んでいたお酒って、何だったのかしらねぇ、貴方……」
大人組はワインに浸っている。
どうやら美味しく飲めているようで何よりだ。
悪酔いしない程度に楽しんでほしい。
「そうよ。皆上手ね」
「エステファニアさんのお手本が素敵だからです!」
「私もエステファニアさんみたいな淑女になりたいわぁ……」
「ドラちゃんなら、なれるよ!」
「ふふふ。ありがと。アルマちゃんだって、きっとなれるよ!」
「へへへ、そうかなぁ?」
子供組はエステファニアの所作を懸命に真似しながら、マナーの会得に励んでいる。
「エステファニアさん。これって……何かこう、上手に切れないんですけど、コツはありますかねぇ?」
「このお料理だとキャノベツが切りにくいかもしれませんわね。最後にこんな感じでナイフを動かすと……上手に切れますわよ」
「あ! 本当! ……あと、こうやって崩れちゃった物をスプーンで掬って食べたら、マナー違反かしら?」
「違反という方もいらっしゃいますけど……御主人様は残される方がお嫌だと思うのです。残さずに食べるのもマナーの一つですわ」
「手前たちが、御主人様とともにいないときに、まずこんな高級な料理を食べることはないでしょうからなぁ……ここは、なるべく崩さないように頑張って、失敗した分はスプーンでいただくことにしましょう」
「ええ、それでよろしいと思いますわ」
大人組も頑張って積極的な質問をしている。
エステファニアもよく私の意を汲んでくれた。
料理人としては残されるのが一番悲しい。
お皿の上が綺麗であればあるほど、喜びは深まるのだ。
マナーを学びながらなので、食べるペースはゆっくりだ。
子供たちも学びながら食べることを理解しており、はしたなくがっついたりはしなかった。
もともと親の教育がいいのだと思う。
しみじみ良い奴隷を得られた。
ちなみに、屑どもは隔離スペースからこちらをガン見している。
特に狐親子の反応が凄まじい。
多少なりとも料理の価値がわかるからだろう。
酷く悔しそうな表情をしている。
犬親子がそんな狐親子を見て、ふんふんと鼻を鳴らしていた。
過去に何やらあったのかもしれない。
可愛らしいと思ってしまうドヤ顔は珍しいものなので、私としては溜飲が下がったなら何よりだ。
六種類野菜のテリーヌ
ランクSSS
ゼラチンが使われているので最高ランク。
この世界にもテリーヌはあるのだが、レベルが違う感じ。
また野菜のみのテリーヌは存在しないようだ。
ダイエット効果大
便通効果大
美肌効果大
「さぁ! 隠しキノコに何が使われているか、見事当ててみせるのよ!」
「あらあら。さすがにそれは無理だと思いますわ、ペネロペ」
テリーヌの皿が片付けられて、スープ皿が置かれる。
我慢できなかったようにペネロペが声を上げれば、カロリーナがやんわりと窘めた。
「そ、そんなことはないと思うよ!」
「だって、ペネロペ厳選キノコは、味も別物なんですもの~。自覚していただかないと困りますわ~」
「……それって凄く美味しいということなのよ?」
「それは、皆様のお顔を拝見すればわかりますわ~」
ペネロペが恐る恐る周囲を見回す。
キノコに関しては、あのトリアですら認めているというのに、彼女はどこか自信なさげだ。
「凄く美味しいよ、ペネロペ! 隠しキノコの一つはコウミタケだろ?」
「さすがはトリアだね! 希少なコウミタケを乾燥させたものよ。従来のコウミタケより香り控えめなのが自慢よ」
「うん。鼻の強い魔物は絶対近くに寄らないくらい強い匂いだからねぇ。よくここまで仕上げたものだ」
「へへへ。ありがと。喜んでもらえて嬉しいよ」
一種類だけとはいえ、希少性と苦労を認めてもらいペネロペは実に嬉しそうだ。
「肉の香りとキノコの香りと、どっちも負けてないね! 俺たちでもわかる凄さだね!」
ゴヨが皿の隅々までを舐め取りながら褒めちぎる。
犬獣人にとって肉と同列に並べるのは最高の賛辞なのだ。
「これ! 舐めるのはマナー違反です! 家の中だけにしなさい。御主人様の前では駄目ですよ」
舐めるのは、犬獣人の習性なのだろうかと、ダナの物言いから察する。
あまり我慢させたくないが、人前で恥をかかせるよりはいいだろう。
苦笑すれば、気をつけますね、御主人様! と頭を下げたゴヨは、ペネロペに肉の味がするキノコはないかと尋ねている。
これなら肉もキノコもどっちも楽しめて嬉しいと言うのだ。
ペネロペは微妙な表情をしたが、頼まれるのは嬉しかったようで、今度教えてあげるよ! と大人の対応を見せていた。
他の隠しキノコは、さて何だろうと思いつつ、スライムたちも激論を交わしているほど難解らしいので、今回は秘密のままにしておいた。
語りたくなればペネロペがどこかで語るだろう。
クリーミーなスープに、それぞれの食感を残すキノコとベーコンが、お代わりをしたくなるほどに好ましかった。
ベーコンと三種キノコのクリームスープ 隠しキノコ入り
ランクSSS
ペネロペキノコ使用につき最高ランク。
隠しキノコの一つは希少性の高いコウミタケの改良種。
料理人がこぞって求めるに違いない乾燥コウミタケの価値も高い。
老化防止効果大
美容効果大
二日酔い改善効果大
「ゴヨ君、スープとかソースとか全部食べたかったら、こうやってパンに吸わせて食べるとマナー違反にならずに、美味しくいただけるのよ」
「ん! 本当だ。ふわふわパンがすっかりスープを吸ってくれたよ! しかも吸ったパンも美味しいし!」
「うー! うー! ずりぃぞ、ドラ!」
「ふふん。質問しないで食べ尽くしたゴヨが駄目駄目なんじゃん?」
「ふたりとも、けんかはめーよ! ごしゅじんさまがいろいろなおりょうりをたべさせてくれるって、おっしゃったもの。つぎのおりょうりでためせばいいとおもうわ!」
アルマの主張に犬兄妹は笑って頷いた。
食事を存分に楽しみながらも、大人たちの子供を見守る眼差しは、何処までも優しい。
「う! 次はポワソン。魚料理なのよ。お魚はスズキサン。添え野菜はニッキーズ、トメト、スカイビーンなのよ!」
「まぁ……なんて素敵な彩りでしょう。サイさんもすばらしいセンスの持ち主なのですわね」
「ええ、自慢のスライムたちです。皆それぞれセンスがいいのよ」
「う! 熱々をふーふーしながら食べるのよ! 子供たちは特に気をつけて食べるのよ」
「おさかなおいしいー」
「今度はちゃんとパンにつけて食うぞ!」
「え? 骨が全然ないよ!」
丁寧に骨取りをしてくれたのだろう。
骨が舌に触ることはなかった。
口の中で身がほろほろと崩れる。
よく食べる白身魚といえば鯛か鱈だったが、そのどちらとも違う味わいで、とても美味しい。
ムニエルなので、魚の旨味が逃げずに凝縮されているせいかもしれない。
「はー、ホワイトワインも……大変美味しゅうございます……」
「こちらもお代わりしたい美味しさです……口の中の脂がすっきりするんですね」
「何杯でも飲めるぞ! 美味しい酒は悪酔いしないんだなぁ……」
安酒は浴びるほど飲んでもなかなか酔わなかったりする。
酔いたいとき、欲望に突き動かされるまま飲んだら、そりゃ悪酔いもするだろう。
というか、チコは酔っていやしないか?
「大丈夫か、チコ。美味しいお酒も食事もまだ続くぞ? お代わりは控えておいた方がいいんじゃないのか」
「ううーん。そうかなぁ。テオが言うならそうするよー」
私が言っても聞かないくせに……と拗ねるダナは、エステファニアが慰めていた。
彩りも焼き目も最高の野菜にも、スズキサンから滲み出たエキスを絡めながらいただく。
パンの出る幕はなかった。
スズキサンのムニエル 野菜を添えて(ニッキーズ、スカイビーン、トメト)
ランクSSS
骨まで綺麗に取られているので高評価。
意外かもしれないが、この世界ではそこまで料理に手間がかけられていないことが
多い。
豊かな味わいに思わず至福の溜め息が出てしまう魚料理。
暗視効果大
骨強化効果大
美肌効果大
「ん! 一休憩のソルベなの。最初に言っておくけど、お代わりはなしなの!」
モルフォが小さな器を出していく。
これまた小さなスプーンで中身を掬って口にした、皆の目がくわっと見開かれる。
「お、おかわ!」
言いかけたテオが恥ずかしそうに頬を染めて口を噤む。
「ん! 気持ちはわかるけど、このソルベは口直しのソルベなの。食後のデザートにソルベはないけれど、甘い物は食べ放題でだされるから、そっちを楽しんでほしいの」
「た、食べ放題!」
「あまいもの、たべほうだい!」
狸親子が顔を見合わせて頷いた。
彼らは甘い物も大好きらしい。
「爽快感が心地良いソルベでございますわ……子供にも優しい甘さですわね」
「これってイエローベリーですわよねぇ~。あの酸味がここまでまろやかになるなんて……お料理って偉大ですわ~」
おなかが空いたときに気を紛らわせようとして、イエローベリーを丸かじりしていたカロリーナならではの感想だ。
味見をして、皆より多く食べているにも拘わらず、お代わりが欲しくなってしまったのは誰にも言えない。
ずるい! と暴れそうな輩は皆、隔離スペースに入っているとしても、告白するのは勇気が必要だった。
御主人様としての威厳が! などと考える自分に苦笑する。
ローズが気合いを入れてソルベの時間が終わるのを、今か今かと待っているのを横目でチラ見しながら、最後の一口を口の中に入れた。
イエローベリーのソルベ
ランクSS
何かを飾る、もしくはソースをかけるだけで最高ランク。
ニードルビーの蜜が絶妙な配合で混ぜられている。
酸味と甘みのバランスがほどよい、口の中がさっぱりする系ソルベ。
血圧改善効果大
疲労回復効果大
喜多愛笑 キタアイ
状態 心身ともに良好
料理人 LV 4
職業スキル 召喚師範
スキル サバイバル料理 LV 5
完全調合 LV10
裁縫師範 LV10
細工師範 LV10
危険察知 LV 6
生活魔法 LV 5
洗濯魔法 LV10
風呂魔法 LV10
料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用
掃除魔法 LV10
偽装魔法 LV10
隠蔽魔法 LV10
転移魔法 LV ∞ 愛専用
命止魔法 LV 3 愛専用
治癒魔法 LV10
人外による精神汚染
ユニークスキル 庇護されし者
庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化 解体超特化
称号 シルコットンマスター(サイ)
宝くじが高額当選したらインプラントで前歯を綺麗にして、強制ダイエット入院とかしたいです。
でも買わないと当選しないよね、宝くじ……。
次回は、盗賊退治完了の宴。……ます! 中編の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
次回も引き続き宜しくお願いいたします。