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獣人奴隷たち。前編

 奴隷描写なので、痛い系の描写が多めです。

 ご注意ください。


 は、剥離骨折……しました。

 超軽傷なんですけどね。

 湿布貼って、サポーターして、安静二週間だそうで。

 ますます肉がついてしまう……せめて食事制限しないと……。

 


 アランバルリとがっちり握手を交わし、お互い地雷を踏まないような会話をしつつ、いい感じの距離を測りながら、トリアたちの元へと向かう。


「お疲れ様、トリア!」


 途中にいたトレントたちが、枝を使ってこちらですー! と先導してくれた。

 行き着いたのは、集会所。

 あれこれと説明するのには無難な場所だ。


「うん。お疲れ様。アイリーン村長」


 トリアを囲むようにして地べたに座り込み、下がっていた奴隷たちの頭が、揃って上がる。

 奴隷たちの瞳に浮かんだのは、困惑、侮蔑、高慢、諦観。

 五人いる子供と思しき獣人にすら、興味の色はない。

 一番多い目線が困惑なのは当然として、次点が侮蔑に高慢と来た日には、メンディサバル商会会頭に対して、でかい借り作ったなぁ、おい! と物騒な突っ込みを入れたくなった。


「あぁ? 貴様が、そんちょ、ぐがああ!」


 トリアが奴隷にあるまじき態度をとる、虎獣人の首根っこを締め上げる。


「んだよ! 親父をはなせ、ぎ、ぁ!」


 無謀にもトリアに食ってかかったのは、虎獣人の息子だろうか。

 白虎の子供!

 それだけでもふもふ心が動くのだが、どうにもその性格は、心ゆくまで愛でたいペットには向かないようだ。


「奴隷の首輪をして、これ?」


「調教したんだけどねぇ。馬鹿みたいで。えーっと。脳筋?」


「あぁ、脳筋。鬱陶しいわね、それじゃあ」


 軽く落としてみせれば、親子揃って不穏な眼差しを向けてくる。

 

 最初が肝心かぁ……と溜め息を吐いた私は、一つのスキルを起動させた。

 人外による精神汚染。

 威圧系最上位のスキルを、二人にだけ集中して向けた。

 じょばっと激しい尿漏れの音がする。

 しかも親子揃ってだ。

 

 他の奴隷たちが揃って、そんな馬鹿な! という表情を浮かべている。

 

「これでわかったかしら? 私は威圧一つで、貴方たちを殺せるの」


 集中力を霧散させるのと同時に、トリアが持ち上げていた二人の首を解放する。

 小便まみれの地面に、二人の体は無様に落下した。

 よく見るまでもなく親は隻腕、子供は足首から下がないようだ。

 子供は仕方ないとして、親まで無様に転がるとは思わなかった。


「忘れないでね? 貴方たちは私が買った、奴隷なの。身の程を弁えなさい。返事は?」


「……あ、あぁ、わか、った」


 親の返事に倣って、子供は何度も頷いた。

 口を開けば不敬な言葉しか発せないと理解しての行動だったら、多少評価を上げてもいいのだが。

 残念ながら違う気がする。


「私が、このホルツリッヒ村の村長、アイリーン・フォルス。人間は貴方たち獣人から見れば、見下すしかできない力なき者かもしれない。でも一つ覚えておきなさい。世の中には、何事にも例外があるのだということを」


「……温厚な村長をここまで激高させるとは、愚かな獣人もいたものだねぇ?」


 トリアの言葉に、がばっと土下座をしたのは狐家族。

 両親と子供一人。

 両親は共に隻眼だ。

 子供までが手慣れていて、眉根を寄せる。

 こうやって彼らは、怒らせた相手の寛恕を数えきれぬほど請うてきたのだろうか。

 かわいそうにと同情などできもせず、ただ土下座の価値が低すぎることに呆れた。


「……虎獣人は、特に強さを求める種族でございます。我らは彼にいろいろと手助けいただきました。どうか寛大な処分をしていただきますよう、伏してお願い申し上げます!」


 うん。

 言葉での謝罪すらないとか笑える。

 寛大な処分とかさ。

 自分たちが上に立ちたいから、ほざいてるだけじゃね?

 呆れの色を濃くすれば、目に見えて狼狽える様子には、更なる失笑が誘われた。


「夫と、息子が、御主人様に対して本来ならあり得ない不躾な態度を取ったこと、まずは深くお詫び申し上げます。どうか、この村の掟に則り御処分くださいませ。また、妻であり母でもある私もどうぞ、連座にて御処分くださいませ」


 奴隷の中でも一番強い諦観の色を瞳に宿していた猫獣人。

 夫や息子だけでなく、己の死を望む闇は深そうだ。

 虎親子は狐家族と違い、私の目を見ようともせずにただ地面に額を擦りつけながらも、処分を求める猫獣人に対して、化け物を見るような目付きで凝視している。

 

「せっかく買った奴隷だからね。処分はしない。ただ罰は与えるよ。欠損を完治させない、という罰をね」


「はぁ?」


 声を上げたのは狐獣人の夫。

 何馬鹿なこと言っているんだ? という色の他に、もしそれが本当ならば、どこまで儲けられるかわからんぞ! という、勘違いも甚だしい欲望までが見え隠れする。

 虎親子よりも質が悪そうだ。


「欠損を治せるっていうのが本当なら、早くこの私の美しい耳を治しなさいよっ!」


 命令とかない。

 奴隷の態度じゃない。


 思わずアランバルリを見やれば、怒りでぶるぶると全身を震わせている。


「村長に敬意を払えない奴隷は、必要ありませんのよ~? 返品されたくなかったら、アイリーン様のお言葉を、伏してお待ちなさいねぇ?」


 温和の代名詞のようなカロリーナまでが激怒したようだ。

 猿獣人の体など、地面に叩きつけられた蛇尻尾の一撃で、全身の骨が粉々に砕けてしまうだろう。

 顔を真っ赤にした猿獣人は、私を睨み付けながら、口を噤んだ。

 カロリーナがもう一度地面を叩いて、やっと目線を地面へ向ける。


「どうにも、問題のある奴隷が多いみたいですね?」


「お恥ずかしい限りでございます……」


 私とアランバルリの言葉に、しゅんと肩を落としたのは犬獣人の家族。

 尻尾も耳も欠損している。

 ただ落ち込み具合から、それらがなくとも彼らが奴隷としてあるまじき態度をとり続ける者に対して、申し訳ないと思っている気持ちが伝わってきた。


 屑ばかりを見ていると、殊の外善良さが際立つようだ。


「……ごしゅじんさま?」


「何か言いたいことがあるのかしら?」


「こ、これっ!」


 子狸が虚ろな目のままに、私を呼ぶ。

 父親の狸獣人が無礼を咎めようとするのを掌で制した。


「質問を許します。何が言いたいのかしら?」


「ごしゅじんさまが、けが、なおしてくださるなら、あのこたちの、あのこたちのかぞくの、おみみとしっぽを、なおしてあげてください」


「なんでお前は、赤の他人より、私の怪我を治すように懇願しないのっ!」


 子狸が猿獣人にビンタされる。

 子狸の小さな体が吹っ飛び、ちょうど私の手の中に収まった。

 毛艶はよくない。

 何より瞳に浮かぶ諦観。

 こうやって日々、母親に虐待を受けてきたのだろうか。


 私は今でのやり取りで、さくっと排除予定の奴隷と保護予定の奴隷を頭の中でわける。

 アランバルリから聞いた奴隷たちの事情を加味するのも忘れない。


 虎獣人、猫獣人、子虎(男)の家族。

 虎獣人はオッドアイの美しい猫獣人を無理矢理妻にしたらしい。

 しかも夫は虎の子供しか許さず、妻の目の前で生まれたての子猫を三人もくびり殺したとの報告があった。

 猫獣人の絶望が深いのも理解できる。

 虎獣人が子虎のわがままを増長させた結果。

 同じ虎獣人の貴族に喧嘩を売って、親子共々欠損の罰を受け、奴隷にされたようだ。

 猫獣人はただの連座。

 母親には当たり前の罰だとされたようだが、実子とはいえ虎の子の暴挙。

 それも腕っ節が自慢の夫がそそのかす暴挙を、どうしたらか弱い猫獣人が止められたというのか。

 排除予定・虎獣人、子虎。

 保護予定・猫獣人。


 狐獣人夫婦 子狐(男)の家族。

 子供を使った詐欺を繰り返して、奴隷落ち。

 隻眼は奴隷へ落ちる前に、罰としてえぐり抜かれた。

 口頭注意→罰金刑→欠損刑→奴隷落ちと辿ったとのこと。

 狐の里と呼ばれる、狐獣人最後の砦と謳われる聖域からも放逐され、出禁にされているようだ。

 上記の流れと今の態度で更生の余地がないと判断する。

 残念ながら子狐も英才教育済みで、同じ決断を下す。

 排除予定・一家全員。


 犬獣人夫婦 双子男女の子犬の家族。

 続く凶作に家計を維持できず、借金返済のため奴隷落ち。

 移動中、悪名高い龍人の冒険者パーティーに絡まれて、尻尾と耳を失う。

 良心的だとこっそり慕われている奴隷商人は、龍人パーティーからがっつりと賠償金をふんだくり、家族で買ってくれる者が現れるまで、奴隷商館にいることを許したそうだ。

 犬獣人の特質のまま、奴隷商館でも従順に仕えており、その評価は高い。

 ……こういう奴隷ばかりだったら、良かったのにねぇ?

 保護予定・一家全員。


 狸獣人、猿獣人、子狸(女)の家族。

 お人好しの狸獣人に、厄介者の猿獣人が押しつけられたようだ。

 猿獣人は子狸が愛らしかったために、実子であるにもかかわらず虐待。

 また、高位貴族の愛人になろうとして失敗、欠損刑を受ける。

 こりもせずに、高位貴族にちょっかいをかけて奴隷落ち。

 評判のよろしくない高位貴族による鶴の一声で、狸獣人、子狸ともに連座決定。

 狸獣人は、虐待からも連座からも必死に子狸を守ろうとしたが、力不足。

 ただ、懸命の頑張りと愛情はしっかり伝わっているようで、子狸は狸獣人に懐いているようだ。


 排除予定・猿獣人。

 保護予定・狸獣人、子狸。


 ……うーん。

 辛うじて保護予定が多い感じ?


 最初は家族ごとで一軒与えようかと思っていたけれど、保護予定と排除予定で分けるに限ると判断した。

 

 でも、その前に。


 保護予定の奴隷たちの、欠損や重篤な精神疾患を治癒しないとね?


 私は最初、犬獣人一家に声をかけた。

 耳と尻尾の欠損治癒は、精神疾患の治癒と違いわかりやすいだろう。

 四人は粛々と私の前に歩み寄り跪く。

 諦観の中に見える、仄かな希望。

 私は意識して穏やかな微笑を浮かべる。

 そうして、四人に向かって両掌を大きく広げて見せた。



  


 喜多愛笑 キタアイ


 状態 心身ともに良好  


 料理人 LV 4 


 職業スキル 召喚師範 


 スキル サバイバル料理 LV 5 

     完全調合 LV10

     裁縫師範 LV10

     細工師範 LV10

     危険察知 LV 6

     生活魔法 LV 5

     洗濯魔法 LV10

     風呂魔法 LV10

     料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用

     掃除魔法 LV10

     偽装魔法 LV10

     隠蔽魔法 LV10

     転移魔法 LV ∞ 愛専用

     命止魔法 LV 3 愛専用


     人外による精神汚染


 ユニークスキル 庇護されし者


 庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化  解体超特化


 称号 シルコットンマスター(サイ)


 しかし体重計乗るの怖いなぁ。

 暑くて消耗する日々が続きます。

 なのに、体重は減らないという……。

 皆様も健康には注意してくださいませ。


 次回は、獣人奴隷たち。中編(仮)の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 次回も引き続き宜しくお願いいたします。

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