朝食はホットサンド。
皆さんは知っていましたか?
クロックマダム!
自分は知らなかったです。
今度食べるんだ……。
妖精の休憩所は、窓際の日当たりが良い場所に設置する。
囲いし者が守ってくれる=結界と同じという認識らしいので、改めて結界を張る必要もないのだ。
ますます何かしらの給与なりお礼なりを支払わねば! と胸の中で誓いつつ、ローズが中心になって作ってくれた朝食が並ぶテーブルについた。
「チーズたっぷりのクロックマダム、新鮮野菜のサラダをネギタマドレッシングで、ほどよく冷えたモー乳、フルーツ各種ですわ。存分にお召し上がりなさいませ」
「クロックマダム?」
「あら、知りませんの? クロックムシュの派生レシピですわ。焼き上がったクロックムシュの上に目玉焼きを載せるだけの簡単で、ボリューミーなレシピですのよ」
し、知らなかった!
一つ利口になったわ。
しかし私の記憶にある異世界知識しか、得られなかったんじゃないのかしら?
こっちにもクロックなマダムレシピが存在したとか?
まぁ、スライムたちにかかれば不可能も可能になるから、深く考えないことにしておこう。
私は大きく頷いて、ナイフとフォークを握り締めると、いただきます! と声を上げる。
スライムたちも続いて、いただきます! を唱和した。
早速、クロックマダムを一口サイズ分切り出して、口の中に放り込む。
「んー! 美味しいっ!」
載せられた目玉焼きは、ナイフを入れればとろりと黄身が流れる絶妙な半熟。
塩胡椒の加減も絶妙に好みの味付けだ。
本来のクロックムシュの部分も大変に美味。
しかも。
「え、これって鶏ハム?」
「ふっふ。クックルーの胸肉を使って、塩と砂糖のみの超絶シンプルな味付けで仕上げましたのよ! 乙女心を擽る、ヘルシーで食べ応え抜群の仕様なクロックマダムなのですわ!」
「レシピってこっちにあったの?」
「当然ありませんわよ? 愛の記憶倉庫から発見しましたわ。放置するだけの簡単なお仕事です、by鶏ハム……という動画を拝見しましたの。とてもわかりやすい調理工程でございましたわ」
お、おぉ。
動画再生までできるんだ。
ちょっと羨ましい。
続きが気になっていた動画、たくさんあるからねぇ。
私もそんなスキル会得できないかなぁ。
「ベシャメルソースやモルネーソースをかけても良かったんですけれど、朝食には少し重いかと思いまして、たっぷりのバターのみとしましたのよ?」
「うん。いつの間に本格的なソースを作っていたのか気になるし、そっちも食べたいけど、朝にはちょっと重いよね。昼とかに食べるといいかも」
「では、またの機会にお作りしますわね?」
「よろしくね。凄く楽しみよ!」
初のクロックマダムは、ヘルシーでボリューミーという、とても嬉しい料理という認識のままに、美味しくいただいた。
「んっ! こっちも食べてほしいの! 手作りネギタマドレッシング、美味しくできたと思うのっ!」
あっという間にマダムが半分ほど消失していた皿の隣に、小ぶりのサラダボウルが置かれる。
中身はグリーンサラダだ。
ウリキューとターレス他、葉っぱ系の野菜がぱっと見三種類ほど入っていた。
上にかけられているのは茶色が目立つドレッシング。
これが、モルフォ特製のネギタマドレッシングなのだろう。
「んっ! ちゃんと一度加熱しているから、味がよりマイルドになっていると思うのっ!」
タマネギドレッシングを作った経験は幾度かあるが、どれも熱を加えないものだった。
ちょっとだけネギタマドレッシングを舐めれば、記憶のタマネギドレッシングより、甘みが強く優しい味な気がする。
「あー、これは毎日食べても飽きが来ない味だよね!」
「ネギタマたっぷり、オリーブオイル少なめのヘルシーレシピなのっ! リリーと一緒に黒い微笑を浮かべるのっ!」
浮かべなくていいから! と言いかけた口の中に、ネギタマドレッシングをしっかり絡めたグリーンサラダをたっぷり入れた。
うん。
正しく、毎日食べても飽きが来ない味だ。
大変美味しい!
「うっ! モー乳は搾りたてを一息にきゅっと冷やしたのよっ! フルーツともあうからたっぷり飲むのよっ!」
そう、こちらのモー乳は、基本生飲み不可なのだ。
冷やしても駄目。
おなかを壊してしまう。
沸騰させるのが基本とされていた。
「ホットも良いけど、アイスも美味しいよねー。サイのお蔭で、こんなに冷えてて美味しいモー乳がいただけます。ありがとうねー」
「うっ! 妖精さんも喜んでいるのよっ!」
窓辺に置かれた妖精の休憩所には、ひっきりなしに妖精が訪れている。
いかにも妖精といった桃色の羽根に同色の衣装を纏った個体が、雄々しく腰に手を当てて冷たいモー乳を飲み干しているところだった。
椅子は満席、ベッドに寝ている妖精も健やかな寝息を立てている。
意識をしていれば耳に届く程度のベルが鳴る音は、どうやら時間を知らせるものらしい。
席に座っていたり、眠っていたりする妖精が名残惜しげに去っていく。
驚くべきことに、それぞれのテーブルにもベッドにも行列ができていた。
押すな押すなの賑わいなので、増設を検討しないと駄目な予感がするのだが……。
「うっ? 今はまだ妖精から増設の要望はないのよっ! 要望があったら増やす方向でいいのよっ!」
「そういうものなの?」
「うっ! そういうお作法なのよっ!」
なるほど。
勝手に増やすのは厳禁らしい。
休憩所ではなく、宿にしてしまえば待ち時間がなくてすむのでは? とも考えたのだが、妖精が一箇所に集中して長く滞在するのは、よろしくないのかもしれない。
何にせよ、サイの言葉に間違いはないのだ。
要望があったときに、増設や宿の新設を検討すればいい。
「おはよー! 朝ご飯、食べに来たよ!」
「私も御相伴にあずかってもよろしいでしょうか~?」
さて食後のフルーツを摘まもうか……というタイミングで、ノックと同時にトリアとカロリーナが入ってきた。
朝食を食べたかったらしい。
カロリーナは自分で作れる気もするけれど、トリアには無理だろうから致し方ないか。
「呼びに行けばよかったね、ごめん! あ、今から作る感じになるから、ちょっと待たせちゃうかも……」
「大丈夫ですわ! そんなこともあろうかと、余裕を持って作っておりますから。何でしたら、お土産やストック分もございますから、安心なさって?」
ローズがしずしずと、しかし一度に二人分の朝食をテーブルに置く。
さすがにぬかりない。
「うわー! 良い匂いだねぇ!」
「ええ、とっても美味しそうですわ~。これは何というお料理なのでしょうか?」
目を輝かせる二人に、同じように目を輝かせるローズが丁寧に説明をしている。
二人からは説明を聞きながらも、早く食べたくてうずうずしているのが伝わってきた。
リリーが触手でローズをつんつんと突けば、ローズは我に返ったのか、こほんと咳払いを一つして。
「どうぞ、召し上がれ!」
二人に朝食を勧めた。
待ってましたとばかりに、勢いよく料理に食らいついた二人の顔が、最初にクロックマダムを口に入れて、よく似た蕩けた顔をする。
ローズたちの料理も、私が作ったものと同じように二人を喜ばせたようだ。
「るっ!」
「みっ!」
フルーツを食べ終えて食後のハーブティーを堪能している私の足元まで、ルンとピュアがやってきた。
ちなみに今日のハーブティーはサクラの調合で、昨日の疲れが残っていた場合、綺麗さっぱり払拭できる効果があるという結構な代物だった。
「るるるん!」
「みみみみん!」
「え? あらあら、まあまあ」
二人の訴えに、再びトリア&カロリーナ組から妖精の休憩所へと視線を移す。
どうやらマナーのなっていない妖精が来たらしく、アイテムボックスの前に座り込み、中から料理や飲み物を出しまくって完食完飲しないだけでなく、他の妖精たちが入れてくれたアイテムまでをも吟味して、気に入ったものを懐に入れているようだ。
「るっ!」
「みっ!」
「せ、成敗って! ルン? ピュアぁ?」
私の制止は間に合わず、ルンが困ったちゃんな妖精を掃除してしまう。
食べ散らかして休憩所を汚したというのに反省するどころか、当然だと胸を張る自分勝手な妖精に我慢ならなかったようだ。
ルンとピュアの手によって強奪したアイテムが、困ったちゃんな妖精から取り上げられてほいほい投げられるのを、行列を作っていた妖精の何人かが受け止めて、アイテムボックスの中へと収納してくれた。
目に鮮やかだった衣装は全て剥ぎ取られてすっぽんぽんにされた妖精は、その燃えるように見事な赤い髪の毛までも剥ぎ取られて呆然としている。
「みっ!」
悪い子は、捨てられるのっ!
ピュアの声は、そう聞こえた。
次の瞬間。
妖精はピュア……スライム型ゴミ箱……の中へと、入れられてしまった。
声にならない悲鳴が聞こえた気がする。
「るるん!」
成敗、完了!
ルンの声は、そう言っていた。
行列に並んでいた妖精たちが笑顔で拍手をしている。
楽しい劇でも見ていたような雰囲気に驚いた。
「生まれたばかりの妖精にも拘わらず傍若無人で、モンスターになりかかっている困った妖精だったから、他の子たちもいろいろと迷惑をかけられていたそうなのねー。成敗してもらって、皆感謝してるのねー」
そういう事情だったらしい。
残念ながら更生の余地がなかったっぽいので、ルンとピュアの迅速な対応はベストだったのだろう。
「うん。ルンとピュアの対応はとても良かったと思うよ。ああいった個体は時々出てしまうんだよね。厄災のようなものだから、即座の駆除が基本なんだ」
トリアからも褒められて嬉しそうな二人の頭を丁寧に撫ぜておく。
アイテム収納などを手伝ってくれたお礼にと、冷たいモー乳を与えれば、妖精たちも喜んでくれた。
一騒動あった朝食ではあったが、その味は損なわれることもなく、至福も変わらない。
トリアもカロリーナも加わって食後のお茶を引き続き楽しみながら、皆で仲良く本日の予定などを話し合った。
クロックマダム
ランクSSS
ローズ製作。
簡単で美味しく作れるクックルーのハムが入っているので高評価。
ベシャメルソースなどが加わると、更にお貴族様向けとなる。
ヘルシーでボリューミーと、女性受けすること間違いなし。
疲労回復大の効果有
リラックス効果有
記憶力上昇効果有
グリーンサラダ ネギタマドレッシングがけ
ランクSSS
モルフォ製作。
ネギタマドレッシングに異世界調味料である醤油が使われているため高評価。
ターレス、ウリキュー、ルッコラーラ(ルッコラ)、ロイメンレッド・グリーン(ロメインレタス)を使用。
野菜特集の青臭さがドレッシングで軽減されるので、野菜嫌いにもオススメの一品。
食欲不振改善効果有
冷え性改善効果有
免疫力上昇効果有
コールド モー乳
ランクS
サイ製作。
本来は生飲できないので、高評価。
特に冷たいものは飲めないとされているので驚かれる。
ニードルビーなどで甘みをつけると、評価が上がるかも。
便秘改善効果有
フルーツ各種
どれも新鮮フルーツにつき、それぞれ最低A以上の高評価。
生食不可能なフルーツに関しては、SSS評価のものも。
喜多愛笑 キタアイ
状態 心身ともに良好
料理人 LV 4
職業スキル 召喚師範
スキル サバイバル料理 LV 5
完全調合 LV10
裁縫師範 LV10
細工師範 LV10
危険察知 LV 6
生活魔法 LV 5
洗濯魔法 LV10
風呂魔法 LV10
料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用
掃除魔法 LV10
偽装魔法 LV10
隠蔽魔法 LV10
転移魔法 LV ∞ 愛専用
命止魔法 LV 3 愛専用
人外による精神汚染
ユニークスキル 庇護されし者
庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化 解体超特化
称号 シルコットンマスター(サイ)
クロックマダムは売っていませんでしたが、クロックムシュの割引は売ってました!
この上に目玉焼きを載せればいいのです!
今週の土日のどちらかに作る予定。
美味しいといいなぁ。
次回は、一ヶ月後、商人がやってきた。前編(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
次回も引き続き宜しくお願いいたします