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覚悟はできていたんじゃないの?

 前回の78話『労働力にすらならないからさ!』で、舌を切り取られたはずの狐夫人が流暢に話していたのを、息子君にすり替えたりといった修正をしました。

 とほほ。

 この手の齟齬に気がついた方は、そっとご指摘くださると嬉しいです。

 今回は自分で気がつきました。

 


 開き直ってみれば滑稽な見世物ぐらいには思える猿夫人の醜態は、狐夫人の厳重な梱包とでも表現したくなる胸の保護で収束を迎えた。

 物足りない狐夫や親父だけ狡い! と、未だ猿夫人の胸に執着する二人に、よほどいらついたのだろう狐夫人が今度は金的蹴りを食らわせている。

 二人はその場でぴょんぴょんと跳び上がって痛みに耐えていた。

 

「……お金を払っても見たくないんだけど?」


「同意」


 呆れたトリアの声に賛同しておく。

 

 そうこうしているうちに、親虎が殲滅を完了させている。

 終了を告げる雄叫びが上がった。

 腕で這いずりながらも勝利を称える息子を抱き上げて、再度咆哮を上げる。

 

 ……うるさい。


 堂々と歩いてきた親虎がドヤ顔で私たちを見上げる。

 口を開きかけた、その瞬間。

 トリアがわかりやすく枝を振る。

 ぞるぞるっと、背筋が怖気立つ音がした。

 反射的にローズが私を守る結界の精度を高めたようだ。

 アランバルリも強化された結界の中にいる。

 奴隷たちはその場に失禁しながら崩れ落ちた。


「なんなのかなぁ、そのみっともない顔は! 死体の処理もできていない癖に、褒めてもらおうとか思ったわけ?」


 トリアの枝がそっと頬を撫でてきたので、緊張していた体から力が抜ける。

 下を見れば、トリアの足元に死体の山ができていた。

 細かな肉片までもが集められている。

 奴隷たちに求めるには酷なほどの、完璧な仕事だった。 


「まずは謝罪だろうが! お前たちは奴隷の一人を逃がしかけたんだぞ!」


「お言葉ですが!」


「僕の眷属が足止めしなかったら、逃がしていた可能性、あったよねぇ?」


「……申し訳ございません」


 反論しかけた狐夫が土下座をする。

 夫人と息子もそれに倣った。


「お前たちは御主人様のお慈悲で! 挽回の機会をいただいた身なんだよ! あの程度で傲るなんてあり得ない。自分が強いとか思っているなら改めるんだね。僕なら一瞬だったんだから」


「……トリアはエルダートレントだから、勝てなくて当たり前とか、思っているみたいだけどさぁ。私もスライムもアンタたちよりは遥かに強いから」


 ローズが私の肩からぴょーんと降りて、親虎の顎下に滑り込んだ。


「ぎゃらくてぃかまぐなむぅうう!」


 親虎の体が空中も高く浮き上がった。

 きらきらと光っているものが何かなんて考えたくもない。


「ぎゃらくてぃかふぁんとむぅうううう!!」


 親虎から転がり落ちた子虎の腹に打ち込まれた渾身の一撃。

 これまた空中に浮かび上がり親同様に、キラキラ光る何やらをまき散らしている。


 汚いなぁと肩を竦めるべきか、その技は私しかわからないから! と突っ込むべきか迷う。


「血反吐を吐かなかった強靱さについては、評価するけど。それだけだよ」


「そんなこと! ぐはっ!」


「ああ、吐いたね、血反吐」


 私の言葉に憤りを見せた親虎に、トリアに乗った高い位置から人外の汚染をかける。

 最高峰の威圧に、親虎は簡単に屈して血を吐いた。

 威圧に屈してしまうだけの力量差があるのだと、まさか理解できなかったのだろうか。

 既に一度同じ威圧を受けているというのに。


「しかし……どうしようか、この猿」


「生かしておいてもろくなことにならない気がするんだけどね……アランバルリ。買い取れる?」


「ええ。フォルス様のお望みであれば高額での買い取りもいたしましょう」


「まぁ、顔の傷はそのままでいいとして。あとはどうしようかなぁ」


 猿夫人が憎悪に満ちた目を向けてくる。

 狐夫人がすかさず頭を押さえつけて、その傷がついていても整った顔を地面にめり込ませた。


「綺麗な顔と体が御自慢みたいだから、全く関係ない職種につかせるとかいいんじゃないの。死ぬまで鉱石掘りとか」


「トリア様の御要望にお応えするとなると、かなり管理がしっかりしている鉱山でないと難しいかと思われます」


「え? そうなの!」


「はい。まず管理人が性奴隷として扱うでしょうし、更に管理がずさんであれば同じ奴隷も性欲処理に使うでしょうから。鉱山では圧倒的に男性奴隷が多いのです」


「あーなるほどねぇ。そうなってくると特殊性癖専門の娼館がいいかな?」


 特殊性癖専門娼館と聞くと、向こうでの男性向け十八禁ゲームを思い出す。

 こちらでは猟奇系の娼館はあるのだろうか。


「なるべく長く生かすとなると……王都にある『蕗の薹を愛でる日々』がよろしゅうございましょうね」


 これまた随分と花言葉に詳しい人物が作った娼館のようだ。

 春の味覚とも呼ばれる蕗の薹。

 幾つかある花言葉の中で、それだけがぞっとする花言葉なのだ。

 恐らくその花言葉に相応しい娼館なのではないかと思う。

 花言葉は『処罰は行わなければならない』  

 つまりは、日々行われる処罰を受けている娼婦を愛でる者が赴く娼館なのだ。


「「ひぃっ!」」


 猿夫人だけではなく、狐夫人までもが悲鳴を上げている。

 きっと絶対に行きたくない娼館なのだろう。

 狐夫人も今後の態度次第では、そこへ売ることにしよう。


「高貴な方々が支援している娼館ですので、娼婦は限界を超えて消費されます。また売る側の希望も聞いてくれることもあり、商人の間では良質な娼館と呼ばれておりますよ」


「いや! あそこだけはいやっ! 顔は治さなくてもいいから! あの娼館だけは許して、御主人さまぁっ!」


 や。

 だから地面に胸を擦って乳房を露出させても、喜ぶのは狐夫と息子と……あ、子虎も喜んでたわ。


「許しません。私はそこまで優しい主人ではないのよ? 屑は屑でも許せるかもしれない屑とそうではない屑がいるの。牢屋、新しく作ろうか」


「そうだね。猿夫人はそこへ隔離収容で。他の奴らはどうする?」


「うーん。良い子たちの意見を聞くわ。落ちぶれている様を見たいのか、姿すら見たくないのか。人によって違う気もするし。意見次第では見せつけ小屋を壊して、労働時以外ずっと牢屋かな」


 屑とは違って意見のすり合わせをしてくれそうなので、その点は安心だ。

 一応こちらの提案も出しておこう。


「まぁ、皆に意見を聞く前に、欠損を治癒しましょうか」 


「じゃあ、僕は猿夫人を独房に入れておくねー」


 もう独房を作ってくれたらしい。

 トリアの仕事が早すぎる。

 私とアランバルリを優しく地面へ下ろしたトリアは人化すると、猿夫人の足首に枝を絡めて引き摺っていった。


「いやああ! だれでもいいから! たすけてぇぇ!!」


 いろいろな部分がモロだしになるほど暴れた猿夫人に対して、情欲の色を見せた者はさすがにいなかった。 

 それほどに無様な暴れようだったのだ。


 頭を振ってトリアと引き摺られる猿夫人から視線を外す。

 これからはやりたくない、治癒の時間だ。


 最初に治癒したのは狐夫人。

 猿夫人を静かにさせようとしていた努力を買った。


「あ、あ! 声が出る! 目も、目も見えるっ! ありがとうございます! どちらの欠損も完治してくださって!」


 言われて気がついた。

 舌は完治させるつもりはなかった。

 しかしまぁ、彼女なりに頑張ったし、治したものを元に戻すのも労力の無駄という気がするので、止めておく。


「次は狐息子……あれ? 君ってどこを欠損しているの?」


 狐夫婦は隻眼だった。

 しかし息子には両目がある。

 耳や尻尾も見た目には大丈夫だった。


「……性器を」


 小さな声で告げられる。

 耳まで真っ赤だ。

 

「それって、何かの罰?」


「詐欺師の息子に種を蒔かれては困ると……狐の聖域の長に、処置されました」


「君自身が、性的な罪を犯したわけではないのね?」


「……両親の詐欺手伝いはしました」


「貴男が主導だったことは?」


「ありません……ただ、僕が出した意見を中心にして、詐欺が行われたことはあります」


 なかなかに、グレーゾーンだ。

 しかも黒よりのグレーだ。

 

 けれど両親の英才教育を退けるのは、実際、かなり難しかったとは思う。


「迷うところですが、完治させましょう」


「ありがとうございます!」


 深々と下げた頭が勢いよく上げられる。

 そこには年相応の無邪気な顔があった。

 こういう顔を見せられると、英才教育を受けなかった未来があったのかもしれないと、思い知らされる。


 息子はズボンと下着を引っ張って、中を覗き込んだ。

 存在をちゃんと主張していただろう性器に感動し、すぐに羞恥の色を載せて大人しく引き下がる。

 夫人と抱き合って喜んでいた。


「狐夫は……目だけっと」


 狐夫は眩しそうに完治した目を細めたあとで、詐欺師の面目躍如といわんばかりの勢いで謝辞をのべた。


「子虎は……性器を完治させるのは迷うよね……」


 不満を口に出してみせたが子虎は沈黙を守った。

 歯がぎしりと鳴ったので必死に我慢しているだけのようだが、まぁ、頑張ってはいるだろう。

 

「種なしって手もあるよねー」


「ふざけんなっ!」


「はい。種なし決定。父親も同罪で」


 子虎とその隣に伏していた親虎の性器を治癒する。

 今まで通りの性交はできるだろう。

 だが、その種が実ることは決してないのだ。


「あとは手とー足ね?」


 一瞬で失われていた手と足が生える。

 しかし、二人の目に喜びはなかった。

 男にとって、種がないというのは、そこまで重要なことなのだろうか?

 

 何を思ったのか、狐夫人が虎親子に近寄って耳に口がつくぎりぎりの位置で囁いた。


『今は、御主人様に頭を下げて礼を申し上げておきなさい。種がなくても御主人様を楽しませて差し上げれば、完治させていただけるかもしれないわよ? 子種を望まない女性に慈悲を与えて感謝されれば、御主人様とて考えを変えられるかもしれないわ!』


 人である私には聞こえないと思ったのだろう。

 あり得ない物言いだ。

 やっぱり舌を切ったままでおけばよかったと後悔する私の前に、前を膨らませた挙げ句、欲望で瞳をぎらぎらさせたままの虎親子に礼を言われた。


「感謝いたします、御主人様。この礼は身を尽くして返していく所存でございます!」


「所存でございます!」


 彼らが望む尽くし方は御免被るので、二人仲良く失神するまで人外の汚染をかけておいた。





 喜多愛笑 キタアイ


 状態 怒り心頭 new!  


 料理人 LV 4 


 職業スキル 召喚師範 


 スキル サバイバル料理 LV 5 

     完全調合 LV10

     裁縫師範 LV10

     細工師範 LV10

     危険察知 LV 6

     生活魔法 LV 5

     洗濯魔法 LV10

     風呂魔法 LV10

     料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用

     掃除魔法 LV10

     偽装魔法 LV10

     隠蔽魔法 LV10

     転移魔法 LV ∞ 愛専用

     命止魔法 LV 3 愛専用

     治癒魔法 LV10

     人外による精神汚染


 ユニークスキル 庇護されし者


 庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化  解体超特化


 称号 シルコットンマスター(サイ)  

 正月太りをしていなかったのに一安心したものの、ダイエット必須なのは変わらない今日この頃。

 皆様はいかがお過ごしでしょうか……。

 せめて小説の主人公たちには、体形気にせず食事をしてもらうんだ!


 次回は、盗賊退治の宴……その前に。(仮)の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 次回も引き続き宜しくお願いいたします。 

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