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村を整備しましょう。家造り編 3

 最終校正の段階で、誤字脱字以外の修正がしたくなってしまうとき、ありませんか?

 どこかで妥協しないと駄目なのは分かっているのですが。

 最初の校正で修正した箇所を、最終校正で元通りにしていることに気がついた日には……。

 




 自分の家が家具まで揃った素敵住宅に仕上がって大満足したところで、トリアとカロリーナの家造りに取りかかろうと気合いを入れたら……既にできていた!

 いつの間に! と思わずハンカチを噛み締める鉄板の所作をしてしまった。

 両肩に乗っているリリーとサクラも何故か同じ所作をする。

 うん! 

 うちの子たちは今日も可愛い!

 心の中でうちの子自慢をしながらカロリーナに話しかける。


「いつの間にできたのでせうか?」


 語尾が平安時代調になってしまったのを責めないでほしい。

 それぐらいの驚きだったのだ。


「トレントさんたちが手伝ってくださったので、あっという間でしたわ! 自分用のキッチンとか本当に夢のようですわ~。何て有り難いのかしら~」


 手を祈りのポーズで組んだカロリーナが、くるくると尻尾を軸にして器用に回転しながら喜びを示す。

 尻尾の上に乗っていたサイとモルフォも一緒になって回っていた。

 私の知らないうちに、トレントたちと一緒に家造りを手伝っていたのかもしれない。


「中に入ってもいい?」


「勿論ですわ! 是非お入りになってくださいませ!」


 ラミアの住む家となれば、当然人の住む家と違うだろう。

 それは重々承知していた。


「じゃ、ジャングル?」


 しかし中は私の予想を遥かに超える造りとなっていた。


 扉を開ければそこは一面の緑だったのだ。

 家の中は木が生い茂っていて湿度が高い。

 緑の匂いが濃厚すぎて噎せ返ってしまう程だといえば、理解が楽だろうか。


「愛には辛い環境ですの?」


 ローズがぴょんと肩に乗ってくる。

 途端に呼吸が楽になった。

 環境を安定させる結界でも張ってくれたのだろう。

 しみじみ有り難い。

 深い愛情を感じる。


「蒸し暑いのには日本で慣れていたけど、さすがにジャングルレベルとなるときついかなぁ」


「そうなのですの~? 私には最高の環境ですのに……辛いようであれば、無理にとは申しませんわ……」


 自慢の家だったらしく、しょんぼりと落ち込んでしまうカロリーナの肩を叩く。


「せっかくだから、案内してほしいな。ローズのお蔭で、カロリーナ自慢のお宅でお茶できるくらいには回復したから」


「まぁまぁ! さすがローズですわね! ありがとうございます~」


「これぐらいなら楽勝ですのよ? さぁ、続けて案内をしてくださいませ」


「ええ、喜んで!」


 入り口はそのまま地下へと続く階段になっていた。

 足元に御注意を……と注意喚起を促すカロリーナの言葉に頷いて、殊更慎重に歩みを進める。

 外観は普通の一軒家といった感じだったのだが、家の中は地下二階をプラスした三階建て構造になっていた。

 地下二階に下りて上を見上げれば、幾つか枕やシルコットンの薄い掛け布団などが置いてある。

 どうやら普段から木の上で寝ているようだ。

 そのときの気分で場所をちょこちょこ変えているのかもしれない。


 やわらかい土を踏んで、奥にあるドアに案内された。

 にこにこと嬉しそうにドアを開けるカロリーナから、ドアの中へと目線を向けると、そこは極々一般的な広めのダイニングキッチンだった。

 ここだけは床も木でできている。


「食材管理の関係上、ここは人のキッチンを参考に造ってもらいましたの~。愛もここでなら過ごしやすいのではないかしら?」


 カロリーナの言葉にジャンプで応えたローズが、結界を解いた瞬間。

 ヒノッキーの香りに包まれた。


「うん。ここでならとても過ごしやすいね。持ち寄りのお茶会とかも楽しそう!」


 大きく頷くとカロリーナの瞳が喜びに濡れる。

 持ち寄りのお茶会に心を動かされたのだろう。

 ここへ来る前のカロリーナの環境では、夢物語でしかなかった誘いなのだ。


「愛に喜んでもらえるように精進しますわ~。あと、こちらへ直結した通路も造っておきますわね~。あ! そうそう、こちらも愛が喜んでくれそうな場所ですのよ」


 初心者にはちょうど良い程度に揃えられたキッチングッズをそれとなく眺めながら、ローズが再度結界を張ってくれたのを確認して、カロリーナの背後へ歩み寄る。

 ダイニングキッチンを出て反対側には、何と温泉らしきものがあった。

 家の中にあるから露天風呂ではなく、ジャングル風呂とでも表現すればいいか。

 蒸し暑さの要因は、この温泉にもありそうだ。


「泉質は癖のない単純温泉ですから、リラックス効果が望めますの~。一日の疲れをこちらの温泉で取ると、次の日は快適な目覚めになると思いますわ~」


 風呂魔法のお風呂も機能が充実していて楽なのだが、やはり温泉は別腹だ。

 カロリーナの負担を考えて、週一ぐらいで入らせてもらいたい。


「ありがとう! 温泉は大好きだから、週一ぐらいで手土産持ってくるねー」


「毎日でもよろしいですのに~。あと手土産はいりませんわ!」


「そこはほら、親しき仲にも礼儀ありと申しますから!」


「で、では私も愛のお宅へお邪魔するときには、手土産を持って行きますわ!」


「ふふふ。楽しみにしているね」


「はい! 私も本当に楽しみですわ~。毎日が楽しくて困るくらいですのよ~」


 ぱんと手を叩くとカロリーナの大きな胸がふるるんと揺れる。

 眼福に拝みたくなるのをぐっと堪えていると、トリアが声をかけてきた。


「カロリーナのおうち探索が終わったなら、今度はうちに来るといいよ!」


 トリアも家を自慢したいようだ。

 心地良い森林をイメージしながら移動する。

 カロリーナも一緒に来た。

 スライムたちも当然一緒だ。

 トレントたちもぞろぞろついてくる。

 やはり気になるのだろう。


「さぁ、ここが僕のおうちだよー」


 トレントたちが中を見たくてそわそわしつつも、私が通れるように作ってくれた道を抜けて中へ足を踏み入れる。


「……空間魔法的な何か?」


「そうだねぇ。学者たちが論じればそこへ行き着くかもね。だけど君には、スライム収納と同じ原理と説明した方がしっくりくるんじゃない?」


 その通りだ。

 人の理解を超えた不思議魔法、もしくはユニークスキル。

 空間を無限に広げてしまうエルダートレントの力。


 そう。

 トリアの家は深い森。

 緑濃く人の気配がない静かな森だった。

 目の端には小さな泉まで映り込む。

 耳を澄ませば滝の音まで聞こえてきた。


 外から見た、こじゃれたデザインの二階建て住宅に入る広さではない。

 エルダートレントが自ら我が家という家は、こういうものなのだ。

 カロリーナの家も想像以上だったが、トリアの家はそれ以上だろう。


 ドアを開けたらそこは森だった。

 振り返ったらドアは消えていた。

 異世界へ入り込んでしまったのだろうか?

 そんな文章まで浮かんでくる。


 ちなみに振り返れば、トレントたちが中を覗き込んでいるドアがしっかりと存在していた。


「泉は癒やしの泉だからね! 飲んでも美味しいけど、えーと? そう、プールと思って使うといいよ! 泳いでも疲れないプールって最高でしょ?」


 森の中はそもそも涼しげ。

 暑いときに中に入り、泉へ足を入れたらさぞかし気持ちいいだろう。


 足元は天然芝が植えられているかのような感触。

 私は靴と靴下を脱いで、その心地良い肌触りを堪能する。


「お茶はここでしようと思うんだけどどうかな? あ! 僕のうちはキッチンないからね! 差し入れは必須だよ!」


 胸を張って言うべきことではない気がするが、可愛いので無問題だろう。

 カロリーナも、何をお持ちすれば喜んでいただけるかしら……と嬉しそうに悩んでいる。

 天然の木漏れ日の下に、可愛らしいデザインの椅子とテーブルが置かれていた。

 その周辺にはいろいろな種類の小花が咲き乱れ、小さく揺れている。

 不意に風が吹いて、やわらかい花の香りが鼻を擽った。


 何度も言ってしまうが、森だ。

 家の中とは思えない。

 安心できる場所という意味では、自宅と変わりはないのだけれど。


「ちなみに寝るときは木の姿に戻って寝るからベッドもないよー」


「……時間の流れは、外と同じですか?」


 不意に頭をもたげた疑問を口にする。

 唇は微かに震えていた。


「今はね」


 ウインクとともに返事をくれる。

 そうでなくすることも、できるのだろう。

 ここはエルダートレントが支配する、絶対不可侵の聖域なのだ。

 背筋を冷たいものが滑っていく。

 畏怖ゆえの緊張は、トリアの愛くるしくも穏やかな微笑であっけなく霧散した。

 

「トレントたち用の入り口は別に作っておくから、夜は中で眠ればいいよ」


 トリアの言葉にトレントたちは大喜びだ。

 とてつもなく広い空間とはいえ、トリアが家と決めた場所に入れてもらえるのがとても嬉しいのだろう。


「カロリーナの家もそうだけど、僕の家も防犯ばっちりだから、その辺も安心してね?」


「そういえば愛の家も防犯については、もう少し考えた方が安全かもしれませんわ~」


「私たちがいれば大丈夫なのねー。でもわかりやすく家周りの囲いはトリアに監修してもらうつもりだったのねー。大丈夫なのねー?」


「喜んで引き受けるよ。そうだなぁ。囲いそのものが生きている種類にしようか。許可なく入ったらさくっと足の一本も飛ばしてくれる、知性のある囲いにさ」


 え、凄い。

 そんな囲いが存在するんだ。


囲いし者(エンクロージャー)っていう知的植物だよ。人間はモンスター扱いするけどね。僕は意思疎通ができるからさ。仲間っていう認識だよ。明日までには連れてきて、愛に紹介する感じでいいかい?」


「ありがとう。助かるわ! 給与的なものって何がいいかしら?」


「ははは! 愛らしいね、その発想! 僕たちと一緒の生態で、基本は水だけで生きていける生物だけど、愛の作るお菓子は喜ぶと思うよ」


「じゃあ、皆の分を作るとき一緒に作るね」


 どうやって食べるのだろう。

 そもそもどういった形で大きさなのか。

 家を一周ぐるっと囲ってしまえる大きさの囲いを、一体と数えるのか。

 それとも幾つか並べて囲うフェンス的な形で、その一つを一体と数えるのか。

 紹介されたときに、許可がもらえたならいろいろと聞いてみたいところだ。


「しかし皆が働き者過ぎて、作業がさっくさくに進むよね」


「皆真面目なのです。いいことなのです。集会所なども作ってしまうのです?」


「そうだね。一気にやっちゃおっかー」


「……その前に、プリンタイムを所望いたしますわ!」


 言われて、トリアたちが食べていたとき、スライムたちが食べられていなかったのを思い出す。


「で、では、私が盛り付けをいたしますわ~!」


 すかさず作業用のテーブルが用意されて、カロリーナがエプロンのリボンを縛る。

 私とスライムたちは、木漏れ日の下に設置された椅子に深く腰掛けながら、カロリーナがリリーに頼んでスライム収納から出してもらったプリンに、あれこれと盛り付けをするのを見守った。


「レッドベリーなプリンアラモード様!」


 いつの間に作ったのだろう、プリンアラモードが映える陶器製の器。

 中央にプリンが置かれて、生クリームとレッドベリーが盛られる。

 花びらのように飾られたレッドベリーには、この国の王女たちも嬉しい悲鳴を上げるに違いない。

 当然だが、味は見た目に負けていない最高の美味しさだ。

 こんな短期間で、ここまで美味で見栄えするプリンを作れてしまうカロリーナを心底尊敬する。


 余談にはなるが、カロリーナもトリアも一緒に座ってしっかりと食べていた。





 レッドベリーのプリンアラモード

 ランクSSS

 クックルー卵とモー乳のプリンの上とその回りにたっぷりの生クリーム、更にその上には花に見立てた感じでレッドベリーが綺麗に飾られている。

 可憐な飾り付けには王族もびっくりすること請け合い。

 生食不可のレッドベリーが生で食べられるので高ランク。

 眼精疲労回復効果有

 ストレス緩和効果有

 美白効果有





 喜多愛笑 キタアイ


 状態 心身ともに良好 


 料理人 LV 4 


 スキル サバイバル料理 LV 5 

     完全調合 LV10

     裁縫師範 LV10

     細工師範 LV10

     危険察知 LV6

     生活魔法 LV 5

     洗濯魔法 LV10

     風呂魔法 LV10

     料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用

     掃除魔法 LV10

     偽装魔法 LV10

     隠蔽魔法 LV10

     転移魔法 LV∞ 愛専用

     命止魔法 LV3 愛専用


     人外による精神汚染


 ユニークスキル 庇護されし者


 庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化  解体超特化


 称号 シルコットンマスター(サイ)



 涙目の術後が順調で、だいぶ涙を拭かなくてすむようになりました。

 涙目というと、儚い印象があった昔(少女漫画風創作的な意味で)

 いざ経験してみると、儚さとは無縁だと思いましたとさ。


 次回は、村を整備しましょう。家造り編 4(仮)になります。


 お読みいただきありがとうございました。

 次回も引き続き宜しくお願いいたします。

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