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村を整備しましょう。家造り編 1

 涙管チューブを入れてきました。

 片目をガーゼで塞がれ、鼻に脱脂綿を詰めた状態で外食するのには勇気がいりましたよ……。

 誰にも見られていないとわかっていても、気恥ずかしさは拭いきれないですよね。



 完成した登録書を持ったアランバルリは、きっと彼を知る者が見たら驚くだろう満足しきった全開の笑顔を見せながら村を後にする。

 去っていく背中を見送っていると、トリアが嬉しそうに話しかけてきた。


「よい商人を引き寄せられたようで何よりだね」


「うん。そうだね。この調子なら連れてきてくれる奴隷も良さそうな獣人たちになりそうじゃない? 懐かしい村を眺められるようになる日が来るのも遠くなさそうだよ!」


「そうだね。あとでお墓参りに行って報告してくるよ」


「それがいいよ。きっと皆喜んでくれるんじゃないかな」


 そんな優しい人たちだったに違いない。

 生きて会ってみたかった。


「夕食にするのです? それとも作業をするのです?」


「日が落ちるまで家造りしよっか。奴隷たちが来るのなら備えておかないと」


「何も今日しなくてもいいのね?」


「うーん。頭は疲れているけれど、体を動かしたい感じなんだよねー」


「愛は指示だけくれればいいよ?」


「……ホルツリッヒ村マップ、作ろうか」


 ふと方眼紙が欲しくなった。

 マッピングは嫌いではない作業だ。

 うちにはモルフォもいることだしね。

 トリアが出してくれた紙に、木筆きひつ(木炭を葉っぱで包んだ筆記用具。トリア製につき最高級の便利グッズ)で地図を書き始める。


「村の中央には井戸。井戸を中心にして……東側に川。西側に溜め池。溜め池を起点にして水田と畑。その先にはきのこ小屋が十二個ほど。倉庫群は畑に沿ってずらずらっと二十個。川近くにはお墓があって、私の家は川と井戸の中間地点にある感じ? なら溜め池と井戸の間に奴隷たちの家を造ろうかー。あとは交渉小屋は倉庫街にあるから、集会所はもっと近いところに作った方がいいと思うし。トイレとお風呂は共同? 調理場も共同かなぁ……慣れるまでは私が作ってもいいよね」


「んっ! 大体でいいのっ。あとはモルフォがもっと細かく書くのっ!」


 私が大体のあたりをつけたところで、モルフォが両触手に木筆を持ってやる気をみなぎらせ始めたので、その場を譲った。


「奴隷の家は六畳一間……交渉小屋くらい?」


「うん。十分な広さだね。トイレと調理場が別なら四人までは余裕だと思うよ」


「四人だと狭くない?」


「こちらでは十分な広さだね。どうしても気になるなら働き次第で大きな家を与える感じでいいんじゃない?」


「家そのものを与えるんじゃなくて、作る許可を与える程度でいいと思うのねー」


「え! そうなの? 前の村は村長さんが許可を出して、皆で和気藹々と作っていたよ」


「それは村の人たちがいい人たちだったのねー。奴隷に落ちるにはいろいろな理由があるのねー。必ずしもそうではないけど、万が一嬉しくない理由で奴隷落ちした獣人がきたときのために、甘やかしすぎはよくないのねー」


「ああ、そっか。確かに獣人が愛を侮る可能性は否めないよね。愛、可愛いから」


「愛を侮るなんて、力重視の獣人とは思えない愚かさですわっ! 獣人、失格ですわね」


「う! ローズの言うとおりなのよ。愛を軽視する奴等なんて即刻排除なのよっ!」


 私が侮られるフラグが乱立した気がしたが、深く考えないようにしておく。


「取り敢えず、家は六畳を十個。家具はどうする?」


「ベッドとテーブルと椅子とチェストで、後は必要に応じて追加かな」


「寝具と替えの服や下着も必要なのです。全部シルコットン製になってしまうので、奴隷たちがつけあがらないか心配なのです」


「寝具はさて置き。替えの服や下着はアランバルリが手配してくれそうじゃない?」


 トリアの言葉に私は勿論、スライムたちも頷いた。

 彼への信頼は皆そこそこにあるらしい。

 良い傾向だと思う。


「……川に生息する藻から生地が作れるのです。熱には凄く弱いし、冬は冷たいけれど、わら布団よりはましなのです」


「ああ、その手があったね。中にクックルーの羽を入れれば、奴隷には過ぎた代物だけれど、シルコットンのような高価さはないから、いいんじゃないかな?」


「村の川に生息している藻なの?」


「水が綺麗な川には大量に生息しているのです。作業工程が面倒なので作られないだけなのです。暑いときには重宝される生地なので、そこそこの値段で売れたりもするのです」


「ん? 獣人とか毛皮で暑そうだから下着もその生地で作るといいんじゃない?」


「……言われてみれば、そうなのねー。生地だけ作っておいて、労働の対価として与えるといいのねー」


 衣食住はちゃんと与えられると思うが、それ以上の対価は与えた方がいいのだろうか?

 皆、随分と獣人奴隷を警戒している。

 獣人に拘らず、人や他の種族も幅広く選択肢に入れた方が良かったのかもしれない。


「どうかしたの、愛?」


「うーん。今更だけど獣人って指定しないで、人とか他の種族とかも奴隷購入の選択肢に入れた方が良かったかなって」


「最初の奴隷として労働力重視で、力の強い獣人を選ぶのは無難な選択なのねー」


「そうですわ~。案ずるより産むが易しと申しますのでしょう?」


 ラミア種のカロリーナから言われると、何となく安堵感を覚えた。


「奴隷に関しては、まだ学ぶことがありそうだから……アランバルリが来たら質問してみることにするよ」


「ん! 愛が納得するのが私たちの最良なのっ!」


「ありがと。それじゃあ! 家造りを始めますか!」


 思い思いの返事を聞いた私は椅子から腰を上げる。

 サクラが足を買って出てくれたので、有り難く乗って、現場へと移動した。



 溜め池と井戸の間には、六畳一間の小屋なら予定の三倍以上は建てられる余裕のスペースがあったので、一安心しながらサクラから降りる。

 

「小屋を建てるのは僕たちの仕事だね。愛は藻生地作りか、家具作りをするといいんじゃないかな?」


「皆の作業を眺めたいからここで、藻生地作りに挑戦しようかしら?」


「う! それがいいと思うのよ!」


 地面の上に、サイがスライム収納から取り出した毛皮を敷いてくれる。

 真っ白で艶やかな毛皮で大変座り心地が良い。

 

「わぁ……良い撫で心地……これは何の毛皮?」


「う! ピュアホワイトウルフの毛皮なのよ。狼人も憧れる滅法強い希少種の毛皮なのよ。

丁寧に解体したから最高の撫ぜ心地なのよ。地面の側は防汚処理を施してあるから、どこにでも置けるのよ」


 自慢げなサイとピュアホワイトウルフの毛皮を撫ぜながら顔を上げる。

 目の前ではトリアの指示の元、トレントたちがさくさくと小屋を組み立てていた。

 元々の村に生えていた木の中から特に家に向いた木材を使って、素早く丁寧に加工。

 防水加工も施しているのだが、その方法というのが、トリアが木材に向かってふっと息を吐くだけなのだ。

 それだけで生木が家に向いた性質の木材へと変化して、さらには雨に強い防水加工が施されてしまうというのだから驚きだ。

 トレントたちも巨木をいとも簡単に、枝にしか見えない手であっという間に加工してしまう。

 自らの背丈より軽く倍はある巨木を手刀の一振りで真っ二つに割ってしまう神業は、見事の一言に尽きた。


 よくよく見ると得手不得手があるらしい。

 加工した木材を違うトレントにぐいぐいと押しつけて、再び木材加工に戻ったトレントがいた。

 押しつけられたトレントは肩? を竦めながら、木材を手に頭? を傾げながら小屋の土台を作り、組み上げていく。

 またそんなトレントに首? を傾げたトレントが、枝を伸ばしてぱしっと作業中の手を止めさせて、途中から組み直したりもしている。

 なかなかの個性豊かさに、口の端も上がるというものだ。


「さて、リリーさん。川藻生地の作り方を御教授願いたいのですが」


「了解なのねー、愛さん。まずは、大量の川藻を入手。そして川藻を丁寧に洗うのねー。ゴミが混入していると品質が悪くなるので、根気よく洗うのねー。でもうちにはサイがいるから簡単なのねー」


「う! 任せるのよ。川藻を根っこから抜いてくれば、解体が使えるのよ。その工程でゴミも分別できるのよっ!」


「おー!」


 サイは、川藻を生地にする部分、根っこ、ゴミの三種類に分けた。

 ゴミはいつの間にかスタンバっていた、ルンとピュアに与えている。

 自分は根っこを収納すると川へ向かって飛び跳ねていった。


「う! 根っこを川に放せば、また川藻に育つのよ。強い種なのよー!」


 そんな説明が聞こえてきた。


「しかも遅くても一週間で成長しきるのねー。成長すると川のゴミを絡め取って餌にするのねー。だからゴミが多いのねー」


 なるほど。

 綺麗な川にいるというのも納得する。

 むしろ川藻が存在するから綺麗な川になるのだろう。


「ゴミ取り完了した藻は、綺麗な布の上で平らにならすのねー。うちにはシルコットンの布があるから無敵なのねー。さ、愛はシルコットンの上にさぱーんとするのねー。さぱーんとねー」


 リリーが広げてくれた二メートル四方のシルコットン布の上へ、木桶にたっぷりと入っている川藻をさっぱーんと勢いよく流した。


「あとは私たちの出番ですわ!」


 リリー、ローズ、川から戻ってきたサイが触手をつないで、広がった川藻の上を楽しげに滑ってゆく。

 スライムのつるつるボディ効果のお蔭なのか、三センチほどの余白を残して、綺麗な緑色をした川藻が、完璧にならされる。


「きれいにならした川藻の四隅を摘まんで、小さく畳むのねー」


「はーい」


 四隅の一角を引き受けて小さく畳んでゆく。

 三十センチ四方まで小さくした段階で、私は靴と靴下を脱がされた。


「さぁ! 愛の生足でねっちゃりねっちゃりと踏んであげるのねー」


 言われたとおりに川藻を包み込んだシルコットンの布を、適当なリズムを刻みながら踏む。


 背筋を伸ばしてー! 

 腕を振ってー!

 胸を張ってー!

 顎は引き締めー! 

 さーらーにー!

 踏み込むのねー!


 スポーツジムのコーチが使いそうな表現に、思わずこみ上げる笑いを堪えながら踏み続けること十分程度。


「はーい。お疲れ様なのねー」


 私を再び毛皮の上に移動させ、ゆっくりと休むように指示をしたリリーは、サイとローズと一緒になって、シルコットンの布を広げる。

 現れた川藻は緑色から、青寄りの緑色になっていた。

 青に近いほど良質な川藻生地になるらしい。

  

 新しい藻が入った木桶をさっぱーんすること五回。

 ならし、畳んで、私が踏む代わりにスライムジャンプをすること五回+五回。

 

「むふーん。この青さなら最高級品なのねー。あとは天日で十日間乾かすだけなのねー」


「作業も面倒ですが、天日で十日間乾かすというのが難しいのですわ!」


「う! スライム収納の中で干しておけば、天日十日間も簡単なのよ!」


 スライム収納の不思議素敵機能がまた明らかになったと思いながら、広げられた川藻生地は見事に青かった。


 ちなみに十軒の奴隷小屋は、川藻生地が仕上がる随分前に完成していた。

 手持ち無沙汰なトレントたちが、置くはずだった予定のベッドなどの家具も完璧に揃えてくれていたので、ねぎらいのスイーツは何がいい? と尋ねたところ、プリン! と揃った声で言われたのには、思わず笑ってしまった。





 喜多愛笑 キタアイ


 状態 ほどよい疲労感 new!!


 料理人 LV 4 


 スキル サバイバル料理 LV 5 

     完全調合 LV10

     裁縫師範 LV10

     細工師範 LV10

     危険察知 LV6

     生活魔法 LV 5

     洗濯魔法 LV10

     風呂魔法 LV10

     料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用

     掃除魔法 LV10

     偽装魔法 LV10

     隠蔽魔法 LV10

     転移魔法 LV∞ 愛専用

     命止魔法 LV3 愛専用


     人外による精神汚染


 ユニークスキル 庇護されし者


 庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化  解体超特化


 称号 シルコットンマスター(サイ)

 




 ちなみにチューブを入れて数日はかなり痛みましたが、その後は落ち着いています。

 予約で超混雑している目医者さんなので、二週間後に消毒に行くのが憂鬱です……。

 でもこれで涙目から解放されるならよしとせねばいけませんね。


 次回は、村を整備しましょう。家造り編 2(仮)になります。


 お読みいただきありがとうございました。

 次回も引き続き宜しくお願いいたします。

 

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